神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第7話 ウィンディア族の少女

 東方街道を抜けた先に現れたのは──

 

 赤・黄・橙。

 彩度の高い暖色で塗られた家々が並ぶ、温かな光に満ちた街。

 

 ここが、中都市セレンティア。

 

 料理の香ばしい匂い。

 商人たちの威勢のいい声。

 露店の湯気と、甘い果物の香り。

 

 “人が生きている”熱がそのまま街に溢れていた。

 

「おお……今までで一番にぎやかだな」

 

 感嘆するカイの頭の上で、シロがころりと寝返りを打つ。

 

 その瞬間──

 

「そこのお兄さーん! ストップ──ッ!!」

 

 軽い風切り音。

 赤い影が、横から弾丸のように飛び込んできた。

 

「わっ!? うわああっ!?」

 

 カイは少女に押し飛ばされ、屋台の裏へ転がり込む。

 

 ドガァン!! 

 

 直後、頭上に巨大な荷物が落下した。

 

 危うく直撃だった。

 

「ふぅ~、間に合った! よかったぁ!」

 

 カイが見上げると、

 赤髪を高めのポニーテールに束ねた少女が笑っていた。

 

 風色の光をまとった、小さな半透明の羽が肩でふわふわ浮いている。

 

「い、今の……ありがとう。助かった」

 

 少女は胸を張って名乗った。

 

「私はコット! ウィンディア族!」

 

「俺はカイだけど……その羽、もしかして神器?」

 

「ああ、これ? これは《ウィンドリン》! 

 風の“流れ”を読むのが得意で、ウィンディア族の象徴なの!」

 

 確かに、落下物を察知した速度は異常だった。

 

 そして、コットの視線がふと止まる。

 

「……ねぇ、その布……神器でしょ!!」

 

「え!? なんで分かるんだよ!」

 

「匂い! ウィンディア族は“気の流れから漂う匂い”で神器を判別できるの!」

 

「匂いで神器を見抜く能力!? そんなのあるの!?」

 

 コットは布丸を覗き込み、テンションが爆上がりした。

 

「すっご……! これ、めちゃくちゃ“癒しの匂い”を出してるよ! 

 こんなの初めて嗅いだ!」

 

「実は、私も持ってるんだ!」

 

 ポーチから取り出したのは──銀色のスプーン。

 スプーンの皿の部分には微細な魔法陣が刻まれている。

 

「《香泉(レイドル)(スプーン)》っていう下位神器!」

 

 スプーンの先端が光り、柔らかな花の香りが広がる。

 

「能力はね! 

 

 料理の香りを最大化! 

 素材の“気”を読み取る! 

 おまけに軽い浄化もできる!」

 ……っていう、最強の万能スプーンだよ!!」

 

「いや説明しっかりしすぎだろ!? 

 しかも便利すぎる!!」

 

「下位でも使い方次第だよ! 誇れる神器なの!」

 

 コットは鼻をならしてニコッと笑う。

 その純粋な自信が、なんとも眩しい。

 

「それに、あなたの頭の上にいるモンスターはお友達!? すっっごいかわいい!」

 

「ああ、シロっていうんだ」

 

「ピュイッ!!」

 シロは誇らしげに鳴いた。

 

 ──と、そこへ怒声が響いた。

 

「あーあ……また始まった。

 ギルドの調査班と、街の用心棒を担うベリオスのケンカだよ」

 

 見れば、ギルド調査員たちは腐敗霧の調査で苛立ち、

 周囲の商人に“情報を出せ”と横暴に迫っていた。

 

 一方で、用心棒のベリオスは寡黙な大男。

 ひと目で“いい人”とわかるほどの真っ直ぐな眼をしている。

 

「ベリオスは街を守りたいだけなんだけど……

 ギルドが横柄すぎて、毎回衝突するんだよね」

 

 カイが「どうする?」と聞く前に──

 

「よし! 止めに行こっ!」

 

「いや早いって!!」

 

「困ってる人は放っておけない! これがウィンディア流!」

 

 言うが早いか、コットは風のような速度で飛び出した。

 

 赤いポニーテールが弾み、

 半透明のウィンドリンがきらりと光る。

 

 シロがカイの頭でぐらりと揺れながら鳴いた。

 

「……ああもう! 行くなら俺も行く!」

 

 カイも走り出す。

 人混みをかき分けながら、コットの後を追った。

 

 

 

 

 ♦︎

 ──その頃、とある一室。

 

 黒い水面のような床が静かに波紋を広げる薄闇の部屋。

 

 ガラクは指を弾き、唇の端を吊り上げた。

 

「随分と機嫌が良さそうですね、ガラクさん」

 

 壁にもたれるようにして、男が一人立っていた。

 

 その背には、男の身長すらも上回る巨大な大剣が背負われている

 

 だが、最も異様なのは男自身ではなかった。

 

 その肩口をふわふわと漂う、小さな黒い影。

 

 竜のような姿をしたそれは、闇そのものを纏うように身体を揺らしながら、男の周囲をゆっくりと旋回している。

 

 時折、その小さな翼が羽ばたくたび、黒い靄が薄く尾を引いた。

 

 獣のような目をした男──ガラクは、わざとらしく肩をすくめた。

 

「最近な。“新しいペット”を仕込んだんだよ」

 

「……また妙なものに手を出したんですか」

 

 ガラクの声が愉快そうに低く震える。

 

「……“俺の力”を少し与えてやったのさ」

「今じゃ──もともとの力に加えて腐敗霧を生み、操る“上等の怪物”に化けた」

 

「……相変わらず、趣味が悪いですね」

 

「そういう変化を見るのが何より楽しいんだよ。

 自分の手で世界を腐らせる“道具”を育てるのはな」

 

「それで? そいつはどこに?」

 

 ガラクはすぐには答えなかった。

 

 ただ、ゆっくりと笑みを深める。

 

「……さあな」

 

 その声には、隠しきれない愉悦が滲んでいた。

 

 黒い影が床の水面に滲み、世界が静かに歪んだ。

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態》

《限定スキル:雫裂》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

 

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