神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

1 / 17
第1話 神々の嘲笑

 

 

——これは、かつて首都の片隅にあったボロ宿を、世界一の温泉街へと育て上げた男の物語である。

 

 

 

♦︎

 

「人生で一番安全な場所だと思っていた風呂で、俺は死んだ。」 

 

 仕事終わり。

 残業で終電を逃し、深夜三時になってやっと帰宅した俺、巻神(まきがみ)カイは、いつものように風呂に身を沈めていた。

 

「……はぁ。今日も死ぬほど働いたな」

 

 ブラック企業三年目。

 寝て起きて仕事、たまに飯。誰にも感謝されない毎日。

 それでも、この瞬間だけは心が軽くなる。風呂は俺の唯一の救いだった。

 

「いつか自分だけの最高の風呂を作れたらな…」

 

「って何言ってんだ俺は……」

 

「そもそも今の俺の働きって誰の役に立ってるんだろ……」

 

 半分溶けそうな思考で湯に沈んだ、そのとき――

 

 ──ドンッ!!

 

 玄関の扉が破裂したように吹き飛んだ。

 

「……え?」

 

「金を出せッ! 動くな!」

 

 濡れた足音を踏みつぶすように、マスクの男が包丁を構えて風呂場のドアを蹴破ってきた。

 

「いや、風呂入ってんだけど!? せめてノックくらい――」

 

 反射的にバスタオルを掴んで腰に巻く。

 全裸よりはマシだ。……たぶん。

 

「動くなって言ってんだろ!!」

 

 包丁が振り下ろされた。

 

 視界が暗転する。

 

(あ、死んだ。……マジか。風呂中に?)

 

 本当に、あっけなかった。

 

 

 ♦︎

 

 次に目を開けたとき。

 そこは金色の光柱がゆっくり脈打つ、荘厳な大広間だった。

 

「ようこそ、神々の間へ」

 

 玉座に座る男女の神々が、静かにこちらを見下ろしている。

 

「おぬしは亡くなった。……転生を許可する。この光の渦に手を入れよ。

 もし何かしらの“才”があれば、それに見合う神器が与えられる」

 

 驚きはあった。しかし、それ以上に胸が軽かった。

 

 ーー今度の人生は、惰性じゃなくて。

 ーー誰かの役にたつことも。

 

「……神器か。なら、強いやつで頼む!」

 

「それはおぬし次第だ。手を、光の渦へ」

 

 

 言われるままに渦へ手を入れる。

 温かい光が全身を包み──手の中に、柔らかい感触が落ちた。

 

「……これ、なんだ?」

 

 白い布。

 光沢のある、どこにでもある……バスタオル。

 

 その瞬間、目の前の神器管理画面に淡い文字が浮かぶ。

 

 《神器 布丸(ぬのまる)

 《ランク:下位神器》

 《スキル:形態変化》

 《能力:形態変化=手に触れている時に、形を自由に変えられる》

 

「……………………バスタオル?」

 

「ぷっ……!」「下位だぞ、下位!」「形態変化って、せいぜいマントか手ぬぐいだろ」

 

 ざわり、と神々から笑いが漏れる。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! 形態変化ってことは……剣とか、槍とか、すごい武器にもなるのかもしれないだろ!」

 

「なら、試してみよ。ほれ」

 

 ひょい、と神の一人が指を弾き、空中に一本の細い木枝が現れた。

 

「この枝を切ってみるがよい」

 

「よっしゃ!」

 

 布丸を握り、イメージする。

 剣になれ!

 

 ──その瞬間、タオルが光を帯びて形を変えた。

 細長く伸び、先が鋭くなっていく。

 

 

「うおぉぉっ……バシュッ。……あれ?」

 

 木枝に当たった瞬間。

 

 ぐにゃっ。

 

「柔らけぇぇぇぇ!!」

 

 

 ざわあああああっ。

 

 

「お前ら笑いすぎだぁぁぁ!!」

 

 思わず叫ぶ俺。その横で、一人の神が軽く親指を立てる。

 

「まぁ、なんとかなるじゃろ!」

 

「軽っ! 絶対テキトーだろお前!!」

 

 神々はますます笑い、大広間はどこか祭りのような空気になっていた。

 

 だが、ふと長老神の顔色が変わる。

 

「……そろそろ時間だ。転生を始める」

 

 その声だけは、真剣だった。

 

「神器って……進化とかするんだろ? ランクも上がるんだよな?」

 

 俺が祈るように問うと、長老神は静かに首を振った。

 

「スキルは成長することもある。しかしランクは変わらぬ。下位は下位のままじゃ」

 

「え、まじで……?」

 

 そして、長老神は声を低くする。

 

「カイ。おぬしが行く世界では、〝才〟のある者 

 は生まれながらに神器を持っている。ただ……この世界の“深層”には、まだ名もない闇が潜んでおる。我ら“外の者”には、もう見守ることしかできぬ……」

 

 広間の空気が重く沈む。神々全員が、その言葉に沈痛な影を落としていた。

 

「闇……?それってどういう……」そうカイが言いかけた時、光が足元から広がった。

 

「ちょ、待っ──うおおおおおっ!」

 

 転生の光が弾け──。

 

 

 次の瞬間。

 

 目の前に――牙をむいた狼のようなモンスターがいた。

 

「は? ちょっ……いきなり? これでどうすればいいんだよぉぉぉ!!」

 

 俺の悲鳴が森に響く。

 

 ♦︎

 

 ーー その頃、神々の間では ーー

 

「さて、そろそろ解散するかの」

 

 神々が帰り支度をしている中、一人の神が足を止めた。

 

「……ん? 今、画面が……?」

 

 画面の光が不規則に瞬き、ざらりと乱れ──。

 

 ーーその瞬間ーー

 

 ランク表示が、ゆっくりと書き換わる。

 

 《ランク:Stage 0》

 

 

 一瞬、空気が凍った。

 

「……は?」

 

「神器に“ステージ階層”なんて概念はないぞ?……神器のランク体系は“下位・中位・上位・聖位……それ以上のものも稀にあるが……」

 

「そんなもの、歴史上“存在したことがない”。」

 

 神の呟きが、誰にも届かぬまま——幕が上がる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。