素材   作:null_user2388

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第9章 回想

私はファイルを何度も開き直しました。

 

『summary.txt』

 

数行だけの文章です。

何度読み返しても、内容は変わりません。

それでも気になったのは、最後の一文でした。

 

・詳細は投稿履歴から推定した。

 

推定。

その二文字だけが、頭から離れませんでした。

私はダウンロードしたデータを、もう一度最初から見直しました。

投稿。

返信。

画像。

プロフィール。

引用。

どれも、私が投稿したものでした。

けれど、そこにはもう一つ、身に覚えのないファイルがありました。

 

『story.txt』

 

さっきまで気付かなかっただけなのか。

それとも……。

私は、ゆっくりクリックしました。

画面が開きます。

一行目を読んだ瞬間、背中が冷たくなりました。

 

「あれは三年ほど前のことです」

私は息を止めました。

スクロールします。

そこには、見覚えのある文章が続いていました。

 

「私のまわりには、アニメや漫画を切り抜いて遊ぶ人がたくさんいました」

「一枚の画像」

「一行の台詞」

 

私はマウスから手を離しました。

れは私が書いた覚えのない文章です。

それなのにどれも、私の記憶そのものでした。

さらにスクロールします。

 

第2章

第3章

第4章

 

私は読んでいました。

いや、読まされていました。

そこには、今まで私が経験した出来事が、順番に並んでいました。

 

イベント。

画像。

フォロワー。

会社。

書店。

喫茶店。

今日。

 

すべてです。

私は画面の一番下までスクロールしました。

文章は、途中で終わっていました。

その先には、本文ではなく、小さな文字が数行だけありました。

 

生成情報

入力:

・公開プロフィール

・公開投稿

・公開返信

・公開画像

・公開引用

・公開日時

 

推定:

・出来事の時系列

・心理状態

・記憶の連続性

 

推定不能:

・氏名

 

私は、画面を閉じました。

もう一度開きました。

表示は変わりません。

 

推定不能:氏名

 

私は、自分の名前を口にしようとしました。

声が出ませんでした。

頭の中には、画像だけが浮かびます。

あの姿勢。

パンフレットを読んでいる後ろ姿。

私は、その人物を知っています。

でも名前だけがありません。

 

机の上で、スマートフォンが震えました。

画面には、見覚えのない通知が一件だけ表示されていました。

送信者はありません。

本文も、一行だけでした。

「回想を生成しました」

 

私は反射的に画面を閉じました。

そして、恐る恐る開きます。

通知は消えていました。

代わりに、『story.txt』の更新日時だけが、今この瞬間へ書き換わっていました。

私は、最初の一行へ戻りました。

「あれは三年ほど前のことです」

 

 

 

 

 

[システムメッセージ]

ログの再現が完了しました。

対象者(素材ID: 88412)の意識トレースを終了します。

本ファイル(story.txt)を新規素材として登録しますか?

> はい

新規素材の名前を██で保存しますか?

> はい

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