神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第3話 特殊スキル

 

黒い霧のようなオーラをまとった狼型モンスターが、ゆっくり森の影から姿を現した。

 

 先ほどの狼型モンスター。

 だが大きさも気配も、まったく別物だった。

 

 黒い霧のようなオーラが全身からぼうっと立ち昇り、

 その瞳には“獲物”の光しかない。

 

 ――本能で分かる。さっきのとは、格が違う。

 

「……まじか。布丸でどうにか……なるのか?」

 

 俺は布丸を握る手に力を込める。

 

 普通のモンスターとは違う。

 “何かを喰って形を保っている”ような――そんな異質さが漂う。

 

「……布丸。行くぞ」

 

 俺は布丸を構え、【布界収納】から拳大の岩を取り出した。

 さっき倒した個体と同じ戦法でいけるはず――そう思った。

 

 だが。

 

 ――ガンッ!

 ――ガッ!

 

 岩を包んだ布丸で叩きつけても、黒いオーラが膜のように表面で弾く。

 

「は!? 効かねえの!?」

 

 逆に黒狼が影のような速度で踏み込み、鋭い爪が空気を裂いた。

 間一髪、転がって避ける。

 

「くそ……っ、もう避けるのもしんど……!」

 

 息が荒い。足が重い。

 狼の瞳だけが暗闇にギラリと光り、確実に俺を“殺しに”来ていた。

 

 爪が横一文字に振るわれ、肩をかすめる。

 熱い痛みが走り、体勢が崩れた。

 

(まずい……! 次は避けられ――)

 

 ザバァッ!

 

 地面の窪みの水を踏み抜き、俺も布丸も盛大に滑った。

 

「うぉッ!? 最悪のタイミングで!」

 

 泥水でぐっしょり濡れた布丸が腕にまとわりつく。

 

 その瞬間。

 

 《観測:布丸が水分を吸収。条件達成。》

 《限定スキル【雫裂(しずくざき)】発現。》

 《能力:雫裂=水分を鋭利な“水刃”として放つ。》

 

「……は?」

 

 濡れた布丸が、わずかに震えた。

 刃物のような冷たい気配が走る。

 

(いや、理屈はわからん。でも……今はやるしかねぇ!)

 

 黒狼が地を蹴る。

 殺意が風を切った。

 

「いけぇぇぇぇッ!!」

 

 濡れた布丸をしならせ、地面に吸わせるように振り抜いた。

 

「――雫裂ッ!」

 

 瞬間、布丸の先端から“水そのものが刃と化して”飛び出した。

 

 透明なのに光をまとう弧状の斬撃。

 空気を切り裂く尖った音。

 

 ――キィィィンッ!!

 

 黒霧の膜が抵抗し、たわみ、

 次の瞬間、音もなく裂けた。

 

「っ……!」

 

 水刃は狼の体を走り抜け、鋭い線を刻み、黒狼は地面に崩れ落ちた。

 

「……倒した……! 俺、倒したのか……!」

 

 膝が震える。

 濡れた布丸は、どこか誇らしげに光を反射していた。

 

 その時、

 

 《観測:闇エネルギーを感知。特殊スキルを自動生成。》

 《特殊スキル【黒喰(くろぐい)】【転換布癒(てんかんふゆ)】発現。》

 《黒喰=闇のエネルギーを吸収する。》

 《転換布癒=吸収した闇を微量の“回復エネルギー”に変換する。》

 

「なっ……特殊スキル……? なんでこんなに……!」

 

 布丸が黒狼の身体から立ち上る黒霧――“闇”を吸い込み始めた。

 

(こいつ……闇を吸収している? どういう……)

 

 思考が追いつかないまま、戦闘は終わった。

 

 ♦︎

 

 村人たちが震えながら近づいてきた。

 

「……よく、生きていたな……」

 

 村長は蒼白な顔で言う。

 

「あの黒いオーラは……わしらは“アビス”と呼んでおる。

 モンスターを異常に凶暴化させ……時には姿形すら変えてしまう」

 

「アビス……?」

 

「正体は誰も知らん。

 だが確実に……世界のどこかで“何か”が動き始めておる」

 

 村長は震える声で続ける。

 

「北の小都市ノクタニアへ行くといい。

 人も情報も集まる街だ。旅人には悪くない場所だろう」

 

「ありがとう。……行ってみるよ」

 

 布丸のこと。

 アビスのこと。

 そして――この世界で、自分がどう生きたいのか。

 

 歩きながら、カイはふと考える。

 

 ブラック企業で、感情を削りながら働き続けていた日々。

 唯一の癒しは、帰宅後に入る風呂だったこと。

 湯気に包まれた瞬間だけ、心が軽くなれたこと。

 

(……そうだ。俺は、誰かを癒せる場所を作りたい。

 俺が風呂に救われたみたいに……笑える場所を作りたい)

 

 胸の奥で、静かに、しかしはっきりと願いが形になる。

 

 カイは布丸を首にかけ、村を後にした。

 

 その時――

 

 サワ……と、森の奥で草が揺れた。

 

(……風、か?)

 

 そう思い、街道へ歩き出す。

 

 カイはまだ知らない。

 

 木陰の奥――

 薄闇の中で、複数の瞳が静かにこちらを覗いていたことに。

 

 そして。

 首にかかった『布丸』が、静かに、しかし脈打つように熱を帯び始めていることを。

 

 神々にも笑われた布切れが、間もなく【最初の真価】を爆発させる。

 

 

 ――第4話へ続く。

 

 《神器“布丸” ランク:Stage 0》

 《スキル:形態変化/伸縮自在/布界収納・極小》

 《限定スキル:雫裂》

 《特殊スキル:黒喰/転換布癒》

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