神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

19 / 19
第19話 “迅風隊”隊長シグ

 

 カイたちは足早に冒険者連盟へ駆け込むと、そのまま受付カウンターへ向かった。

 

「あら、皆さん」

 

 受付嬢はカイたちの姿を見ると、柔らかく微笑む。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか? 申し訳ないのですが、お金の件については復旧まであと2日ほど──」

 

「あ、違うんです!」

 

 カイは慌てて両手を振った。

 

「今日は別の用件で」

 

「あ、失礼しました」

 

 受付嬢は少し恥ずかしそうに笑う。

 

 カイは掲示板へ目を向けた。

 

 あの日見たシルバーランクの依頼は、まだそこに貼られていた。

 

 カイはその依頼書を指差した。

 

「このクエストについて、聞きたいことがあるんです」

 

 受付嬢はそのシルバークエストに目を向け、その表情をわずかに曇らせる。

 

「……シルバーランクの依頼、ですね」

 

「はい」

 

「申し訳ありません」

 

 受付嬢は静かに首を横へ振った。

 

「現在、皆さんはまだビギナーランクなんです。ですので、シルバーランクの依頼は受注できないんです」

 

 コットはぐっと拳を握る。

 

「お願いします! 一度だけでも受けさせてください!」

 

「私もお力になりたいのですが、規則ですので……」

 

 受付嬢も申し訳なさそうに眉を下げる。

 

「ピュイ! ピュイー!」

 

 シロも両手をぶんぶん振りながら一生懸命訴える。

 

 胸を叩き、自分たちなら大丈夫だと言いたいのだろう。

 

 しかし、その必死な姿にも受付嬢は困ったように笑うしかなかった。

 

「ごめんなさい。規則を曲げることは……」

 

 その様子を見ていたカイが、一歩前へ出る。

 

「一つ、聞いてもいいですか」

 

「はい?」

 

「以前、あなたは言いましたよね」

 

 カイは受付嬢を真っ直ぐ見つめる。

 

「『原則として』ランク要件を満たしていない場合は受注できない、と」

 

 受付嬢の表情がぴくりと動く。

 

「その”原則として”という言葉が、ずっと気になっていました」

 

「そ、それは……」

 

 受付嬢は言葉を詰まらせる。

 

 視線が揺れ、何かを言おうとしては飲み込む。

 

「えっと……その……」

 

 口を開きかけた、その時だった。

 

 ──コツ。

 

 静かな足音が響く。

 

 ──コツ、コツ。

 

 ゆっくりと、一人の男がこちらへ歩いてくる。

 

 その姿を見た受付嬢の目が、大きく見開かれた。

 

「あ……あなたは……!」

 

 驚きと緊張が入り混じった声が、受付に響く。

 

 カイたちは同時に振り返る。

 

 そこに立っていたのは──。

 

 

 翠色のマントを羽織った、一人の男だった。

 

 茶色の髪を後ろで一つに束ねた三十代前半ほどの男。

 

 端正な顔立ちには感情の揺らぎはほとんどなく、その涼しげな眼差しには近寄り難い威厳が宿っていた。 

 

 腰には、一振りの剣。

 

 ……だが、その剣には刀身がない。

 

 あるのは柄だけ。

 

 柄には翠色の水晶のような宝石が埋め込まれ、その先の空間だけが陽炎のようにわずかに歪んでいる。

 

 まるで、誰にも見えない刃がそこに存在しているかのようだった。

 

 男は何事もないように歩を進める。

 

 男が歩くたび、談笑していた冒険者たちの声が途切れる。

 

 誰に言われるでもなく、人々は静かに道を開けていった。

 

 受付嬢が慌てて姿勢を正す。

 

「迅風隊隊長、シグ様!」

 

 その声に、周囲の冒険者たちが一斉に振り向く。

 

「迅風隊……」

 

「まさか、第七耀の……?」

 

 ざわめきが広がる。

 

 コットが思わず息を呑んだ。

 

「八耀守……」

 

 ソルテミア王国最高戦力──八耀守。

 

 その中でも、第七耀『迅風隊』を率いる隊長シグが、今まさに目の前に立っていた。

 

 シグは受付嬢へ静かに視線を向ける。

 

「ランクを満たさぬ者がシルバーランクの依頼を受けるには、八耀守の隊長、あるいは副隊長の認可証が必要だ」

 

 渋みを宿した声が、静かに響く。

 

「もっとも、俺たちも日々の任務に追われている。全員を見て回る余裕はない」

 

 受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……はい。そのため、お伝えできませんでした」

 

「責めてはいない」

 

 シグは短く答える。

 

「俺たちを気遣っての判断だろう」

 

 そう言うと、ゆっくりとカイへ向き直る。

 

「話は聞かせてもらった」

 

 鋭い視線がカイを射抜いた。

 

「貴殿、名は」

 

「巻神カイです」

 

「巻神カイか」

 

 シグの視線が首元へ落ちる。

 

 白いバスタオル──布丸。

 

「その白い布……神器だな」

 

 一瞬、空気が止まった。

 

「えぇ──っ!?」

 

 真っ先に声を上げたのはシアだった。

 

「カイさんのタオルって神器だったんですか!?」

 

 目を丸くして布丸を見つめる。

 

「わたくし……てっきり、お風呂がお好きだから首に掛けているのかと……」

 

「やっぱりそう思うよな!」

 

 カイは思わず頭を抱えた。

 

 コットが慌てて前へ飛び出す。

 

「み、見た目はあれだけど、カイの神器は本当にすごい神器なんだよ!」

 

 何とも言えないフォローに、思わず受付嬢まで苦笑する。

 

 だがシグだけは真剣な眼差しを崩さなかった。

 

「……だろうな」

 

「「えっ?」」

 

 カイとコットの声が重なった。

 

「な、なんで分かるんですか?」

 

 シグは布丸から目を離さず、小さく口元を緩める。

 

「確証はない」

 

「だが──そんな”気”がした」

 

 その一言に、カイは思わず息を呑む。

 

 シグは今度はシロへ視線を向ける。

 

 その眼差しは鋭い。

 

「それと……」

 

「貴殿も、ただの人間ではないな」

 

「ピュイ……」

 

 シロはびくりと肩を震わせ、カイの後ろへ隠れる。

 

 警戒するように小さく唸った。

 

 シグはそれ以上追及しない。

 

「……事情があるのだろう」

 

 それだけ呟く。

 

 その様子を見たコットは、はっと息を呑んだ。

 

(この人……もしかして……)

 

 

 シグは再びカイを見据える。

 

「巻神カイ」

 

「貴殿の神器に興味がある」

 

 静かな声だった。

 

 だが、その一言には確かな重みがあった。

 

「認可証を出す以上、実力を見極めねばならん」

 

 一拍置く。

 

「俺との一騎打ち」

 

「え!?」

 

 一瞬、カイの思考が止まった。

 

「もし俺を認めさせることができたら、そのシルバーランクの依頼の受注を認めよう」

 

 思いもよらぬ提案だった。

 

 カイ、コット、シア、シロは互いに顔を見合わせる。

 

 八耀守、第七耀。

 

 ソルテミア王国最高戦力の一角。

 

 そんな相手と戦うなど、想像すらしていなかった。

 

 しかし、カイは一歩前へ踏み出す。

 

 シグの目を真っ直ぐ見つめる。

 

「……お願いします」

 

 その瞳に迷いはなかった。

 

 シグは小さく頷く。

 

「決まりだな」

 

「場所は──ソルテミア王立大闘技場」

 

 シグはそれだけ告げると踵を返した。

 

「ついてこい」

 

 振り返ることなく歩き出すジグ。

 

 その背中は、決して大きくはない。

 

 それでも、誰よりも遠く、高く見えた。

 

 カイは布丸をそっと握り締める。

 

 ──王国最高戦力の一角を相手に、自分の力はどこまで通用するのか。

 

 その答えが、もうすぐ明らかになる。

 

 第20話へ続く。

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。