ソードアート・オンライン ~一閃の両手剣~    作:七海香波

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 どもども、安心院かなみです。
 今回は前半は軽く、後半は少々重くなってます。
 それではどうぞ。


第三話 遺された片手剣

 

 道すがら見かけるモンスターを文字通り跳ね殺しつつ、俺は草原を抜けた次のステージ、森の中へと入っていった。既に日は落ち、辺りは星による僅かな光だけが探索の頼みとなっている。

 流石に森の中とあってはそう簡単に走れるわけもなく、俺は入り口辺りで一旦足を止め、ある程度通りやすそうな道を選択しながら通っていくことにした。唯でさえ暗いのに、全く見えない所に出てしまったら流石に不味いだろう。

 モ、モンスターが怖いわけじゃない。ただホラー系が死ぬほど苦手ってだけで。いきなり暗闇の中からのっぺりとした白い顔が出てきたりとかしたその日には……自殺かもしれないなぁ。

 そんなことを考えながら走っていくと、俺の視界の中に本日二十三、四、五匹目のリトルネペントが現れた。計三体、通常種が二体とジュクジュクした実を付けた一体。……面倒だな。リトルネペントの実は、割れるときに異臭を放つ液体を撒き散らして更に多くの仲間を引き寄せるのだ。

 実は茅場さんの発表の前に一体だけ実を石ころの投擲で割ったんだが、ヤバかった。いきなり周囲から大量の奴らが現れたかと思えば、一気にこっちに向かって走ってくるんだもんな。トラウマになるぞ、あのキモイ光景は。あの時は全力疾走で街前に戻って何とかなったが、さすがに今あの集団に囲まれると危ない。

 つーか、確実に死ねる。

 今回はまだ相手には気付かれていないためこのままスルーという手も有るのだが、せっかく見つけたのだと考えると少々もったいない。潰すとしたら、真っ先に実の付いてる奴か。

 手元に石ころを取り出し、俺は実有りの奴に狙いを定める。

 狙うは、ウツボ部分と茎の接合部分。一五回を超えた辺りから気付いたのだが、このモンスターの弱点はどうやらそこのようだった。そこを重点的に殴れば、意外と一体に掛ける時間を減らすことが出来る。

 慎重に相手の行動パターンを見極め、蠢く蔓が一旦縮まり、口が大きく開いて上を見上げるポーズを取った――その瞬間。

 

「シッ!」

 

 石ころは唸りを上げて、モンスターの弱点に吸い込まれるようにして見事に命中する。

 それと同時に俺は駆け出し――途中で他二体にも気付かれるがそれを無視し――、弱点に筋力値でブーストを掛けた石を当てたことで気絶(スタン)した相手、その弱点のみを集中的に殴打する。

 最初の頃とは違い、レベルを上回った状態で、筋力値に全振りしたステータスと弱点への集中攻撃により、リトルネペントはいとも容易く一回の気絶で消滅した。

 死体後に浮かんだ結果(リザルト)を見ることなく、振り返り様に同じく弱点に一撃。後ろから近づいてきた内の一体からスタンを取る。そしてそいつが起き上がる前に、もう一体を気絶させて速攻で殴り、HPバーを消し去る。

 あっという間に二体の討伐が終了した。

 残るもう一体が起き上がるが、その僅かな残りの攻撃有効時間に俺はすかさず弱点部位へと連続殴打をたたき込んだ。結局ネペントは起き上がれないまま再度倒れ込むこととなり、そのまま六秒後には俺の経験値と化した。

 

「フーッ、よし。何とか出来たな」

 

 初撃で相手を行動不能に追い込み、その間に許された貴重な無敵時間で確実に相手を葬る。コレが今の俺の、当面の戦闘目標だった。

 既に木の幹に正面衝突させる必要も無く、筋力値と投法で威力を増した石ころであれば一回目の気絶は取れる。二回目以降になったとしても起き上がる寸前で上手くたたき込めばまた続けて殴る事ができるおかげで何とか生き残っている。

 

「さて、このまま行けばどうなるんだ……?」

 

 手元にマップを呼び出し、探索踏破済の区域を見てみる。

 黒い背景の中に俺を示す赤い矢印が浮かんでいる。道を示すようなモノは無く、どうやら予め決められた細かいルートが無いかわりに巨大なフィールドにいくつかのオブジェクトが設置されていると考えた方が良いようだ。

 最もその中にも最低限の道のようなものは有り、今の俺はそれを辿って進んでいるのだった。その先に、せめて小さな一軒家か何かの寝床があると信じて。

 ……無かったときの事なんて考えない。

 

「ま、考えてたってキリがないしな……今はとにかく進んでいくしかないか」

 

 頭をボリボリと掻きながら、俺は闇に包まれた森の奥へと足を踏み入れていくのだった。

 

 

 

 

 ――あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 俺が森の中をさまよって三十分後……!剣閃の音が聞こえたと思って来てみれば、そこには、明らかにやってはいけないと分かっていることだというのにッ!目の前の優男が、あろうことか、自身の剣で奴の“実”を割る光景があったァッ!

 

「てめぇコラ何さらしてくれとるんじゃこのボケがッ!」

 

 無意識に、近くにいたネペントの下あごに片手をツッコミ、その唇をガッチリと握りしめる。

 そして、目の前の優男に、レベルアップで得た腕力をフル活用し――全力で背負い投げからの投げ飛ばしをシュートッ!

 

「え……だ、誰ヘブポッ!!」

 

 突然の第三者の出現に驚いたその男は咄嗟に片手の盾でガードすることも出来ず、俺の投げたネペントの身体はそいつを押しつぶすことに成功した。はっ、いい気味だ。

 

「え、お、おいコペル!?」

 

 優男の隣にいた女顔の少年が圧殺された男の名らしきモノを叫ぶが、そんなのは知ったこっちゃない。

 こんな序盤にこんな奥深くまでマトモに武器を持って来る奴なんざ十中八九SAOのベータテスターだ。だったら第一層のモンスターの能力ぐらい周知のハズ。

 それを分かって今の行動に踏み切ったって事はつまり、アイツは自殺志願者の馬鹿か隣の男を消し去ろうとした馬鹿のどっちかだ。どっちにしろここにいる俺まで巻き込まれることになる。

 今いる場所は森の奥、ただでさえ周囲が暗いから周囲のどこから奴らが近づいて来るかが分からないのだ。

 んな場所で戦えるわけないだろうが。クソ、ふざけんなよコペルとやら。

 

「おいそこの女顔!」

「誰が女顔だこの野郎!俺はれっきとした男だよ!」

「そうか!それじゃあ悪かったなそこの……少年A!一つだけ聞くがお前とそこの男はグルか!?」

 

 そう問いかけると、少年Aは全力で首を横に振った。

 

「そんなわけないだろ!……そもそも俺たち以外にここまで来てる奴がいるなんて思ってもなかったんだ!それと俺はキリトだ!」

「ほぅ、だったらキリト!単刀直入に相談だが、今この場は手を組まないか?」

 

 軽く周囲に耳を傾けると、既にいくつかの足音がこちらに向かって近づいてきている。別にそんな細かく分かるわけでもないのだが、近づいてる足音は確実に十を超えている。

 半数が東側、残りが北側と西側に少し。

 俺の言葉を聞いたキリトの方も少し耳を傾けて、向かってくる奴らの足音を捉えているようだ。

 

「一人で相手するよりは確実だと思うが?」

「……分かった」

 

 キリトは少し考える素振りを見せたが、一応俺の意見に納得してくれたらしかった。

 俺とキリトは背中合わせに、互いの後ろをカバーするように立つ。……あ。そう言えば。

 

「おいキリト、コペルとか言ってたさっきのクソ野郎は何処行った?なんかいつの間にか消えてるんだけど」

 

 いざ戦うときになって、この場にいるはずのもう一人のプレイヤーを思い出した。

 別に放っておいても構わないのだが、見殺しにするのもアレなのでせめて目の届くところに入れておきたかったのだが……俺がネペントを飛ばしたその場所を見てみると、あの優男は忽然と姿を消してしまっていた。

 

「分からない……けど多分、隠蔽スキルで姿を消してるんだと思う」

「隠蔽スキル?ふーん、そんなカメレオンみたいな便利なモンがあるのか。で、そのスキルでアイツは逃げていったのか?」

「いや、奴らは匂いで敵を追うから、姿が見えないだけの隠蔽スキルじゃ意味は無い。きっとそう簡単には逃げられないはずだ」

「だったらそこらの茂みに隠れてる可能性が?」

「ああ、それが一番高いと思う。それにPKをするつもりなら、きっとどこか俺たちの姿が確認できる位置にいる」

「けっ、自分は戦わず一人で高みの見物ってか?……ま、キリトの言うとおりならそんな事は出来ないだろうからまあいいか。放っておこうぜ。消えたのはアイツの勝手だ、自分から立ち去ったんならわざわざ手助けをする必要は無い」

 

 ……後ろで、キリトがグッと歯を食いしばったのが分かる。

 けど、正直言って、そもそも俺たちには戦いつつ離れた場所にいる他人を助け出す事は出来ない。キリトがベータテスターだとしても多くのネペントを相手に戦うのは慣れていないだろうし、それは俺にも同じ事が言える。今まででも相手は三体が最大だ。それ以上を相手にしたことはない。背後をもう片方が護っているから後ろからの急襲はないと分かっているものの、余裕はないと言っていいだろう。

 

「ネペントの匂いが残留するのは五分間だ。この辺りのは散々狩ったけど、匂いが残る間はPOP率が上がるし大した意味は無いんだ。ただひたすらに耐えるか、近くの町に戻るしかない」

「近くの町って言うからには、心当たりがあるのか?」

「ああ。ホルンカって町がある」

「ベータと位置が変わってるって可能性は?」

「さっきそこでクエストを受けてきたばっかりだよ」

「へっ、そうかい。……ま、この中を抜けるのは難しそうだし、耐えるしかないんだろうけどなぁ」

 

 俺はとりあえず、見様見真似の空手スタイルで両手を前に構える。

 後ろではキリトが、恐らく初期武器であろう、他の連中が身につけていたのと同じ鉄製の両刃片手剣を構える音が聞こえる。

 

「んじゃまあ、五分間よろしくなキリト。死ぬなよ?」

「そっちこそな」

 

 その言葉を切っ掛けに、俺たちは正面へと走り出した。

 

「コペル……お前は知らなかったんだな。隠蔽スキルは視覚以外の感覚を持ってる奴には、効果がほとんど無いってことを……」

 

 そんな、キリトの悲しそうな声が、最後に聞こえた。

 

 

 

 

 

 前方から迫り来る、明らかに5、6体では効かない数のリトルネペント。集団で襲いかかってくる奴らに向けて駆けながら、俺はそいつらの弱点である部位に照準を定めた。グッと握りしめた両手は既に今日一日の戦闘で相当の疲労を積み重ねている。

 

 ……俺はたった今、この世界をデスゲームだと心のどこかで飲み込めていなかったという事実に、ようやく気付かされる。現在、十数体を超えるモンスターに囲まれて、ようやく俺は今まさに死と生の狭間にいると言うことを理解した。奴らの蠢く緑色の触手が、やけに鮮明に俺の視界に映った。あの一本一本が、この世界の俺の命たるHPゲージを削る死に神の鎌に見える。

 リズベットと話したときは、まさかこんな展開に陥るなんて思っても見なかった。

 明らかに勝ち目の薄い場面に飛び込むなんて、主人公でもない単なる一般人の俺には起きないと思っていたから。きっと俺は、そこらにいるエキストラの一人みたいに、最後には普通に生きてログアウト出来るだろうと思っていたから。俺は自分が死にかける場面なんて想像できなかった、いや、想像することを拒否していたのだ。

 

 そんなシーンに出会った今、俺は明確に『死』を意識した。

 

 

 

 ――しかし、それ以上に、俺の心臓が、熱く脈を打ったように思えた。

 

 『死』という、知性を持つ生き物全てが嫌悪し回避しようとするその現象を目前に意識した瞬間。生ける屍だったような仮初めの日常に罅が入り、錆び付いた『人生』の撃鉄が起きる。

 拳にいっそう力が入る。気の抜けかけていた足の感覚が透き通る。自分のもので無かった身体を、ようやく自分だと自覚したような感触。

 歯を食いしばって、右手を開き、手の先をスプーンのようにキッチリと揃える。

 この手は槍だと思え。目の前の奴ぐらい簡単に突き通す槍だ、と。

 

「おぉぉぉぉぉッ!!」

 

 ネペントの目を付けていた部位、茎の接合部にその四本指抜き手をダッシュの勢いを込めて精一杯放つ。

 ズシュッ。手先に伝わる、柔らかい肉の感触。そして中へと手は突き刺さっていき、肘辺りまで突き刺さったところで手は止まった。そのまま中で手を開くと、柔らかい肉の感触が伝わった。その肉を手で握るように掴み、俺はそこから足に力を入れる。

 こちらの身長を優に超える巨体をそう掴んだまま、俺は視線を別のネペントの弱点へと向ける。そこに視点をロックし、ネペントを握った右腕に更に力を込める。身体を目をつけたネペントの方へとぐるりと回転させ、その勢いを右腕に乗せる。そして、ネペントの頭の頂点に生えた双葉がもう一体のネペントの弱点に突き刺さるように、俺はそのまま投げ飛ばした。

 飛んでいった先で、ネペントは狙い通り仲間の弱点に激突する。ぶつかった先と投げられた方の両方が、大きな悲鳴を上げる。同時に、投げられた方はその声が断末魔となって消滅した。

 その声を合図に身体が青いポリゴンとなって桜吹雪の様に散る中へと俺は疾走し、ぶつかった方のネペントの弱点に流れるように先ほどと同じ刺突を与える。その瞬間、そいつの身体は青く変化して爆散した。投擲のダメージと弱点への体重を乗せた重刺突でHPゲージは完全に事切れたようだ。

 振り返り様に、ポケットに突っ込んでいた石ころを投擲。右横から迫ってきていたネペントに一瞬の硬直を与え、その隙に懐へと潜り込んで飛び回し蹴りをヒットさせる。そしてネペントはこの世界から退場した。

 

 統一された攻撃パターンなどなく、目に付いた敵の流れを読み切って突いた隙に、今出せる最適かつ全力の一撃をたたき込む。

 相手に初撃も反撃も取らせない。

 既に見慣れた行動パターンを頭の中でシュミレートし、近づく前に隙を出した個体から各個撃破していく。自身を相手の攻撃範囲に入れさせない。走る蔦の隙間に出来る弱点への道を確実に捉える。

 

 

 普段なら出来ず続かずであろうそんな思考を、俺はそこから体感で数十分、延々と繰り返し続けた。

 一度でも直撃を受ければその瞬間、碌に防具のない俺は即死になりかねない。ほんの少しの攻撃だろうと、俺の命を削る以上、当たるわけにはいかなかった。

 

「は……あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 俺の全力の正拳突きが、的確にネペントの弱点肉質を射貫き、後方へふき飛ばす。

 

 その瞬間――カシャァァァァン!!

 俺でもキリトでもない。近くの茂みの向こうで、ネペントとは明らかに違う、淡いガラスのような破砕音が悲しく鳴り響いた。

 ――っつ。

 喉の奥で、鍔をゴクリと飲み下ろす。

 あの音は恐らく、モンスターの死んだ音とはまた別の、恐らくプレイヤーが死んだときの音。つまりたった今、コペルと言う名のプレイヤーは死んだのだ。

 あくまでコペルの心配をしていたキリトに諦めるように言ったのは俺だ。あの時見捨てなければ、との淡く脆い考えが一瞬俺の頭を過ぎる。

 それでも俺に僅かも止まるのを許さないと言うかのように、残り少なくなってきたネペント達は次々と攻撃を仕掛けてくる。

 

 コペルの死を一旦頭の隅に追いやり、残った四体を纏めて相手取る。

 散々打ち出して残り少なくなった石ころを纏めて手元に出し、それら全てを片手に纏めて、面で相手を捉えるように投げ飛ばす。四体の内三体にその石は命中し、全員が同時に一瞬動きを止めた。そいつらが動かないうちに、近づいてきていた唯一の個体に正面から走る。

 タコのような足の触手を器用に操り疾走してくるそいつは、そのうちの数本を鞭のように操ってこちらに攻撃を仕掛けてきた。俺はここで初めて、敵からの初撃を許す。

 そして、蔓が向かってきた正面――そこから俺は鋭くサイドステップで回り込むようにそいつの左脇へと回り込む。地面に片足で急ブレーキを掛け、身体を止めた。

 そこで生まれた僅かながらの余裕で、俺は開きっぱなしにしてあったあるウィンドウを手早く操作する。この戦闘でレベルアップした分のポイントを、全て《筋力値》へと割り振った。続いてしっかりと構えを取り、そのまま直進していったネペントが向けた背に、ここ一番の威力を込めた前蹴りを――放った。

 

 ネペント自体の慣性プラス俺の蹴りの直撃で、今までとは比べものにならない速度でネペントは遠くへと飛んでいく。その身体は森の木々の間をすり抜け、俺が狙っていたある一点まで見事に宙を舞っていった。途中に存在していたネペントを弾いたため、その後には僅かながら細い道が生まれる。

 そこを敏捷値ゼロながらも全力で駆け抜け、そこで俺は目的のモノを見た。

 

 俺がネペントを蹴り飛ばした先は、先ほど鳴った破砕音の方向。その方向で、恐らくコペルは死んだ。

 別にコペルの死んだ場所を見に来たとか、そういう訳ではない。

 

 俺の目的は、死んだコペルがドロップしたかも知れない、彼の装備品だった。

 

 地面に落ちている、かなり消耗しているであろう金属の片手剣と丸盾(バックラー)。それは紛れもなく先ほどコペルが身につけていた武器であり、言い換えるなら、彼の生きた証だった。

 それを拾い上げ、俺はメニューを開き武器防具一覧をタッチ。《スモールソード》を右手の装備に選択する。手元の片手剣が光の粒子となって消え、俺の背中に新たな皮の鞘と共に再生成される。迷わず右手を背に回し、剣の柄を握り、一思いに引き抜く。

 

 ――シュラン、と澄み渡る鈴の様な音が俺の耳に届いた。

 相当使い込まれた様な、新品にはない鈍い輝きを放つ鉄剣。このデスゲーム『ソードアート・オンライン』で最も重要な存在である、剣。それは、例え初期武器といえども、言い様のない存在感を持っていた。

 

 振り向くと、先ほど石を投げつけた三体がこちらへと向かってきていた。

 

「……ふん」

 

 三体の内握った剣を突き出すように構え、弓を扱う様に思いっきり後ろへと引き絞る。剣を持った方の逆の手を照準機のように敵の弱点に向けて開き、俺は低い姿勢で駆けだした。

 並んで走ってくる三体の内の一番左側の奴に狙いを定め、俺は右腕に力を込めた。そして、俺の剣に、夜の闇には似合わない光のエフェクトが弾ける。

 片手剣用単発ソードスキル、《スラント》。

 走る俺の身体に、システムによるブーストが掛かる。前方への速度がさらに加速し、自動的に腕が大気を斬って前へと進んでいく。

 

「ッ!!」

 

 慣れない感触に引っ張られながら、規定の動作になんとか身を任せて俺は剣を振り抜いた。

 視界の先から迫るネペントの蔦攻撃。

 それらを全て断ち切って、俺の斬撃は突き進んでいく。――そのまま吸い込まれるように、俺の剣はネペントの身体を貫いた。相手は一瞬で塵と消え、少し進んだ辺りで俺は地面に跡を付けて止まった。

 続いて、俺は剣を横向きに構え、進んできた方向とは逆の方に方向転換し、また別の光を剣に宿す。水平切りのソードスキル、《ホリゾンタル》。

 一体をすり抜けるように四散させた俺に突いてくるかのように、振り向いた残り二体の弱点を、その剣技で一気に薙いだ。彼らはもはやそれだけで散り、その青いポリゴンの先では、コペルが仕留め損なった残りの相手を丁度キリトが葬っていた所だった。

 

 俺は剣を背の鞘に仕舞い、丁度同じように剣を仕舞ったキリトの下へと歩み寄る。

 

「……キリト」

 

 お疲れさん、その一言が俺の喉の奥で詰まった。

 なぜならキリトはそこで何かに思いふけるかのようにじっと地面を見つめており、そこで死んだ青年の身体を彷彿とさせたのだから。

 

「……ああ。無事に終わったみたいだな。……終わった、んだよな」

 

 それでも俺の駆けた声に気付いたらしく、彼はこちらの方を向いた。

 

「……まあ、な」

 

 キリトは、俺の背にある剣へと目を向けた。

 この剣を通して、PKを狙った彼の姿を見ているのだろうか。

 

「その剣、貸してくれないか?……確かにアイツは俺を、俺たちを殺そうとしたんだ。けど、せめて、見送りぐらいはしてやりたい」

 

 正直に言えば、せっかく手にした剣だ。今からキリトのしようとしていることは分かる、だから手放すのはゲーム攻略的には馬鹿馬鹿しい行いだと思った。

 それでも俺は軽く頷いて、背の剣を抜いて、キリトに手渡した。

 彼はそれを近くの巨木の側に突き立てると、その側に実体化させた一つのアイテムを置いた。

 

「お前のだ、コペル――行こう」

 

 それだけで、キリトは踵を返して歩き出した。

 俺もその後に続いて、彼と一緒にこの先にあるであろう村――ホルンカに向けて一歩を踏み出す。

 俺たちの後ろでは、片手剣がこの世界での墓標のように、鋼色の光を夜の中に揺らめかせていた。

 

 

 

 




 そう言えば小説とアニメ見ながら書いてるんで偶然気付いたんですが、アニメ第一話でキリト君は《投擲》スキル使ってましたよね?でも小説八巻では《片手剣》と《索敵》使ってて、初期スロは二個という設定。……不思議ですよね。
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