──突然だが、世の中の男性諸君には疲れた身体を癒す時間は存在するだろうか?
俗に言うリラックスタイム──例を挙げるとするならば、温泉に浸かることや趣味に没頭すること、中には運動をすることでリフレッシュする人もいるのではないだろうか。
勿論、癒しの時間の種類は十人十色。誰かが口を挟むことすら烏滸がましいのだよ。
特に男性諸君ならば理解してくれると思うが──自分にとっての癒しの時間というものは必要不可欠で俺達男にとっては寄り添って生きていくべき存在だと言えよう。
当然女性も同様であるのだが、
こんな世界だからこそ男性には癒しの時間が必要不可欠であり、逆に言えば女性にも本当に必要で何ならそちらに意識を向けて貰いたいものだ。
様々な欲が飛び交っているであろう煩悩だらけの脳を休めて少しでも男性に対する向き合い方を鑑みて欲しい。
──まぁ、こんなことを言っても
あくまで
そんな同胞達からも俺の癒しの時間は本当に大丈夫なのかと疑念の声が上がりまくっている。
言ってしまえば無防備で人によっては誘っていると捉えられる可能性もある。だけどやめられないんだよね……俺個人の楽しみであるのと同時に
一度冗談でやめようかな〜と言ってみたところ、自室で縛られて彼女にとっての癒しの時間がどんなものでありそれに俺が如何に必要なのかを滅茶苦茶に力説され、終いには
それ以来やめようなんて当然言い出せなくなったし、一生涯の思い出にもなりそうだと感じたよ。
──で、そんな俺の癒しの時間なんだけど──
「……いい景色」
──キャンプだ。
恐らくはこの一言で俺がさっき言った危険だと疑われる時間であることが男女共に理解できる筈だ。
キャンプは殆どが自然の中に泊まり、己の力で一日を過ごすもの。テントだっていつも無敵な代物ではないし、最悪の場合破られて中に突入される可能性もある。
余りにも考えが飛躍し過ぎていないかと思われるかもしれないが、そんな呑気なことを言っていられる世界じゃないのだよ。いつ貞操の危機が訪れるか予測出来ないのが恐ろしいよ。
これでもまだ状況が把握出来ていない人ももしかしたらこの世界にはいるのかもしれない──ならば教えよう。この世界が如何に面倒で如何に生き抜くのが大変なのか。
まぁ、ネットニュースを見れば分かるかな?
お、出た出た……一番上に表示されてるのも余計にこの世界の現状を表していると実感する。
さて、じゃあ見せよっか、この世界の価値観を──
【速報】
『本日未明、○○市内の路上で20代男性が見知らぬ女性から無理やり連れ去られ、性的被害を受けたと訴え、警察が不同意性交等の疑いで捜査を進めている。男性は軽傷で命に別状はなく、「抵抗したが逃げられなかった」と話しているという。
近隣住民からは「夜道を一人で歩く男性も十分に注意してほしい」と不安の声が上がっており、警察は防犯カメラの映像を解析するとともに、目撃者への聞き込みを続けている』
「またかい……」
──はい、一目で分かったでしょ?
この世界は男女の価値観が真逆になっている上、如実な男性不足に陥っているのだよ。
女性が男性に積極的で、その積極性がエスカレートした性被害がよく発生している。それは単なる本能からくるものなのか……誰でもいいという理由でもあるのか。正直に言えばどちらも正解だ。
外に出ればナンパされ痴漢され襲われ──男性であることが一種のバフでありつつデバフにもなっているのだ。この世界の歴史を紐解けば分かるはずもなく、偉人も大半が女性。未婚女性が増える一方で出生率をこれ以上低下させないよう、まぁ、その……男性の種を預ける施設も整備されつつある。
女性の結婚出産は進んで提供する男性がいるのかという疑問が提示されたりと、年々議論が激しくなっている世界的な問題なのだ。
「キャンプ中に見るもんじゃないな……」
こんな面倒な世界に生まれ落ちて早15年──俺こと『
「もうそろ寝るか……テント戻ろ」
キャンプはいいよ──形容しがたいのどかな雰囲気を味わえるし、主に女性が寄ってこなければ普段の喧騒を忘れ去ることが出来てリラックスが捗る捗る……場所によっちゃ行くまでの道のりに温泉もあるし、観光もセットで楽しめる。
俺はそこまでキャンプの知識はないけれど、楽しいと言える程度には成長したつもりだ。
料理だって適当にカップ麺とかカレーみたいな初心者でも作れるものがメインだし、初心者には少しくらいはやり方とかを教えられると自負している。
ただ……毎度毎度キャンプに付き合わされたり付き合ってきたりと中々に面倒で逃げられない人がいるんですわ。
だから今はすぐにテントに籠ってゆっくりと睡眠を取りたいんだ。じゃなきとヤツが戻って来て折角テントを離れさせたのにその意味がなくなってしまう。
「一種の防犯グッズみたいになってるけどね……」
バレたらテントに潜り込んでくるのは確定しているし、無理やり同じ寝袋に入り込んでこようとするから面倒なんだよね。
ソロキャン好きなのだからせめて一人でやって欲しいと常日頃から願ってはいるものの功を奏すことはなく、未だに付き纏われている。
一緒にキャンプすること自体はいいんだよ……ソロキャンも普段から行なっているからうるさくないし、知識も豊富だから学べることも多い。でもね──確実に俺のことを狙ってるのが問題なんだよね。
そりゃ年頃の女の子だし仕方がないとは思うけどさ、こういう風情のある場所で風情の欠片もない行為は慎もうとは思わないのか。キャンプ好きなんだろ。
おまけに彼女の両親に加えてお祖父さんも俺を婿に迎える気がお有りの様子だし……わざわざ住ませてもらっているのは感謝しかないけれど、まだ高校生なんだから自重しろと注意くらいはして欲しいよ。
まぁ、今日はとりあえずテントに籠って眠くなるまで本か動画でも見ることにしよう──と考えていた俺の身の危険はすぐさま訪れることになる。何故なら──
テントに戻ればそこには──
「よっ」
「今すぐ自分のテントに戻れ」
──俺の幼馴染兼家族の『
こいつ先回りしてやがったな……こうなればもう引き剥すか寝袋ごと強制移動させるしか手はなくなってしまった訳だが、どうしたものか。
もう逆にリンのテントに入れ違いで俺が泊まろうかな。一晩は凌げるものの明日になればどうなるのかなんて目に見えてるから難しいけど、一緒のテントよりはマシか。
「酷いよ。ずっとここで待ってたのに」
「じゃあ代わりに俺が向こうのテント行ってもいい?」
「ダメ」
「なら戻れ」
「嫌だ」
「ならせめて俺の寝袋に入らないで??」
「……こっちの方があったかいから、無理」
「じゃあ俺はどこで寝ればいいんだ」
「私のここ、空いてますぞ」
「どこの芸能人だよ」
不味いな。追い詰められてしまった……とは言ってみたのの、爆速でリンのテントに向かってすぐに閉じれば意外と逃げ切れるのではないかと俺に電流走る。この際明日のことは明日の俺に任せればいいの精神で行こう。
「ちなみに今私のテント行くつもりなら明日から私の部屋がハルの部屋になるけど、いい?」
「ダメに決まってるでしょ」
そりゃあ脅し文句を言ってくるとは思ったけど本気でやりかねないのが恐ろしすぎる。
流石にリンの両親も止めてくれる……筈だと思いたい。割と寛容な人達だけど締めるところは締めるから……その結果が俺を婿に迎え入れるに対して前向きなことなんだけどね。
と言うか隣なんだから今更変わらないだろう……という意見は完全に間違いだ。毎日のように夜中に忍び込まれているのだから、一緒の部屋になったらどうなるか一度でいいから想像してみて欲しい。
「ならカモン。私はいつでもウェルカムだよ」
「……風邪引くの承知の上でリンの横で寝るわ」
「えっそれはずるい」
「だったら代わりに俺も部屋に南京錠つけるけど、いい?」
「そ、それはダメ」
「じゃあ認めて」
「……仕方ない。今回だけだからね」
──よし勝った。この反応を見る限りかなり強力な切り札を俺は手に入れたようだ……これからも愛用して行こう。このカード。
「あとまた南京錠つけるって言うつもりなら、お風呂一緒に入るよ」
「ごめんなさい」
「むっ……それはそれでなんか腹立つな」
それは良くないな〜……一度お風呂の扉の内外で攻防戦をした覚えがあるからね。あの時の恐怖は今でも忘れない。本気で蹴破りそうな勢いがあったのだから。
今度はお風呂で先回りしてる可能性も出てきたな……ああ言ってるけど無理矢理押し通そうとしてきそうだもの。
ちゃんとリンがいる時間を見計らって、尚且つ洗面所の扉の鍵も閉めておかないとそろそろヤバい。
「……じゃあ、寝るか」
「うん」
先に寝てしまわないように注意を払わねばならないのがキャンプの夜……今はリン単体だけど、人が多い時は他の女性にも意識を分散させないといけないのだ。
男性の母数が少ないから、やはりキャンプ場には殆ど女性しかいない。ごくたまに俺と同じタイプの男性を見かけたことはある……その時は意気投合して年齢なんて関係なく大いに盛り上がったのはいい記憶だ。
お互い引き摺られて無理矢理俺達は引き離されてしまったが……あの人は今何をしてるだろうか。
それはそうと、今は寝袋に包まってるからいいけど、毎日のように布団に入り込んでくるのやめて欲しいんだよね。暑いし邪魔だから……
聞く耳を持たないのなんて目に見えてるから言い出せないのが現状だが……後言ったら前みたいに縛ってきそうで怖いからね。