「東方茶番劇」第三の賢者が居るんだって!! 作:ゆっくり那由多豊苑
春の柔らかな日差しが人里を包む昼下がり。
通りには買い物客や子どもたちが行き交い、どこからか団子を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
「……今日は、あそこ。」
一人の女性がのんびりと歩いていた。
黄色味がかったオレンジ色の髪。
透明感のある深紅の瞳。
レミリアとよく似た形の帽子を被り、その中には猫耳を隠している。
尻尾もスカートの中へしまい、小さな吸血鬼の翼だけが背中で揺れていた。
フラメス・ヴァレンタイン。
幻想郷最古参の住人にして、第三の大賢者。
しかし、人里ではそんな肩書きを知る者は誰一人いない。
「いらっしゃいませ!」
甘味処の店主が笑顔で迎える。
「いつもの、お願いします。」
「はいよ!」
フラメスは店の中央の席へ腰を下ろした。
しばらくすると、大きなお盆が運ばれてくる。
三色団子。
いちご大福。
みたらし団子。
練り切り。
抹茶と桜餅。
そして黒蜜たっぷりのあんみつ。
「……幸せ。」
一口食べるたび、頬がふわりと緩む。
「甘い……。」
その表情だけで、店主まで笑顔になる。
「今日も美味しそうに食べるねぇ。」
「はい。」
短く返事をしながら、静かに和菓子を味わう。
その頃――。
「腹減ったぜ!」
元気よく店へ飛び込んできたのは霧雨魔理沙だった。
「騒がしいわね。」
続いて博麗霊夢。
さらに。
「甘い物があると聞いたわ!」
レミリア・スカーレット。
「お姉様、早く早く!」
フランドールも目を輝かせている。
四人は店内を見回した。
「あれ?」
魔理沙が首を傾げる。
「知らない顔だな。」
中央の席。
静かに和菓子を食べ続ける女性が一人。
「吸血鬼……かしら?」
レミリアが小さく呟く。
「でも見たことないわ。」
「幻想郷にこんな人いた?」
霊夢も記憶を探るが思い当たらない。
フランはじーっと見つめる。
「翼、小さい……。」
確かに可愛らしい翼だった。
飛べるとは思えないほど小さい。
「怪我でもしたのかな?」
「違うと思うぜ。」
そんな会話が聞こえてくる。
フラメスは補聴器越しに何となく気配を感じた。
(見られてる……。)
しかし気にしない。
目の前には桜餅がある。
今はそれが最優先だった。
「……おいしい。」
その一言で幸せそうな笑顔になる。
「可愛い……。」
思わずフランが呟く。
「え?」
レミリアも思わず見直した。
無表情に近いのに、甘い物を食べた瞬間だけ少しだけ笑う。
そのギャップが妙に可愛らしい。
「本人は気付いてないみたいね。」
霊夢が苦笑する。
魔理沙は興味津々だった。
「話しかけてみるか?」
「失礼じゃない?」
「まぁまぁ。」
魔理沙はフラメスの席へ近付く。
「なぁ、隣いいか?」
フラメスは顔を上げる。
補聴器越しに声を聞き取り、少しだけ間を置いて頷いた。
「……どうぞ。」
「ありがと!」
魔理沙が腰掛ける。
続いて霊夢、レミリア、フランも席へ着いた。
「私は霧雨魔理沙!」
「博麗霊夢よ。」
「レミリア・スカーレット。」
「フランドール!」
四人は順番に名乗る。
フラメスは一度小さく頭を下げた。
「……フラメス・ヴァレンタイン。」
その名前を聞いても、四人の反応は同じだった。
「聞いたことない。」
幻想郷でも、そんな名前は誰も知らない。
それもそのはず。
フラメスは数千年もの間、自ら表舞台へ出ることはなく、静かに幻想郷を支え続けてきた存在なのだから。
そして、この小さな自己紹介が、誰も知らなかった古き大賢者と、新しい世代の少女たちを結ぶ最初の一歩となるのだった。
フラメス、これからの生活が変わる転換点となったフラメス、果たしてどうなるのか。