素材   作:null_user2388

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第6章 台詞

会社の昼休みでした。

食堂は混んでいて、私はいつものように端の席に座り、一人で昼食をとっていました。

スマートフォンを見る気にもなれず、ただ味噌汁を飲んでいると、隣の席へ後輩が座りました。

「先輩」

「ん?」

「あの画像、また見ました」

私は苦笑しました。

「まだ流行ってる?」

「むしろ前より増えてます」

そう言って画面を見せてきました。

新しい派生画像でした。

私の姿勢のまま、

『仕様変更を言われた俺』

という文字が載っています。

初めて見る加工でした。

 

「これ、面白いですよね」

「そうだね」

私は笑いました。

すると後輩は首をかしげました。

「……あれ?」

「どうした?」

「いえ」

何か考え込むような顔をしていました。

「今の……」

「ん?」

「先輩、そんな言い方でしたっけ?」

「そんな言い方?」

「もっと……」

後輩は私の画像を見ました。

「この人みたいな喋り方かと思ってました」

私は意味が分かりませんでした。

「いや、これ喋ってないだろう」

「そうなんですけど」

後輩は困ったように笑いました。

「なんて言うんだろう、画像の人って、もっと疲れた感じというか」

「……」

「先輩、思ったより普通なんですね」

私は冗談だと思って笑いました。

しかし、後輩は本気で言っていました。

 

午後。

会議で、私は資料の修正案を説明しました。

「この表だけ差し替えれば十分だと思います」

部長が頷きました。

「それでいこう」

ところが、隣の席の同僚が、小さく吹き出しました。

「どうしました?」

私が聞くと、

「いや、ごめん」

同僚は笑いをこらえながら言いました。

「今の」

「はい」

「画像みたい」

「画像?」

「その言い方」

私は首をかしげました。

「普通に話しただけです」

「いや」

同僚は説明しようとして、途中で諦めました。

「ごめん、説明できない。でも……素材の人って感じ」

周囲も曖昧に笑いました。

誰も悪意はありません。

それが余計に気味が悪く感じました。

 

仕事を終え、帰宅する途中、私はコンビニへ寄りました。

レジには若い店員が立っていました。

「袋はご利用ですか?」

「お願いします」

会計を済ませ、商品を受け取ろうとしたときでした。

店員が私の顔を見て、目を丸くしました。

「あ」

聞き覚えのある声でした。

「素材の人」

私は反射的に言いました。

「違います」

店員は困った顔になりました。

「え?」

「いや……」

私は言い直しました。

「違わないですけど……」

何がおかしいのか、自分でも分かりませんでした。

店員は笑いました。

「びっくりしました。本物いるんですね」

私は商品を受け取り、店を出ました。

夜風が少し冷たく感じました。

歩きながら、ふと考えました。

私はさっき、

「違います」

と言った。

何が違うのでしょう。

私は私です。

画像の人物も私です。

それなのに、あの一言だけは、ひどく自然に口から出ました。

まるで、画像の中の人間と、自分は別人だとでも思っているように。

帰宅すると、通知が一件届いていました。

nullでした。

引用されていたのは、私の最新の投稿でも、あの画像でもありません。

プロフィール欄に書いた、たった一行の自己紹介でした。

そこへ添えられていた文章には、こう書かれていました。

 

「素材は、本人より先に話し始めます」

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