会社の昼休みでした。
食堂は混んでいて、私はいつものように端の席に座り、一人で昼食をとっていました。
スマートフォンを見る気にもなれず、ただ味噌汁を飲んでいると、隣の席へ後輩が座りました。
「先輩」
「ん?」
「あの画像、また見ました」
私は苦笑しました。
「まだ流行ってる?」
「むしろ前より増えてます」
そう言って画面を見せてきました。
新しい派生画像でした。
私の姿勢のまま、
『仕様変更を言われた俺』
という文字が載っています。
初めて見る加工でした。
「これ、面白いですよね」
「そうだね」
私は笑いました。
すると後輩は首をかしげました。
「……あれ?」
「どうした?」
「いえ」
何か考え込むような顔をしていました。
「今の……」
「ん?」
「先輩、そんな言い方でしたっけ?」
「そんな言い方?」
「もっと……」
後輩は私の画像を見ました。
「この人みたいな喋り方かと思ってました」
私は意味が分かりませんでした。
「いや、これ喋ってないだろう」
「そうなんですけど」
後輩は困ったように笑いました。
「なんて言うんだろう、画像の人って、もっと疲れた感じというか」
「……」
「先輩、思ったより普通なんですね」
私は冗談だと思って笑いました。
しかし、後輩は本気で言っていました。
午後。
会議で、私は資料の修正案を説明しました。
「この表だけ差し替えれば十分だと思います」
部長が頷きました。
「それでいこう」
ところが、隣の席の同僚が、小さく吹き出しました。
「どうしました?」
私が聞くと、
「いや、ごめん」
同僚は笑いをこらえながら言いました。
「今の」
「はい」
「画像みたい」
「画像?」
「その言い方」
私は首をかしげました。
「普通に話しただけです」
「いや」
同僚は説明しようとして、途中で諦めました。
「ごめん、説明できない。でも……素材の人って感じ」
周囲も曖昧に笑いました。
誰も悪意はありません。
それが余計に気味が悪く感じました。
仕事を終え、帰宅する途中、私はコンビニへ寄りました。
レジには若い店員が立っていました。
「袋はご利用ですか?」
「お願いします」
会計を済ませ、商品を受け取ろうとしたときでした。
店員が私の顔を見て、目を丸くしました。
「あ」
聞き覚えのある声でした。
「素材の人」
私は反射的に言いました。
「違います」
店員は困った顔になりました。
「え?」
「いや……」
私は言い直しました。
「違わないですけど……」
何がおかしいのか、自分でも分かりませんでした。
店員は笑いました。
「びっくりしました。本物いるんですね」
私は商品を受け取り、店を出ました。
夜風が少し冷たく感じました。
歩きながら、ふと考えました。
私はさっき、
「違います」
と言った。
何が違うのでしょう。
私は私です。
画像の人物も私です。
それなのに、あの一言だけは、ひどく自然に口から出ました。
まるで、画像の中の人間と、自分は別人だとでも思っているように。
帰宅すると、通知が一件届いていました。
nullでした。
引用されていたのは、私の最新の投稿でも、あの画像でもありません。
プロフィール欄に書いた、たった一行の自己紹介でした。
そこへ添えられていた文章には、こう書かれていました。
「素材は、本人より先に話し始めます」