素材   作:null_user2388

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第7章 履歴

あの画像が流行してから、私はほとんど新しい投稿をしなくなりました。

何を書いても、反応は同じでした。

画像が引用される。

誰かが「素材の人」と書く。

コメント欄は、その話ばかりになる。

投稿の内容を読んでいる人は、ほとんどいないように思えました。

それでも、毎日のように通知だけは届きます。

 

その日も、SNSを眺めていました。

ちょうど新しい通知はありませんでした。

何となく、一年前の投稿まで遡ってみました。

その頃は、画像ではなく作品の感想を書くことが多かったはずです。

「あの演出は良かった」

「構図が面白い」

「伏線の回収が綺麗だった」

そんな短い文章が並んでいました。

 

読み返しているうちに、不思議なことに気付きました。

感想の内容は思い出せます。

投稿した日のことも覚えています。

けれど、どうしてその感想を書いたのか。

そこだけが思い出せませんでした。

私は通知欄へ戻りました。

昔から交流のあるフォロワーが、私の三年前の投稿を引用していました。

添えられていた文章は、一行だけでした。

「昔からこういう人だった」

私は首をかしげました。

何が「こういう人」なのでしょう。

そこには、ごく普通のアニメの感想しか書かれていません。

 

しばらくして、そのフォロワーへ連絡しました。

「これ、どういう意味ですか?」

すぐに返信が来ました。

「え? そのままですよ」

「どういう人だと思ったんですか?」

既読が付き、少し間が空きました。

 

「うまく説明できません。でも……」

「昔から、この画像みたいな人だったじゃないですか」

 

 

私はスマートフォンを持つ手に力が入りました。

「この投稿は、画像が流行る前ですよ」

返事はありませんでした。

十分ほど経ってから、短い返信が届きました。

「そうでしたっけ」

 

その夜、私は自分のアカウントを最初まで遡りました。

最初の投稿。

最初の返信。

最初の引用。

何時間もかけて読み返しました。

私は確かに、ここで生きていました。

作品について笑い、怒り、誰かと議論し、時には失敗もしていました。

そのはずでした。

けれど、コメント欄だけは違いました。

古い投稿へ、新しい返信が少しずつ増えていたのです。

 

「この頃から素材感ある」

「まだキャラが固まってない」

「後のテンプレになる」

 

投稿日は昨日。

今日。

ほんの数分前。

三年前の私を見ているはずなのに。

誰も、三年前の私として読んでいませんでした。

まるで現在の画像から過去を逆算するように、

昔の私まで書き換えていました。

私は慌てて投稿を削除しようとしました。

しかし、指が止まりました。

消したところで画像は残ります。

引用ポストもスクリーンショットされて残ります。

私が消したいのは、投稿ではありません。

「私はあの素材の人」という認識でした。

 

その瞬間、初めて気付きました。

この三年間、

私が毎日見返していたのは、自分の記憶ではありません。

投稿履歴でした。

イベントへ行った日付。

誰と話したか。

何を考えていたか。

全部、投稿を読み返して思い出していました。

もし、その履歴まで、誰かの認識に書き換えられたら。

私は何を頼りに、自分を思い出せばいいのでしょう。

通知音が鳴りました。

nullでした。

引用されていたのは、私が三年前に投稿した、ごく短い感想でした。

添えられていた文章は、一行だけでした。

 

「人は、思い出す前に記録を読みます」

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