神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー 作:maiboo
「おい、どけよ用心棒。ここはギルドが管理してんだ」
金色の三本刃が夕日を裂いた。
レヨンが肩に担ぐ中位神器——
《
三本の湾曲刃がかすかに赤光を瞬かせ、まるで喉を鳴らす猛獣のようだ。
対するベリオスは、表情ひとつ変えず巨盾を構える。
盾の縁は陽炎のようにゆらめき、熱を孕む赤い鉄板——
中位神器 《
「この通りは市場の避難路だ。ギルドによる占拠は許可されていない」
静かな声だが、鋼の芯があった。
「中位同士でも、俺の方が格上だろ。盾振り回すだけの雑魚に指図される筋合いねーよ?」
周囲の空気が、ぴり、と張り詰めた。
空気が一気に悪化し、周囲がざわつく。
その瞬間——
「待って待って待って! ここ街のど真ん中!!」
風のようにコットが割って入り、半透明のウィンドリンが怒ったみたいに羽を震わせた。
「……なんだお前?」
レヨンが眉をしかめてコットを見る。
続けて、ニヤつきながらカイへ視線を向けた。
「で、隣のお前……その首の布……バスタオル? これから風呂でも行くのか?」
ニムとテンが「ははっ」とつられて笑う。
「え? あ、これ? 一応、神器だけど……」
「はァ? これが?」
「いやタオルじゃん」
「ランクは?」
「……下位だけど」
カイが正直に答えると、3人の顔に“ほらやっぱり”と書いてあった。
「でも、最近ステージ1になったんだ。
……ランクは下位でも、成長してるっていうか……」
「……は?」
レヨンが瞬きする。
「ステージ?」
「なにそれ?」
「下位神器にそんなシステムねーだろ」
ニムが細身の曲刃のナイフ——
下位神器《
刃が振られるたび、空気がちりっと震えて切られていく鋭さ。
テンは長さ150センチはありそうな巨大なヘラのような下位神器《
「神器って言うには地味すぎない?」
バカにされたカイが固まるより早く——
「カイのタオルはほんとの神器!!」
コットが即座に怒鳴り返す。
するとテンが鼻で笑い、シロを指さした。
「まあ、困ったらそのチビの可愛いモンスターに守ってもらえば? 可愛く“がお〜”ってよ!」
「ピュイー!!」
シロは全力で威嚇したが、3人は鼻で笑っていた。
「あんた達……ほんと最低!」
コットがむすっと頬を膨らませた。
その時だった。
レヨンが空を見上げる。
「……チッ。霧が来てる。もう夕方かよ」
見ると、街の端から白い薄霧がじわじわ広がっている。
触れた果物の表面が——じわり……黒く腐り始めた。
ざわっ、と市場の人々が悲鳴を上げる。
(これが……夜に街を襲う腐敗霧……)
ここ、セレンティアは本来——
「夜に本番を迎える食と商の街」
──のはずだった。
だが今は、
腐敗霧のせいで、
夜の灯りが消えた。
酒場は昼まで、露店は早じまい。
笑い声も、香りも、賑わいも……失われつつある。
ベリオスが低く呟く。
「今は争う時ではない。腐敗霧への対応が先だ」
「ハァ……やってらんねぇ。行くぞ、ニム、テン」
ギルドの3人はしぶしぶ通りを離れた。
夕陽が沈みきる前に、霧はさらに濃くなる。
コットはカイの袖を引っ張った。
「カイ、今日はありがと! 明日、絶対うちの店に来て! ぜーったい!」
ウィンドリンが嬉しそうにキラキラ舞い、
シロが「ピュイッ!」と返事する。
カイは笑い返した。
霧がゆっくり街を包み込み、
セレンティアの夕空が霞んでいく——。
──翌日の正午
「……ッ! 霧だ!」
誰かの声が上がり、商通りのざわめきがふっと弱まる。
空はまだ明るく、太陽の光が石畳に反射している。
本来、腐敗霧は“夜だけ”現れるもの──
それは街の者なら誰でも知る常識だ。
だが今──
通りの向こうで、白く淡い霧がゆっくりと立ち昇り、
まるで迷い雲のように広がりながらこちらへ流れてきていた。
(昼間に霧……? こんなの、聞いたことがない)
露店の果物がひとつ、霧の端に触れた瞬間──
じんわりと色が鈍り、皮がしんなりと萎んだ。
明らかに“普通の霧ではない”と分かる変化だった。
「触ると傷むのか……?」
「危ないぞ、子どもは下がれ!」
通りの空気がざわつき、警戒の声があがる。
悲鳴というより、困惑と緊張が混ざり合ったざわめきだ。
抱っこされた幼い子の手が霧にかすり、母親が慌てて引き寄せる。
「つめた……」
指先が少し灰色がかる。
「やっぱり“腐敗霧”だな。……外を歩くのはやめておけ!」
呼びかける用心棒の声に、人々は店内や路地へ避難していく。
そんな中、
バタバタと慌ただしい足音が詰め所に飛び込んできた。
コットの店の若い従業員だった。
「ベリオスさんっ! 相談が……!」
「どうした?」
帳簿を見ていたベリオスがすぐに立ち上がる。
「コットちゃんが……薬草取りに森へ行ったきりで、戻ってこないんです。
昼に霧が出るなんて、予想外で……!」
「……なるほど」
ベリオスの眉が深く寄る。
「森の方は、街より霧の濃度が高い。
濃霧に長く触れれば、体内の水分や体力が急速に奪われる。長時間耐えられる場所じゃない」
従業員の顔が不安で歪む。
「じゃあ……コットちゃんは……?」
ベリオスは答えず、背中に手を回す。
空気がわずかに揺れ、《陽炎の盾》が展開された。
縁が陽炎のようにゆらめき、熱を帯びた空気の揺らぎが走る。
「俺が行く。霧が深くなる前に見つける」
その言葉は短く、しかし揺るぎない。
従業員は胸を撫で下ろし、深く頭を下げた。
森の木々の間に、昼にはあり得ない白い霧が漂っていた。
(昼に霧って……おかしいよ。早く薬草だけ取って戻らなきゃ)
コットは小さなカゴを抱え、足早に森の外縁を進む。
だが──
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
「……っ、なんか、息が……重い……?」
霧を吸った瞬間、体の内側がじんわり冷えた。
体力がゆっくり抜けていくような不思議な感覚。
指先が少しだけ灰色にかすむ。
「や、やだ……これ……腐敗霧……?」
歩みを速めようとした時──
足がもつれ、その場に膝をついた。
「うそ……力が……っ」
周囲の霧が、まるでゆっくり近寄ってくる生き物みたいに濃くなっていく。
鋭い声が霧の奥から響き、
次の瞬間、ベリオスが《陽炎の盾》を構え、コットの前へ飛び込んだ。熱を帯びた風が森を切り裂く。
盾の縁が陽炎のようにゆらめき、周囲の霧を押し返す。
「遅れてすまない。動けるか?」
「べ、ベリオスさん……っ」
コットの呼吸が少しずつ楽になっていく。
ベリオスはそっと肩を支え、
(やはり……この霧、いつもより濃い)
彼は鋭く森の奥を睨む。
「おーい! 先に来んじゃねーぞ用心棒ッ!」
ズドドドッと、騒がしい足音が続く。
レヨン、ニム、テンの三人が息を切らしながら駆け込んできた。
「霧の調査って聞いて来たんだよ!」
「ってかこの霧、思ってたより濃くね!?」
「うわ、指先なんか冷た……てか森こえぇ……!」
その時だった。
森の奥で、
“ずるり” と何かが動く気配があった。
白い霧の向こう、
かすかに 影のようなシルエット が揺れる。
「……動いてる……あれ、モンスター?」
「霧を、まとってる……?」
レヨンが声を低くした。
霧がゆっくり割れ、
『見られている』としか思えない視線が走る。
背筋を冷たいものが撫でた。
ベリオスが身構える。
「……いるな。霧を操る“何か”が」
《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態》
《限定スキル:雫裂》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》