神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー 作:maiboo
東方街道を抜けた先に現れたのは──
赤・黄・橙。
彩度の高い暖色で塗られた家々が並ぶ、温かな光に満ちた街。
ここが、中都市セレンティア。
料理の香ばしい匂い。
商人たちの威勢のいい声。
露店の湯気と、甘い果物の香り。
“人が生きている”熱がそのまま街に溢れていた。
「おお……今までで一番にぎやかだな」
感嘆するカイの頭の上で、シロがころりと寝返りを打つ。
その瞬間──
「そこのお兄さーん! ストップ──ッ!!」
軽い風切り音。
赤い影が、横から弾丸のように飛び込んできた。
「わっ!? うわああっ!?」
カイは少女に押し飛ばされ、屋台の裏へ転がり込む。
ドガァン!!
直後、頭上に巨大な荷物が落下した。
危うく直撃だった。
「ふぅ~、間に合った! よかったぁ!」
カイが見上げると、
赤髪を高めのポニーテールに束ねた少女が笑っていた。
風色の光をまとった、小さな半透明の羽が肩でふわふわ浮いている。
「い、今の……ありがとう。助かった」
少女は胸を張って名乗った。
「私はコット! ウィンディア族!」
「俺はカイだけど……その羽、もしかして神器?」
「ああ、これ? これは《ウィンドリン》!
風の“流れ”を読むのが得意で、ウィンディア族の象徴なの!」
確かに、落下物を察知した速度は異常だった。
そして、コットの視線がふと止まる。
「……ねぇ、その布……神器でしょ!!」
「え!? なんで分かるんだよ!」
「匂い! ウィンディア族は“気の流れから漂う匂い”で神器を判別できるの!」
「匂いで神器を見抜く能力!? そんなのあるの!?」
コットは布丸を覗き込み、テンションが爆上がりした。
「すっご……! これ、めちゃくちゃ“癒しの匂い”を出してるよ!
こんなの初めて嗅いだ!」
「実は、私も持ってるんだ!」
ポーチから取り出したのは──銀色のスプーン。
スプーンの皿の部分には微細な魔法陣が刻まれている。
「《
スプーンの先端が光り、柔らかな花の香りが広がる。
「能力はね!
料理の香りを最大化!
素材の“気”を読み取る!
おまけに軽い浄化もできる!」
……っていう、最強の万能スプーンだよ!!」
「いや説明しっかりしすぎだろ!?
しかも便利すぎる!!」
「下位でも使い方次第だよ! 誇れる神器なの!」
コットは鼻をならしてニコッと笑う。
その純粋な自信が、なんとも眩しい。
「それに、あなたの頭の上にいるモンスターはお友達!? すっっごいかわいい!」
「ああ、シロっていうんだ」
「ピュイッ!!」
シロは誇らしげに鳴いた。
──と、そこへ怒声が響いた。
「あーあ……また始まった。
ギルドの調査班と、街の用心棒を担うベリオスのケンカだよ」
見れば、ギルド調査員たちは腐敗霧の調査で苛立ち、
周囲の商人に“情報を出せ”と横暴に迫っていた。
一方で、用心棒のベリオスは寡黙な大男。
ひと目で“いい人”とわかるほどの真っ直ぐな眼をしている。
「ベリオスは街を守りたいだけなんだけど……
ギルドが横柄すぎて、毎回衝突するんだよね」
カイが「どうする?」と聞く前に──
「よし! 止めに行こっ!」
「いや早いって!!」
「困ってる人は放っておけない! これがウィンディア流!」
言うが早いか、コットは風のような速度で飛び出した。
赤いポニーテールが弾み、
半透明のウィンドリンがきらりと光る。
シロがカイの頭でぐらりと揺れながら鳴いた。
「……ああもう! 行くなら俺も行く!」
カイも走り出す。
人混みをかき分けながら、コットの後を追った。
♦︎
──その頃、とある一室。
黒い水面のような床が静かに波紋を広げる薄闇の部屋。
ガラクは指を弾き、唇の端を吊り上げた。
「随分と機嫌が良さそうですね、ガラクさん」
壁にもたれるようにして、男が一人立っていた。
その背には、男の身長すらも上回る巨大な大剣が背負われている
だが、最も異様なのは男自身ではなかった。
その肩口をふわふわと漂う、小さな黒い影。
竜のような姿をしたそれは、闇そのものを纏うように身体を揺らしながら、男の周囲をゆっくりと旋回している。
時折、その小さな翼が羽ばたくたび、黒い靄が薄く尾を引いた。
獣のような目をした男──ガラクは、わざとらしく肩をすくめた。
「最近な。“新しいペット”を仕込んだんだよ」
「……また妙なものに手を出したんですか」
ガラクの声が愉快そうに低く震える。
「……“俺の力”を少し与えてやったのさ」
「今じゃ──もともとの力に加えて腐敗霧を生み、操る“上等の怪物”に化けた」
「……相変わらず、趣味が悪いですね」
「そういう変化を見るのが何より楽しいんだよ。
自分の手で世界を腐らせる“道具”を育てるのはな」
「それで? そいつはどこに?」
ガラクはすぐには答えなかった。
ただ、ゆっくりと笑みを深める。
「……さあな」
その声には、隠しきれない愉悦が滲んでいた。
黒い影が床の水面に滲み、世界が静かに歪んだ。
《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態》
《限定スキル:雫裂》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》