神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第20話 二人の副隊長

 

 シグの後を追い、カイたちは首都ソルテミアの北側──ヴァルハイト区へと足を踏み入れていた。

 

 ソルテミアの街は、大きく五つの区に分かれている。

 

 中央に位置するルーメン区。

 

 東のフォルガ区。

 

 西のエルム区。

 

 南のマトレス区。

 

 そして、北のヴァルハイト区。

 

 その中でも、このヴァルハイト区は明らかに他の場所とは空気が違っていた。

 

「おぉ……」

 

 思わず、カイの口から声が漏れる。

 

 足元には、隙間なく敷き詰められた白い石畳。

 

 道の両脇には手入れの行き届いた街路樹が並び、その間には色とりどりの花が植えられている。

 

 白を基調とした建物には細かな装飾が施され、通りを進むたびに、大小さまざまな噴水が目に入った。

 

 遠くには、青空へ突き刺さるように伸びた大聖堂の尖塔。

 

 さらにその奥には、巨大な魔導学院の建物まで見える。

 

 道を行き交う人々の服装もどこか上品だ。

 

「ここ……同じソルテミアなんだよね?」

 

 コットが周囲を見回しながら呟く。

 

「なんだか、別の街みたい」

 

「俺もそう思う」

 

 カイも思わず周囲を見渡した。

 

 これまで訪れた場所とは、明らかに雰囲気が違う。

 

 そして何より──。

 

「ピュイ……!」

 

 隣を歩いていたシロが、目を輝かせていた。

 

 白い石畳。

 

 色鮮やかな花。

 

 噴水から舞い上がる水しぶき。

 

 遠くにそびえる大聖堂。

 

 見るものすべてが珍しいのか、シロはあちらこちらへ視線を向けている。

 

「シロちゃん、そんなに珍しい?」

 

 シアが微笑みながら尋ねる。

 

「ピュイ!」

 

 シロは大きく頷く。

 

 そして、道端に咲いていた花を見つけると、嬉しそうに駆け寄った。

 

「ふふっ。気をつけてくださいね」

 

 シアが優しく声をかける。

 

「ピュイ!」

 

 振り返ったシロは、満面の笑みを浮かべていた。

 

 その姿に、カイも自然と頬を緩める。

 

 ──こういう姿だけを見ていれば、本来の姿はモンスターだなんてとても思えない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、やがて目の前に巨大な門が現れた。

 

 その先には、さらに広大な敷地が広がっている。

 

 門の周囲には、淡い光を帯びた魔法陣がいくつも浮かんでいた。

 

「……ここって」

 

 カイが呟く。

 

 シグは歩みを止めることなく答えた。

 

「ソルテミア城へと伸びる広大な敷地だ」

 

 門の先へ進む。

 

 すると、空気が一瞬だけ揺らいだ。

 

 何かに触れたような感覚。

 

 だが、シグが何の躊躇もなく進んでいくため、カイたちもそのまま後に続いた。

 

「今の……?」

 

 コットが不思議そうに振り返る。

 

「敷地内に入るための結界だ」

 

 シグが淡々と答える。

 

「ソルテミア城は二重の結界で守られている」

 

「二重……?」

 

「ああ」

 

 シグは前を向いたまま続ける。

 

「一つ目は、城内部へ侵入する者を防ぐためのもの」

 

「そしてもう一つが、この敷地そのものを守る結界だ」

 

 カイは周囲を見渡す。

 

 広々とした庭園。

 

 整然と並ぶ白亜の建物。

 

 まさに、この国の中心。

 

 そんな場所だった。

 

 だが──。

 

 シグは城とは反対方向へ進んでいく。

 

「シグさん」

 

 カイが声をかける。

 

「大闘技場って、どこにあるんですか?」

 

「もう近い」

 

 短い返事。

 

 しばらく歩くと、建物群を抜け、少し開けた場所へ出た。

 

 そこには巨大な建造物があった。

 

 円形に造られたその建物は、遠くからでも圧倒されるほどの大きさを誇っている。

 

 高くそびえる外壁。

 

 幾重にも刻まれた魔法陣。

 

 そして、正面には巨大な門。

 

 その上部に刻まれた文字を見て、カイは足を止めた。

 

「もしかして……ここが?」

 

 カイが呟く。

 

 シグは振り返る。

 

「ああ」

 

 そして、巨大な闘技場を見上げた。

 

「ソルテミア王立大闘技場だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、カイの胸が高鳴る。

 

 ここで──自分は八耀守の隊長と戦う。

 

 相手がどれほどの強さなのか、想像もつかない。

 

 カイが無意識に布丸へ触れた、その時だった。

 

 シグがふと足を止める。

 

「……先約がいたようだ」

 

「え?」

 

 カイたちが一斉に顔を上げる。

 

 シグの視線の先──。

 

 そこには、二人の男女がいた。

 

「──疾風軌道(アストラ・ワルツ)!」

 

 緑色の髪を揺らし、一人の少女が宙へ舞い上がる。

 

 ショートヘアの髪が風を受けて翻った。

 

 その足元に、淡い光が次々と生まれる。

 

 空中に足場など存在しない。

 

 それにもかかわらず──。

 

 トンッ。

 

 少女は何もない空間を蹴った。

 

 次の瞬間には、遥か上空。

 

 さらにもう一度、空中を蹴る。

 

 右へ。

 

 左へ。

 

 上へ。

 

 そして、突然軌道を変えて斜め下へ。

 

 まるで星々の間を舞うように、少女の身体が空中を縦横無尽に駆け巡る。

 

「速っ……!」

 

 コットが思わず声を漏らした。

 

 カイも目を見張る。

 

 あれほど自由に空中を移動できるなど、まるで空そのものを地面としているようだった。

 

「中位神器……疾風の神靴(アストラ・ステップ)」

 

 シグが静かに呟く。

 

 その声に反応したのか、少女──第七耀・迅風隊副隊長トリアが空中で身体を捻った。

 

 

「いきますよ! ハルテンさん!」

 

「こい!」

 

 向かいに立つ男が両腕を構える。

 

 ハルテン。

 

 第六耀・鉄衛隊副隊長──そして、鉱人(グラニット)族。

 

 その両腕は、人の腕とは明らかに異なっていた。

 

 肩から伸びる腕そのものが、黒鉄のような鉱石で覆われている。

 幾重にも重なった鉱石の層は、まるで鎧のようでありながら、その身体から生まれたものだと一目で分かる。

 

 そして、その拳から肘までを覆う巨大な手甲──

 

 中位神器──剛殻の拳甲(グランド・アイゼン)。

 

「絶対剛壁(アイゼン・ウォール)!」

 

 ハルテンが両腕を地面へ突き出す。

 

 ドンッ──! 

 

 地面が震えた。

 

 次の瞬間、ハルテンの前方に巨大な鉱物の壁がせり上がる。

 

 分厚く、重く、巨大な盾。

 

 まるで一枚の鉄壁そのものだった。

 

 その直後──。

 

 トリアの姿が消えた。

 

 いや。

 

 速すぎて、目で追えない。

 

 空中を蹴った瞬間、一気に加速する。

 

 そして──。

 

 一直線。

 

 天空から地上へ。

 

 流星が落ちるように、トリアの身体が急降下した。

 

「一陣の彗星(コメット・ストライク)!」

 

 轟ッ──!! 

 

 凄まじい勢いで繰り出された飛び蹴りが、巨大な鉱物の盾へ叩き込まれる。

 

 衝撃音が闘技場に響き渡った。

 

 ──ドォンッ!! 

 

 

 地面が大きく抉れ、周囲の空気まで震えた。

 

 シグは二人の戦いを眺めながら、静かに口を開く。

 

「神器だけの力ではない」

 

「本人たちの鍛錬があってこそ、あの動きができる」

 

 カイは黙って二人を見る。

 

 ──そして

 

「あれを見ろ」

 

 シグの視線がトリアの髪へ向く。

 

「トリアの髪に留めているピンが見えるか?」

 

「え?」

 

 カイは目を凝らす。

 

「……あれは、風紡ぎの髪飾り(ヴァール・カンテ)という魔装具だ」

 

 翼の形をした小さなピン。

 

「超高速移動の際に発生する猛烈な風圧から、着用者の視界と身体を守る。そして、空気抵抗を極限まで減らす」

 

「へぇ……魔装具か」

 

 カイは感心したように呟く。

 

「神器、魔装具。そして本人の技量」

 

「それらを組み合わせることで、力を最大限に引き出していく」

 

 その言葉には、長年戦場を見てきた者だからこその重みがあった。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 トリアが片膝をつきながら息を整える。

 

 その目の前では、ハルテンが両腕を交差させたまま立っていた。

 

 グランドアイゼンの表面には大きな亀裂が入っている。

 

「見事だ」

 

 ハルテンが腕を下ろす。

 

 鉱物の盾が、砕けるように消えていく。

 

「最初に比べれば、ずいぶんと腕を上げたな」

 

「本当ですか!?」

 

 トリアがぱっと顔を明るくする。

 

「ああ」

 

 ハルテンは大きく頷いた。

 

「やった!」

 

 トリアが嬉しそうに拳を握る。

 

 その時だった。

 

「ずいぶん熱心だな」

 

 二人の背後から、聞き慣れた声が響いた。

 

「──シグ隊長?」

 

 トリアが振り返る。

 

 そこに立つのはシグと──その後ろにはカイ、シア、コット、シロの姿。

 

「お疲れ様です、隊長!」

 

 トリアが敬礼する。

 

 ハルテンも振り返り、軽く頭を下げた。

 

 

 シグは二人に事情を説明した。

 

 シルバーランクのクエストへの挑戦。

 

 そのためのカイとの一騎打ち。

 

「なるほど……」

 

 トリアはカイを見る。

 

 そして、何かを思いついたように手を上げた。

 

「それなら──」

 

 トリアは胸を張る。

 

「副隊長である私が、実力を見ればいいのでは?」

 

「いや」

 

 シグは即答した。

 

「俺がやる」

 

「……え?」

 

 トリアの笑顔が固まった。

 

「俺が、この男の力を見極める」

 

「……」

 

 トリアはシグを見つめる。

 

 普段、他人にそこまで興味を示さない。

 

 そんなシグが、目の前の男には明らかに興味を持っている。

 

「……そうですか」

 

 トリアの頬が、ほんの少し膨らんだ。

 

「隊長が、そこまで興味を持つなんて……珍しいですね」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、何も!」

 

 ぷいっと顔を逸らす。

 

 その様子を見たハルテンが、わずかに肩を揺らした。

 

「……?」

 

 シグだけが気づいていない。

 

「では、話は決まりだ」

 

 シグはそう言って、カイへ向き直った。

 

 トリアとハルテンは少し離れた場所へ下がる。

 

 

「カイさん……」

 

「どうか……決して無理はなさらないでくださいね」

 

「うん。分かってる」

 

 シロもカイの服の裾を握った。

 

「ピュイ……」

 

「大丈夫だよ、シロ」

 

 カイが笑って頭を撫でる。

 

 その隣で、コットが小声で呟いた。

 

「……カイ」

 

「ん?」

 

「漂う気の匂いで分かる」

 

「匂い?」

 

「うん」

 

 コットは、シグの腰に差された刀身のない柄へと視線を落とした。

 

「きっと、あの柄がシグさんの神器……。すごく鍛え上げられているのが伝わってくる」

 

 その言葉に、シグが振り向いた。

 

「……神器の放つ気を、匂いで感じとれるのか?」

 

「はい」

 

 コットは素直に頷く。

 

「そうか」

 

 シグはそれ以上何も言わなかった。

 

 ただ、その瞳には一瞬だけ、何かを確かめるような光が宿った。

 

 コット、シロ、シアの3人も闘技場の端へ下がり、中央に残ったのは──カイとシグ。

 

 

 いざ、一騎打ちが始まろうとする中、ハルテンの豪快な笑い声が響いていた。

 

 

「わっはっは!」

 

「しかし武器を持たずにどうやって隊長と戦うんだ!?」

 

「武器ならちゃんと持ってるでしょ!」

 

 間髪入れず、コットが突っ込んだ。

 

「持ってるって……あるのは首にかかったバスタオルしか……」

 

「カイのタオルは立派な神器!!」

 

「じ、神器!? あのタオル、神器なのか!?」

 

「そうだよ!」

 

「すっごい神器なんだからね!」

 

「お、おう……そうなのか」

 

 ハルテンは悪気なく頷いた。

 

「いや、すまん。だが……流石にあのタオルが神器だとは思わなくてな」

 

 

 一方、シアは胸の前で両手をぎゅっと握りしめている。

 

「カイさん……」

 

 その声には、隠しきれない不安が滲んでいた。

 

「では、始めよう」

 

 シグが翠色のマントへ手をかける。

 

 ふわりと外されたマントの下から、白い衣服と──。

 

「……羽?」

 

 コットが目を見開いた。

 

 シグの背中。

 

 そこには、淡い翠色を帯びた翼があった。

 

「やっぱり……!」

 

 コットの声が弾む。

 

「シグさん、ウィンディア族だったんだ!」

 

 だが──。

 

 シグがマントを完全に脱いだ、その瞬間。

 

「……え?」

 

 コットの表情が凍った。

 

 片翼。

 

 もう一方の翼が、ない。

 

 まるで何かに喰われたかのように。

 

 いや──。

 

 根元から、引きちぎられたように失われていた。

 

「……そんな」

 

 カイも言葉を失う。

 

 トリアが静かに口を開いた。

 

「……あの翼は」

 

 一瞬、言葉を選ぶように間を置く。

 

 その声は、いつもの明るさを失っていた。

 

「──奪われたんだ」

 

「奪われた……?」

 

 コットが聞き返す。

 

「それって、どういう──」

 

「始まるぞ」

 

 ハルテンの低い声が遮った。

 

 全員の視線が、シグへ向く。

 

 シグは腰へ手を伸ばした。

 

 そこにあるのは、刀身の存在しない剣の柄。

 

 翠色の水晶が、淡い光を放つ。

 

 シグはそれを静かに抜いた。

 

「──無刃・成空(むじん・せいくう)」

 

 その瞬間。

 

 ゴォォォッ──!! 

 

 柄の先で空気が爆ぜた。

 

 翠色の風が渦を巻き、瞬く間に一本の刃を形作っていく。

 

 それは、風そのものを刃とした剣。

 

 エメラルドグリーンの刀身が鋭く伸び、その周囲では無数の風が唸りを上げながら舞っている。

 

 空気が震える。

 

 大地さえも、その力を感じ取ったかのようにざわめいた。

 

 シグは剣をゆっくりと構える。

 

「あれが……シグさんの神器……!」

 

 コットが息を呑み、目を見開いて呟く。

 

「そう。上位神器──無刃の風刀(シュトルム・ノヴァ)」

 

 トリアは静かに頷き、その視線はシグの掲げる柄に注がれていた。

 

 シグの瞳から、穏やかさが消える。

 

 戦士の目だった。

 

「──いくぞ」

 

 カイは布丸を握りしめる。

 

 目の前の男が放つ威圧感は、これまでカイが感じたどんな相手よりも強かった。

 

 二人の視線が交差する。

 

 

 

 ──次の瞬間。

 

 

 風が、爆ぜた。

 

 

 21話へ続く。

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

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