神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第4話 黒獅子、襲来

 

北へ続く街道を歩くカイの後ろで、草がカサリと揺れた。

 

「……つけられてるよな、これ」

 

 振り返った瞬間、息が止まった。

 最初に戦った狼型モンスター――その“群れ”が、森の影からぞろぞろと姿を現していた。

 十、二十……数えるだけ無駄だ。

 

(黒いオーラは無い。でも、この数は普通じゃねぇ!)

 

 カイは布丸を構え、収納から岩を引き出して振り払う。

 だが、飛びかかる狼の牙と爪が、じりじり防御を突破してくる。

 

「っ……危な……!」

 

 肩、腕、脇腹。

 裂ける痛みにカイは木陰へ転がり込んだ。

 

「やば……普通に死ぬだろこれ……!」

 

 そのとき、脳裏に浮かぶ一つの可能性。

 

(……《転換布癒》!)

 

 布丸を傷口に当てる。

 じわり、と温かい光が広がり――裂けた皮膚がゆっくり閉じていく。

 

「よかった……これ、ちゃんと回復するんだ……!」

 

 しかし、光の匂いを嗅ぎつけたのか、狼の群れが一斉に飛び込んできた。

 

「うわ待っ――!」

 

 ――ガキィン!

 

 鋭い金属音。

 カイの目の前を剣閃が横切り、狼を薙ぎ払った。

 

「大丈夫か!」

 

「街道で戦うな! ノクタニアへ急げ!」

 

 胸にノクタニアの紋章を刻んだ兵士たちが雪崩れ込む。

 彼らは手際よく狼を散らし、カイを囲んで街道を駆けた。

 

 ──ただし、この時のカイは気づいていない。

 

 狼の群れが後退したのは、

 “何か”から逃げるためであり――

 その“上位捕食者”が、静かに彼らを追ってきていることを。

 

 ◆

 

 ノクタニアの街に入るや否や、カイは治療所へ運ばれ、応急処置を受けた。

 

「最近、モンスターの動きが異様でな……おそらく闇の神器の――」

 

 兵士の説明が続く、その時だった。

 

 空気が、凍る。

 

「……感じるか? この、異質な気配……」

 

 街の広場で人々がざわめく。

 兵士たちは剣へそろそろと手を伸ばす。

 

 そして現れたのは――

 

 影そのものの獅子。

 

  全身は墨よりも黒く、黒い霧のようなオーラがゆらゆらと揺れる。

 

 胸に刻まれた黒紋が、鼓動に合わせるように妖しく脈打った。

 

 黒い円環の中心には、夜を閉じ込めたような漆黒の真円。その外縁からは、炎とも棘ともつかぬ鋭い閃光が幾重にも放射し、まるで漆黒の太陽が胸に刻み込まれているかのようだった。

 

 見ているだけで胸の奥がざわつく。

 

「……なんだ、あれは――」

 

 言葉が終わるより早く、

 

 黒獅子が動いた。

 

 ドォンッ!!

 

 踏み込んだ大地が砕け、石畳が弾け飛ぶ。

 

 黒い稲妻が爆ぜると同時に、前衛の兵士たちは紙切れのように宙へと吹き飛ばされた。

 

 「雷まで使うのかよっ!? 反則だろ!」

 

 カイも布丸を握る。

 だが――

 

 「……水がねぇと《雫裂》が使えねぇ……!」

 

 焦る視界の中で、倒れ込む母親と、その足元で震える小さな子どもが見えた。

 

 黒獅子がゆっくりと、しかし確実に親子へ向かう。

 

(間に合わない……

 また、俺は……見てるだけなのか)

 

 脳裏に浮かぶのは、現実世界で諦め続けていた自分。

 感情を殺し、望みもなく、ただ流されて生きていた日々。

 

(……もう、やめだ)

 

 カイは歯を食いしばり――叫んだ。

 

「俺は――もう逃げたくない!!」

 

 その瞬間。

 

 胸の奥で何かが爆ぜ、布丸が熱を帯びた。

 

 《観測:黒紋体との遭遇。逃避傾向の消失を感知。立ち向かう闘志を確認。Stage昇格条件達成》

 

 

 

 《 Stage1 ―流布(りゅうふ)― 到達 》

 

 

 

 黒獅子の咆哮が響き、街が震える。

 

 ―――カイと布丸の力が、ついに“覚醒”を始める。

 

 

 ーーー第5話へ続くーーー

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