神器がバスタオルだなんて聞いていない! ボロ宿から始める、温泉宿✖️異世界バトルファンタジー 作:maiboo
旅人用の簡易宿で目を覚ましたカイは、天井をぼんやり見つめながら、
昨日レヨンに言われた言葉を思い返していた。
『Stage? 下位神器にそんなシステムねーだろ』
あの時の、ギルドの冷たい笑い声。
表面上は気にしていないふりをしたが──
布丸を握る手だけは、今も小さく震えていた。
(……他の神器とは違うのか? 。俺の“布丸”だけが)
そんな時、外から妙なざわめきが聞こえた。
「……? なんか騒がしいな」
外へ出ると、通りの向こうで人々が空を指さしていた。
「見たか!? さっきの霧──!」
「昼間に出るなんて聞いたことねぇぞ!」
白い霧がゆっくり街に迫っている。
昼のはずなのに、影が薄く揺れるような不穏さがあった。
(まさか……腐敗霧?)
胸が、きゅ、と強く締めつけられる。
(コット……今日は店に来て、って……)
嫌な予感が、息を吸うより速く体を突き動かした。
カイは駆け出した。
コットの店は、従業員が慌ただしく店じまいをしていた。
焦った顔ばかりで、ただ事ではないのが一瞬で分かる。
「あの……コットは!?」
「コットちゃんなら……森に薬草を取りに行ったまま、戻ってないの」
「……え?」
胸の奥が、冷たい霧に触れたみたいにすっと冷えた。
(腐敗霧が出た。
そのタイミングで……森?)
最悪の組み合わせだった。
その時──
「シロ……?」
普段、ぽやぽやしている白い身体が、小刻みに震えている。
──キュウッ!
どこか“遠くの一点”を睨みつけているようだった。
空気が、ひどく重く沈んだ。
(森の奥で──“霧の源”が動いてる?)
とっさに胸へ答えが落ちてくる。
「……っ、シロ! 行くぞ!」
言葉より先に身体が動いていた。
布丸を握り直し、全速力で森へ向かう。
人影がなくなった瞬間、
シロは一気に“本来の姿”へと変わった。
白雷を抱く獣のような、白獅子の姿。
「頼む、走ってくれ!」
シロは力強く地を蹴り、森へ向けて駆け出す。
カイはその背にまたがり、風を切るように飛ぶ。
霧は、確実に濃くなっていた。
──ーその頃、森では。
風さえ通らない濃霧の森。
木々の陰で、〝なにか〟が走り抜けたような音だけが静寂を裂いた。
「……位置が分からない……っ」
レヨンは魔力で気配を探るが、霧が濃すぎて、輪郭すら掴めない。
──ザシュッ!
横合いから伸びた黒い線が、コットの頬をかすめた。
「ひ……っ!」
「下がれ、コット!」
ベリオスが前へ飛び出す。
《陽炎の盾》がゆらりと揺れ、周囲の空気を波打たせた。
霧の刃が盾に触れた瞬間、
歪む熱気によって、斬撃の形がそのまま“はじけ飛ぶ”。
「……やっぱりだ。“霧そのもの”を操ってる。普通の魔物の領域じゃない」
濃霧の冷気が首筋を撫でる。
「このまま隠れてる敵を相手にしても埒が明かん……」
ベリオスは低く息を吸い込む。
「……押し切るぞ。視界を無理やり開ける!」
「行くのか、ベリオス!?」
「ああ! 大きく弾く!」
炎の渦が盾の前に収束し、熱が森を染める。
「《
轟ッ!!
盾から放たれた炎と爆風が、一帯を薙ぎ払った。
同時に──
霧の奥で“何か”が渦を巻き、圧縮され、
濃霧の塊が弾丸のように放たれる。
──ゴァァァァァ!!
大技同士の衝突。
衝撃で木々がしなり、白霧が一気に吹き飛んだ。
──ゆらり。
白い霧の帳が開く。
そこに、ずっと揺れていた“影”が輪郭を得た。
赤く光る瞳。
青く凍る瞳。
そして──
霧のような白光を宿した、《第三の頭》。
「炎氷魔蛇デラパイゾン……? でも頭が三つ……?」
レヨンが息を呑む。
「デラパイゾンの頭って、本来“炎”と“氷”の二つだけだろ……?」
ニムの声が震える。
炎と氷の二頭を持つ魔蛇──それが常識。
だが現れたのは、
・炎の瞳
・氷の瞳
・霧の瞳
三つの首を持つ異形。
さらに体表は黒く硬質化し、胸部には脈動する黒紋が走る。
尾は左右に二つへ裂け、地面を叩くたび土が跳ねた。
「嘘……なんなの、あれ……!」
コットが息を呑む。
「……変質してる……? いくら黒紋化しているとはいえ……あんな姿、記録にもないぞ……」
ベリオスの額に汗が滲む。
その瞬間──
「ッッ!?」
デラパイゾンの第三の頭が吐いたのは、
炎でも氷でもなく——霧の爆弾。
「来るぞ!!」
ベリオスが叫ぶ。
霧の攻撃を盾で防ぐベリオス。
その直後——
ズバァァッ!!!
ドゴッ!!
三方向から影が同時に襲う。
「分身……!? 霧の中に同じ形が複数……!」
レヨンは三刃を肩で回し、
「《火裂き三刃》、燃やせッ!」
刃の隙間に赤い炎が走り、うねりながら勢いを増す。
「燃えろォッ!!」
炎纏う三連斬が霧を裂いた。
影の一体が溶けるように散るが、それは本物ではない。
「くそッ、分身かよ!」
ニムは動く影に向かって踏み込み、
《風切りナイフ》を弾丸のように振った。
「《
風が線になって走り、
本体らしき影の首をかすめる。
だが、すぐさま霧が補充され、元に戻る。
「速ぇし、やっかいな能力だ! ……マジでなんなんだコイツ!」
テンが大ヘラを地面に叩き込む。
「おりゃァッ!!」
どん! と強烈な振動が走り、
土が波のように隆起して衝撃波となって走る。
一体の分身が霧散するが——
「まだいる……!」
テンの頬に冷気が走り、氷の頭が間近に迫る。
「うおおおっ!? 冷たッ!」
コットが香りの流れで敵の“質”を読む。
(本物は──焦げの匂いと氷の匂いが、わずかに混ざって……)
「レヨンさん、左下っ! 本物はそこ!」
「助かった!! ……って、礼なんか言っちまった!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
だが、息つく間もなく攻撃の波が押し寄せてくる。
炎頭が吐く灼熱の炎。
氷頭が放つ凍てつく冷気。
「まとめて受ける……!」
ベリオスは《陽炎の盾》を前に突き出した。
炎と氷がぶつかる中、
盾の揺らぎが吸収し、熱量と冷気が盾の中心へ集まっていく。
「まだ……だ……! 吸え……!」
盾が赤と青の光を蓄え、縁が激しく震えた。
「《
溜め込んだ熱と氷を衝撃波に変換し、
デラパイゾン本体へ叩きつけた。
だが、鎧のような鱗に覆われた体には多少の傷が入る程度だった。
三つの頭が咆哮を上げ、
炎・氷・霧の三方向からの同時攻撃が襲いかかる。
炎が森を燃やし、
氷が空気を凍らせ、
霧が視界を奪い、分身、爆撃を生み出す。
「くっ……!!」
「攻撃が読めねぇ!!」
「このままじゃ……!」
霧で呼吸が重くなり始め、足元がふらついてくる。
ベリオスの盾が揺らぎ、ひびのような光が走る。
(耐えきれない……!?)
コットが叫ぶ。
「ベリオスさん、下がって!!」
デラパイゾンの三つの頭が同時に膨らんだ。
炎、氷、霧——三属性の大技が結集しようとしている。
息が重くなる。
霧が肺に入り込み、体力がじわじわ奪われていく。
炎。
氷。
霧。
三属性の極大破壊波。
「まずい──っ!!」
ドオオオオオオッ!!
その瞬間。
パァンッ!!
横から白雷が突き刺さり、
三属性の破壊波の軌道を“ねじ切った”。
土が跳ね、霧がざわめき、木々が揺れる。
「な、なに……今の……?」
コットが振り返る。
そこに立っていた白い影は──
雷をまとった白い獣。
いつものぽやぽやした瞳ではなく、
“守護”の光を宿した鋭い瞳。
白雷の獣は、コットの前に立ち、低く鳴いた。
──キュイ……ッ!
「え!? シロちゃん……? 本当に、シロちゃん……?」
霧の奥で、異形の影が再びうねる。
三つ首の進化魔蛇──デラパイゾン・黒紋体。
ドンッ。
その前に降り立つ影。
シロの背から飛び降りた──カイ。
「……大丈夫か、コット。助けにきた」
その静かな声に、
コットの目がまん丸に開く。
「カ、カイ……!?」
「お前……!」
レヨンが叫ぶ。
「バカ言うな! あんな怪物、お前でどうにか……!」
「カイ、撤退だ! お前まで巻き込まれるぞ!」
ベリオスの声が震える。
だが──
カイは、布丸を握りしめたまま、一歩前に出た。
霧の中。
雷を纏う白獣の前。
その姿勢は、不思議と揺らがない。
「どうにかなるかなんて……あとでいいだろ」
森の奥で、三つの頭が雄叫びを上げる。
「間に合った。……それだけで十分だ」
空気が研ぎ澄まされる。
カイは布丸を構え、まっすぐ前を見た。
「さあ……ここからが“本番”だ」
《神器“布丸” ランク:Stage1 ー流布ー》
《スキル:変幻自在/布界収納・小/水纏状態》
《限定スキル:雫裂》
《特殊スキル:黒喰/転換布癒/微癒の湯化》