神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー 作:maiboo
カイたちは足早に冒険者連盟へ駆け込むと、そのまま受付カウンターへ向かった。
「あら、皆さん」
受付嬢はカイたちの姿を見ると、柔らかく微笑む。
「本日はどのようなご用件でしょうか? 申し訳ないのですが、お金の件については復旧まであと2日ほど──」
「あ、違うんです!」
カイは慌てて両手を振った。
「今日は別の用件で」
「あ、失礼しました」
受付嬢は少し恥ずかしそうに笑う。
カイは掲示板へ目を向けた。
あの日見たシルバーランクの依頼は、まだそこに貼られていた。
カイはその依頼書を指差した。
「このクエストについて、聞きたいことがあるんです」
受付嬢はそのシルバークエストに目を向け、その表情をわずかに曇らせる。
「……シルバーランクの依頼、ですね」
「はい」
「申し訳ありません」
受付嬢は静かに首を横へ振った。
「現在、皆さんはまだビギナーランクなんです。ですので、シルバーランクの依頼は受注できないんです」
コットはぐっと拳を握る。
「お願いします! 一度だけでも受けさせてください!」
「私もお力になりたいのですが、規則ですので……」
受付嬢も申し訳なさそうに眉を下げる。
「ピュイ! ピュイー!」
シロも両手をぶんぶん振りながら一生懸命訴える。
胸を叩き、自分たちなら大丈夫だと言いたいのだろう。
しかし、その必死な姿にも受付嬢は困ったように笑うしかなかった。
「ごめんなさい。規則を曲げることは……」
その様子を見ていたカイが、一歩前へ出る。
「一つ、聞いてもいいですか」
「はい?」
「以前、あなたは言いましたよね」
カイは受付嬢を真っ直ぐ見つめる。
「『原則として』ランク要件を満たしていない場合は受注できない、と」
受付嬢の表情がぴくりと動く。
「その”原則として”という言葉が、ずっと気になっていました」
「そ、それは……」
受付嬢は言葉を詰まらせる。
視線が揺れ、何かを言おうとしては飲み込む。
「えっと……その……」
口を開きかけた、その時だった。
──コツ。
静かな足音が響く。
──コツ、コツ。
ゆっくりと、一人の男がこちらへ歩いてくる。
その姿を見た受付嬢の目が、大きく見開かれた。
「あ……あなたは……!」
驚きと緊張が入り混じった声が、受付に響く。
カイたちは同時に振り返る。
そこに立っていたのは──。
翠色のマントを羽織った、一人の男だった。
茶色の髪を後ろで一つに束ねた三十代前半ほどの男。
端正な顔立ちには感情の揺らぎはほとんどなく、その涼しげな眼差しには近寄り難い威厳が宿っていた。
腰には、一振りの剣。
……だが、その剣には刀身がない。
あるのは柄だけ。
柄には翠色の水晶のような宝石が埋め込まれ、その先の空間だけが陽炎のようにわずかに歪んでいる。
まるで、誰にも見えない刃がそこに存在しているかのようだった。
男は何事もないように歩を進める。
男が歩くたび、談笑していた冒険者たちの声が途切れる。
誰に言われるでもなく、人々は静かに道を開けていった。
受付嬢が慌てて姿勢を正す。
「迅風隊隊長、シグ様!」
その声に、周囲の冒険者たちが一斉に振り向く。
「迅風隊……」
「まさか、第七耀の……?」
ざわめきが広がる。
コットが思わず息を呑んだ。
「八耀守……」
ソルテミア王国最高戦力──八耀守。
その中でも、第七耀『迅風隊』を率いる隊長シグが、今まさに目の前に立っていた。
シグは受付嬢へ静かに視線を向ける。
「ランクを満たさぬ者がシルバーランクの依頼を受けるには、八耀守の隊長、あるいは副隊長の認可証が必要だ」
渋みを宿した声が、静かに響く。
「もっとも、俺たちも日々の任務に追われている。全員を見て回る余裕はない」
受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げた。
「……はい。そのため、お伝えできませんでした」
「責めてはいない」
シグは短く答える。
「俺たちを気遣っての判断だろう」
そう言うと、ゆっくりとカイへ向き直る。
「話は聞かせてもらった」
鋭い視線がカイを射抜いた。
「貴殿、名は」
「巻神カイです」
「巻神カイか」
シグの視線が首元へ落ちる。
白いバスタオル──布丸。
「その白い布……神器だな」
一瞬、空気が止まった。
「えぇ──っ!?」
真っ先に声を上げたのはシアだった。
「カイさんのタオルって神器だったんですか!?」
目を丸くして布丸を見つめる。
「わたくし……てっきり、お風呂がお好きだから首に掛けているのかと……」
「やっぱりそう思うよな!」
カイは思わず頭を抱えた。
コットが慌てて前へ飛び出す。
「み、見た目はあれだけど、カイの神器は本当にすごい神器なんだよ!」
何とも言えないフォローに、思わず受付嬢まで苦笑する。
だがシグだけは真剣な眼差しを崩さなかった。
「……だろうな」
「「えっ?」」
カイとコットの声が重なった。
「な、なんで分かるんですか?」
シグは布丸から目を離さず、小さく口元を緩める。
「確証はない」
「だが──そんな”気”がした」
その一言に、カイは思わず息を呑む。
シグは今度はシロへ視線を向ける。
その眼差しは鋭い。
「それと……」
「貴殿も、ただの人間ではないな」
「ピュイ……」
シロはびくりと肩を震わせ、カイの後ろへ隠れる。
警戒するように小さく唸った。
シグはそれ以上追及しない。
「……事情があるのだろう」
それだけ呟く。
その様子を見たコットは、はっと息を呑んだ。
(この人……もしかして……)
シグは再びカイを見据える。
「巻神カイ」
「貴殿の神器に興味がある」
静かな声だった。
だが、その一言には確かな重みがあった。
「認可証を出す以上、実力を見極めねばならん」
一拍置く。
「俺との一騎打ち」
「え!?」
一瞬、カイの思考が止まった。
「もし俺を認めさせることができたら、そのシルバーランクの依頼の受注を認めよう」
思いもよらぬ提案だった。
カイ、コット、シア、シロは互いに顔を見合わせる。
八耀守、第七耀。
ソルテミア王国最高戦力の一角。
そんな相手と戦うなど、想像すらしていなかった。
しかし、カイは一歩前へ踏み出す。
シグの目を真っ直ぐ見つめる。
「……お願いします」
その瞳に迷いはなかった。
シグは小さく頷く。
「決まりだな」
「場所は──ソルテミア王立大闘技場」
シグはそれだけ告げると踵を返した。
「ついてこい」
振り返ることなく歩き出すジグ。
その背中は、決して大きくはない。
それでも、誰よりも遠く、高く見えた。
カイは布丸をそっと握り締める。
──王国最高戦力の一角を相手に、自分の力はどこまで通用するのか。
その答えが、もうすぐ明らかになる。
第20話へ続く。
《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態
/魔力吸収》
《限定スキル:雫裂・二式》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》