神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第12話 7つの大陸、還らぬ力

 

 

「……待って」

 

 最初に動いたのは、リディアだった。

 

 叫びも混乱もひと呼吸で飲み込み、

 白銀の少女──シロを、食い入るように見つめる。

 

「人化……?」

 

 眼鏡をずらし、ぐっと距離を詰める。

 

「いや、待て。落ち着け私。

 でも……これは……」

 

「ち、近い近い!?」

 

 コットが一歩引く。

 

 シロはというと、よく分からないまま、また首を傾げた。

 

「……ピュ?」

 

 リディアはシロから離れると、戸棚から厚めの本を出して、早々とめくり始めた。

 

「……あぁ、やっぱり」

 

 リディアは、確信めいた声で頷いた。

 

「この子、アオラント大陸のモンスターじゃないね」

 

「え?」

 

 カイが思わず声を出す。

 

「どういうことだ?」

 

 リディアは、工房の壁に刻まれた地図を指した。

 

「この大陸──

 私たちがいる《アオラント大陸》はね」

 

 

「七つある大陸の“中心”だ。

 人が住みやすく、争いも比較的少ない。

 その代わり……世界としては、いちばん小さい」

 

「へぇ……」

 

 コットが素直に感心する。

 

「アオラント大陸を囲むように、六つの大陸がある。

 それぞれ、環境も文化も、生き物もまるで違う」

 

 リディアの視線が、再びシロへ戻る。

 

「そして──

 この子は、おそらくその中でも」

 

 一拍。

 

「《魔獣大陸ガルダーム》に関わりがあるのかもしれない」

 

 空気が、少しだけ重くなる。

 

「ま、魔獣大陸……?」

 

 コットがごくりと喉を鳴らす。

 

「聞いたことある……

 モンスターが支配してるって噂の……?」

 

「うん。噂じゃなく、事実に近い」

 

 リディアは苦笑した。

 

「人間の国がない。

 強いモンスターが、強いままに生きている大陸。7つある大陸の中でも、モンスターの数、種類が圧倒的に多いんだ。だから確率的にはガルダームに関係している可能性が1番高いと思う」

 

「そして、ガルダームには───」

 

「神器を喰らったモンスターがいる、って話もある」

 

「神器を食べたってこと!?」

 大きく丸いコットの目がさらに大きくなる。

 

「噂レベルの話だけどね。ちなみに──」

 

 考え込むように顎に手を当てたリディアが、さらりと言った。

 

「魔獣大陸や他の大陸へはね、

 各国の精鋭やギルドが定期的に向かっているよ」

 

「え、行けるんだ?」

 

 カイが身を乗り出す。

 

「うん、向こうでしか採れない素材や、

 その大陸でしか作れない道具があるからね。

 危険でも、挑む価値はある」

 

「それで──」 

 

「アオラント大陸は中心にある。

 だからこそ、大陸間貿易の中継地として機能してる」

 

「なるほど……」

 

 カイはゆっくり頷く。

 

「各大陸の素材が、ここに集まるんだな」

 

「そう。

 表に出回るのは一部だけどね」

 

 リディアは、ちらりと意味深な視線を向ける。

 

「“本物”は、だいたい裏で動く」

 

 その言葉に、カイの胸が少しだけ高鳴った。

 

(……行ってみたい)

 

 まだ見ぬ大陸。

 知らない素材。

 癒しの形も、きっと一つじゃない。

 

 ──もっと、知りたい。

 

 そんな気持ちが芽生えた、その時。

 

 コットが無意識に、シロの方を見る。

 

 白銀の少女は、悪びれもなく手を振った。

 

「ピュイ」

 

「……怖く見えないんだけどなぁ」

 

「見た目と中身が一致するとは限らないよ?」

 

 そう言いながらも、

 リディアの声に警戒よりも好奇心が勝っているのが分かる。

 

「でも、問題はそこじゃない」

 

 リディアは、顎に手を当てる。

 

「大陸間の移動は、限られたルートしか存在しない。

 それも、国や組織が管理しているものばかりだ」

 

「つまり……」

 

 カイが言葉を継ぐ。

 

「他の大陸から、どうやってこの大陸に来れたのか?」

 

「正解」

 

 リディアは、少し楽しそうに頷いた。

 

「偶然? 

 事故? 

 それとも──誰かの意図?」

 

 沈黙。

 

 カイは、無意識に布丸を握っていた。

 

「……なぁ」

 

 ふと、口を開く。

 

「この世界、思ってたより……広いんだな……」

 

 コットが、ぽんと手を叩いた。

 

「つまりさ!」

 

 二人を見る。

 

「世界には、まだまだ知らない“癒せる可能性”も、

 “美味しい素材”も、いっぱいあるってことだよね?」

 

「……君は本当にブレないね」

 

 リディアが吹き出した。

 

 カイは、小さく笑って、シロを見る。

 

「なぁ……

 お前、どこから来たんだ?」

 

 少女は、少しだけ考えるように首を傾げ──

 

「……ピュ」

 

 それだけ言って、

 カイの袖を、きゅっと掴んだ。

 

 答えは、まだ先。

 

 けれど──

 

 世界は、確実に広がり始めていた。

 

 ひとしきり話が落ち着いたあと、

 リディアはふと、当然のように口にした。

 

「それで──

 ソルテミアへは、キャラバンで行くんだろう?」

 

「うん! さすがリディア!」

 

 コットが即答する。

 

「……え?」

 

 そこで、カイだけが固まった。

 

「……キャラバン?」

 

「ほらね、やっぱり」

 

 リディアは肩をすくめて、くすっと笑う。

 

「ソルテミア行きなら、

 巡回キャラバンを使うのが一番安全だよ。

 

 コットが一歩前に出て、にやっと笑った。

 

「行ってからのお楽しみだよ、カイ」

 

「……お楽しみ?」

 

「うん。

 びっくりすると思う!」

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

 

 

 リディアはその様子を見て、楽しそうに目を細める。

 

 

「ソルテミアは、首都というだけあって情報も人も集まる場所だ。君たちの夢にとっても、悪くない」

 

「ありがとう、リディアさん」

 

 カイが頭を下げると、

 彼女は慌てて手を振った。

 

「いやいや! 

 わたしはただ、好奇心で動いてるだけだから!」

 

 そう言ってから、ふと背後を振り返る。

 

「……あ」

 

「?」

 

「……あれ?」

 

 工房の奥。

 

 さきほど途中まで組んでいた装置が、

 不穏な音を立てていた。

 

 キィィ……

 ボンッ……

 じわじわと、赤い光。

 

「……リディア?」

 

「えーっと……」

 

 額に汗を浮かべ、目を泳がせる。

 

「おかしいな……

 出力、ちゃんと抑えたはずなんだけど……」

 

 カイが嫌な予感に後ずさる。

 

「それ、爆発するやつじゃ……」

 

「だ、大丈夫! 

 たぶん、まだ──」

 

 バチンッ!! 

 

 青白い火花が散った。

 

「危ない!!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 コットが即座にカイの腕を引く。

 

「外! 外出よ!」

 

 三人が工房を飛び出した瞬間──

 

 ──ドンッ! 

 

 中から、軽めだが確かな爆発音。

 

 煙が、もくもくと窓から漏れ出す。

 

「…………」

 

 しばしの沈黙。

 

 工房の中から、

 リディアが顔を出した。

 

「……あはは」

 

 前髪が、ちりっと焦げている。

 

「失敗、失敗」

 

「リディア!!」

 

「だ、大丈夫だから! 

 ほら、建物は無事だし!」

 

 親指を立てるリディア。

 

 

 そうして、カイたちは工房を後にする。

 

 明日から始まる旅。

 

 キャラバン。

 

 ソルテミア。

 

 

 翌朝。

 

 キャラバン乗り場へ向かう道の途中で、

 一人の男が待っていた。

 

「──カイ」

 

 ベリオスだった。

 

「わざわざ……?」

 

「改めて、礼を言いに来た」

 

 深く、頭を下げる。

 

「セレンティアを救ってくれた。

 街を代表して──感謝する」

 

「そんな……」

 

 カイは慌てて手を振る。

 

「俺は、やれることをやっただけだ」

 

「それでもだ」

 

 ベリオスは顔を上げ、真っ直ぐに言った。

 

「お前は、この街の英雄だ」

 

「……行くんだな。ソルテミアへ」

 

「はい」

 

「なら──気をつけてな」

 

「ありがとう。ベリオスさん」

 

 

 カイ、コット、シロ、三人の背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。

 

 その様子を、ベリオスは静かに見送っていた。

 

 ふと──

 

 視線が、シロに留まる。

 

(……あんな子、街にいたか?)

 

 白銀の髪が、朝日にきらりと光る。

 

(いや……)

 

 胸の奥に、微かな引っかかり。

 

(──あの色)

 

 一瞬、脳裏をよぎった噂。

 

 白いモンスター。

 腐敗霧の奥で目撃された、異質な存在。

 

(……まさかな)

 

 ベリオスは、小さく首を振った。

 

「考えすぎだな」

 

 英雄と、その仲間。

 

 それだけの話だ。

 

 そう思いながら──

 ベリオスもその場をあとにした。 

 

 

 ♦︎

 一方その頃。

 

 とある一室にて、闇が軋んだ。

 

 湿った空気の奥で、黒い魔力が脈動する。

 

「……消えた?」

 

 低く、苛立ちを含んだ声。

 

 ガラクの眼前には、

 外周に不規則な棘を備えた黒鉄の輪が浮かんでいた。

 

 完全な円ではないその輪の内側──

 影そのもののような第二の輪が、静かに回転している。

 そして、その中心空間には、黒紋が刻まれていた。

 

 その異様な輪に、ガラクは指先で触れる。

 

「……おかしい」

 

 指が、空を掴む。

 

 本来、そこにあるはずの“感触”が、ない。

 

 デラパイゾンに施した鎖の契約。

 それは自らの力の一部であり、

 鎖を伝う信号によって──

 デラパイゾンが倒されたことは、すでに分かっていた。

 

 にもかかわらず。

 

「戻ってくるはずの俺の力が……なぜ?」

 

 信号が途絶えた、その直後。

 鎖そのものが──消失している。

 

 あり得ない。

 

 倒されれば、力は必ず還る。

 そのはずだった。

 

 次の瞬間。

 

 闇が、爆ぜた。

 

 ゴッ──と鈍い音を立て、床が沈む。

 輪の中央で、黒紋が狂ったように脈打った。

 

「消された……!? 奪われた……!?」

 

 怒号が、闇を裂く。

 

「この俺の力を……誰が……!」

 

 歯を食いしばり、

 抑えきれぬ殺気が、室内に溢れ出す。

 

 その時。

 

「──無様だな、ガラク」

 

 静かな声が、背後から響いた。

 

 振り返る。

 

 そこに立っていたのは、

 黒衣を纏った男──フェルド。

 

 その魔力は、

 ガラクと同等、あるいはそれ以上。

 

「……フェルド」

 

「何かへまをしたんだろう」

 

 そして、淡々と告げる。

 

「玉座から、集合の合図が出た」

 

 その言葉に──

 闇が、一瞬だけ凍りついた。

 

「……玉座から?」

 

「ああ」

 

 フェルドの視線が、遥か彼方を射抜く。

 

「俺たちの知らないところで“想定外”の何かが動き始めている」

 

 ガラクは、ゆっくりと拳を握った。

 

「……なら、行くしかねぇな」

 

 低く、獣のように笑う。

 

「俺の力を奪った“何か”

 必ず、引きずり出してやる」

 

 闇が、静かに閉じていく。

 

 

 

 第13話へ続く。

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態/魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

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