私はファイルを何度も開き直しました。
『summary.txt』
数行だけの文章です。
何度読み返しても、内容は変わりません。
それでも気になったのは、最後の一文でした。
・詳細は投稿履歴から推定した。
推定。
その二文字だけが、頭から離れませんでした。
私はダウンロードしたデータを、もう一度最初から見直しました。
投稿。
返信。
画像。
プロフィール。
引用。
どれも、私が投稿したものでした。
けれど、そこにはもう一つ、身に覚えのないファイルがありました。
『story.txt』
さっきまで気付かなかっただけなのか。
それとも……。
私は、ゆっくりクリックしました。
画面が開きます。
一行目を読んだ瞬間、背中が冷たくなりました。
「あれは三年ほど前のことです」
私は息を止めました。
スクロールします。
そこには、見覚えのある文章が続いていました。
「私のまわりには、アニメや漫画を切り抜いて遊ぶ人がたくさんいました」
「一枚の画像」
「一行の台詞」
私はマウスから手を離しました。
れは私が書いた覚えのない文章です。
それなのにどれも、私の記憶そのものでした。
さらにスクロールします。
第2章
第3章
第4章
私は読んでいました。
いや、読まされていました。
そこには、今まで私が経験した出来事が、順番に並んでいました。
イベント。
画像。
フォロワー。
会社。
書店。
喫茶店。
今日。
すべてです。
私は画面の一番下までスクロールしました。
文章は、途中で終わっていました。
その先には、本文ではなく、小さな文字が数行だけありました。
生成情報
入力:
・公開プロフィール
・公開投稿
・公開返信
・公開画像
・公開引用
・公開日時
推定:
・出来事の時系列
・心理状態
・記憶の連続性
推定不能:
・氏名
私は、画面を閉じました。
もう一度開きました。
表示は変わりません。
推定不能:氏名
私は、自分の名前を口にしようとしました。
声が出ませんでした。
頭の中には、画像だけが浮かびます。
あの姿勢。
パンフレットを読んでいる後ろ姿。
私は、その人物を知っています。
でも名前だけがありません。
机の上で、スマートフォンが震えました。
画面には、見覚えのない通知が一件だけ表示されていました。
送信者はありません。
本文も、一行だけでした。
「回想を生成しました」
私は反射的に画面を閉じました。
そして、恐る恐る開きます。
通知は消えていました。
代わりに、『story.txt』の更新日時だけが、今この瞬間へ書き換わっていました。
私は、最初の一行へ戻りました。
「あれは三年ほど前のことです」
[システムメッセージ]
ログの再現が完了しました。
対象者(素材ID: 88412)の意識トレースを終了します。
本ファイル(story.txt)を新規素材として登録しますか?
> はい
新規素材の名前を██で保存しますか?
> はい