神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第23話 木漏れ日に潜む影

 

 首都ソルテミアの北西。

 

 山々に囲まれた渓谷の奥深くに、ホームクラフト族が暮らす小さな集落がある。

 

 その名も──『槌音と木漏れ日の里(クラフトヴェイル)』。

 

「おおっ! すっげぇ……!」

 

 里に足を踏み入れた瞬間、カイは思わず声を上げた。

 

 目の前に広がっていたのは、これまで訪れたどの街とも違う、不思議な光景だった。

 

 山肌に沿って、大小さまざまな建物が段々に建ち並んでいる。

 

 その外壁には木材だけでなく、青白く輝く鉱石や、鈍い銀色の金属板が組み込まれていた。

 

 建物同士は宙に架けられた通路や金属製の橋で繋がれ、その下には幾重もの水路が張り巡らされている。

 

 集落の中央には透き通った川が流れ、その流れを受けて巨大な水車がゆっくりと回っていた。

 

 だが、驚くのはそれだけじゃない。

 

 水車から伸びた太い軸には、大小さまざまな歯車が幾重にも噛み合っている。

 

 しかも、その歯車には青や緑に淡く発光する鉱石が埋め込まれていた。

 

 カチャン、カチャン、カラカラカラ──。

 

 規則正しい音とともに歯車が回り、そこから伸びた鎖が荷物を吊り上げる。

 

 さらに、坂道に敷かれた金属製のレールの上では、荷物を載せた台車がひとりでに走っていた。

 

「……おおっ!」

 

 思わず声が漏れる。

 

 見上げれば、建物の壁には透明な管が張り巡らされ、その内部を淡い光の粒子が流れている。

 

 屋根の上では、金属と鉱石を組み合わせた小さな風車が回転し、時折、青白い光を放っていた。

 

 中には、空中に浮かんだ小さな足場まである。

 

 足場の四隅には紫色の鉱石が取り付けられており、作業員を乗せたまま、ゆっくりと上下していた。

 

(なんだここ……。まるで街全体が、一つの巨大な機械みたいだ)

 

 

 水や風の力に加えて、魔力を宿した鉱石まで利用しているらしい。

 

 歯車と魔力が組み合わさった、まったく見たことのない光景だった。

 

「わあぁ! 見て見て、カイ! あの荷物、勝手に運ばれてるよ!」

 

「ピュイッ! ピュイピュイ!」

 

 コットが目を輝かせ、その隣ではシロも興奮した様子で飛び跳ねている。

 

「ふふっ。本当に素敵な里ですね」

 

 シアも楽しそうに周囲を見渡していた。

 

 そのときだった。

 

「あのぉ……もしかして、冒険者の方々ですか?」

 

 声のした方を振り向くと、一人の女性が立っていた。

 

 肩ほどまで伸びた赤茶色の髪に、作業用らしい革のエプロン。腰には小さな工具がいくつも吊るされている。

 

 よく見ると、エプロンの留め具には琥珀色の小さな鉱石が埋め込まれていた。

 

 (年齢は俺と同じくらいだろうか)

 

 柔らかな笑みを浮かべながら、こちらを見つめていた。

 

「そうなんです。俺たちはソルテミア支部から来ました。シルバーランクの依頼を受けに」

 

「やっぱり! よかったぁ!」

 

 その女性は胸の前で両手を合わせ、ぱっと表情を明るくした。

 

「お待ちしてました! 私はリペット。この里に住んでいるホームクラフト族です!」

 

「俺はカイ。こっちはコットとシア、それからシロだ」

 

「よろしくねっ!」

 

「よろしくお願いします」

 

「ピュイ!」

 

「はい! 皆さん、よろしくお願いします!」

 

 リペットは一人ひとりに笑顔を向けた。

 

 そのとき、カイは彼女の瞳に奇妙な模様があることに気づいた。

 

(……ん?)

 

 瞳の奥に、小さな歯車のような紋様が浮かんでいる。

 

 しかも、よく見ると手の甲から指先にかけて、細かな目盛りのような線が刻まれていた。

 

 まるで定規をそのまま手に描いたような、不思議な模様だ。

 

「あの、リペットさん。その目と手の模様って……」

 

「あっ、これですか?」

 

 リペットは自分の手を持ち上げ、指を広げて見せた。

 

「私たちホームクラフト族の特徴なんです。こっちは測定ラインっていって、物の長さや細かな寸法を測るときに便利なんですよ!」

 

「へぇ……!」

 

 彼女が指先を動かすと、目盛りのような線が淡く浮かび上がった。

 

 その指は細くしなやかで、一本一本が驚くほど滑らかに動いている。

 

(なるほどな。物作りに特化した種族ってわけか)

 

「それじゃあ皆さん、さっそく統歯車(グラン・ギア)のところへ案内しますね!」

 

「……グラン・ギア?」

 

 聞き慣れない言葉に、カイは首を傾げた。

 

「はい! この里をまとめている、長のような方です!」

「私たちの里では、歯車はみんなを繋ぐ大切なものなんです。だから、里をまとめる方もそう呼ばれているんですよ」

 

 そう言って、リペットは歩き始めた。

 

「こちらです! ついてきてください!」

 

 カイたちは彼女の後を追い、里の中心へと続く道を進んでいった。

 

 道の両脇には、小さな工房がいくつも並んでいる。

 

 その屋根には色とりどりの鉱石が埋め込まれ、煙突のような金属管からは、白い蒸気が細く立ち上っていた。

 

 窓の向こうでは職人たちが赤く熱した金属を叩き、別の工房では青白く光る鉱石を削っている。

 

 さらに奥の工房では、宙に浮かぶいくつもの工具が、職人の手の動きに合わせて木製の歯車を組み立てていた。

 

 カンッ、カンッ。

 

 ギギギ……カチャン。

 

 槌の音と歯車の音が、あちらこちらから響いてくる。

 

 すれ違う住人たちも、どこか独特だった。

 

 赤茶色の髪をした男性。銀色がかった灰色の髪を後ろで束ねた女性。煤のように真っ黒な髪の少年。

 

 髪色こそさまざまだが、どれも鉄や銅を思わせる落ち着いた色合いをしている。

 

 そして、誰の瞳にも歯車の紋様があり、手にはあの細かな目盛りが浮かんでいた。

 

 腰に工具を下げた者も多く、作業着や革の手袋を身につけた姿が目立つ。

 

「みんな、何か作ってるんだね!」

 

 コットが興味津々に工房を覗き込む。

 

「はい! この里では、生活に必要なものはできるだけ自分たちで作るんです。道具も、家具も、建物の仕組みも!」

 

「すごいですね。あの水車も、皆さんで作られたんですか?」

 

「もちろんです! 何世代もかけて改良してきた、里の自慢なんですよ!」

 

 リペットは誇らしげに胸を張った。

 

 けれど──。

 

(……あれ?)

 

 歩いているうちに、カイはあることに気づいた。

 

 さっきから聞こえてくる槌の音。

 

 最初は何かを作っている音だと思っていたが、どうも様子が違う。

 

 建物の外壁には新しい金属板が継ぎ足され、ひび割れた鉱石を交換している職人の姿があった。

 

 水路の脇では数人が歪んだ歯車を取り外し、別の場所では砕けた魔鉱石の破片を拾い集めている。

 

 よく見れば、道端には折れた金属管や割れた木材、光を失った鉱石が積み上げられていた。

 

 先ほど見上げた空中の通路も、一部が崩れたままになっている。

 

 巨大な水車の一つは羽根が何枚も欠け、埋め込まれた鉱石の光も消えていた。

 

(……これ、作ってるんじゃなくて、直してるのか?)

 

 そう思って改めて見渡すと、里のあちこちに修復の跡があった。

 

 

 こちらの視線に気づいたのか、

 

「……皆さんは、ガルドームというモンスターをご存じですか?」

 

 リペットは少し俯きながら、そう切り出した。

 

「ガルドーム……?」

 

 聞き覚えのない名前に、カイは首を傾げる。

 

「いや、初めて聞くなぁ…」

 

「私も知らないなぁ。どんなモンスターなの?」

 

 コットが尋ねると、リペットはゆっくりと口を開いた。

 

「ガルドームは、岩背獣とも呼ばれ、人の二倍ほどもある巨体に、異常なほど発達した両腕を持つモンスターです。背中には黒鉄や赤銅色の鉱石が、まるで岩山のように無数に生えていて……」

 

「うわぁ……。なんだか、すっごく強そう……」

 

「はい。特にその両腕は恐ろしく、太い木でさえ簡単になぎ倒してしまうほどなんです」

 

 カイはその姿を頭の中に思い浮かべた。

 

 巨大な体に、岩のような両腕。そして、背中を覆う無数の鉱石。

 

 できれば遭遇したくない相手だ。

 

「そのガルドームが、この辺りにいるのか?」

 

「はい。もともと、この里から比較的近い山中に生息しているモンスターなんです。ただ……」

 

 リペットは一度言葉を切り、修復中の建物へ目を向けた。

 

「一週間ほど前、そのガルドームが突然、里に現れたんです」

 

「……え?」

 

「何の前触れもなく集落に入り込んできて、建物や水車を壊しながら暴れ始めて……」

「私たちは必死に避難しました……幸い、ある方のおかげで、どうにか騒ぎは収まったのですが……」

 

 リペットは胸元でぎゅっと両手を握りしめた。

 

「こんなこと、今まで一度もなかったんです。ガルドームが里に入ってくるなんて……」

 

「それで、あちこち修理してたのか……」

 

 カイは改めて周囲を見渡した。

 

 壊れた水車。補強された家の壁。道端に積み上げられた木材。

 

 (どれも、そのモンスターが残した爪痕というわけか)

 

「でも……それだけじゃないんです」

 

 リペットの声が、さらに沈んだ。

 

「騒動が収まったあと、私たちはもっと大変なことに気づいてしまって……」

 

「大変なこと?」

 

「はい。この里に祀られていた、大切な宝が……何者かに盗まれていたんです」

 

「盗まれた!?」

 

 コットが驚きの声を上げる。

 

「最初は、騒ぎに紛れてどこかへ移されただけだと思ったんです。だから、里のみんなで手分けして探しました。でも、どこを探しても見つからなくて……。手掛かりすら得られませんでした」

 

「なるほど……」

 

 カイは腕を組み、リペットの話を整理する。

 

 突然現れたガルドーム。

 

 荒らされた集落。

 

 そして、騒動のあとに消えていた宝。

 

(偶然……なのか?)

 

 少なくとも、無関係だと決めつけるには妙な話だ。

 

「なるほど。だから今回の依頼内容が、『里の宝を見つけてほしい』だったんですね」

 

「はい……。私たちだけでは、もうどうすることもできなくて。冒険者ギルドにお願いしたんです」

 

 リペットは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「どうか、力を貸してください」

 

「もちろん。そのために俺たちは来たんだから」

 

「そうだよ! 私たちに任せて!」

 

「ピュイッ!」

 

 コットが力強く頷くと、シロも同意するように片手を上げた。

 

「ありがとうございます……!」

 

 リペットの表情が、ほんの少し明るくなる。

 

 するとコットが、ふと思い出したように首を傾げた。

 

「ねえねえ、リペットさん。その祀られてた宝って、一体何なの?」

 

「あっ、まだお話ししていませんでしたね」

 

 リペットは頷き、静かに答えた。

 

「その宝は、数十年前からこの里で大切に祀られてきたものなんです。先人たちが、私たちに残してくれた──」

 

 そこで一度、言葉を区切る。

 

「上位神器、『追悼の織杖(ディア・ウィーバー)』です」

 

「……上位神器!?」

 

 カイは思わず声が出た。

 

「追悼の織杖は、私たちが作るものに、不思議な温かみを与えてくれていたんです」

 

「温かみ……?」

 

「はい。例えば、誰かを想って作った椅子なら、座ったときに、その人の優しさが伝わってくるような……。壊れたものを修復すれば、それを使っていた頃の大切な思い出が、ふっと蘇ることもあるんです」

 

「へぇ……!」

 

「それって、とても素敵な力ですね」

 

 シアが優しく微笑んだ。

 

 リペットも小さく頷く。

 

「私たちホームクラフト族にとって、物作りはただの仕事ではありません。作ったものを通して、誰かの想いや思い出を未来へ繋いでいく……。追悼の織杖は、そんな私たちの暮らしを、ずっと支えてくれていたんです」

 

(物に込められた想いを、伝える神器……か)

 

 カイは近くの工房へ目を向けた。

 

 そこでは一人の職人が、壊れた木製の椅子を丁寧に修理していた。

 

 何度も表面を撫でながら、慎重に木片を組み合わせている。

 

 きっと、あの椅子にも誰かの思い出が詰まっているんだろう。

 

「でも……神器が失われてから、変わってしまったんです」

 

 リペットがぽつりと呟いた。

 

「変わった?」

 

「はい。新しく作ったものからも、修復したものからも……以前のような温かみが感じられなくなってしまって」

 

「……そうだったのか」

 

「もちろん、道具としては今までどおり使えます。壊れたものだって、ちゃんと直せます。でも……何か、大切なものが抜け落ちてしまったような気がして……」

 

 リペットは寂しそうに、自分の手を見つめた。

 

 物作りを大切にしてきた種族だからこそ、その変化は大きいのだろう。

 

「それは……つらいですね」

 

 シアの言葉に、リペットは静かに頷いた。

 

「はい。でも、それだけなら、まだよかったんです」

 

「……え?」

 

 カイは顔を上げた。

 

 リペットの表情が、再び曇る。

 

「実は、数日前から……もっと深刻な問題が起き始めているんです」

 

「もっと深刻な問題?」

 

「はい。里の人たちの中に、ある異変が現れ始めていて……」

 

 彼女は少しためらったあと、意を決したように口を開いた。

 

「その人が大切にしていた記憶の一部が……突然、なくなってしまうんです」

 

「…………」

 

 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

「……記憶?」

 

「はい。ずっと覚えていたはずの、大切な思い出が……まるで最初から存在しなかったかのように、消えてしまうんです」

 

「な……っ!?」

 

 カイの声が、静かな里に響いた。

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

 

 

 

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