神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

24 / 24
第24話 奪われた神器と、消えゆく記憶

 

 あまりの言葉に思わず聞き返そうとしたカイだったが、リペットの真剣な眼差しに言葉を呑み込む。

 

「はい。大切な人と過ごした思い出や、長年大切にしていた物のこと。それから、誰かを想って作った物に込めた気持ちまで……。そういった記憶が、部分的に失われているんです」

 

「そんなことが……」

 

 カイは言葉を失った。

 

 物を作ることを何よりも大切にしているホームクラフト族。

 

 そんな彼らから、物に込めた想いや、大切な人との思い出が失われていく。

 

 それは、単に何かを忘れるというだけでは済まない話だ。

 

「でも……どうして、そんなことが起きるのでしょうか」

 

 シアが不安そうに尋ねる。

 

「もしかして、リペットさんも……?」

 

「……はい」

 

 リペットは小さく頷いた。

 

「私も、何かを忘れている気がするんです」

 

「何か……?」

 

「それが、自分でもよく分からなくて……」

 

 彼女は困ったように微笑むと、そっと胸元に手を当てた。

 

「普段どおりに暮らしているはずなのに、時々、胸がきゅっと苦しくなるんです」

 

「…………」

 

「何か、とても大切なものがあった気がするんです。でも、それが何だったのか、どうしても思い出せなくて……」

 

 リペットは少しだけ俯いた。

 

「まるで……大切な人が、いつの間にかいなくなってしまったような。そんな気がするんです」

 

 その声は、ひどく寂しげだった。

 

 大切なものを失ったことは分かる。

 

 けれど、何を失ったのかさえ分からない。

 

 そんな状態が、どれほど不安なものなのか。

 

「リペットさん……」

 

 シアが何か言いかけたが、その先の言葉は出てこなかった。

 

 コットも珍しく黙り込み、心配そうにリペットを見つめている。

 

「ピュゥ……」

 

 シロまで、どこか悲しそうな声を漏らした。

 

「……あっ!」

 

 不意に、リペットが顔を上げた。

 

「皆さん、着きました!」

 

 その声につられて、カイたちも前を向く。

 

「ここが、私たちホームクラフト族の集会場──『歯車の大広間』です!」

 

「おおっ……!」

 

 目の前にそびえていたのは、これまで見てきた建物とは一際異なる、巨大な建造物だった。

 

 渓谷の岩壁に沿うように建てられたその建物は、黒銀色の金属と深い赤褐色の木材で組み上げられている。

 

 正面には、巨大な歯車を模した円形の扉。

 

 その周囲には青白く輝く魔鉱石が等間隔に埋め込まれ、淡い光の筋が幾何学模様を描いていた。

 

 さらに建物の上部では、大小いくつもの歯車がゆっくりと回転している。

 

 カチリ、カチリ──。

 

 まるで巨大な時計の内部にいるような、規則正しい音が響いていた。

 

「ここでは、里の大切なことを話し合ったり、新しい技術を発表したりするんです」

 

「へぇ……。集会場まで、すごい造りだな」

 

「ふふっ。里のみんなで力を合わせて作った、自慢の建物なんですよ!」

 

 リペットが扉の横にある小さな装置へ手をかざす。

 

 すると、彼女の指先に浮かぶ測定ラインが淡く光った。

 

 カチャン! 

 

 装置の内部で歯車が噛み合う音がすると、巨大な扉がゆっくりと左右に開いていった。

 

「さあ、どうぞ!」

 

 カイたちはリペットに続き、建物の中へ足を踏み入れた。

 

 内部は天井が高く、円形の広間になっていた。

 

 壁には無数の歯車が組み込まれ、天井から吊るされた魔鉱石の灯りが、柔らかな光を広間全体に注いでいる。

 

 広間には二人の男が立っていた。

 

「統歯車様! 冒険者の皆さんをお連れしました!」

 

 リペットが声をかけると、二人がこちらを振り向いた。

 

 一人は、年老いた男性だった。

 

 短く整えられた銀灰色の髪に、きれいに切り揃えられた顎髭。

 

 深い皺が刻まれた顔には厳格な雰囲気が漂い、歯車の紋様を宿した鋭い瞳が、こちらをまっすぐに見据えている。

 

 黒鉄色の長衣には金色の細い装飾が施され、胸元にはいくつもの歯車を重ねた紋章が輝いていた。

 

 その隣に立つのは、対照的な雰囲気の若い男性。

 

 柔らかな赤銅色の髪を後ろで緩く束ね、穏やかな表情を浮かべている。

 

 袖をまくった作業着に革製のベスト。腰には使い込まれた工具がいくつも吊るされていた。

 

 手には細かな傷があり、普段から物作りに携わっていることがうかがえる。

 

「よく来てくれた」

 

 先に口を開いたのは、年老いた男性だった。

 

 低く、よく通る声が広間に響く。

 

「私が統歯車のコーグだ」

 

「そして、僕がロプス。大歯車(ランド・ギア)を務めています。遠いところを、ありがとうございます」

 

 ロプスと名乗った男性は、柔らかく微笑みながら頭を下げた。

 

(……ランドギア?)

 

 聞き慣れない役職にカイたちが首を傾げていると、リペットがそっと近づいてきた。

 

「大歯車は、統歯車に次ぐ立場の方なんです。里のみんなをまとめたり、統歯車様を支えたりする、とても大切な役職なんですよ」

 

「なるほど……」

 

 小声で教えてくれたリペットに、カイは頷いた。

 

「……リペット。案内、ご苦労だった」

 

「はい!」

 

 コーグの言葉に、リペットは背筋を伸ばして答えた。

 

 カイは一歩前に出る。

 

「冒険者連盟から来た、巻神カイです。こちらがコット、シア、それからシロです」

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いいたします」

 

「ピュイッ!」

 

「里で起こったことについては、リペットさんから聞きました。ガルドームの襲撃と、神器が盗まれたこと。それに……記憶を失っている人がいることも」

 

「……そうか」

 

 コーグの眉間に、深い皺が刻まれた。

 

「ならば、話は早い」

 

「我らが失った神器、《追悼の織杖》。あれは、数十年前からこの里を見守り続けてきた、かけがえのない宝だ」

 

「上位神器なんですよね?」

 

 カイが尋ねると、コーグは頷いた。

 

「そうだ。もっとも、今では本来の力の大部分が失われているがな」

 

「……力が?」

 

「うむ。神器は本来、使い手とともに力を発揮するもの。《追悼の織杖》も例外ではない」

 

 コーグは静かに続けた。

 

「本来の持ち主は、とうの昔にこの世を去っている。それでもなお、あの神器はわずかな力を残し、我らに恩恵を与え続けてくれていたのだ」

 

「持ち主がいなくなっても……」

 

 カイは思わず呟いた。

 

(そんなこともあるのか……)

 

 神器と使い手。

 

 その二つは切り離せないものだと思っていた。

 

 けれど、《追悼の織杖》は持ち主を失ってなお、何十年もの間、この里の人々を支えてきたという。

 

「その力が、物に込めた想いや思い出に関係しているんですね」

 

「そのとおりだ」

 

 コーグは重々しく頷いた。

 

「我らホームクラフト族は、物に想いを込める。誰かのために作り、壊れれば直し、次の世代へと受け継いでいく。《追悼の織杖》は、そうした想いを繋ぐ力を持っていた」

 

 そのとき、コットがおずおずと手を上げた。

 

「あの……一つ、聞いてもいいですか?」

 

「構わん。何だ?」

 

「コーグさんやロプスさんも……記憶がなくなったりしているんですか?」

 

 その問いに、広間が静まり返った。

 

「……ああ」

 

 コーグは短く答えた。

 

「私にも、どうしても思い出せぬことがある」

 

「コーグさんも……」

 

「何を忘れたのかさえ、はっきりとは分からん。ただ、思い返そうとすると……そこだけが、ぽっかりと抜け落ちているのだ」

 

 コーグは険しい表情のまま、握りしめた拳を見つめた。

 

「長く生きてきた。忘れることもあろう。だが……これは、そういうものではない」

 

 その声には、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。

 

「ロプスさんも?」

 

 コットが隣の男性へ視線を向ける。

 

「……はい」

 

 ロプスは困ったように微笑んだ。

 

「僕も、何か大切なものを忘れてしまった気がするんです」

 

「大切なもの……?」

 

「ええ。何か、とても温かいものがあったような……。思い出そうとすると、胸の奥が少し苦しくなるんです」

 

 ロプスは自分の胸元に手を当てた。

 

「でも、不思議ですよね。何を忘れたのかも分からないのに、それが大切だったことだけは、なぜか分かるんです」

 

「…………」

 

 その言葉に、俺は先ほどのリペットを思い出した。

 

 ──まるで、大切な人がいなくなってしまったような。

 

 彼女も、同じようなことを言っていた。

 

「……絶対に、見つけようね」

 

 コットが小さく呟いた。

 

「ああ」

 

 カイは頷いた。

 

 里の宝を取り戻す。

 

 それが今回の依頼だ。

 

 けれど、今はそれ以上に、彼らが失ってしまった大切なものを取り戻したいと思った。

 

 そのときだった。

 

「……ピュ?」

 

 シロが、何かに気づいたように勢いよく振り向いた。

 

 

 その視線の先。

 

 

 広間の入口に、一人の青年が立っていた。

 

「……おや?」

 

 青年はカイたちの視線に気づくと、少し驚いたように目を丸くした。

 

「ああ、すみません。驚かせてしまいましたね」

 

 そう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 年齢は二十代半ばくらいだろうか。

 

 落ち着いた灰色の髪をきれいに整え、細身の体には紺色の長衣をまとっている。

 

 いかにも真面目そうな、知的な雰囲気の青年だ。

 

「見慣れない方々がお見えになっていたので、つい気になってしまいまして」

 

 青年は穏やかに微笑んだ。

 

「あっ、申し遅れました。初めまして。僕はノクスと申します」

 

 胸元に手を添え、丁寧に一礼する。

 

「魔力やモンスターの生態について調べる、魔理究師(ソヴァーズ)として各地を巡っています」

 

「ソヴァーズ……?」

 

 カイが聞き返すと、ノクスは小さく頷いた。

 

「ええ。魔力が自然や生き物にどのような影響を与えるのか、その仕組みを調べるのが私の仕事です。もっとも、まだまだ勉強中の身ですが」

 

 ノクスは穏やかに微笑みながら続けた。 

 

「以前から、ホームクラフト族が持つ独自の物作りの技術にも興味がありまして。魔鉱石と歯車を組み合わせた仕組みや、彼らにしか作れない精巧な道具など……ぜひ一度、この目で見てみたいと思っていたんです」

 

「なるほど。それで、この里に?」

 

「ええ。調査も兼ねて、しばらく滞在させていただいていたんですよ。皆さん、とても親切な方ばかりで、すっかりお世話になってしまいまして」

 

 ノクスは少し照れくさそうに笑った。そして穏やかに頭を下げると、カイも応じるように笑みを浮かべた。

 

 

「ノクスよ。ちょうどよいところに来た」

 

 それまで黙っていたコーグが口を開いた。

 

「こちらの者たちは、冒険者連盟から来てくれたのだ」

 

「……冒険者連盟から?」

 

「そうだ。失われた《追悼の織杖》を探す依頼を受けてくれた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ノクスの表情がぱっと明るくなった。

 

「……そうでしたか!」

 

 彼は胸に手を当て、大きく息を吐いた。

 

「それはよかった……。里の皆さんだけでは、もう探しようがないと聞いていましたから」

 

 心底安心したような表情だった。

 

「これで、少しは希望が見えてきましたね」

 

「うむ。そう願いたいものだ」

 

 コーグも静かに頷く。

 

 すると、彼はカイたちに向き直った。

 

「カイ殿。このノクスは、先日のガルドーム襲撃から里を救ってくれた恩人なのだ」

 

「……えっ?」

 

 俺は思わずノクスを見た。

 

「ガルドームから……?」

 

「そうだ。ノクスがいなければ、里の被害はさらに大きくなっていただろう」

 

「い、いえいえ! 救っただなんて、とんでもありません!」

 

 ノクスは慌てたように両手を振った。

 

「私はただ、できることをしただけです。大したことは何も……」

 

「そんなことはありませんよ、ノクスさん」

 

 今度はロプスが口を開いた。

 

 穏やかな表情のまま、俺たちに説明してくれる。

 

「あの日、ガルドームが突然里に現れて、建物や水車を壊し始めたんです。僕たちでは、とても手に負えませんでした」

 

 ロプスは少し表情を曇らせた。

 

「そんなとき、ノクスさんがガルドームの注意を引きつけて、里の外へ誘導してくれたんです」

 

「……一人で!?」

 

 コットが目を丸くした。

 

「はい。おかげで僕たちは避難する時間を確保できました。本当に助かったんです」

 

「すごいじゃん、ノクスさん!」

 

「いえ、本当にそんな……!」

 

 ノクスは困ったように笑った。

 

「正面から戦ったわけではありませんよ。私は戦闘が得意なわけではありませんから」

 

「じゃあ、どうやって?」

 

「ガルドームは、大きな音や強い光に反応する習性があるんです。そこで、持っていた魔鉱石を使って注意を引きつけました」

 

「魔鉱石で?」

 

「ええ。魔力を流すと強い光と甲高い音を放つ、研究用の小さな道具です」

 

 ノクスは指先で、小さな石をつまむような仕草をした。

 

「なるほど……。そんな方法があるのか」

 

「もっとも、途中で何度も追いつかれそうになりましたが……」

 

「正直、今思い出しても足が震えますよ」

 

「なんとか森の中まで誘導したのですが、そこから先は逃げるだけで精一杯でした。岩陰に身を隠して、じっとしていたんです」

 

「……岩陰に?」

 

「はい。すぐ近くにガルドームがいたので、少しでも動けば見つかってしまうと思いまして」

 

 ノクスは当時を思い出すように、小さく息を吐いた。

 

「どれほど時間が経ったのかも分かりませんでした。ですが、しばらくすると……別のモンスターが現れたんです」

 

「別のモンスター?」

 

「ええ」

 

 ノクスは静かに頷いた。

 

「気流喰らい──ヴォルヒレです」

 

「……ヴォルヒレ?」

 

 またしても、聞き覚えのない名前だった。

 

「どんなモンスターなの?」

 

「その名のとおり、大気中の空気を喰らうモンスターなんです」

 

「……空気を?」

 

「はい。ヴォルヒレは魚に似た姿をしているのですが、水の中ではなく、空を泳ぐんです」

 

「空を泳ぐ魚!?」

 

 コットが驚いたように声を上げた。

 

「ええ。周囲の空気を取り込み、それをエネルギーに変えて推進力を生み出す。そうして、大気中を自在に泳ぎ回るんですよ」

 

「へぇ……そんなモンスターがいるのか」

 

 カイは思わず空を泳ぐ魚の姿を想像した。

 

 水のない空間を、まるで川の中のように泳ぎ回る。

 

「でも、どうしてそんなモンスターがガルドームの近くに?」

 

「……それが、私にも分からないんです」

 

 ノクスの表情が、わずかに険しくなった。

 

「本来、ヴォルヒレがあのような場所に現れること自体、珍しいことなのですが……」

 

 そこで、ノクスは言葉を止めた。

 

「……?」

 

「実は、そのとき現れたヴォルヒレには、ある異常が起きていたんです」

 

「異常?」

 

「はい」

 

 ノクスはカイたちを見渡した。

 

「そのヴォルヒレは──アビス化していたんです。

 

「アビス化!?」

 

 思わずコットが声を漏らした。

 

「ヴォルヒレは、ガルドームを見つけるなり襲いかかりました。空中を恐ろしい速さで泳ぎ回り、次々とガルドームを倒していったんです」

 

 ノクスは当時を思い出すように、わずかに表情を曇らせた。

 

「ガルドームの頑丈な体も、ヴォルヒレの前では、まるで意味を成していませんでした」

 

「そんなに強いんだ……」

 

 コットが不安そうに呟く。

 

 話を聞くだけでも、相当危険な相手らしい。

 

「しかし……妙なのだ」

 

 そこで、コーグが低い声を上げた。

 

「ヴォルヒレは、血の匂いを敏感に感じ取るモンスターだ。獲物が傷つき、血を流した場所へ集まる習性があると聞く」

 

「血の匂い……?」

 

 カイが聞き返す。

 

 コーグは険しい表情を浮かべた。

 

「うむ。だが、この辺りはもともとモンスターの数が少ない。縄張り争いもほとんど起きず、比較的穏やかな土地なのだ」

 

 その言葉に、広間が静まり返る。

 

 突然、里を襲ったガルドーム。

 

 そのガルドームを襲った、アビス化したヴォルヒレ。

 

 そして、消えた《追悼の織杖》。

 

(……何か、繋がってるのか?)

 

「実は、我々もガルドームの様子を調べようとしたのです」

 

 今度はロプスが口を開いた。

 

「ガルドームが突然暴れ出した理由が分かれば、何か手掛かりが見つかるかもしれないと思いまして」

 

「それで、どうなったんですか?」

 

 シアが尋ねる。

 

「ノクスさんから場所を聞いて、何人かで森の近くまで行ってみたんです。ですが……」

 

 ロプスは困ったように眉を下げた。

 

「倒されたガルドームを見つける前に、ヴォルヒレらしきモンスターを見かけてしまったんです」

 

「ノクスさんから聞いていたように、アビス化していました。幸い、こちらには気づかれなかったので、すぐに引き返しましたが……」

 

 ロプスは小さく息を吐いた。

 

「僕たちホームクラフト族は、物を作ることには自信があります。武器や防具だって作れます。でも、それを使って戦うとなると、話は別なんです」

 

「うむ」

 

 コーグも頷いた。

 

「我らは武闘家ではない。ましてや、アビス化したモンスターが相手となれば、無闇に近づくわけにもいかん」

 

「なるほど……」

 

 カイはしばらく考えたあと、顔を上げた。

 

 

「それなら……俺たちは、そのガルドームが倒れている場所へ行ってみます」

 

「なに……? あの森へ行くというのか?」

 

 コーグは眉間に深い皺を寄せ、声を低くした。

 

「危険だぞ。アビス化したヴォルヒレが、まだその場にとどまっている可能性も高い。そんな危険な場所へ自ら向かうなど……」

 

「分かってます。でも、ガルドームがどうして突然里を襲ったのか。それに、《追悼の織杖》がなくなったことと関係があるのかも、まだ分かりません」

 

「だからこそ、何か手掛かりが見つかるかもしれない」

 

「うん! 私もそう思う!」

 

 コットが勢いよく頷く。

 

「危険そうですが……わたくしも賛成です」

 

「ピュイッ!」

 

 シアとシロも、カイの提案に同意した。

 

「……そうか」

 

 コーグはしばらく考え込んだあと、静かに頷いた。

 

「それでしたら、私がご案内しましょう」

 

 ノクスが一歩前に出た。

 

「えっ、ノクスさんが?」

 

「はい。ガルドームが倒された場所なら、大体の位置を覚えてますから。

 

 ノクスは穏やかに微笑んだ。

 

「里の皆さんには大変お世話になっています。私にできることがあれば、何でも協力させてください」

 

「ありがとうございます。助かります!」

 

「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 ノクスが丁寧に頭を下げた、そのときだった。

 

「……僕も同行させてもらえませんか?」

 

 声を上げたのはロプスだった。

 

「ロプスさんも?」

 

「はい。僕も現場の状況を、この目で確かめておきたいんです」

 

「……ロプス」

 

 コーグが口を開いた。

 

「くれぐれも無茶はするなよ」

 

「はい。分かっています」

 

「何かあれば、すぐに引き返すのだ」

 

「もちろんです」

 

 ロプスの返事を聞き、コーグは小さく頷いた。

 

 そして、今度はカイに視線を向けた。

 

「それと、カイ殿」

 

「はい?」

 

「念のため、武器を持っていくとよい」

 

「……武器?」

 

「うむ。里には、我らが作った武器もある。必要ならば貸し出そう」

 

 コーグはカイの姿を上から下まで見渡した。

 

 そして、首元で視線を止める。

 

「さすがに……首にかけたタオルだけでは、心もとなかろう」

 

「…………」

 

 ああ、なるほど。

 

 そういうことか。

 

「いや、大丈夫ですよ」

 

 カイは首にかけていた布丸を軽く持ち上げた。

 

「これが俺の武器なので」

 

「…………は?」

 

 コーグが目を瞬かせた。

 

「……その、タオルが?」

 

「はい」

 

「武器……なのか?」

 

「はい。神器なんです」

 

「…………」

 

 コーグは無言になった。

 

 そして、ゆっくりとロプスへ視線を向ける。

 

 ロプスもまた、何とも言えない表情でコーグを見返した。

 

 二人の間に、妙な沈黙が流れる。

 

(……あれ? なんか、すごく心配されてないか?)

 

「あ、あの……カイくん」

 

 ロプスが遠慮がちに口を開いた。

 

「本当に、それで大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ですよ。今までも、ずっとこれで戦ってきたので」

 

「そ、そうなんですね……」

 

 ロプスは困ったように笑った。

 

「まあ……カイくんが大丈夫と言うなら、僕はそれでいいと思います」

 

「……うむ。本人がそう言うのであれば、無理にとは言わんが……」

 

 コーグはまだ納得していない様子だった。

 

「くれぐれも、油断するでないぞ」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

(まあ……普通、タオルが武器だなんて思わないよな)

 

 カイは苦笑いしながら、布丸を首にかけ直した。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 ノクスが穏やかに声をかけた。

 

「森の入口までは、ここからそれほど遠くありません」

 

 

 

 こうしてカイたちは、集会場を後にした。

 

 歯車の音が響く里の道を抜け、山あいへと続く坂道を進んでいく。

 

 やがて建物の数が少なくなり、目の前には鬱蒼とした森が広がり始めた。

 

 木々の間を吹き抜ける風が、葉を静かに揺らしている。

 

 そして、森の入口が見えてきた、そのときだった。

 

「……ん?」

 

 カイは思わず足を止めた。

 

 木々の隙間から、何かが見える。

 

 目を凝らすと、そこには──

 

 三つの人影が、カイたちを待ち構えるかのように立っていた。

 

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage 2 ー蒼錬布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態

 /魔力吸収》

《限定スキル:雫裂・二式》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~(作者:もちぎゅう)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

強制召喚されたみんなは凄い【戦闘スキル(せんとうスキル)】を授かっていたのだが、ヨシロウのスキルは……良く分からん【銭湯】スキルだったため、王城から追い出されてしまう。▼だが、日本で銭湯マニアだったヨシロウは、そのスキルの力を開花させて色んな銭湯を出しまくって自由気ままな異世界銭湯ライフを楽しみ始めるのだった。▼これは、番頭美少女セウがヒロインたちのあるゆる…


総合評価:76/評価:-.--/連載:40話/更新日時:2026年11月03日(火) 19:33 小説情報

TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!!(作者:燕目)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

その男は病弱系ヒロインというものを愛していた。▼今際の際までそんな存在になりたいとさえ思っていた。▼そんな男がTS転生したら?なるしかないだろ病弱系ヒロイン(健康体)に……!▼※折角キリが良いところまで書けたので他の作品と同じくカクヨムにも投げてみました。▼ まあ、メインはハーメルンなため今後もこっちが先行しますし、あっちを見る意味は特にないです。


総合評価:6267/評価:8.66/完結:26話/更新日時:2026年10月19日(月) 22:43 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>