神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第15話 王城会議── 円卓に落ちた“闇の名”

 

 ──所持金ゼロ。

 

 その事実を、三人はしばらく噛み締めていた。

 

「……なあ」

 

 沈黙を破ったのは、カイだった。

 

「このままじゃ、ほんとに野宿だぞ」

 

「うん」

 

 コットは素直に頷く。

 

「……それは、やだ」

 

 その瞬間、コットの脳裏に、ひとつの場所が浮かんだ。

 

「……冒険者連盟」

 

「え?」

 

「ソルテミア支部があったはず! 

 クエストを受ければ、すぐお金になる!」

 

 一拍。

 

 そして──

 

「それだ!!」

 

 カイが、ぱんっと手を叩いた。

 

 こうして三人は、

 街の中心部にある冒険者連盟ソルテミア支部へと向かった。

 

 ♦︎

 

 連盟支部の中は、想像以上に賑わっていた。

 

 鎧姿の男たち。

 杖を抱えた魔術師。

 掲示板の前で腕を組む熟練者たち。

 

「……すごい」

 

 カイは、思わず息を呑む。

 

「ここが、冒険者の本拠地か……」

 

「まずは受付だよ!」

 

 コットに背中を押され、

 カイはカウンターへ向かった。

 

 受付にいたのは、

 きっちりした制服を着た女性──受付嬢だった。

 

「いらっしゃいませ。

 冒険者連盟ソルテミア支部です。

 ご用件は?」

 

「えっと……クエスト、受けたいんですけど」

 

「初めてのご利用ですか?」

 

「はい」

 

 受付嬢は、にこやかに頷く。

 

「でしたら、まずはランク登録からですね」

 

 そう言って示されたのは、掲示板の区分だった。

 

 ──ビギナー

 ──ブロンズ

 ──シルバー

 ──ゴールド

 ──プラチナ

 

「冒険者ランクは、この五段階に分かれています」

 

 

 受付嬢は、指先で一番下を示す。

 

「初めての方は、全員ビギナーから。

 いくつかクエストを達成し、条件を満たすことで、

 上位ランクのクエストが閲覧・受注可能になります」

 

「なるほど……」

 

 討伐、採取、配達、雑務。

 

 初心者向けには、

 危険度の低い依頼が用意されているらしい。

 

 カイは頷きながら、視線を上へ──

 

 その時だった。

 

「……あ」

 

 掲示板の一角。

 新着と書かれた札の下に、ひときわ目を引く依頼が貼られていた。

 

 ──シルバーランク。

 

「これ……報酬、桁違いじゃないか?」

 

 思わず声が漏れる。

 

「シルバー!?」

「……すごい」

 

 コットとシロも覗き込む。

 

「これなら、宿代どころか、

 一気に余裕できるんじゃ……?」

 

 カイは、受付嬢を見る。

 

「これ、受けられませんか?」

 

 だが。

 

 受付嬢は、申し訳なさそうに首を振った。

 

「申し訳ありません。

 現在のランクでは、シルバーランクのクエストは受注できません」

 

「……ですよね」

 

「はい。

 原則として、ランク要件を満たしていない場合は受けられないんです」

 

 原則として。

 

 その言葉が、妙に引っかかった。

 

「ちなみに……」

 

 カイは、少しだけ前のめりになる。

 

「ゴールドとプラチナって?」

 

 受付嬢は、一瞬だけ声を落とす。

 

「その二つは、

 特定の実績を持つ方のみが閲覧できます。

 この支部でも、目にできる方は限られていますね」

 

 ──選ばれた者だけ。

 

 

「ま、まずはビギナーだね!」

 

 コットが、明るく背中を叩く。

 

「地道にいこ! 

 ね、カイ」

 

「ああ……そうだな」

 

 シロも、小さく頷いた。

 

「……ピュイ!」

 

「まずは、こちらがおすすめです」

 

 そう言って差し出されたのは、

 雑務のクエスト札。

 

 カイは、それを受け取った。

 

「……これなら、いけそうだな」

 

「うん、まずは堅実にいこ!」

 

 シロも、小さく頷く。

 

 

 ──こうして。

 

 無一文から始まったソルテミア生活は、

 思いのほか、あっさり動き出した。

 

 ♦︎

 

 ソルテミア王城、円卓の間。

 

 蒼白の魔導灯が静かに灯る中、重厚な扉が閉じられた。

 

「──全員、揃ったな」

 

 凛とした声で告げたのは、第七耀《迅風隊》隊長、シグだった。

 

「定例会を始める」

 

 その言葉に、場の空気が引き締まる。

 

 円卓には、ソルテミア王国の中枢を担う者たちが集っていた。

 

 その中心には、現国王──カロナス王。

 深い皺の刻まれた顔には、老獪さと威厳が同居している。

 

 その傍らには王を支えるギリアム補佐官。

 

 そして八耀守の隊長たち。

 

 第八耀《巡察隊》のミーナは、まだ若く、隊長に就任したばかりということもあって、背筋をぴんと伸ばして緊張を隠しきれない。

 隣の第六耀《鉄衛隊》、ドワーフのガルムは、腕を組み、岩のように動かない。

 

 第五耀《牙狼隊》、狼獣人のラグは椅子に深く腰掛け、尾を揺らしながら不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。

 

 第四耀《紅蓮隊》、レオンハルトは、変わらず端正な姿勢で静かに座している。

 

 シグは一瞬、空いている席に視線を向けた。

 

「……第二耀、第三耀は任務で不在」

 

 わずかに眉をひそめる。

 

「第一耀も欠席だ」

 

 ラグが鼻で笑った。

 

「またかよ。

 相変わらず自由な野郎だな」

 

「……彼はそういう男だ」

 

 シグはそれ以上言及せず、話を切り替えた。

 

「では、報告に入る。

 第五耀、ラグ」

 

 ラグはぐっと前に身を乗り出す。

 

「首都近郊、第三防衛線外縁で黒紋モンスターを討伐した」

 

 その一言で、場がざわりとする。

 

「見た目は獣型だったが──普通じゃねぇ」

 

 鋭い爪で、空中に線を引く。

 

「明らかに異形体。そして身体の胸部に、鎖みたいなオーラを纏ってやがった」

 

「鎖……?」

 

 ミーナが思わず声を漏らす。

 

「物理的なものか?」

 

 シグの問いに、ラグは首を横に振った。

 

「いや。

 斬った感触はあるが、実体が曖昧だ。

 魔力の塊……いや、“縛ってる”感じが近い」

 

 ガルムが低く唸る。

 

「拘束系の呪縛か」

 

「俺が仕留めた瞬間──」

 

 ラグは、ぎゅっと拳を握った。

 

「その鎖は、霧みたいに消えた。

 ……まるで、回収されるみてぇにな」

 

 沈黙。

 

 シグが口を開く。

 

「操られていた可能性は?」

 

「否定はできねぇ」

 

 その言葉を受け、カロナス王が静かに口を開いた。

 

「……もし、黒紋体のモンスターを遠隔で操る者がいるとすれば」

 

 王の視線が一人ひとりを見渡す。

 

「それができるのは──黒天王廷(こくてんおうてい)の者だろう」

 

「……!」

 

 ミーナが目を見開いた。

 

「こ、黒天王廷……?」

 

 その反応に、ギリアム補佐官が静かに補足する。

 

「闇の力をもつ者たちが集った組織。

 詳細な構成や人数は不明です」

 

 ギリアムは一度言葉を切り、重い表情で続けた。

 

「以前、第三耀の隊員たちが、アビス化した神器の使い手と交戦しました」

 

「戦いの末、相手を追い詰めることには成功したのですが……」

 

 ギリアムの眉間に、わずかに皺が寄る。

 

「あと一歩というところで、逃げられてしまったようです」

 

「そして──」

 

 ギリアムの声が低くなる。

 

「その時、敵の男が口にしていた名が……黒天王廷です」

 

 カロナス王は、ゆっくりと頷いた。

 

「目的は未だ掴めぬ」

 

 そして、重く告げる。

 

「だが──

 世界を崩そうとしているのは、間違いない」

 

 魔導灯が、かすかに揺れた。

 

 重い沈黙を破ったのは、第四耀《紅蓮隊》隊長──レオンハルトだった。

 

「……私からも、報告があります」

 

 穏やかな口調だが、その声音はいつになく硬い。

 

「先日、首都外縁で黒天王廷の一人と思われる者と交戦しました」

 

 円卓の視線が一斉に集まる。

 

「相手は黒鱗魔人族(こくりんまじんぞく)

 噂通りの黒い尾を持ち、右目には深い切り傷がありました」

 

 ミーナが息を呑む。

 

「その者は、自らを──

 黒天七座の一人と名乗りました」

 

 ざわり、と空気が震えた。

 

 レオンハルトは、手袋をはめた指を見つめるようにして続ける。

 

「指には、欠けた六芒星。

 その中央に、歪な“4”と刻まれた指輪を嵌めていました」

 

「序列、か……」

 

 シグが低く呟く。

 

「交戦結果は?」

 

 カロナス王の問いに、レオンハルトは一瞬、目を伏せた。

 

「……敗北です」

 

 静かな断言。

 

「圧倒的な魔力でした。

 紅蓮隊は壊滅寸前となり、撤退を余儀なくされました」

 

 だが、その瞳に諦めの色はない。

 

「それでも、生きて戻れた。

 だから──次は負けません」

 

 その言葉に、円卓の誰もが否定しなかった。

 

 ガルムが、腕を組んだまま口を開く。

 

「黒天七座……

 名の通りなら、王廷の幹部格だろう」

 

 低く、重たい声。

 

「もし我ら八耀守と同じく順列制ならば──

 “四”より上が、少なくとも三人はおる」

 

「……つまり」

 

 ミーナが喉を鳴らす。

 

「もっと、強い敵が……?」

 

「そういうことだ」

 

 ガルムは頷いた。

 

「そして、おそらくその頂点に立つのが──

 天闇(カミサビ)の神器の使い手にして、黒天王廷の王」

 

「……天闇の神器?」

 

 ミーナが小さく呟いた。

 

「天闇の神器って……あの、古族伝承詩(フォークロア)に時々出てくる……?」

 

 ガルムが静かに頷く。

 

「そうだ」

 

「強大な闇の力を操る神器。

 そして──闇の眷属を生み出し、世界を滅ぼす力を持つと伝えられている」

 

 ミーナの顔から、わずかに血の気が引いた。

 

 そんなものが、もし本当に存在するのなら──。

 

「そんな神器を操るなんて……」

 

「その黒天王廷の王とは……いったい何者なんですか?」

 

 カロナス王は、ゆっくりと目を閉じた。

 

「目処は、ついておる」

 

 静かな声が、過去を呼び起こす。

 

「わしが生まれる、三十年ほど前の話だ」

 

 円卓に、言葉が落ちる。

 

「その者はこの国の出身。

 ソルテミア始まって以来──

 最も武に長けた者だったと」

 

 レオンハルトの背筋が、わずかに強張る。

 

「だが、ある時を境に……

 闇に落ち、天闇の神器を発現させたと聞く」

 

 王は、はっきりと告げた。

 

 

 

「名は──────ルシフェル」

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

「……まだ、生きているのですか?」

 

 ミーナの声は、かすれていた。

 

「おそらくな」

 

 王は目を開ける。

 

「天闇の神器の力は、計り知れぬ。

 寿命すら、意味をなさぬ可能性がある」

 

 レオンハルトが、深く息を吸った。

 

「我らは、首都だけを見ていてはならない」

 

 紅蓮隊長の声は、静かだが確信に満ちていた。

 

「王国全域──

 いえ、大陸全体に意識を向けるべきです」

 

 カロナス王は、しばし沈黙した後、頷いた。

 

「……その通りだ」

 

 

「本日の会議は、ここまでとする」

 

 魔導灯が、再び静かな光を取り戻していた。

 

 ♦︎

 

 一方その頃──

 カイたち三人は。

 

 いくつかのビギナークエストをこなし、

 空が西へ傾き始めた頃。

 

 三人は、再び冒険者連盟ソルテミア支部のカウンター前に立っていた。

 

「はぁ……」

 

 カイは、半ば体重を預けるようにカウンターにもたれかかる。

 

「今日のクエスト完了報酬、受け取りに来ました」

 

「はい、確認しますねー」

 

 受付嬢が魔道端末を操作し──

 次の瞬間、指が止まった。

 

「あ……」

 

 その一音で、嫌な予感が胸をよぎる。

 

「申し訳ありません。

 現在、報酬管理システムに不具合が発生しておりまして……」

 

「……え?」

 

「出金処理に、およそ三日ほどかかる見込みです」

 

「三日!?」

 

 コットの声が、支部内に響いた。

 

「はい……。

 報酬は必ず支払われますが、本日はお渡しできず……」

 

 受付嬢は、深く頭を下げる。

 

 沈黙。

 

 カイの脳裏に浮かぶのは──

 宿代、食事、そして野宿。

 

「……わかりました」

 

 カイは、なんとか笑顔を作る。

 

「三日後、また来ます」

 

 

 支部を出た瞬間。

 

「……つかれたぁぁ……」

 

 コットが道端にしゃがみ込み、力なく声を漏らす。

 

「……もうヘトヘト……」

 

「……ピュイ〜」

 

 シロも、肩を落とした。

 

 夕暮れのソルテミアは、息を呑むほど美しい。

 石畳に反射する橙色の光、遠くに灯り始めた街の明かり。

 

 だが今の三人には、

 その煌めきがやけに遠く感じられた。

 

「このままだと……」

 

 カイは空を見上げる。

 

「ほんとに、野宿かもな」

 

 その時──

 

「──宿を、お探しですか?」

 

 澄んだ声が、背後から届いた。

 

「……?」

 

 振り返ったカイの視界に映ったのは、

 長い黒髪を背に流し、

 この街では珍しい、和装にも似た衣を纏った女性。

 

 年の頃は、カイと同じくらい。

 落ち着いた佇まいで、柔らかく微笑んでいた。

 

「もし、よろしければ……」

 

 夕焼けの中で、彼女は静かに言う。

 

「わたくしの宿に、いらっしゃいませんか?」

 

「……え?」

 

 コットが目を丸くし、

 シロが不思議そうに首を傾げる。

 

 沈みかけていた一日の終わりに、

 ふいに差し込んだ、小さな希望。

 

 

 そう、まさにこの出会いこそが──

 

 後にカイが、“温泉宿の主人”として、この世界で生きていく、すべての始まりだった。

 

 

 第16話へ続く。

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

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