「東方茶番劇」第三の賢者が居るんだって!! 作:ゆっくり那由多豊苑
まだ幻想郷という名が広く知られていなかった、遥か昔。
妖怪も神も人間も、それぞれが居場所を求めて彷徨っていた時代。
一つの屋敷では、小さな産声が響いた。
「……生まれた!」
吸血鬼の父は目を潤ませ、小さな赤ん坊を抱き上げる。
赤ん坊には、小さな猫耳と細い尻尾。そして吸血鬼の証である小さな翼が生えていた。
「この子……可愛い……。」
母は優しく頬を撫で、涙を流す。
「名前は……フラメス。」
「フラメス・ヴァレンタイン。」
「この子は、私たちの宝物よ。」
その日から、屋敷は笑顔で満ちあふれた。
父も母も、使用人たちも、誰もがフラメスを可愛がった。
泣けばすぐに抱っこされ、眠れば皆で寝顔を眺める。
「また寝てる。」
「可愛い……。」
「猫みたいに丸くなってるぞ。」
小さなフラメスは、幸せそのものだった。
◇
月日は流れ、フラメスは百二十九歳になった。
吸血鬼としては、まだまだ幼い少女。
「おばあさま!」
「おやおや、今日も元気ねぇ。」
祖母はフラメスをぎゅっと抱きしめる。
「今日も可愛いわねぇ。」
「えへへ。」
猫耳をぴこぴこと動かしながら笑うフラメス。
祖母は耳を優しく撫でる。
「その耳も、尻尾も、本当に愛らしい。」
「くすぐったいです……。」
尻尾は嬉しそうに左右へ揺れる。
父と母はその様子を見て笑った。
「相変わらず甘えん坊だな。」
「でも、それがこの子らしいわ。」
誰一人として、フラメスを忌み嫌う者はいなかった。
吸血鬼と猫又。
二つの血を引く特別な存在。
それでも家族は誇りに思っていた。
「世界中の誰よりも幸せになってほしい。」
それが家族全員の願いだった。
◇
さらに長い年月が流れる。
幻想郷が形を作り始めた頃。
紫が境界を操り、幻想郷という世界の基礎を築いていた時代。
一人の少女が山の上から幻想郷を眺めていた。
「……綺麗。」
黄色味がかったオレンジ色の髪が風に揺れる。
透明感のある深紅の瞳は、生まれたばかりの幻想郷を静かに見つめていた。
その隣へ、一人の妖怪が歩いてくる。
「見ていたのね。」
八雲紫だった。
「はい。」
「あなたなら、この世界を任せられる。」
フラメスは首を傾げる。
「任せる……ですか?」
紫は微笑んだ。
「幻想郷を支える柱になってほしいの。」
しばらく沈黙が流れる。
フラメスは考え込んだあと、小さく頷いた。
「皆が安心して暮らせるなら……お手伝いします。」
その一言で決まった。
幻想郷を陰から支える存在。
第三の大賢者。
誰にも知られず、誰にも名を残さず。
それでも幻想郷の結界へ霊力を送り続ける役目を担うことになった。
「よろしくお願いします。」
紫は静かに頭を下げる。
「こちらこそ。」
フラメスは少し照れながら笑った。
その日から、少女は歴史の表舞台ではなく、誰にも知られない場所で幻想郷を守り続けることになる。
しかし、この時のフラメスはまだ知らない。
数千年後、人里の小さな甘味処で出会う四人
――博麗霊夢、霧雨魔理沙、レミリア・スカーレット、そしてフランドール・スカーレットが、自分の日常を大きく変えていくことになるとは。