神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー   作:maiboo

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第9話 「間に合った。……それだけで十分だ」

 

旅人用の簡易宿で目を覚ましたカイは、天井をぼんやり見つめながら、

 昨日レヨンに言われた言葉を思い返していた。

 

『Stage? 下位神器にそんなシステムねーだろ』

 

 あの時の、ギルドの冷たい笑い声。

 表面上は気にしていないふりをしたが──

 布丸を握る手だけは、今も小さく震えていた。

 

(……他の神器とは違うのか? 。俺の“布丸”だけが)

 

 

 そんな時、外から妙なざわめきが聞こえた。

 

「……? なんか騒がしいな」

 

 外へ出ると、通りの向こうで人々が空を指さしていた。

 

「見たか!? さっきの霧──!」

「昼間に出るなんて聞いたことねぇぞ!」

 

 白い霧がゆっくり街に迫っている。

 昼のはずなのに、影が薄く揺れるような不穏さがあった。

 

(まさか……腐敗霧?)

 

 胸が、きゅ、と強く締めつけられる。

 

(コット……今日は店に来て、って……)

 

 嫌な予感が、息を吸うより速く体を突き動かした。

 カイは駆け出した。

 

 

 コットの店は、従業員が慌ただしく店じまいをしていた。

 焦った顔ばかりで、ただ事ではないのが一瞬で分かる。

 

「あの……コットは!?」

 

「コットちゃんなら……森に薬草を取りに行ったまま、戻ってないの」

 

「……え?」

 

 胸の奥が、冷たい霧に触れたみたいにすっと冷えた。

 

(腐敗霧が出た。

 そのタイミングで……森?)

 

 最悪の組み合わせだった。

 

 その時──

 

「シロ……?」

 

 普段、ぽやぽやしている白い身体が、小刻みに震えている。

 

 ──キュウッ! 

 

 どこか“遠くの一点”を睨みつけているようだった。

 

 空気が、ひどく重く沈んだ。

 

(森の奥で──“霧の源”が動いてる?)

 

 とっさに胸へ答えが落ちてくる。

 

「……っ、シロ! 行くぞ!」

 

 言葉より先に身体が動いていた。

 布丸を握り直し、全速力で森へ向かう。

 

 人影がなくなった瞬間、

 シロは一気に“本来の姿”へと変わった。

 

 白雷を抱く獣のような、白獅子の姿。

 

「頼む、走ってくれ!」

 

 シロは力強く地を蹴り、森へ向けて駆け出す。

 カイはその背にまたがり、風を切るように飛ぶ。

 

 霧は、確実に濃くなっていた。

 

 

 

 ──ーその頃、森では。

 

 風さえ通らない濃霧の森。

 木々の陰で、〝なにか〟が走り抜けたような音だけが静寂を裂いた。

 

「……位置が分からない……っ」

 

 レヨンは魔力で気配を探るが、霧が濃すぎて、輪郭すら掴めない。

 

 ──ザシュッ! 

 

 横合いから伸びた黒い線が、コットの頬をかすめた。

 

「ひ……っ!」

 

「下がれ、コット!」

 

 ベリオスが前へ飛び出す。

《陽炎の盾》がゆらりと揺れ、周囲の空気を波打たせた。

 

 霧の刃が盾に触れた瞬間、

 歪む熱気によって、斬撃の形がそのまま“はじけ飛ぶ”。

 

「……やっぱりだ。“霧そのもの”を操ってる。普通の魔物の領域じゃない」

 

 濃霧の冷気が首筋を撫でる。

 

「このまま隠れてる敵を相手にしても埒が明かん……」

 

 ベリオスは低く息を吸い込む。

 

「……押し切るぞ。視界を無理やり開ける!」

 

「行くのか、ベリオス!?」

 

「ああ! 大きく弾く!」

 

 炎の渦が盾の前に収束し、熱が森を染める。

 

「《陽炎断層(カゲロウ・ブレイク)》ッ!」

 

 轟ッ!! 

 

 盾から放たれた炎と爆風が、一帯を薙ぎ払った。

 

 同時に──

 霧の奥で“何か”が渦を巻き、圧縮され、

 濃霧の塊が弾丸のように放たれる。

 

 ──ゴァァァァァ!! 

 

 大技同士の衝突。

 衝撃で木々がしなり、白霧が一気に吹き飛んだ。

 

 ──ゆらり。

 

 白い霧の帳が開く。

 そこに、ずっと揺れていた“影”が輪郭を得た。

 

 赤く光る瞳。

 青く凍る瞳。

 そして──

 霧のような白光を宿した、《第三の頭》。

 

「炎氷魔蛇デラパイゾン……? でも頭が三つ……?」

 レヨンが息を呑む。

 

「デラパイゾンの頭って、本来“炎”と“氷”の二つだけだろ……?」

 ニムの声が震える。

 

 炎と氷の二頭を持つ魔蛇──それが常識。

 

 だが現れたのは、

 

 ・炎の瞳

 ・氷の瞳

 ・霧の瞳

 

 三つの首を持つ異形。

 

 さらに体表は黒く硬質化し、胸部には脈動する黒紋が走る。

 尾は左右に二つへ裂け、地面を叩くたび土が跳ねた。

 

「嘘……なんなの、あれ……!」

 コットが息を呑む。

 

「……変質してる……? いくら黒紋化しているとはいえ……あんな姿、記録にもないぞ……」

 

 ベリオスの額に汗が滲む。

 

 

 その瞬間──

 

「ッッ!?」

 

 デラパイゾンの第三の頭が吐いたのは、

 炎でも氷でもなく——霧の爆弾。

 

「来るぞ!!」

 ベリオスが叫ぶ。

 霧の攻撃を盾で防ぐベリオス。

 

 その直後——

 

 ズバァァッ!!! 

 ドゴッ!! 

 

 三方向から影が同時に襲う。

 

「分身……!? 霧の中に同じ形が複数……!」

 

 レヨンは三刃を肩で回し、

「《火裂き三刃》、燃やせッ!」

 刃の隙間に赤い炎が走り、うねりながら勢いを増す。

 

「燃えろォッ!!」

 

 炎纏う三連斬が霧を裂いた。

 影の一体が溶けるように散るが、それは本物ではない。

 

「くそッ、分身かよ!」

 

 ニムは動く影に向かって踏み込み、

《風切りナイフ》を弾丸のように振った。

 

「《風斬(ウィンド・スプレット)》!」

 

 風が線になって走り、

 本体らしき影の首をかすめる。

 

 だが、すぐさま霧が補充され、元に戻る。

 

「速ぇし、やっかいな能力だ! ……マジでなんなんだコイツ!」

 

 

 テンが大ヘラを地面に叩き込む。

 

「おりゃァッ!!」

 

 どん! と強烈な振動が走り、

 土が波のように隆起して衝撃波となって走る。

 

 一体の分身が霧散するが——

 

「まだいる……!」

 テンの頬に冷気が走り、氷の頭が間近に迫る。

 

「うおおおっ!? 冷たッ!」

 

 コットが香りの流れで敵の“質”を読む。

 

(本物は──焦げの匂いと氷の匂いが、わずかに混ざって……)

 

「レヨンさん、左下っ! 本物はそこ!」

 

「助かった!! ……って、礼なんか言っちまった!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

 だが、息つく間もなく攻撃の波が押し寄せてくる。

 

 炎頭が吐く灼熱の炎。

 氷頭が放つ凍てつく冷気。

 

「まとめて受ける……!」

 

 ベリオスは《陽炎の盾》を前に突き出した。

 

 炎と氷がぶつかる中、

 盾の揺らぎが吸収し、熱量と冷気が盾の中心へ集まっていく。

 

「まだ……だ……! 吸え……!」

 

 盾が赤と青の光を蓄え、縁が激しく震えた。

 

「《反陽衝(リバース・フレア)》——ッ!!」

 

 溜め込んだ熱と氷を衝撃波に変換し、

 デラパイゾン本体へ叩きつけた。 

 だが、鎧のような鱗に覆われた体には多少の傷が入る程度だった。

 

 三つの頭が咆哮を上げ、

 炎・氷・霧の三方向からの同時攻撃が襲いかかる。

 

 炎が森を燃やし、

 氷が空気を凍らせ、

 霧が視界を奪い、分身、爆撃を生み出す。

 

「くっ……!!」

「攻撃が読めねぇ!!」

「このままじゃ……!」

 

 霧で呼吸が重くなり始め、足元がふらついてくる。

 ベリオスの盾が揺らぎ、ひびのような光が走る。

 

(耐えきれない……!?)

 

 コットが叫ぶ。

 

「ベリオスさん、下がって!!」

 

 デラパイゾンの三つの頭が同時に膨らんだ。

 炎、氷、霧——三属性の大技が結集しようとしている。

 

 息が重くなる。

 霧が肺に入り込み、体力がじわじわ奪われていく。

 

 炎。

 氷。

 霧。

 

 三属性の極大破壊波。

 

「まずい──っ!!」

 

 ドオオオオオオッ!! 

 

 

 

 その瞬間。

 

 パァンッ!! 

 

 横から白雷が突き刺さり、

 三属性の破壊波の軌道を“ねじ切った”。

 

 土が跳ね、霧がざわめき、木々が揺れる。

 

「な、なに……今の……?」

 

 コットが振り返る。

 

 そこに立っていた白い影は──

 雷をまとった白い獣。

 

 いつものぽやぽやした瞳ではなく、

 “守護”の光を宿した鋭い瞳。

 

 白雷の獣は、コットの前に立ち、低く鳴いた。

 

 ──キュイ……ッ! 

 

「え!? シロちゃん……? 本当に、シロちゃん……?」

 

 霧の奥で、異形の影が再びうねる。

 三つ首の進化魔蛇──デラパイゾン・黒紋体。

 

 

 ドンッ。

 

 その前に降り立つ影。

 

 シロの背から飛び降りた──カイ。

 

「……大丈夫か、コット。助けにきた」

 

 その静かな声に、

 コットの目がまん丸に開く。

 

「カ、カイ……!?」

 

「お前……!」

 レヨンが叫ぶ。

 

「バカ言うな! あんな怪物、お前でどうにか……!」

 

「カイ、撤退だ! お前まで巻き込まれるぞ!」

 ベリオスの声が震える。

 

 だが──

 

 カイは、布丸を握りしめたまま、一歩前に出た。

 

 霧の中。

 雷を纏う白獣の前。

 

 その姿勢は、不思議と揺らがない。

 

「どうにかなるかなんて……あとでいいだろ」

 

 森の奥で、三つの頭が雄叫びを上げる。

 

「間に合った。……それだけで十分だ」

 

 空気が研ぎ澄まされる。

 

 カイは布丸を構え、まっすぐ前を見た。

 

「さあ……ここからが“本番”だ」

 

 

《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》

《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態》

《限定スキル:雫裂》

《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》

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