神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー 作:maiboo
あまりの言葉に思わず聞き返そうとしたカイだったが、リペットの真剣な眼差しに言葉を呑み込む。
「はい。大切な人と過ごした思い出や、長年大切にしていた物のこと。それから、誰かを想って作った物に込めた気持ちまで……。そういった記憶が、部分的に失われているんです」
「そんなことが……」
カイは言葉を失った。
物を作ることを何よりも大切にしているホームクラフト族。
そんな彼らから、物に込めた想いや、大切な人との思い出が失われていく。
それは、単に何かを忘れるというだけでは済まない話だ。
「でも……どうして、そんなことが起きるのでしょうか」
シアが不安そうに尋ねる。
「もしかして、リペットさんも……?」
「……はい」
リペットは小さく頷いた。
「私も、何かを忘れている気がするんです」
「何か……?」
「それが、自分でもよく分からなくて……」
彼女は困ったように微笑むと、そっと胸元に手を当てた。
「普段どおりに暮らしているはずなのに、時々、胸がきゅっと苦しくなるんです」
「…………」
「何か、とても大切なものがあった気がするんです。でも、それが何だったのか、どうしても思い出せなくて……」
リペットは少しだけ俯いた。
「まるで……大切な人が、いつの間にかいなくなってしまったような。そんな気がするんです」
その声は、ひどく寂しげだった。
大切なものを失ったことは分かる。
けれど、何を失ったのかさえ分からない。
そんな状態が、どれほど不安なものなのか。
「リペットさん……」
シアが何か言いかけたが、その先の言葉は出てこなかった。
コットも珍しく黙り込み、心配そうにリペットを見つめている。
「ピュゥ……」
シロまで、どこか悲しそうな声を漏らした。
「……あっ!」
不意に、リペットが顔を上げた。
「皆さん、着きました!」
その声につられて、カイたちも前を向く。
「ここが、私たちホームクラフト族の集会場──『歯車の大広間』です!」
「おおっ……!」
目の前にそびえていたのは、これまで見てきた建物とは一際異なる、巨大な建造物だった。
渓谷の岩壁に沿うように建てられたその建物は、黒銀色の金属と深い赤褐色の木材で組み上げられている。
正面には、巨大な歯車を模した円形の扉。
その周囲には青白く輝く魔鉱石が等間隔に埋め込まれ、淡い光の筋が幾何学模様を描いていた。
さらに建物の上部では、大小いくつもの歯車がゆっくりと回転している。
カチリ、カチリ──。
まるで巨大な時計の内部にいるような、規則正しい音が響いていた。
「ここでは、里の大切なことを話し合ったり、新しい技術を発表したりするんです」
「へぇ……。集会場まで、すごい造りだな」
「ふふっ。里のみんなで力を合わせて作った、自慢の建物なんですよ!」
リペットが扉の横にある小さな装置へ手をかざす。
すると、彼女の指先に浮かぶ測定ラインが淡く光った。
カチャン!
装置の内部で歯車が噛み合う音がすると、巨大な扉がゆっくりと左右に開いていった。
「さあ、どうぞ!」
カイたちはリペットに続き、建物の中へ足を踏み入れた。
内部は天井が高く、円形の広間になっていた。
壁には無数の歯車が組み込まれ、天井から吊るされた魔鉱石の灯りが、柔らかな光を広間全体に注いでいる。
広間には二人の男が立っていた。
「統歯車様! 冒険者の皆さんをお連れしました!」
リペットが声をかけると、二人がこちらを振り向いた。
一人は、年老いた男性だった。
短く整えられた銀灰色の髪に、きれいに切り揃えられた顎髭。
深い皺が刻まれた顔には厳格な雰囲気が漂い、歯車の紋様を宿した鋭い瞳が、こちらをまっすぐに見据えている。
黒鉄色の長衣には金色の細い装飾が施され、胸元にはいくつもの歯車を重ねた紋章が輝いていた。
その隣に立つのは、対照的な雰囲気の若い男性。
柔らかな赤銅色の髪を後ろで緩く束ね、穏やかな表情を浮かべている。
袖をまくった作業着に革製のベスト。腰には使い込まれた工具がいくつも吊るされていた。
手には細かな傷があり、普段から物作りに携わっていることがうかがえる。
「よく来てくれた」
先に口を開いたのは、年老いた男性だった。
低く、よく通る声が広間に響く。
「私が統歯車のコーグだ」
「そして、僕がロプス。
ロプスと名乗った男性は、柔らかく微笑みながら頭を下げた。
(……ランドギア?)
聞き慣れない役職にカイたちが首を傾げていると、リペットがそっと近づいてきた。
「大歯車は、統歯車に次ぐ立場の方なんです。里のみんなをまとめたり、統歯車様を支えたりする、とても大切な役職なんですよ」
「なるほど……」
小声で教えてくれたリペットに、カイは頷いた。
「……リペット。案内、ご苦労だった」
「はい!」
コーグの言葉に、リペットは背筋を伸ばして答えた。
カイは一歩前に出る。
「冒険者連盟から来た、巻神カイです。こちらがコット、シア、それからシロです」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いいたします」
「ピュイッ!」
「里で起こったことについては、リペットさんから聞きました。ガルドームの襲撃と、神器が盗まれたこと。それに……記憶を失っている人がいることも」
「……そうか」
コーグの眉間に、深い皺が刻まれた。
「ならば、話は早い」
「我らが失った神器、《追悼の織杖》。あれは、数十年前からこの里を見守り続けてきた、かけがえのない宝だ」
「上位神器なんですよね?」
カイが尋ねると、コーグは頷いた。
「そうだ。もっとも、今では本来の力の大部分が失われているがな」
「……力が?」
「うむ。神器は本来、使い手とともに力を発揮するもの。《追悼の織杖》も例外ではない」
コーグは静かに続けた。
「本来の持ち主は、とうの昔にこの世を去っている。それでもなお、あの神器はわずかな力を残し、我らに恩恵を与え続けてくれていたのだ」
「持ち主がいなくなっても……」
カイは思わず呟いた。
(そんなこともあるのか……)
神器と使い手。
その二つは切り離せないものだと思っていた。
けれど、《追悼の織杖》は持ち主を失ってなお、何十年もの間、この里の人々を支えてきたという。
「その力が、物に込めた想いや思い出に関係しているんですね」
「そのとおりだ」
コーグは重々しく頷いた。
「我らホームクラフト族は、物に想いを込める。誰かのために作り、壊れれば直し、次の世代へと受け継いでいく。《追悼の織杖》は、そうした想いを繋ぐ力を持っていた」
そのとき、コットがおずおずと手を上げた。
「あの……一つ、聞いてもいいですか?」
「構わん。何だ?」
「コーグさんやロプスさんも……記憶がなくなったりしているんですか?」
その問いに、広間が静まり返った。
「……ああ」
コーグは短く答えた。
「私にも、どうしても思い出せぬことがある」
「コーグさんも……」
「何を忘れたのかさえ、はっきりとは分からん。ただ、思い返そうとすると……そこだけが、ぽっかりと抜け落ちているのだ」
コーグは険しい表情のまま、握りしめた拳を見つめた。
「長く生きてきた。忘れることもあろう。だが……これは、そういうものではない」
その声には、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。
「ロプスさんも?」
コットが隣の男性へ視線を向ける。
「……はい」
ロプスは困ったように微笑んだ。
「僕も、何か大切なものを忘れてしまった気がするんです」
「大切なもの……?」
「ええ。何か、とても温かいものがあったような……。思い出そうとすると、胸の奥が少し苦しくなるんです」
ロプスは自分の胸元に手を当てた。
「でも、不思議ですよね。何を忘れたのかも分からないのに、それが大切だったことだけは、なぜか分かるんです」
「…………」
その言葉に、俺は先ほどのリペットを思い出した。
──まるで、大切な人がいなくなってしまったような。
彼女も、同じようなことを言っていた。
「……絶対に、見つけようね」
コットが小さく呟いた。
「ああ」
カイは頷いた。
里の宝を取り戻す。
それが今回の依頼だ。
けれど、今はそれ以上に、彼らが失ってしまった大切なものを取り戻したいと思った。
そのときだった。
「……ピュ?」
シロが、何かに気づいたように勢いよく振り向いた。
その視線の先。
広間の入口に、一人の青年が立っていた。
「……おや?」
青年はカイたちの視線に気づくと、少し驚いたように目を丸くした。
「ああ、すみません。驚かせてしまいましたね」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。
年齢は二十代半ばくらいだろうか。
落ち着いた灰色の髪をきれいに整え、細身の体には紺色の長衣をまとっている。
いかにも真面目そうな、知的な雰囲気の青年だ。
「見慣れない方々がお見えになっていたので、つい気になってしまいまして」
青年は穏やかに微笑んだ。
「あっ、申し遅れました。初めまして。僕はノクスと申します」
胸元に手を添え、丁寧に一礼する。
「魔力やモンスターの生態について調べる、
「ソヴァーズ……?」
カイが聞き返すと、ノクスは小さく頷いた。
「ええ。魔力が自然や生き物にどのような影響を与えるのか、その仕組みを調べるのが私の仕事です。もっとも、まだまだ勉強中の身ですが」
ノクスは穏やかに微笑みながら続けた。
「以前から、ホームクラフト族が持つ独自の物作りの技術にも興味がありまして。魔鉱石と歯車を組み合わせた仕組みや、彼らにしか作れない精巧な道具など……ぜひ一度、この目で見てみたいと思っていたんです」
「なるほど。それで、この里に?」
「ええ。調査も兼ねて、しばらく滞在させていただいていたんですよ。皆さん、とても親切な方ばかりで、すっかりお世話になってしまいまして」
ノクスは少し照れくさそうに笑った。そして穏やかに頭を下げると、カイも応じるように笑みを浮かべた。
「ノクスよ。ちょうどよいところに来た」
それまで黙っていたコーグが口を開いた。
「こちらの者たちは、冒険者連盟から来てくれたのだ」
「……冒険者連盟から?」
「そうだ。失われた《追悼の織杖》を探す依頼を受けてくれた」
その言葉を聞いた瞬間、ノクスの表情がぱっと明るくなった。
「……そうでしたか!」
彼は胸に手を当て、大きく息を吐いた。
「それはよかった……。里の皆さんだけでは、もう探しようがないと聞いていましたから」
心底安心したような表情だった。
「これで、少しは希望が見えてきましたね」
「うむ。そう願いたいものだ」
コーグも静かに頷く。
すると、彼はカイたちに向き直った。
「カイ殿。このノクスは、先日のガルドーム襲撃から里を救ってくれた恩人なのだ」
「……えっ?」
俺は思わずノクスを見た。
「ガルドームから……?」
「そうだ。ノクスがいなければ、里の被害はさらに大きくなっていただろう」
「い、いえいえ! 救っただなんて、とんでもありません!」
ノクスは慌てたように両手を振った。
「私はただ、できることをしただけです。大したことは何も……」
「そんなことはありませんよ、ノクスさん」
今度はロプスが口を開いた。
穏やかな表情のまま、俺たちに説明してくれる。
「あの日、ガルドームが突然里に現れて、建物や水車を壊し始めたんです。僕たちでは、とても手に負えませんでした」
ロプスは少し表情を曇らせた。
「そんなとき、ノクスさんがガルドームの注意を引きつけて、里の外へ誘導してくれたんです」
「……一人で!?」
コットが目を丸くした。
「はい。おかげで僕たちは避難する時間を確保できました。本当に助かったんです」
「すごいじゃん、ノクスさん!」
「いえ、本当にそんな……!」
ノクスは困ったように笑った。
「正面から戦ったわけではありませんよ。私は戦闘が得意なわけではありませんから」
「じゃあ、どうやって?」
「ガルドームは、大きな音や強い光に反応する習性があるんです。そこで、持っていた魔鉱石を使って注意を引きつけました」
「魔鉱石で?」
「ええ。魔力を流すと強い光と甲高い音を放つ、研究用の小さな道具です」
ノクスは指先で、小さな石をつまむような仕草をした。
「なるほど……。そんな方法があるのか」
「もっとも、途中で何度も追いつかれそうになりましたが……」
「正直、今思い出しても足が震えますよ」
「なんとか森の中まで誘導したのですが、そこから先は逃げるだけで精一杯でした。岩陰に身を隠して、じっとしていたんです」
「……岩陰に?」
「はい。すぐ近くにガルドームがいたので、少しでも動けば見つかってしまうと思いまして」
ノクスは当時を思い出すように、小さく息を吐いた。
「どれほど時間が経ったのかも分かりませんでした。ですが、しばらくすると……別のモンスターが現れたんです」
「別のモンスター?」
「ええ」
ノクスは静かに頷いた。
「気流喰らい──ヴォルヒレです」
「……ヴォルヒレ?」
またしても、聞き覚えのない名前だった。
「どんなモンスターなの?」
「その名のとおり、大気中の空気を喰らうモンスターなんです」
「……空気を?」
「はい。ヴォルヒレは魚に似た姿をしているのですが、水の中ではなく、空を泳ぐんです」
「空を泳ぐ魚!?」
コットが驚いたように声を上げた。
「ええ。周囲の空気を取り込み、それをエネルギーに変えて推進力を生み出す。そうして、大気中を自在に泳ぎ回るんですよ」
「へぇ……そんなモンスターがいるのか」
カイは思わず空を泳ぐ魚の姿を想像した。
水のない空間を、まるで川の中のように泳ぎ回る。
「でも、どうしてそんなモンスターがガルドームの近くに?」
「……それが、私にも分からないんです」
ノクスの表情が、わずかに険しくなった。
「本来、ヴォルヒレがあのような場所に現れること自体、珍しいことなのですが……」
そこで、ノクスは言葉を止めた。
「……?」
「実は、そのとき現れたヴォルヒレには、ある異常が起きていたんです」
「異常?」
「はい」
ノクスはカイたちを見渡した。
「そのヴォルヒレは──アビス化していたんです。
「アビス化!?」
思わずコットが声を漏らした。
「ヴォルヒレは、ガルドームを見つけるなり襲いかかりました。空中を恐ろしい速さで泳ぎ回り、次々とガルドームを倒していったんです」
ノクスは当時を思い出すように、わずかに表情を曇らせた。
「ガルドームの頑丈な体も、ヴォルヒレの前では、まるで意味を成していませんでした」
「そんなに強いんだ……」
コットが不安そうに呟く。
話を聞くだけでも、相当危険な相手らしい。
「しかし……妙なのだ」
そこで、コーグが低い声を上げた。
「ヴォルヒレは、血の匂いを敏感に感じ取るモンスターだ。獲物が傷つき、血を流した場所へ集まる習性があると聞く」
「血の匂い……?」
カイが聞き返す。
コーグは険しい表情を浮かべた。
「うむ。だが、この辺りはもともとモンスターの数が少ない。縄張り争いもほとんど起きず、比較的穏やかな土地なのだ」
その言葉に、広間が静まり返る。
突然、里を襲ったガルドーム。
そのガルドームを襲った、アビス化したヴォルヒレ。
そして、消えた《追悼の織杖》。
(……何か、繋がってるのか?)
「実は、我々もガルドームの様子を調べようとしたのです」
今度はロプスが口を開いた。
「ガルドームが突然暴れ出した理由が分かれば、何か手掛かりが見つかるかもしれないと思いまして」
「それで、どうなったんですか?」
シアが尋ねる。
「ノクスさんから場所を聞いて、何人かで森の近くまで行ってみたんです。ですが……」
ロプスは困ったように眉を下げた。
「倒されたガルドームを見つける前に、ヴォルヒレらしきモンスターを見かけてしまったんです」
「ノクスさんから聞いていたように、アビス化していました。幸い、こちらには気づかれなかったので、すぐに引き返しましたが……」
ロプスは小さく息を吐いた。
「僕たちホームクラフト族は、物を作ることには自信があります。武器や防具だって作れます。でも、それを使って戦うとなると、話は別なんです」
「うむ」
コーグも頷いた。
「我らは武闘家ではない。ましてや、アビス化したモンスターが相手となれば、無闇に近づくわけにもいかん」
「なるほど……」
カイはしばらく考えたあと、顔を上げた。
「それなら……俺たちは、そのガルドームが倒れている場所へ行ってみます」
「なに……? あの森へ行くというのか?」
コーグは眉間に深い皺を寄せ、声を低くした。
「危険だぞ。アビス化したヴォルヒレが、まだその場にとどまっている可能性も高い。そんな危険な場所へ自ら向かうなど……」
「分かってます。でも、ガルドームがどうして突然里を襲ったのか。それに、《追悼の織杖》がなくなったことと関係があるのかも、まだ分かりません」
「だからこそ、何か手掛かりが見つかるかもしれない」
「うん! 私もそう思う!」
コットが勢いよく頷く。
「危険そうですが……わたくしも賛成です」
「ピュイッ!」
シアとシロも、カイの提案に同意した。
「……そうか」
コーグはしばらく考え込んだあと、静かに頷いた。
「それでしたら、私がご案内しましょう」
ノクスが一歩前に出た。
「えっ、ノクスさんが?」
「はい。ガルドームが倒された場所なら、大体の位置を覚えてますから。
ノクスは穏やかに微笑んだ。
「里の皆さんには大変お世話になっています。私にできることがあれば、何でも協力させてください」
「ありがとうございます。助かります!」
「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
ノクスが丁寧に頭を下げた、そのときだった。
「……僕も同行させてもらえませんか?」
声を上げたのはロプスだった。
「ロプスさんも?」
「はい。僕も現場の状況を、この目で確かめておきたいんです」
「……ロプス」
コーグが口を開いた。
「くれぐれも無茶はするなよ」
「はい。分かっています」
「何かあれば、すぐに引き返すのだ」
「もちろんです」
ロプスの返事を聞き、コーグは小さく頷いた。
そして、今度はカイに視線を向けた。
「それと、カイ殿」
「はい?」
「念のため、武器を持っていくとよい」
「……武器?」
「うむ。里には、我らが作った武器もある。必要ならば貸し出そう」
コーグはカイの姿を上から下まで見渡した。
そして、首元で視線を止める。
「さすがに……首にかけたタオルだけでは、心もとなかろう」
「…………」
ああ、なるほど。
そういうことか。
「いや、大丈夫ですよ」
カイは首にかけていた布丸を軽く持ち上げた。
「これが俺の武器なので」
「…………は?」
コーグが目を瞬かせた。
「……その、タオルが?」
「はい」
「武器……なのか?」
「はい。神器なんです」
「…………」
コーグは無言になった。
そして、ゆっくりとロプスへ視線を向ける。
ロプスもまた、何とも言えない表情でコーグを見返した。
二人の間に、妙な沈黙が流れる。
(……あれ? なんか、すごく心配されてないか?)
「あ、あの……カイくん」
ロプスが遠慮がちに口を開いた。
「本当に、それで大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。今までも、ずっとこれで戦ってきたので」
「そ、そうなんですね……」
ロプスは困ったように笑った。
「まあ……カイくんが大丈夫と言うなら、僕はそれでいいと思います」
「……うむ。本人がそう言うのであれば、無理にとは言わんが……」
コーグはまだ納得していない様子だった。
「くれぐれも、油断するでないぞ」
「はい。ありがとうございます!」
(まあ……普通、タオルが武器だなんて思わないよな)
カイは苦笑いしながら、布丸を首にかけ直した。
「それでは、行きましょうか」
ノクスが穏やかに声をかけた。
「森の入口までは、ここからそれほど遠くありません」
こうしてカイたちは、集会場を後にした。
歯車の音が響く里の道を抜け、山あいへと続く坂道を進んでいく。
やがて建物の数が少なくなり、目の前には鬱蒼とした森が広がり始めた。
木々の間を吹き抜ける風が、葉を静かに揺らしている。
そして、森の入口が見えてきた、そのときだった。
「……ん?」
カイは思わず足を止めた。
木々の隙間から、何かが見える。
目を凝らすと、そこには──
三つの人影が、カイたちを待ち構えるかのように立っていた。
《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態
/魔力吸収》
《限定スキル:雫裂・二式》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》