活俠傳 西夏戦役   作:ボブの卵かけご飯

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千灯楼の身なりから身分の特定ができるという設定をなくしました。
以前の話の記述を変えてあります。

唐門の4人分名前を入れました。名前は唐泉・唐翊は合いそうなのをいれましたが。唐康は別人で、隈師兄は名前がみつかりませんでした。

隈師兄:貢献点評価してくれる人
唐泉・唐康:いじめっ子に団試で勝った時に喜んでくれる二人
唐翊:武林大会の帰りに引退しようかなとか言ってる人

一部の戦場周辺地図の更新

【挿絵表示】



第八話

### 五月一日 午刻 崆峒

 

朝天門を閉じてから、山の中では音がよく聞こえるようになった。

 

門外から届く馬の嘶き。鉄を打つ音。木を伐る音。

 

時折、谷へ轟く崩落の音は、丹霞子が率いる飛天・奪魄の合同隊が、西夏兵へ落とした岩だろう。そのたび無色市集の者は手を止め次の音を待った。

 

待っている間だけ、山はひどく静かになる。

 

市集の店はほとんど戸を下ろしていた。売り台は片づけられ、通りへ積んだ荷も上の区画へ移されている。それでも、四門の門人と逃げ遅れた住民をすべて山上へ収めることはできなかった。

 

門を閉じれば、すぐには死なない。

 

開けば、何人が死ぬか分からない。

 

その二つだけが、誰にでも分かっていた。

 

朝には、朝天門へ続く坂で小さな争いも起きた。

 

綱と傷薬を抱えた飛天門の若者たちへ、奪魄門の門弟が加わり、門外へ出す斥候を増やせと詰め寄った。玄功門の女弟子が持ち出しを止め、門番の鉄拳門人が坂を塞いだ。

 

初めは言葉だけだった。

 

やがて肩がぶつかり、腕を払う手へ別の手が伸びた。拳を一つ受け止めれば、爪が一つ返った。得物を抜く者こそいなかったが、止めに入った古参まで含め、四人が打ち身を作った。

 

飛天門と奪魄門にとって、門外の一隊は丹霞子だけではない。同じ師に叱られ、同じ庭で技を競った兄弟弟子がいる。

 

玄功門と鉄拳門にも、その気持ちが分からないわけではない。

 

分かっていて、門を開けられないからこそ、話は拗れた。

 

玄功門の帳房で最後の報告を読み終えた魏菊は、紙を順に重ね、青い紐で括った。

 

米と豆は、まだ持つ。

 

薪もある。鉄拳門が炉を止め、武器の修繕を必要なものへ絞れば、炭も回せる。

 

足りないのは傷薬と、外の様子だった。

 

丹霞子から定刻に上がる狼煙は、昨日まで三か所で見えた。今朝は二か所に減っている。

 

西夏軍は、もう丹霞子の一隊を追って山腹へ駆け上がろうとはしなかった。山裾へ盾と弩を並べ、疎林を伐って見通しを開き、その陰から岩棚、谷筋、水場を一つずつ探っている。丹霞子たちは上から岩を落とし、時には少人数で疎林へ下り、伐採兵や斥候を襲ってまた山へ戻っていたが、使える足場と退路は少しずつ狭められていた。

 

あれが潰れれば、山裾を固め、伐採と山狩りに当たっている西夏兵が、まとめて朝天門へ回ってくる。

 

反対に、今、門を開けばどうなるか。

 

魏菊は結んだ帳面を、風護法の鞠冬音へ渡した。

 

「鞠師姉。私が戻るまでは、今日までと同じように処理してください」

 

「随分と、長く留守になさるような言い方ですね」

 

「そうなるかもしれません」

 

鞠冬音は、魏菊の傍らに立つ女弟子を見た。

 

魏菊がただ「師姉」と呼ぶ、いつも傍に控える側近で、玄功門の古参の内弟子だった。すでに袖を括り、小さな荷を背負っている。

 

「お二人で、どちらへ」

 

「会所へ。それから、山を下ります」

 

聞き返しはなかった。

 

「留守はお任せください」

 

「ええ。任せます。それと、鞠師姉にはもう一つ頼みたいことがあります」

 

「何でしょう」

 

「会議が終わった後、西壁の旧採薬路を見張ってください。道から姿の見えない場所で、私たちの後を窺う者がいないかを。誰も現れなければ、それでよいのです」

 

「承りました。掌門師妹もお気をつけて」

 

帳房を出て会所へ入ると、すでに三門の代表が揃っていた。

 

雷謙は椅子へ座らず、太い腕を組んで窓際に立っている。長い閉関からようやく人前へ戻った奪魄門の姚掌門は、卓の向こうへ腰を下ろしていた。

 

残る一人は、火龍仙君の師兄にあたる、飛天門の古参だった。

 

火龍仙君は赫連の槍を受けてから、一度も意識を取り戻しておらず、今はこの古参が代理として飛天門をまとめている。

 

卓上には山内の略図が広げられ、朝天門の前へ赤い石が一つ置かれている。外の西夏軍を示す黒石は、数を数える気にもならないほど並んでいた。

 

「おれの考えは変わらん」

 

雷謙が先に言った。

 

「門は開けん。外の敵がどれだけいるかも分からんうちに、地の利まで捨てて飛び出すのは、勇ましいのではなく馬鹿だ」

 

「丹師甥たちを見殺しにして、鉄拳門と玄功門だけ山へ残すつもりか」

 

飛天門の古参が低く返した。

 

目は赤く、声は掠れていた。火龍仙君が倒れ、丹霞子と飛天門の門弟たちまで門外へ置き去りにされている。言葉の棘を鈍らせられる立場ではなかった。

 

「丹師甥たちが西夏の横腹を刺しているからこそ、敵は全軍を朝天門へ向けられぬ。助けるなら今だ」

 

「どう助ける。朝天門を開き、敵の待つ山道へ駆け降りろというのか。どれほど犠牲が出ると思っている」

 

「門を閉じて手をこまねいても、丹師甥らが潰されれば、次はこちらだ。今、こちらから打って出るか、後で向こうから攻め込まれるかの違いであろう。今ならまだ、丹師甥らと呼応できるかもしれん」

 

「火龍仙君がいても、西夏軍を山から押し返せずに負けたのだぞ。それに、火龍仙君を倒したあいつがまた出てきたら、誰が止めるのだ」

 

雷謙の声が一段、大きくなった。

 

「飛天だ、鉄拳だと分けている時ではない。助けたいのはおれも同じだ。だから、門を開けた後まで考えろと言っておる」

 

姚掌門が卓上の黒石を指先で弾いた。

 

「門外にいるのは、飛天門だけではない。我が奪魄門の門弟も、丹霞子と共に山へ残っている」

 

飛天門の古参が、初めて姚掌門へ頷いた。

 

「門を開けぬというなら、せめてどう助けるかを先に聞かせてもらおう。いつまでも待てと言うだけでは、門下を抑えられぬ」

 

玄功と鉄拳が即時の開門を拒み、飛天と奪魄が救援を急ぐ。

 

卓を囲む四人の意見は、二つに割れていた。

 

魏菊は三人が黙るのを待ってから発言した。

 

「私が武林盟と朝廷軍へ赴きます」

 

姚掌門が眉を上げる。

 

魏菊は問いを待たずに続けた。

 

「門は開けません。少なくとも、今は」

 

魏菊は略図の山下を指した。

 

「援軍には正面から大腰峴を攻めてもらいます。その動きに合わせて、崆峒も朝天門から出る。内外から挟めば、門外の西夏軍も退かざるを得ません」

 

「外の者に崆峒を救わせると?」

 

姚掌門が問う。

 

「今さら体面を守って、何が残りますか」

 

「朝廷が我らのために兵を出すものか」

 

「崆峒のためだけなら出さないでしょう」

 

魏菊は山下から天水、蜀へ続く道を指でなぞった。

 

「ですが、西夏に大腰峴と朝天門を取られれば、この山は西夏の前堡になります。兵糧道を上から窺われ、伝令を切られ、いつでも別働隊を背へ下ろされる。朝廷軍には朝廷軍の、武林盟には武林盟の、ここを西夏へ渡せない理由があります」

 

雷謙が腕を解いた。

 

「誰を行かせるんだ」

 

「外へ出るのは、私が適任です。西武林の趙活殿とも、東武林のまとめ役である瑞笙殿とも面識があります。どちらへ話を通すにも、私が最も早い」

 

魏菊はつづけた。

 

「それに、玄功門掌門である私が陣へ残れば、崆峒が西夏へ通じていないことの保証にもなります。お三方には、援軍が朝天門へ届くまで、ここを守っていただきます」

 

「人質になるおつもりか」

 

飛天門の古参が言った。

 

「そう取っていただいて構いません。援軍が動けばよいのです」

 

雷謙は魏菊を見たまま、しばらく答えなかった。

 

魏菊は出立に使う道について、西壁の旧採薬路を通るとのみ伝えた。古くは採薬や狩りに使われた道で、今ではところどころ崩れている。軍勢や荷駄は通せないが、身軽な二人だけなら抜けられる。

 

魏菊は、援軍を必ず動かすと言い切った。援軍を得られた場合は、同行する師姉を先に山へ戻し、本隊の進路と到着の刻限を伝えさせる。

 

師姉が戻り、援軍の位置と動きを確かめるまでは、どのような急報が届いても朝天門を開かない。

 

それからも会議はしばらく続いた。

 

魏菊は三人の問いに一つずつ答え、細部を詰めた末、彼女の策を採ることが決まった。

 

三人は決定をそれぞれの門へ持ち帰った。門下を統制するため、その内容は各門の主だった者にも伝えられた。

 

魏菊と側近は会所を出ると、会議で告げたとおりに西壁の旧採薬路へ向かった。

 

それを遠くから見届けた鞠冬音は、二人の姿が見えなくなった後も、旧採薬路を望める場所にいた。

 

一刻あまり待ったが、後を追う者も、道の様子を確かめに来る者も現れなかった。

 

二人は人目が途切れたところで旧採薬路を外れ、玄功門の限られた者しか知らない道へ入った。

 

西夏軍の目を避けながら山を下り、日が西へ傾く頃には、二人は山下へ抜けていた。

 

そこから先は人の通る道である。

 

朝廷軍の見張りへ呼び止められた時には、夕日は山の向こうへ沈みかけていた。

 

### 五月一日 夜 武林陣

 

唐惟元が先ほど南へ出した二人の帰りを待ちながら、明朝の斥候の手配を進めていたところへ、魏菊到着の知らせが入った。

 

唐惟元は崆峒へ何度も行商に赴いており、玄功門掌門である魏菊の顔は知っていた。

 

ほどなく唐惟元が外柵まで来た。外柵には魏菊ともう一人、玄功門の門弟がいた。

 

「お二人だけっスか」

 

「二人だけです。こちらは私の師姉です」

 

側近は唐惟元へ一礼した。

 

「追われては」

 

「いないと思います。少なくとも、同じ道を追うことはできません」

 

「話は歩きながら聞くっス」

 

魏菊は背負っていた小さな荷を側近へ渡した。手炉も、その中へ収めてある。

 

「師姉、こちらでお待ちください」

 

「承りました」

 

側近は見張りの案内で外柵脇の待機所へ下がった。

 

魏菊が唐惟元に伴われて指揮天幕へ入ると、卓上には、先ほど包み直された三つの遺留品が、まだ残っていた。

 

趙活は立ち上がった。

 

宋悲も、卓上の品から顔を上げた。

 

「魏掌門」

 

「突然お邪魔して申し訳ありません」

 

「無事で何よりです」

 

挨拶を終え、魏菊は崆峒の現状について報告をした。

 

門内の情報が外へ漏れている疑いについても伝えた。ただし、誰が通じているのか、確証はない。

 

「趙小侠」

 

魏菊は一歩退き、衣の前を整えた。

 

両手を胸前で組み、掌門として深く拱手の礼を取った。

 

「崆峒四門を代表して、お願い申し上げます。どうか援軍をお貸しください」

 

魏菊は頭を下げたまま続けた。

 

「ただ救っていただきたいと申すのではありません。援軍が大腰峴へ上がる時、崆峒も朝天門を開き、内より西夏軍を攻めます。門外に残る者もまだ戦っております。内外より呼応することがかなえば、必ずや敵を退けてみせます。どうか、その機を崆峒へお与えください」

 

「魏掌門。頭をお上げください」

 

魏菊はなおも礼を解かなかった。

 

「朝天門が開き崆峒が内より応じるまで、私はこの陣に残ります。崆峒の言葉に偽りがないことは、この身をもって証といたします」

 

趙活は魏菊へ拱手を返した。

 

「お顔を上げてください。魏掌門を人質にしなければ信じられないような話ではありません」

 

魏菊がゆっくりと顔を上げる。

 

「ですが、崆峒との接応には魏掌門のお力が必要です。ここへ残っていただくこと自体はお願いします。人質としてではなく、崆峒四門を代表する使者として」

 

趙活も席へ戻らず、そのまま卓上の略図へ目を落とした。

 

「援軍は出します。ただし、どのように出すかはまだ決められません。まず楊将軍にも状況をお伝えし、その意見を伺います」

 

「ありがとうございます」

 

唐惟元が口を開いた。

 

「なら、楊将軍と話してる間に、こっちは調べを進めておくっス。明朝の斥候も、予定どおり出せるようにしておくから」

 

宋悲も頷いた。

 

「本官の方でも進めよう。明日は唐門の斥候に合わせて捕吏を出す。組み分けを詰めねばならんからな」

 

「お願いします」

 

趙活は唐惟元に向き直り尋ねた。

 

「四師兄、神奇球はもってきていたよな」

 

「いくつかあったと思うっスけど、使うんスか」

 

「案だけだが、もしかしたら」

 

「分かった。確認しておくっス」

 

「頼んだ」

 

趙活は山道をどう上がるか、誰を送るべきかを、すでに頭の中で組み立て始めていた。

 

「魏掌門。楊将軍のところへ参りましょう」

 

### 五月一日 夜 朝廷中軍

 

趙活と魏菊は、外柵脇で待っていた側近を伴い、朝廷軍の中軍へ向かった。

 

魏菊の到着を聞き、楊景略は陸紹文も天幕へ呼んでいた。

 

魏菊が改めて崆峒の現状を報告すると、楊景略は口を挟まずに聞き終えた。それから卓上へ山図を広げ、大腰峴から朝天門へ続く道を指でなぞった。

 

「武林盟はどうするつもりだ」

 

「救援を出します。方法も一つ考えております」

 

趙活は山図の狭所へ指を置いた。

 

「唐門の神奇球を使います。初めの一投だけ、手足を痺れさせる毒煙を仕込みます。そこへ入る者にはあらかじめ毒に合わせた避毒丹を飲ませます。煙で敵の弩手と槍列を乱し、その間に斜面へ踏み込みます」

 

楊景略が問うた。

 

「避毒丹、そのような便利な丹薬があるのか」

 

「あるものもございます。ただ、いまは持ち合わせがございません。ですが、その日のうちに使い切るものであれば、今から調えられます」

 

「夜明けまでにか」

 

「使う麻痺毒をこちらで選べますから、間に合わせます。毒を受けた後に抜く解毒薬とは違います。先に飲ませて毒が肺腑へ回るのを遅らせ、体が耐える間を作る避毒丹です。害をなくせるわけではありません」

 

「どれほど持つ」

 

「薬効が強いのは一刻ほどです。ただし、一刻の間、毒を吸い続けられるという意味ではありません。濃い煙をくぐれるのはせいぜい数十息。一度くぐった者を、二度目には入れられません」

 

「数は揃うのか」

 

「夜明けまでに調えられるのは、最初に毒煙へ入る者たちの分だけです。それ以上は、薬材も時も足りません」

 

「ならば、二投目からはどうする」

 

「毒は入れません。同じ色、同じ形をした、ただの煙球を投げます。一度目で手足の自由を失った兵は、自分では下がれない。後ろの者は踏み越えるか、助け起こして列を崩すかになります。その上でまた同じ煙が来れば、毒か煙かを見極めるまで、息を止め、口を覆わずにはいられません。その乱れを使います」

 

「風が逆なら」

 

魏菊が略図へ目を落とした。

 

「朝のうちは、風は朝天門から山下へ下ります。ですが晴れていれば、門外の岩壁へ日が差してしばらくすると、谷から山上へ返ります」

 

魏菊は大腰峴の手前を指した。

 

「ただ、この曲がりでは一度風が巻きます。最初の吹き返しだけで投げてはなりません。上り風がしばらく続くのを確かめてください」

 

趙活はそれを聞いて答えた。

 

「風向きがよくなければ使いません。あとは現地で確かめるしかないですが、味方を巻き込んでまで通す策ではありません」

 

続けて趙活は、神奇球を使えなかった場合に備え、毒煙に頼らず武林だけで山道を攻めるための代案をいくつか説明した。

 

楊景略は趙活が示した道筋を目で追い、大腰峴と朝天門に指を置く。それから山下へ続く道まで、ゆっくりとなぞった。

 

「兵を出す」

 

魏菊が顔を上げた。

 

「西夏に大腰峴と朝天門を押さえられれば、あの山そのものが敵の前堡となる。こちらの兵糧道を上から窺い、伝令を断ち、我が軍が前へ出るたびに別働隊を背へ下ろせるようになる」

 

楊景略は大腰峴を指で叩いた。

 

「今なら、まだ門内の崆峒と呼応して取り返せる。ここで放置し、敵が山を固めてから攻め直せば、今日出し惜しんだよりも多くの兵を失うことになる」

 

魏菊が拱手しようとしたが、楊景略は片手を上げて制した。

 

「礼はいい。あの道を西夏へ渡さぬために、我々が戦うのだ」

 

楊景略は趙活へ目を移した。

 

「武林の者は、狭所を抜き、崩れた敵陣へ食い込むには向いている。だが盾と弩を並べ、奪った足場を守りながら後続を上げるのは兵の役目だ。そこまで武林だけに負わせれば、山を取り返せたとしても、次に戦う者が残らん」

 

そこで陸紹文を見た。

 

「陸紹文」

 

「はい」

 

「前軍から一隊を割く。お前が率いろ」

 

陸紹文は立ち上がり、拱手した。

 

「命を承ります」

 

「ただし、まだ兵を選ぶな」

 

楊景略は山図を陸紹文の前へ押し出した。

 

「まず聞かせろ。お前なら、この山道をどう攻める。神奇球が使える時と、使えぬ時。その両方だ。必要な兵と道具も、残らず挙げよ」

 

陸紹文は山図を引き寄せ、魏菊に道幅と坂の具合を尋ねて大腰峴までの道へいくつか印を置いた。

 

「平時なら三人ほど並べます。ただ、盾を構えて戦うなら二人が限度です。狭いところでは、一人ずつ通るほかありません」

 

「西夏兵が初めに列を置くとすれば」

 

「ここでしょう」

 

魏菊は登山口から最初に道が折れる場所を指した。

 

「下から来る者を長く見通せます。その先まで退けば、道はしばらく岩壁に沿って上ります」

 

陸紹文は頷いた。

 

「ならば、初めから山すべてを取ろうとはしません。まず、この曲がりまでを奪います」

 

山道の幅に合わせ、大盾を二枚一組で前へ出す。その後ろへ短槍と刀を置き、強弩は一つ手前の、射線が通る場所から援護する。道が狭まれば盾を一枚にし、抜けたところでまた二枚へ戻す。

 

「西夏兵は、こちらが下から登るのを待つでしょう。盾と槍で道を塞ぎ、その後ろから弩を射る。こちらから届かぬうちは、向こうが前へ出る理由がありません」

 

陸紹文は最初の曲がりを指した。

 

「神奇球を使えるなら、大盾を投げ届くところまで上げます。ただ、その前に飛石幇の者を使いたい」

 

趙活が山図から顔を上げた。

 

「飛石幇から、腕の立つ者を十人ほど借ります。盾の陰から石礫を投げ続けてもらう。石なら山道の脇で拾えますから、矢のように残りを惜しむ必要もない。敵の弩手を伏せさせ、道に置かれた壺や露出した仕掛けがあれば、先に石を当てて確かめられます」

 

「その石に紛れて、唐門が神奇球を投げるのか」

 

「はい。石が二十、三十と飛んだ後なら、そのうち一つだけ形の違うものが混じっても、遠目には見分けにくいでしょう」

 

神奇球を投げるのは唐門である。飛石幇の石礫が敵の目と耳を慣らし、その間から、唐門が割れやすい球を投げ込む。

 

陸紹文は手順を確かめた。

 

「球が割れ、上り風に煙が運ばれたところで、避毒丹を飲んだ峨嵋の者を入れる」

 

趙活が一つ補った。

 

「深く吸えば数息のうちに膝が落ちます。薄く吸っただけでも、得物を握る力と足の踏ん張りが利かなくなる。ただし、避毒丹を飲んでいても無傷では済みません」

 

「ならば、煙の中で戦わせるのではなく、その後ろを追わせます。倒れた者とは戦わず得物だけを蹴り離す。まだ動ける弩手と指揮役を退け、まず最初の曲がりを奪う。後続の盾を置き去りにしては進ませません」

 

陸紹文は盾を示す印を曲がりまで進めた。

 

「毒煙が流れたかどうかは唐門の者に見極めてもらいます。合図を受けて盾兵を上げ、奪った場所を引き継ぐ。先に入った峨嵋の者は、疲れた者から後続と入れ替える」

 

「二投目からは毒のない煙球です」

 

「敵が毒を恐れて下がれば、その分だけ盾を進める。下がらず煙の中から射るなら、大盾で受けて強弩を返します。何度も通じる手ではありませんが、最初の足場を取った後、もう一度敵の手を止める程度には使えるでしょう」

 

楊景略が尋ねた。

 

「風が合わず、神奇球を使えぬ時は」

 

「盾と弩で上がります。飛石幇の石礫で敵の弩手を伏せさせ、強弩で頭を上げさせない。その間に大盾を進め、短槍を続かせます。峨嵋には、道を見下ろす位置へ無理なく回れる時だけ、敵の横を牽制してもらいます」

 

「軽功のある者を、毎度崖へ登らせるわけではないのだな」

 

「はい。失敗した時に本道へ戻れぬ場所へは出しません。一度敵へ迫った後は、間を大きく開けずに押し上げます。敵の前列と近ければ、向こうも味方を巻き込まずに石を落とすことはできません」

 

陸紹文は、大腰峴までの道に残る印を順に押さえた。

 

「敵が退いても軽兵だけで追わせません。盾と弩が続き、敵が崩れている間は押します。後続が詰まれば止まり、負傷者を下ろし、水と矢を運んでから次へ進む。取った場所のうち、人の溜まれる幅があるところだけ竹籠を据え、石を詰めて後続の足場にします」

 

「時間はかかるな」

 

「かかります。ですが、狭い道では急いだ方が多く死にます」

 

楊景略はしばらく山図を見つめた。

 

「兵は二百。大盾六十、強弩五十、短槍と刀を七十、工具を持つ者を二十とする。後詰は別に置き、前の者を順に替える」

 

「はい」

 

「手斧、鉄槌、鉤、縄、竹籠は輜重から集めよ。陸紹文、お前が率いろ」

 

「承知しました」

 

楊景略は趙活へ目を移した。

 

「武林側は」

 

「峨嵋の先遣五十人は、唐門の十人とともに、今も山道で敵を牽制しているはずです。今夜のうちに早馬を登山口へ出し、そこから足の速い者を狄傲殿へ走らせます。攻撃を打ち切り、指定した場所で正面軍を待ってもらう」

 

趙活は続けた。

 

「唐門は本陣から唐翊ともう一人を加え、十二人とします。飛石幇からも、石の扱いに長けた十人を選んでもらいます」

 

「神奇球を扱うのは」

 

「唐門だけです。赤を結んだ袋が毒、白がただの煙。風見が旗を伏せた時は、どちらも投げません」

 

楊景略は頷いた。

 

「よかろう。毒煙が使えれば最初の足場を早く取る。使えなくとも、兵の組み方も出立も変えぬ」

 

陸紹文が、朝天門へ置かれた印を見た。

 

「こちらが大腰峴へ達したことを、崆峒へどう知らせます。狼煙だけでは、門を開く刻を正確に合わせられません」

 

魏菊は山図の西側へ指を移した。

 

「朝天門を通らず無色市集の西端へ出られる道があります。今日、私どもが下った道です。会所で告げた旧採薬路とは途中で分かれ、玄功門の限られた者しか知りません。今は崩れたところが多く、一人ずつしか抜けられない箇所もあります。馬も大盾も大きな荷も通せません」

 

「そこから敵の後ろへ回れるか」

 

楊景略の問いに、魏菊は首を横に振った。

 

「軍を回す道ではありません。途中で見つかれば、戦う場所も退く場所も限られます。軽功のある者を選び、身軽にして入る必要があります」

 

趙活は古道の終点を見た。

 

「ならば、四十人を選んで、崆峒との接応に使います」

 

正面軍が大腰峴へ達しても、山内がそれを知らなければ挟撃にはならない。狼煙を偽られれば、崆峒だけが早く門を開き、外へ誘い出される恐れもある。

 

「四十人は無色市集の手前で止めます。師姉殿だけ先へ入り、雷掌門、姚掌門、飛天門の古参へ話を通してください。受け入れられた後で残りを入れる。認められなければ、そのまま引き返させます」

 

「入った後は、何をさせるおつもりですか」

 

「正面軍の位置と到着の刻を伝え、崆峒からの返答を持ち帰る。それから古道の出口を守り、朝天門が開くまで連絡を切らせない。無色市集まで敵が入った時には、僅かでも予備になります」

 

古道隊は、敵陣を裏から崩す奇兵ではない。

 

正面の援軍と、門内の崆峒を繋ぐための一隊だった。

 

魏菊はしばらく古道の線を見つめ、やがて頷いた。

 

「その条件でしたら、私から師姉へ頼みます」

 

「崆峒との接応には、唐惟元師兄を出します」

 

趙活は無色市集へ置かれた印を指した。

 

「以前、西武林で崆峒との交渉をまとめたことがあります。魏掌門もご存じのはずです。誰にどう話を通せばよいかも分かっているはずです」

 

ただし、唐惟元一人に四十人の進退まで背負わせるつもりはなかった。

 

「軽功に長けた者たちをまとめる役は、瑞笙公子にお願いするつもりです」

 

魏菊が言葉を添えた。

 

「瑞笙公子は以前、崆峒へ留学し、季試にも出ておられます。古道そのものはご存じないでしょうが、無色市集から先の道と、四門の者たちは知っているはずです」

 

趙活はそれを初めて聞いた。だが、混成の一隊をまとめる腕なら、すでに自分の目で見ている。武功の高さだけでなく、血の上った侠客を止め、軍の合図に合わせて退かせられる者だった。

 

「それなら、なお都合がいい。二人を呼びましょう。それと宋殿も。南の調べについても、ここで話を合わせておきたい」

 

使いが出され、しばらくして瑞笙と唐惟元、宋悲が天幕へ入った。

 

瑞笙は魏菊に気づくと、わずかに目を見開いた。魏菊が軽く頭を下げると、瑞笙も目礼を返した。

 

挨拶はそれだけにして、瑞笙と唐惟元は説明を聞き、並んで古道の線を見た。

 

瑞笙が無色市集の西を指す。

 

「ここへ出られるのであれば、その先は分かります。季試の折にも何度か通りました。ただし、この古道へ入ったことはありません。道案内をお願いします」

 

「承知しました。崩れて道筋の分かりにくいところでは、私が先へ出ます」

 

魏菊の側近が答え、瑞笙は頷いた。

 

唐惟元は無色市集へ置かれた印を指で押さえた。

 

「許しが出るまでは、ここより先へ入らないんスね」

 

「はい。師姉殿だけを先へ出します」

 

趙活が答えた。

 

「雷掌門、姚掌門、飛天門の古参、この三者の許しが揃った後で隊を入れる。四師兄には、そこから先の話を繋いでもらいたい」

 

「それなら僕が行った方がいいっス。四門の掌門とは一通り顔を合わせてる。誰へ先に話を持っていけば揉めにくいかも、多少は分かるっス」

 

「連絡に走らせる弟子も二人、僕の方で選ぶっス。四十人のうちに入れておいてください」

 

唐惟元はそう言ってから、山道の正面へ目を移した。

 

「山にいる十人には、唐康と唐泉も入ってたでしょ?」

 

「ああ。二人に唐門の者をまとめてもらう。神奇球と煙球、それに風見の合図は唐泉を中心に扱わせる」

 

趙活は答えた。

 

「本陣から加える唐翊ともう一人には、球と旗を持たせる。俺が避毒丹を調えたら、それも荷へ加えて正面軍と一緒に出す」

 

「もう一人は僕が選ぶっス。荷の支度も任せといて」

 

「頼む。それと唐康と唐泉には、合流したところで陸殿へ現地の様子を説明させてくれ。敵が列を置いている場所、見つけた仕掛け、通れる岩棚と退路。山図だけでは分からないものを、攻め始める前に合わせておきたい」

 

「分かったっス。今夜出す使いにも伝えておくっス」

 

瑞笙は古道の線から顔を上げた。

 

「三十八人の人選はこちらで行っても?」

 

「頼みます」

 

楊景略が決定を確かめる。

 

「正面は夜明けに出す。陸紹文が朝廷兵二百を率い、飛石幇十人と、荷を持つ唐門二人を伴う。峨嵋五十人、唐門十人とは山中で合流しろ」

 

「承知しました。狄傲殿への使いは、今夜のうちに出します」

 

趙活が答えた。

 

「古道隊は夜明けの少し前に出す。無色市集の手前で止まり、案内役だけを先に入れよ。残る者は、崆峒の許しが出るまで市集へ入るな」

 

「承知しました」

 

瑞笙が答え、唐惟元も頷いた。

 

「門内に間者がいる疑いは、四十人には伝えません」

 

趙活は二人を見た。

 

「伝えるのは、正面軍の位置と到着の刻を崆峒へ届けること、案内役の指示に従うことだけです。誰が疑わしいかを探らせないでください」

 

「余計な疑いを持たせれば、顔を合わせる前から四門と武林盟が割れるでしょうね」

 

瑞笙が言った。

 

唐惟元も頷く。

 

「知った顔だからって、確かめもせず信用はしないっス。けど、最初から間者扱いもしないっスよ」

 

続いて宋悲が南の調べについて報告した。民列を襲った者と碧波子を狙った刺客。その遺留品に付いていた川砂と雲母、紙と糊を運んだ男の証言が、南の細道へ繋がっている。

 

唐惟元も今夜すでに古参二人を出していることを伝えた。

 

「深くは追わせてないっス。戻ったら報せを合わせて、明朝は別に六人、二人一組で出すつもりっス」

 

「各組へ、こちらの捕役を一人ずつ付ける」

 

宋悲が言うと、楊景略は南へ続く街道へ指を置いた。

 

「軍の斥候も三人付けよう。後方を探らせている者から、あの辺りの道に慣れた者を選ぶ」

 

一組は、唐門二人、捕役一人、軍の斥候一人となった。斥候が調べてきた道や人の往来を、唐門が拾う痕跡と照らし合わせる。村や店で話を聞く時には捕役が加わり、見た物と聞いた話を同じ組で確かめながら進む。

 

宋悲は唐惟元へ向き直った。

 

「そなたが古道へ出るなら、南の報せは誰に集める」

 

「隈師兄に任せます。門内の最古参です」

 

趙活が答えた。

 

「三組の進退を見てもらい、唐衫たちは応援に出せるよう陣へ残します。丐幇にも、花二爺を通して村々の様子を聞いてもらう。そちらで拾った話も師兄へ集めます」

 

「出した捕役からも、その師兄とやらに報せを渡させよう。こちらで集めた証言と、採ってきた物の照合は本官が引き受ける」

 

宋悲が応じると、楊景略も頷いた。

 

「斥候にも探索中はその者の指図を受けるよう命じておく」

 

楊景略は趙活と宋悲を見た。

 

「賊の巣らしい場所を見つけても四人だけで踏み込ませるな。周りを確かめ、応援を呼べ。兵の動きや糧道に関わるものは途中でも中軍へ知らせよ」

 

「承知しました。調べの進み具合も、武林陣と中軍の双方へお届けします」

 

宋悲が答え、三組は夜明けに出すことになった。出立までに顔を合わせ、受け持つ道と落ち合う場所、報告を戻す刻を決めておく。

 

楊景略は山図の上から手を離した。

 

「では、それぞれ支度にかかれ。人選と道具に不足があれば二更までに申し出よ。それ以後はあるもので戦う」

 

軍議はそこで終わった。

 

陸紹文は兵と輜重を揃えるために戻った。

 

宋悲は南へ出す捕役を集め、軍の斥候との組み合わせを整えに向かった。

 

趙活は魏菊、瑞笙、唐惟元とともに武林陣へ引き返し、朝廷中軍で決まったことを各派の名代へ伝えた。誰を出し、誰を残し、いつまでに支度を終えるか。それだけを合わせ、前哨と山道へ伝令を出す。

 

瑞笙は古道へ入る者を選び、石公遠は山道へ送る十人を決めた。唐惟元は南の調べを引き継ぐため、隈師兄を呼びにやった。

 

趙活には調薬の長い夜が待っている。

 

***

 

趙活が医療列へ向かった後、指揮天幕へ宋悲が戻ってきた。

 

捕役の一人と、楊景略が選んだ三人の斥候を伴っている。

 

卓上には南の道を記した紙と、包み直された三つの遺留品があった。唐惟元の傍らに隈師兄が座り、今夜南へ出た二人も、泥のついた裾のまま控えている。

 

簡単な挨拶を済ませると、唐惟元は二人が戻ってきたことを伝えた。

 

「川へ下りる細道までは繋がったっス。けど、その先に何があるかは、まだ分からないっスね」

 

二人が見つけたのは道端の湿った土に残る足跡と踏み込まれた灰だった。持ち帰った砂には、遺留品に付いていたものと同じように細かな雲母が光っている。

 

隈師兄は採った場所を紙の上で示させた。足跡が残っていたのは、細道が川へ折れる所だった。

 

「この辺りで荷を下ろす者なら、昼にも見ています」

 

斥候の一人が卓へ身を寄せた。

 

「二人で来て道口で荷を一人に持たせていました。片方が下りている間、もう片方は上に残って道を見ていた。荷を置いた先までは見えませんでしたが」

 

宋悲がその男を見た。

 

「時刻は覚えているか」

 

斥候は見回りの途中で立ち寄った場所と、前の組から交替した刻を挙げた。捕役がそれを紙へ書き留める。

 

「荷はどんなものだった」

 

大きさと包み方を聞くと宋悲は頷いた。

 

「紙と糊を運んだ男に、本官から確かめよう」

 

唐惟元は荷を下ろしたという場所と、二人が灰を拾った場所を見比べた。近くはあるが、同じ場所ではない。

 

「荷を待ってた者がいるかもしれないっスね。下りた先に、渡しでも?」

 

「そこに渡し場はありません。岸沿いに歩けば川下の道へ出られます」

 

斥候は紙の端へ短い線を書き足した。

 

「藪が張り出しているので、上の道からは見えません。足跡を確かめるなら川側へ回った方が早いでしょう。そこは案内できます」

 

隈師兄は戻った二人へ目を向けた。

 

二人ともその道までは見ていないという。

 

「では、明日はそこから確かめよう。今夜の足跡と、昼に運んだ荷が繋がるかを見る」

 

川砂だけなら同じ川を使う者は誰でも靴へ付ける。荷を運んでいたというだけで二人を賊とも決められない。

 

それでも、明朝どこから調べればよいかは見えてきた。

 

唐惟元は隈師兄の前へ六人の名を記した紙を置いた。

 

「明朝出すのはこの六人っス。誰がどの道を知ってるかも書いてある。細かい所は、今夜戻った二人から聞いといて」

 

隈師兄は一人ずつ名を確かめ向かいの斥候へ紙を回した。

 

「川沿いに慣れた者をそちらの組へ入れる。残る二組も知っている道を合わせよう」

 

「承知しました」

 

宋悲が連れてきた捕役も、村の者から聞いた道の名を二つ挙げた。軍の斥候が使う呼び方とは違っていたが、曲がりの目印を聞けば同じ所だった。

 

隈師兄は戻った二人を休ませ、明朝出す六人を呼ばせた。残る二人の捕役も加わり、唐惟元の紙を挟んで、今度は実際に組む者同士で顔を合わせる。

 

「花二爺には村へ出入りする荷の話を拾ってもらうっス。こちらの印も渡しておくっスよ」

 

唐惟元は道口の位置を別の紙へ写し、外にいた門人へ託した。それから、三つの遺留品を宋悲の捕役へ、調べを記した紙を隈師兄へ渡す。

 

「僕の方で分かってるのはここまでっス。あとは頼んだよ。唐翊たちの荷も見ておかないと」

 

「分かった。四師兄も山では気をつけてくれ」

 

唐惟元は片手を上げ、天幕を出た。

 

ほどなく外から唐翊を呼ぶ声がした。

 

残った者たちは三組が受け持つ道を紙の上で分けた。斥候が先に見た場所へ案内し、唐門の者が今夜の痕跡と照らし合わせる。村で尋ねる相手と、何を聞くかは、宋悲が捕役へ伝えた。

 

戻りは、日暮れ前。

 

途中で分かったことは隈師兄へ集める。捕役が写しを取り、宋悲と中軍へも送ることにした。

 

「唐衫たちは陣に置いておく。応援が要る時は、人と道を知らせてくれ」

 

隈師兄が言うと、川沿いの道を描いた斥候が紙の一点を押さえた。

 

「使いを戻すならこちらへ。下の道をそのまま走るより早い。ただ、荷を持って動くなら元の道がよいです」

 

隈師兄はその線を目で追い、頷いた。

 

「では、そこの曲がりも明朝教えてもらおう」

 

宋悲は出来上がった紙を捕役へ渡し、同じものをもう一枚作らせた。

 

外では医療列へ炭を運ぶ弟子が通っていく。

 

紙が写し終わる頃には、明朝の三組は、それぞれ並んで道の目印を確かめていた。

 

その頃、医療列では趙活が薬箱を三つ開いていた。

 

唐惟元に運ばせた唐門の薬材を卓へ並べる。まず決めなければならないのは薬ではなく毒の方だった。

 

強すぎれば避毒丹を飲んだ味方まで倒れる。麻痺が深すぎれば、手足だけではなく息まで止まる。

 

弱すぎれば西夏兵は目を閉じ、息を止めたまま持ち場へ残る。

 

欲しいのは人を殺す毒ではない。指から力を奪って弓と槍を落とさせ、膝を利かなくして、狭い道で人を荷物とさせる毒だった。

 

趙活は神奇球へ詰める麻痺毒を選び、その性質に合わせて薬材を取り分けた。

 

趙活は薬研を引き、煎じた薬液を火へ戻し、量を間違えぬよう何度も舌先で確かめた。濃くした薬液へ粉を混ぜ、蜜を僅かに加えて、一人分ずつ指先で丸める。

 

峨嵋の先行する者と、麻痺毒の球を扱う唐門の分。

 

失くす者、吐き出す者、割れて使えなくなる分まで見込み、僅かな予備も作った。

 

避毒丹だけは、薬を量り、混ぜ、丸める手を他人へやらせなかった。

 

その傍らでは、手伝いに入った唐門弟子たちが、別に取り分けた乾燥薬材を細かく砕き、一包ずつ紙へ分けていた。魏菊から崆峒では傷薬が足りないと聞いている。趙活が止血散の配合と一包の量を決め、弟子たちが四十包へ整えた。

 

戦場では一人ごとの体質を診て処方を変えることなどできない。ゆえに薬効を強くしすぎず、足りない者が出ぬ量へ揃える。

 

それだけで、避毒丹のために取り分けた薬材も、夜の時間もほとんど使い切った。

 

麻痺毒の煙を使えるのはおそらく一度きりである。

 

最後の一粒を薬包へ収めた時には三更をとうに過ぎていた。その横には、古道隊へ持たせる止血散が四十包、紐でまとめられていた。

 

趙活は顔を洗い、神奇球と煙球の包みをもう一度確かめに立った。

 

その頃、魏菊もようやく椅子へ腰を下ろした。

 

側近が湯を持ってきたが、魏菊は一口飲んだだけで、また山図を見た。

 

「お休みください」

 

「師姉こそ。明日は崖道を案内するのでしょう」

 

魏菊は小さく笑った。

 

今までの西夏軍の進み方なら、丹霞子が山腹の退路を失うより先に、古道の接応隊は山へ入る。正面の援軍も、崆峒が門を開いて呼応できるところまで上がれる。

 

結局、何もしなければ、いずれ朝天門は破られるのだ。ならば、こちらが先に打つしかない。

 

拭えない不安とともに夜が過ぎていく。

 

### 五月一日 夕刻 西夏陣

 

山下の西夏陣では、戻った鳩の脚から細い紙が外されていた。

 

書かれていた手順は、新しいものではない。

 

兵はすでに分けてある。

 

一隊は大腰峴へ。一隊は丹霞子のいる北西の山腹へ。

 

山裾の農地にいた兵は、夜明けとともに柵を前へ移す。後陣はその空いた場所を埋め、矢と水と兵糧を送り続ける。

 

山裾を塞ぐ盾も弩も、疎林を伐る斧も、岩棚へ上がるための綱も揃っている。

 

どこかを攻めるために、別の場所を薄くはしない。

 

山内へ呼応させる手立ても、前から整えてあった。

 

変わったのは始める時だけだった。

 

本来なら疎林をさらに一日伐り、山裾の見通しと足場を整えてから山狩りを始める手順である。

 

その一日を捨てた。

 

敵の援軍より先に、山上の均衡を崩すために。

 

決行は五月二日、辰初。

 

まず丹霞子のいる山腹へ山狩りをかける。そう命じられた。

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