最初の十分、バトラは完璧だった。
垂直降下からの一撃離脱。夜空を三次元に使う、目で追えない機動。海で覚えた風の読み、山で覚えた陽動、地で覚えた「構えの嘘」。この夏に積み上げたすべてを、あの小さな翅は惜しみなく叩きつけていた。プリズム光線の連射が夜を紫に染め、ゴジラ=アースの足元の海岸が沸騰する。
そして、それらすべてが届かなかった。
「友軍の光線、効果なし! 全弾、偏向されています! これは……メタマテリアルシールドです!」
「メタマテリアルシールド、だと……!?」
電磁パルスを利用した電磁メタマテリアルの防御壁。ゴジラの細胞が生体電磁波を操作するのは往年の研究で明らかになっていたことだが、そういった電磁気的性質をシールドに転用したものだろう。ゴジラ=テレストリスのリアクティブアーマーからさらに発展したものだろうと思われるが、そんなものは自然の生物が持ち得ていいものなのか。
ゴジラ=アースが咆哮を上げた。
唸り声と共に、三列の背鰭が根元から先端へ順に青白く灯る。呼吸のようだった明滅が初めて一方向へ流れ、喉元へ光が雪崩れ込み、顎が尋常でなく大きく開く。
「退避!! 全車、遮蔽の裏へ!!」
多重の光の輪がゴジラの顎の前に展開され、幾重にも重なり、回転しながら一本に凝縮されて、そして放たれた。
夜が割れた。
太い一条の青白いビームが水平に走り、バトラが翻って逃れた軌道の先にあった高層ビル群を一線に薙いだ。
起こったのは爆発ではなかった。四十階建てのビルが、上から三分の一のところで焼き切られたのだ。
断面が白熱し、溶けたガラスが滴り、切り離された上半分が数秒の間をおいて静かに滑り落ちていく。二棟目。三棟目。四棟目。高層ビルの崩れ落ちる地鳴りが、遅れて指揮所まで届いた。
「……っ」
サカキは双眼鏡を握ったまま声が出なかった。凝縮されたエネルギーは無駄な破壊を起こさないという。ゴジラ=テレストリスも熱線を使ったが、それとは比較にならない破壊力だ。
化け物め。
通信の向こうで、タニ少佐の声が掠れた。
『……熱量、推定値を振り切りました。あれ一発で、街区がひとつ消えます』
……正面に立つな。サカキは、届くはずのない言葉を胸の中だけで言った。
当のバトラはもう動いていた。あいつも分かっている。あれを受ければ終わる。
高度を落とし、速度を上げ、巨体の周囲を回りはじめる。撹乱。あの黒い翅の真骨頂だ。ゴジラの顎の向く先から外れ、外れ続け、円を描くように背後へ、背後へ。
バトラが、巨体の真後ろを取った。完全な死角だ、ここなら放射熱線は飛んでこない。
そのはずだった。
その瞬間を、サカキは双眼鏡の中で見た。ゴジラ=アースは、振り向かなかった。振り向かずに尾を振り上げるのが見える。
背鰭の明滅が今度は尾の先へと流れてゆき、割れた先端に光が凝縮するのが見えた。
尾だ、と直感した。
「尾だ!! 尻尾からくるぞ!!」
咄嗟に叫んだところで、届くはずもなかった。
ゴジラの尾から迸った熱線が、死角にいたはずの小さな翅を真後ろから薙いだ。直撃ではない、だが左の翅から燐光の鱗粉が血飛沫のように散り、バトラの機動が目に見えて乱れた。
体勢を立て直そうと翅を打つ、その一瞬の停滞を突くように、ゴジラの巨体が正面から顎を開いた。
二度目の光が、喉元へ雪崩れ込む。
まずい。
双眼鏡の中でバトラが翅を打ったが、遅い。
夜を、太い一条が貫いた。
直撃だった。紫の残光ごと、小さな影が閃光に飲まれてゆく。
〈ゆ、友軍、被弾!! 友軍被弾!! 墜ちます!!〉
黒と黄色の翅が力なくきりもみしながら、夜の海岸へ墜ちていく。砂柱の砂塵が上がり、無線が悲鳴で埋まった。
双眼鏡の中で墜ちた翅は起き上がらなかった。ぴくりとも動かない。
そして、百メートル超の漆黒がゆっくりとそちらへ歩き出した。
急いでいなかった。一歩ごとに地響きを立てて近づき、動かない獲物へ向かって巨大な顎がゆっくりと開いていく。
墜ちたバトラを、ゴジラ=アースは見失わなかった。巨大な頭部がゆっくりと下がり、口が開く。
下顎の中央へ亀裂が走る。左右の骨がほどけるように離れて皮膚と筋肉が縦に裂けてゆき、卵を丸呑みにする大蛇のように、ゴジラの口が本来あり得ない幅まで押し広げられた。
歯列の奥に暗い喉が見え、その暗闇が蠢く。それを見ていた誰かが呟くのが聞こえた。
「ゴジラがバトラを食べようとしている……」
そのときサカキの中で何かが弾けた。丘の上の子供が久方ぶりに叫んだのだ。今度は見ているだけなのか、と。
「ヴァルチャーで出るぞ」
「中佐!?」
指揮所の裏手、輸送コンテナの陰にそれは六機、翼を畳んで待機していた。
飛行型パワードスーツ・ヴァルチャー。Mプロジェクトの随伴機として開発された、人間一人を鋼鉄の
タニ少佐が口を挟んだ。
「正式配備はまだです!」
実戦での配備はまだ許可されていない。ここにあるのは飽くまでも「輸送中の検収品」だ。
サカキはすかさず答えた。
「救難装備としての評価試験は許可されている」
「詭弁ですね」
「だが人命には代えられない」
サカキの指示でヴァルチャーにパイロットたちが乗り込み、六つの機影が夜の海岸を低く、速く、滑っていく。正面には裂けるほど大きく口を開けたゴジラ=アース、その足元には動かない小さな翅の友軍。
〈ヴァルチャー1、2、目標視認!〉
〈ヴァルチャー3、4、5、6、援護へ回る!〉
ゴジラ=アースの喉の奥から赤黒いものが伸びてきた。
細長い触手が何本も絡まりながら這い出し、先端を探るように空中で揺れる。表面には脈打つ血管が走り、ところどころに赤い光が灯っていた。
噛み砕くための口ではない。獲物を傷つけず、自分の中へ引きずり込むための口だ。
触手の一本が伸びて地面へ伏したバトラの足首を掠める。さらに次の一本が腰へ巻きつこうとし、さらに別の一本が損傷した翅へ先端を伸ばしてゆく。
「取り込むつもりだ!」
サカキが叫んだその瞬間、白い閃光がゴジラ=アースの顔面で弾けた。
援護に回ったヴァルチャー4機の主砲レールガン弾幕が、ゴジラ=アースの開ききった口腔へ集中したのだ。赤黒い触手が一斉に縮み、ゴジラ=アースの頭部がわずかに仰け反る。
その隙にヴァルチャー1と2が急降下し、地表のバトラへ接近。ヴァルチャー1が胸部から救難ワイヤーを射出した。
ゴジラ=アースの口先から触手が再び伸びるが、あと半秒遅かった。金属線がバトラの小さな体を捉え、展開式の布製ハーネスが身体を包む。
〈回収!〉
他の4機はゴジラ=アースの顔面へ突っ込み、腕部レールガンを連射する。白い光がゴジラの目と鼻先へ集中した。
当然、傷はつかないが、気を惹くことは出来たはずだ。
〈ヴァルチャー1、離脱しろ!〉
〈了解!〉
ヴァルチャー1が上昇する。意識のないバトラがワイヤーの下で揺れる。
ゴジラ=アースは、裂けた顎を開いたまま空を見上げた。明確に苛立った様子で尾の迎撃器官が光る。
「尾部発光!」
〈ヴァルチャー2、ナノメタル粒子を散布!〉
ヴァルチャー2がナノメタル粒子の熱源攪乱弾をばら撒いた。白い煙と高熱粒子が空中に広がる。
尾から放たれた短い熱線が煙を貫き、二号機の左脚を掠めた。
〈被弾! 左推進器、出力低下!〉
「墜ちるな!」
〈言われなくても!〉
二号機は身体を半回転させ、残った推進器で姿勢を維持した。そのまま一号機とバトラの間へ入り、もう一度煙幕を展開する。
ゴジラ=アースの口元に赤い輪が現れる。
さきほどバトラを撃墜した、主熱線だ。
「全メーサー部隊、顔面へ集中!」
地上から白い光線が一斉に走った。有人部隊も、無人車両も、残っているすべてがゴジラ=アースの顔面へと撃ち込んだ。
それらに対応しようとゴジラ=アースの顔と胸へ防御組織が集まったために、熱線の収束が一瞬遅れた。
その一瞬で、ヴァルチャー2は港湾倉庫の陰へ滑り込んだ。
主熱線が放たれて、倉庫の上半分が消し飛んだ。遅れて残った壁が崩れ、煙が港を覆う。
「回収班、状況!」
〈ヴァルチャー1、友軍を確保。意識なし、呼吸あり!〉
〈ヴァルチャー2、左脚損傷。自力帰投可能!〉
サカキは目を閉じなかった。
「撤退させろ。医療班へ引き渡せ」
「了解し……」
タニ少佐の言葉を、地響きが遮った。
獲物を見失ったゴジラ=アースはしばらく霧の中に立ち尽くし、それから進路を変えた。海岸線ではなく防衛線でもなく、市街へ。運ばれていった獲物の匂いを追うように。
「目標、市街方面へ転進! 第二、第三防衛線、接触まで二十分!」
指揮所に戻ったサカキの前で、モニターが上層部の顔に切り替わった。今度は会議室の面々ではない、もっと上だった。
〈……サカキ中佐。状況は把握した。決定を伝える〉
嫌な予感がした。
〈サカキ中佐。地上部隊を指定区域から撤退させろ〉
「理由を」
すかさずサカキが促すと、上層部は滔々と続けた。
〈航空攻撃を実施する。モナークの協力者は敗北した。通常火力による阻止は不可能。そして目標は、重要都市圏に侵入しつつある。これ以上の侵攻を許せば被害は広域化する一方。民間人の退避が概ね完了している今しか、高威力攻撃の機会はない。〇二〇〇、航空部隊により新型貫通爆弾での飽和爆撃を実施する。地上部隊は速やかに離脱せよ〉
「お待ちください」
サカキは、モニターに一歩踏み出した。
「爆撃は通じません。あれの防御は物理干渉を受け付けない。データは全て送りました」
〈新型は貫通力が桁違いだ。飽和すれば膜の処理容量を超える可能性もある〉
「可能性の話をなさるなら、こちらの可能性も聞いていただきたい。あれは攻撃に適応します。アクアティリス、アンフィビア、テレストリス、この夏の三体は受けた攻撃を全て学習し、その結果を次の形態に反映しています。そしてあのゴジラ=アースはその集大成です。広範囲への一斉爆撃という我々の最大火力を見せることが、あれに何を引き起こすか。誰にも分かりません」
そこまで言っても、相手の声は揺るがなかった。
〈『分からないから攻撃しない』ではむざむざと怪獣に街を明け渡すだけだ。中佐、我々は「何もしなかった政府」にはなれん。決定は変わらない。〇二〇〇だ。以上〉
モニターが切れた。
沈黙する指揮所で、タニ少佐が怒りに震えながら静かに言った。
「……記録に残します。現場指揮官は爆撃の中止を具申し却下された、と」
「ああ、頼む」
サカキは市街の地図をモニターに叩き出した。怒鳴りたい喉から、指揮官の声を絞り出した。
「全部隊に達する。〇二〇〇までに、全隊、市街より離脱……ただし」
地図の三箇所を、拳で叩く。
「避難未完了の街区が、まだ三つ残っている。撤退経路を、この三区に重ねろ。撤退のついでに、一軒残らず戸を叩け。年寄りを背負え。犬猫も抱えていけ。〇一五〇までに、この街から人間をゼロにしろ」
サカキは最後に、ゴジラ=アースを見た。
怪獣はビルの谷間を進んでいて、その目は街を見ていない。逃げた紫の光を探していた。
サカキは言った。
「……これ以上、一人の犠牲者も出すな」
避難所の体育館には、百人以上が集まっていた。
床へ敷かれた青いシート。壁際に積まれた水と毛布。泣いている子供。スマホを何度も確認する大人。誰かのラジオと、正面に置かれた大きなテレビの音。
避難所のテレビは、朝から同じ画面ばかり映していた。湾岸地区の地図。避難対象区域。道路の混雑状況。政府報道官の会見。画面の隅には赤い帯で、「怪獣災害に関する未確認映像の拡散を控えてください」と繰り返し表示されている。
肝心のゴジラは、一度も映らなかった。
〈現在、沿岸部においてGフォースが対処を継続しています〉
アナウンサーがそう言うだけで現場映像はなく、上空からの中継もない。怪獣の大きさも、位置も、被害も、曖昧な言葉に置き換えられていた。
バトラの姿も映らない。政府に協力している怪獣がいるとも、魔法少女が戦っているとも、そういうことは最初から存在しないことになっている。
やがて、テレビ画面が唐突に切り替わった。
画面の端には、見覚えのある高架道路があった。スーパーへ行くときに通る道、カンナと待ち合わせた駅へ続く線路、アヤノと入った喫茶店の看板、その向こうから巨大な黒い影が現れる。
ゴジラ=アースだ。
報道規制が意味を失うほど、市街地の奥まで来てしまったのだ。
パパとママの間に座りながら、わたしはテレビの画面の中に黒い翅を背負った魔法少女の姿を探したがどこにも見当たらない。
テレビには、街へ入り込んだ怪獣と入り込まれた街の様子が映っているだけだ。
〈巨大生物は現在、新東湾中央区へ侵入しています。Gフォースは防衛線を後退させ……〉
穴が開くほど画面を眺めた末にわたしは理解した。
バトラが勝ったなら、ゴジラがここまで来るはずがない。
海のときも、山のときも、地下のときも、あいつが勝った夜はそれで終わりだった。怪獣が街にまで入り込むことなんてなかったはずだ。それが今、ゴジラが今ビルの谷間を歩いているということは、ゴジラが防衛線のこちら側にいるということは、つまり。
「バトラの奴、負けたんだ……」
あの、憎たらしくて、無敵で、嘘のつけないあいつ。あいつはあのとき「必ず」って言ったのに。
その考えが浮かんだ瞬間、わたしは指先から力が抜けた。
「ツグミ?」
ママがわたしの顔を覗き込む。
「……何でもない」
声がうまく出なかった。
スマホを開いてもバトラから連絡はない。ヤマナシさんへ送ったメッセージも既読にならない。
カンナとアヤノとのグループチャットには短い投稿が続いていた。
【カンナ】そっち無事?
【アヤノ】避難所にいるよ
【カンナ】こっちも
【アヤノ】バトラちゃんは?
【カンナ】ニュースに映ってない
わたしは文字を打った。
【わたし】分からない
送ってから、消したくなった。分からないのではない。バトラは負けたのだ。たぶん怪我をしたろうし、あるいはもっと悪い可能性もある。
でも、文字にすれば本当になってしまう気がして、書けなかった。
テレビ画面が切り替わった。
上空を映した映像で、爆撃機の編隊が市街地の外から進入している。
〈Gフォースは、先ほどゴジラ=アースへの航空攻撃を開始しました〉
ママが息を呑んだ。
「街に爆弾を落とすの?」
パパが低い声で答える。
「避難が済んだ区域なんだろう」
遠くで、続けざまに腹に響く音が揺れ、体育館の窓ガラスがびりびりと鳴った。テレビの画面の端が何度も白く瞬いて、アナウンサーが原稿にない声で言った。
〈政府は、怪獣への空爆に踏み切った模様です! 爆発が、続いています……!〉
誰かが「やった」と言った。誰かが拍手をしかけたそのとき、ゴジラが雄叫びを上げた。
そのものは、街の中で匂いを探していた。
紫の光は逃げた。焦げた翅。失われた光。取り込み損ねた使命。まだ生きている、まだ遠くへは行っていないはずだ。
ならば探せばよい。
そのものはそのまま我が物となった人間の街を闊歩した。足元で道路が割れ、建物が傾き、地中を這い巡る管から水とガスとが噴き出す。
そのものが見渡す限り人間の建物は多かった。熱を持って電気を流し、内部へ小さな生き物を隠しているが、そのいずれもそのものにとって目的ではなかった。
そのものが探していたそのとき、空が鳴いた。
高い高いところから、まとまった熱がいくつも落ちてきた。
身体が身を守った。一つ。三つ。十。だが数が多い。同じ場所へ続けざまに、何度も何度も。破れはしないが防御が軋み、破れはしないが重かった。
衝撃がそのものの身体を揺らし、その奥の心の臓までもを揺らした。
腹の底が、揺れた。
三つのわたしから受け継いだ力。海のぶん。山のぶん。地のぶん。そのものが溜めてきた勘定のすべてが外からの重い雨に揺さぶられて、体内に畳んであった箍が外れた。
縁から、こぼれた。
熱い。
エネルギーを制御する機構が間に合わない。皮膚の下で溜めてきたものが沸き立って、身体中の継ぎ目という継ぎ目から赤い灼熱の光が噴き出しはじめる。
背鰭が白熱し、喉が勝手に開いて、こぼれたものが光になって溢れ出る。右へ。左へ。空へ。四角い岩の群れへ。
狙いなどなかった。ただあふれて、あふれて、世界が赤くなって、耐えかねたそのものは人間の巣の真ん中で天に向かって咆えた。
ゴジラが雄叫びを上げた途端、画面が赤く染まった。
最初カメラの故障かと思ったが、違った。街が燃えはじめたのだ。
最初は何も見えなかったが、やがて煙の中心が赤く染まり始めた。火災ではない。もっと大きい。もっと深いところから光っている。
夜間カメラの映像の中で、黒い山の輪郭が変わっていく。ゴジラの身体じゅうの継ぎ目から赤い光が噴き出して、背中の背鰭の山脈が白熱して、全身が内側から焼けた鉄みたいに赤く、赤く。
やがてビルの壁が赤く染まり、窓ガラスへ巨大な影が映る。煙の雲まで下から照らされ、空全体が血の色のように焼けた空へと変わっていく。
燃えるゴジラ、まさにバーニングゴジラだ。
そして光の奔流が四方八方へ迸った。
右へ。左へ。空へ。四方八方へ放射熱線を撃ちまくるゴジラに狙いなんてどこにもなかった。赤い光が薙いだ先から、ビルがバースデーケーキみたいに切り分けられて崩れていく。商店街のアーケードが。駅前の見慣れたビルが。何度も歩いた、あの街並みが。
ヘリのカメラが激しく揺れて、アナウンサーの声が、悲鳴のように裏返った。
〈燃えています……街が、燃えています……!〉
背びれから短い熱線が空へ飛び、尾からも赤い光が走る。
周囲の道路が、爆発もしていないのに燃え始める。ビルの窓が順番に割れ、炎が内部へ流れ込む。
〈信じられません、まったく、信じられません! しかもその信じられない事件がいまわれわれの眼前において展開されているのであります……!〉
パパとママがわたしの肩を抱き、体育館のどこかで子供が泣き出した。
テレビでは、第二次爆撃編隊が近づいていた。
〈航空部隊が、再度接近します! 第二波の攻撃です!〉
画面の端、燃える街の上空に編隊の航空灯が並ぶのが見えた。体育館の何人かがすがるようにテレビへにじり寄った。
燃えるゴジラの顔が、上を向いた。
全身の赤い光が一瞬背中の山脈へ吸い上げられるように収束して、夜空へ向かって太い光の柱が三本、立て続けに打ち上げられた。
柱が薙いだ軌跡の先で小さな光が、ひとつ、ふたつ、みっつ、花火みたいに弾けて消えた。編隊の航空灯が乱れて散って、残った灯りが遠ざかっていく。
〈こ、攻撃部隊が……撃墜、されました……第二波、撃墜です……〉
アナウンサーの声は、もう疲れ果てていた。
人類の最大火力は、二度目を撃たせてもらえなかった。体育館の空気が底なしに沈んでいき、燃える街の真ん中で画面の中の赤いゴジラが放射熱線を撃ち続けている。
口から。尾から。背びれから、赤い閃光を撃ちだしてはそのたびに街が燃え上がる。
そして燃える街の真ん中で、赤熱した巨体がゆっくりと天を仰ぎ、勝利の雄叫びを上げた。
今のゴジラの姿はまさに人類文明を終わらせる
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バトラ
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