「東方茶番劇」第三の賢者が居るんだって!! 作:ゆっくり那由多豊苑
「フラメス・ヴァレンタイン……か。」
魔理沙は腕を組みながら首を傾げた。
「聞いたことない名前だな。」
「私もよ。」
霊夢もそう言って湯飲みに口をつける。
レミリアはじっとフラメスを見つめていた。
(同じ吸血鬼……なのに、この妖力……。)
彼女からは強大な妖力が感じられるはずなのに、それがまるで霧のように薄く感じられる。
「気のせい……?」
レミリアは小さく呟いた。
一方のフラメスは、そんな視線には気付かず、最後のいちご大福を小さく口へ運ぶ。
「……♪」
ほんの少しだけ口元が緩む。
その様子を見たフランが目を輝かせた。
「お姉様!」
「何?」
「この人、美味しそうに食べる!」
「そこなの?」
レミリアは思わず苦笑する。
「そんなに甘い物が好きなの?」
霊夢が尋ねると、フラメスは少し考えてから頷いた。
「……大好き。」
「どのくらい好きなんだ?」
魔理沙が聞く。
「毎日、食べる。」
「毎日!?」
四人が同時に驚く。
「朝も昼も夜も?」
「……おやつも。」
「そんなに食べて大丈夫なのか?」
「大丈夫。」
フラメスは真顔で答える。
「血より甘い物。」
「吸血鬼なのに!?」
レミリアは思わず立ち上がった。
「えぇ。」
「私は紅茶と血が好きなのに……。」
「血は、少しでいい。」
「変わった吸血鬼ね……。」
フラメスは首を傾げる。
「……そう?」
本人には普通のことだった。
すると店主が笑いながらやって来た。
「お嬢さん、いつもの追加ね。」
目の前に置かれたのは、大きな抹茶パフェ。
「ありがとうございます。」
嬉しそうに手を合わせるフラメス。
「まだ食べるのか!」
魔理沙が思わず叫ぶ。
「別腹。」
「その言葉、本当にあったんだ……。」
霊夢は呆れたように笑う。
その時だった。
店の外から一匹の三毛猫が「にゃあ」と鳴きながら入ってきた。
猫は真っ直ぐフラメスの足元へ歩いていき、すりすりと身体を擦り寄せる。
「にゃ~。」
「こんにちは。」
フラメスは自然に猫へ話しかけた。
「にゃ、にゃあ。」
「うん、今日は魚を食べたの?」
「にゃ!」
「そう、よかった。」
まるで普通に会話をしている。
魔理沙たちは固まった。
「……今。」
「猫と話してたわよね。」
霊夢が目をぱちぱちさせる。
「偶然……じゃないわよね。」
レミリアも驚きを隠せない。
フランだけは嬉しそうだった。
「すごーい!」
猫は満足そうに喉を鳴らすと、フラメスの膝へ飛び乗った。
「にゃあ。」
「眠いの?」
「にゃ。」
「どうぞ。」
優しく撫でると、猫は安心しきった表情で丸くなる。
「……かわいい。」
フラメスも小さく笑う。
その笑顔は、先ほど和菓子を食べていた時よりも柔らかかった。
「猫に好かれてるなぁ。」
魔理沙が感心する。
「この子だけじゃない。」
店主が笑う。
「この辺の猫はみーんな、このお嬢さんのところへ集まるんだ。」
「え?」
その言葉が終わるより早く――。
「にゃあ。」
「にゃー!」
「みゃー!」
店の入口から次々と猫が入ってきた。
一匹、二匹、三匹……。
気付けば十匹以上の猫がフラメスの周りへ集まり、膝や肩、椅子の下で思い思いにくつろぎ始める。
「すごい……。」
フランは目を輝かせた。
「猫さんいっぱい!」
フラメスは猫たちを優しく撫でながら、静かに微笑む。
「みんな……いい子。」
その穏やかな空気に、店の中は自然と笑顔に包まれていく。
しかし、その様子を店の外からじっと見つめる一つの隙間があった。
金色の瞳が細められ、どこか懐かしそうに微笑む。
「ふふ……ようやく、新しい世代と出会ったのね。」
その人物は誰にも気付かれることなく、静かにその場を後にした。
フラメスはまだ知らない。
この出会いが、長い長い平穏な日常を少しずつ変えていく始まりになることを。