神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第14話 首都ソルテミア王国と八耀守

 

 ──それは、街というより要塞だった。

 

「……すご……ここが……首都、ソルテミア王国」

 

 思わず、カイは声を漏らす。

 

 視界いっぱいに広がるのは、白と蒼を基調にした巨大な都市。

 高い城壁、その上を覆うように──薄い膜が、空気を歪ませていた。

 

 光のヴェールのようなそれは、近づくほどに存在感を増す。

 

「ね? あれ」

 

 コットが指を差す。

 

「首都防衛の結界だよ。

 神器の力で張られてるって言われてる」

 

「……神器で、首都全体を?」

 

 カイは目を見開いた。

 

 その横で、シロ──

 人化した姿のまま、白銀の髪を揺らしながら結界を見上げていた。

 

 

 門前は、想像以上に混雑していた。

 

 商人、冒険者、巡礼者。

 そして──検問。

 

「次の方!」

 

 金属音と共に、列が少しずつ進む。

 

 カイたちの前で、ひと悶着が起きていた。

 

「だから! 仕事で必要なんだ!」

「分かりますが……」

 

 声を荒げる男の足元には、檻。

 中には、角を持つ獣型モンスターが伏せている。

 

「この子は大人しい! 運搬用で──」

「申し訳ありません。

 現在、モンスターの入国は全面禁止です」

 

 検問官の声は硬い。

 

「アビス化、黒紋体の発現──

 万が一を考えれば、通せません」

 

 男は歯噛みしながらも、引き下がるしかなかった。

 

「……厳しいな」

「今は特に、だね」

 

 コットが小さく頷く。

 

「私たちは、あっち」

 

 そう言って、別の列を指す。

 

「神器検査場に回される」

 

「検査……?」

 

 嫌な予感が、胸をかすめる。

 

「神器所持者、こちらへ」

 

 簡易的な検査場。

 リディアの工房にあった精密機とは違い、

 台座と結晶柱だけの、簡素な装置だ。

 

 検査官は、慎重な目つきで言った。

 

「現在、闇属性反応には特に警戒しています」

 

 カイは、布丸を握る。

 

(……闇は、吸った。でも……)

 

「次。神器を置いてください」

 

 指示に従い、布丸を台座に置いた──その瞬間。

 

 カッ──

 

 一瞬だけ。

 

 結晶柱が、眩いほどの光を放った。

 

「……!?」

 

 検査官が、目を見開く。

 

 周囲がざわつく。

 

「光属性……?」

「いや、違う……」

 

 検査官は、結晶の数値を確認し、眉をひそめた。

 

「闇反応……ゼロ」

「それどころか……」

 

 もう一度、布丸を見る。

 

「……非常に澄んだ波形だ」

 

 不思議そうに、しかし警戒は解けた。

 

「問題ありません。通行を許可します」

 

 カイは、内心で息を吐いた。

 

「よかった……」

 

 神器検査を終え、通行証の刻印を受けたカイたちは、門をくぐる直前まで進んだ。

 

「次、三名」

 

 通行管理者が、淡々と視線を走らせる。

 

 カイ。

 コット。

 

 そして──シロ。

 

 その視線が、一瞬だけ、止まった。

 

「……ちょっと待て」

 

 空気が、ぴしりと張りつめる。

 

「え?」

 

 コットの声が裏返る。

 カイの心臓が、どくりと跳ねた。

 

 シロは、きょとんとした顔で立っている。

 白銀の髪。

 透けるように白い肌。

 

 管理者は一歩近づき、首をかしげた。

 

「……顔色が、やけに白いな」

 

「えっ」

 

 コットが思わず前に出る。

 

「だ、大丈夫です! この子、もともと色が白くて……」

 

 カイも、できるだけ平静を装う。

 

「……体調は悪くないか?」

 

 問いかけられ、シロは一瞬だけ戸惑い──

 それから、小さく頷いた。

 

 管理者は、じっと観察するように見つめてから、ふうっと息を吐いた。

 

「そうか。

 最近は寝不足や疲れで、倒れる者も多い」

 

 そして、少しだけ声を落とす。

 

「首都は人が多い。

 無理をするな」

 

 シロは、ぺこりと頭を下げた。

 

 管理者は視線を戻し、板を打ち鳴らす。

 

「通行、問題なし」

 

 ──解放。

 

 門の内側へ一歩踏み出した瞬間。

 

「……はぁ……」

 

 コットが、思い切り息を吐いた。

 

「ちょ、ちょっと心臓止まるかと思った……!」

 

「……だな」

 

 カイも苦笑する。

 

 シロは、少し申し訳なさそうに二人を見る。

「ピュイ……」

 

「いいのいいの!」

 コットが、ぱっと笑った。

 

「むしろ守ってあげたくなるって言われるくらい、色白ってこと!」

 

「……ピュ?」

 

 意味はよく分からないが、悪いことではなさそうだと察し、シロは首を傾げる。

 

 こうして──

 

 誰にも正体を疑われることなく、

 三人は無事、ソルテミア王国へと足を踏み入れた。

 

 門を抜けた瞬間──

 空気が変わった。

 

「……すご……」

 

 思わず、カイの口から声が漏れる。

 

 石畳の道はどこまでも整えられ、行き交う人々の装いは多種多様だ。

 鎧姿の兵、魔導書を抱えた研究者、商人、旅人。

 それぞれが違う目的を持ちながら、同じ“中心”へ向かって流れている。

 

 カイは、自然と視線を北へ向けた。

 

 街の奥──

 青白く輝く巨大な城郭が、空を切り取るようにそびえ立っている。

 

「あれが……ソルテミア王城!」

 コットが誇らしげに言う。

 

 白銀に近い石材で築かれた王城は、淡く光を放ち、

 まるで月光そのものを固めたかのようだ。

 

 防壁には幾重もの魔法陣が刻まれ、

 遠目にも分かるほどの魔力の流れが、城を包んでいる。

 

「きれい……だけど、近寄りがたいな」

 

「防衛結界が常時稼働してるからね」

 コットが肩をすくめる。

 

 次に、視線は街の中央へ。

 

 そこには──

 巨大な円筒状の施設が鎮座していた。

 

 金属と魔石で組み上げられた外殻。

 管のような構造が蜘蛛の巣のように街中へ伸びている。

 

 

「……あれ、タンク?」

 

「うん。

 魔力発電機」

 

 さらりと、コットが言った。

 

「街全体の照明、工房の稼働──

 ほとんど、あそこ一基で賄ってるの」

 

「そんなのが……一つで?」

 

 カイは、思わず唾を飲み込む。

 

 魔力が“個人の力”ではなく、

 都市の基盤として使われている。

 

 その事実に、異世界に来たのだと、改めて実感させられる。

 

 そして──

 南。

 

 カイは、思わず立ち止まった。

 

「……あれは……船?」

 

 街の南端。

 巨大な桟橋の向こう、空に浮かぶ影。

 

 帆ではない。

 翼でもない。

 

 船体そのものが、空に浮かんでいる。

 

 船腹には魔導紋が走り、淡い光を噴き上げながら、ゆっくりと高度を調整していた。

 

「空界巡航船だよ」

 

 コットの声が、少しだけ弾む。

 

「大陸間を移動できる、数少ない手段の一つ」

 

「……空で、他の大陸へ……」

 

 カイは、言葉を失う。

 

 北に王城。

 中央に魔力の心臓。

 南に、大陸を越える船。

 

 ──ここは、ただの街じゃない。

 

「ソルテミア王国はね」

 コットが言う。

 

「この世界の“交差点”なんだ」

 

 人も、物も、情報も。

 そして──運命さえも。

 

 カイは、無意識に布丸へと手を伸ばした。

 

 この街で、

 何かが動き出す。

 

 そんな予感だけが、胸の奥で静かに膨らんでいった。

 

 

 しばらく歩いていると、街の喧騒が、ふっと薄れた。

 

 理由はすぐに分かった。

 

 ──人の流れが、自然と道の端へ寄っていく。

 

「……?」

 

 カイが首を傾げた、その時。

 

 石畳を踏む、揃った足音が聞こえてきた。

 

 重くない。だが、軽すぎもしない。

 無駄のない、研ぎ澄まされた歩調。

 

 現れたのは、五人。

 

 全員が軽装だが、鎧の継ぎ目や布の締め方が、明らかに“慣れている”。

 

 刃を隠す者。

 風を纏うような魔導装備を身につける者。

 視線だけで周囲を制圧している者。

 

「……強そうだ」

 

 カイが思わず呟く。

 

 コットが、声を潜めた。

 

「八耀守だよ」

 

「……はち、ようしゅ?」

 

「ソルテミア王国の最高戦力。

 八つの部隊があって、それぞれ特徴があるの」

 

 その瞬間、カイは気づいた。

 

 彼らの肩──

 外套の留め具に、同じ意匠の紋章が刻まれている。

 

 円環の中に、走る翠銀色の7本の剣。

 

 

「第七耀《迅風隊》」

 

 コットが、少しだけ誇らしげに言う。

 

「高速展開と殲滅を得意とする部隊。

 索敵、奇襲、追撃……全部、あの人たちの領分」

 

 五人は、並んで歩いているわけじゃない。

 

 互いに微妙な距離を保ち、死角を潰す配置。

 

 視線は散っているのに、

 意識は一つにまとまっているのが、素人目にも分かった。

 

「……でも、七なんだな」

 

 カイがそう言うと、コットは頷く。

 

「うん。

 八耀守はね──」

 

 指を折って説明する。

 

「数字が小さいほど、部隊としての総合力が高いって言われてる」

 

「……じゃあ」

 

「一耀、二耀は、もう別格」

 

 迅風隊の一人が、ふと、足を止めかけた。

 

 いや──

 止めたように、見えただけかもしれない。

 

 先頭を歩く人物。

 

 他の隊員より、わずかに背が高く、

 風を思わせるマントを肩にかけた人物。

 

 ──隊長。

 

 その視線が、一瞬だけ。

 

 まっすぐ、カイの方を向いた。

 

 ほんの刹那。

 

 だが、空気が張りつめたのが分かった。

 

 次の瞬間、何事もなかったかのように視線は逸れ、

 迅風隊はそのまま通り過ぎていく。

 

 風が抜けた後のような、静けさ。

 

「……今の」

 

 カイが、無意識に息を吐く。

 

「見られてた?」

 

 カイが、そんなことを感じた矢先、

 

「あーっ!」

 

 背後から、やけに間の抜けた声が響いた。

 

「……?」

 

 振り返ると、コットが両手でポケットを探っている。

 

「ど、どうした?」

 

「……ない」

 

「何が?」

 

 コットは、青ざめた顔で顔を上げた。

 

「財布」

 

「…………」

 

「財布が……ない……!」

 

 沈黙。

 

 カイの脳裏に、いくつかの言葉が浮かんでは消える。

 

「……それって」

 

 恐る恐る、確認する。

 

「金は?」

 

 コットは、にこっと笑った。

 

 ──笑ってから、舌をぺろっと出した。

 

「てへ!」

 

「てへ、じゃない!」

 

 思わず声が裏返る。

 

「え、ちょ、待て。

 今この街、物価高いんだろ!? 

 宿は!? 飯は!?」

 

「……」

 

 コットは、空を見上げた。

 

「……野宿?」

 

「うそだろ!?」

「ピュイ!?」

 

 さっきまでの、

 迅風隊だの、八耀守だの、見られている気配だの──

 

 全部、一気に吹き飛んだ。

 

 コットは、胸を張る。

 

「だ、大丈夫だよ! 

 なんとかなるって!」

 

「ならない可能性の方が高い!」

 

 カイは、遠い目をした。

 

 ──この街、来たばかりなんだけど。

 

 ──英雄扱い、されたばかりなんだけど。

 

 ──癒しの場所を作るために、ここにきたんだけど。

 

 まさかの所持金ゼロスタート。

 

 さっそくピンチ!? 

 

 そんなナレーションが、

 聞こえた気がした。

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

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