ARC RAIDERS ―名古屋地下第三区画― 作:タラバ554
雰囲気とかすごく好きで・・・ただPvP要素が嫌い
なので原作とは違い日本を舞台にして、原作ほど機械との戦闘が続いていない年代を想定して書いています。
その為に原作と違うことがいり悪露ありますがご容赦いただきたい。
1話が好評だったら続きかいて
そうでもなかったらここで打ち切りEND
名古屋地下第三区画。
かつては多くの人間が行き交った地下街は、今では人類が地上へ戻るための足場になっていた。
目を覚ます前から、遠くでレールを走る輸送車の音が聞こえていた。
古いレールの継ぎ目を越えるたび、低い振動が地下区画まで伝わってくる。
「……いてぇ」
自室の簡易ベッドから起き上がり、男は腰を押さえた。
「昨日帰ってきたばかりなのに…昨日の帰還でこれなら、あと十年は無理か」
腰を叩きながら、男は小さく息を吐いた。 壁に掛けていた防弾仕様の上着を取る。
鏡を見ると疲れた顔。伸びた髭。いくつもの傷跡。
昔なら気にしていたかもしれない。 だが、今さら見た目を気にする相手など、この地下にはほとんどいない。
装備を確認する。
武器。予備弾薬。簡易医療キット。
それだけ。
必要なものだけを持つ。余計なものは持たない。
それが、長く生き残るために覚えた彼なりのやり方だった。
■ ■ ■ ■ ■ ■
男は装備を背負うと、自室の扉を開けた。 扉の向こうには、地下街の朝が広がっていた。
かつては買い物客で溢れていた通路。 今は補修された照明が頭上を照らし、壁際には簡易店舗や作業場が並んでいる。
古い看板はそのまま残されていた。 店の名前も、案内表示も、もう意味を持たないものが多い。
それでも誰も外そうとはしなかった。
失われた時代の名残を、わざわざ消す理由もなかったからだ。
「おはようございます」
横を通った若い整備員が声をかける。
「……朝から元気だな」
「昨日帰還した人の顔じゃないですね」
「どういう意味だ」
「死にそうな顔してるって意味です」
「失礼な奴だな」
男が睨むと、整備員は笑った。こういうやり取りができる相手がいる。
それだけで、この場所に戻ってきた意味はあった。
地下輸送路の脇を歩き、遠征管理局へ向かう。区画間の移動には、旧地下鉄路線を利用した簡易輸送車が使われている。
人員や物資を運ぶために改修された、小さな車両。
昔の地下鉄とは比べものにならない。
だが、今の人類には十分だった。
遠征管理局。
かつて駅員が利用していた窓口跡を改装した施設。中では何人ものレイダーが受付を待っていた。
帰還報告。装備確認。回収品の申請。そして、次の遠征。
ここが、地上へ向かう者たちの出発点だった。
「遅い」
受付の奥から声が飛んできた。顔を上げる。
見慣れた職員が腕を組んでいた。
「朝一番に来いって言ったのは誰だと思ってる」
半目でこちらを見る職員に肩をすくめながら返す。
「昨日帰ったばかりなんだけどな」
「知ってる。だから今来てることに驚いてる」
「褒めてもいいぞ」
「誰が褒めるか」
男は小さく笑った。このやり取りも、もう何年続いているか分からない。
「帰還報告は?」
「提出済み」
「回収品の分配は?」
「倉庫に回した」
「じゃあ次」
職員がチェックリストを埋めながら端末を確認する。
「今日は――」
男が先に口を開いた。
「誰と組む?」
職員は一瞬だけ画面を見る。そして答えた。
「新人」
男は数秒黙った。
「……マジか」
受付に肘をつき、男は頭を抱えた。不安を誤魔化す癖になった腰のキーホルダーに触れる。
「それで? 今日の依頼は?」
職員は端末を操作しながら読み上げる。
「第一目標は、旧名駅西地区の発電制御ユニット回収」
「また設備屋の仕事か」
「設備屋が動かないと、オメーの部屋も真っ暗だぞ」
「暗い部屋で抱く女ってのもオツだが……困るな」
職員は小さく笑い、画面を切り替えた。
「最近はノリちゃんの店ばっか行ってるんだって?」
「頑張ってる子は応援したいだろ」
「ゲンが文句言ってたぞ」
「あいつ、自分で嫁を店に立たせといて、客に嫉妬するんだから夫婦向いてねぇよ」
「まっ、程々にってこった」
職員は軽口をたたきながら目標付近で行える依頼をピックアップする。
「第二目標。旧地下街入口に設置してある通信ビーコンの状態確認」
「確認だけか」
「修理は整備班の仕事」
「壊れてたら?」
「持ち帰れる部品だけ回収」
男は頷く。
「あと一件」
「まだあるのか」
「近隣で未確認の物資反応が一件。優先度は低」
「ついでなら見てこい、と」
「危険なら無視して良い。無理に回収する必要は無い」
男は鼻で笑う。
「その"ついで"が一番面倒なんだよ」
「だから優先度は低」
壁の地図に目をやりながら口を開く。
「……避難所跡は?」
職員が顔を上げる。
「また?」
「近いなら寄る」
「依頼には含まれてない」
「知ってる」
少しだけ沈黙が流れる。
「……三十分」
「ん?」
「寄るなら三十分まで。それ以上遅れたら救難信号を出す」
男は口元だけ笑った。
「了解」
「ったく、新人連れてくんだからちゃんと戻せよ。ウチの拠点専属予定なんだから」
「わーってるよ。ところで整備班のカナちゃん妊娠したってマジ?」
「あぁ、ほら、商店街のリキ君」
「……あぁ~ね」
「おめーも家庭持つ?」
「こんな商売でそりゃ無理だろ」
「保険もねぇしな」
軽口をたたいていると管理局の入口から声が響く。
「失礼します!」
まだ新品に近い防具。使い慣れていないライフル。 緊張で背筋だけはやたら伸びている。
職員が顎で示す。
「あれ」
男は振り返る。
「……」
新人も男を見る。
「……」
数秒。 男は職員へ向き直った。
「変更できる?」
「できない」
「返品」
「できない」
「今ならまだ間に合う!」
「間に合わない」
「え?えっと~」
暫く問答があった後、改めて職員が紹介する。
「今日一緒に行ってもらう新人だ」
男は一度だけ青年を見て、小さく息を吐く。
「……よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げる青年。
「そんな固くなるな。肩が凝るぞ」
男はそう言って右手を差し出した。青年も慌てて握り返す。
思ったより力が強い。
「名前は?」
「えっと……本名ですか? コードネームですか?」
男は少しだけ笑った。
「好きな方でいい。現場じゃどっちも使う」
「じゃあ……コードネームで」
青年は一度深呼吸してから口を開いた。
「イギーです」
男の動きが止まる。
「……イギー?」
「はい」
「漫画か」
青年の目が少しだけ輝く。
「知ってるんですか!」
「知ってるよ」
「地下図書室に置いてあったんです。途中までしか無かったんですけど、すごく格好良くて」
男は頭を掻いた。
「……ネタバレになるから詳しくは言わん」
「はい?」
「その名前なら、俺は勧めない」
青年の表情が曇る。
「そんなにですか?」
「縁起が悪い」
「えぇ……」
困ったように青年が職員を見る。職員は肩をすくめた。
「また始まった」
「でも、気に入ってるんです」
男は数秒だけ青年を見つめる。それから肩をすくめた。
「本人が決めたなら好きにしろ」
「ありがとうございます!」
「ただな」
男は出口へ歩き出しながら続ける。
「名前で生き残れるほど、地上は甘くないぞ」
青年は小走りで後を追う。
「先輩はコードネーム無いんですか?」
「本名」
「珍しいですね」
「親にもらった名前だからな」
「コードネームは考えなかったんですか?」
「面倒だった」
青年が思わず吹き出す。
「そんな理由ですか」
「名前なんて呼ばれりゃ何でもいい」
「でも、本名を名乗る人って少ないですよね」
男は少しだけ歩調を緩めた。
「隠したい奴もいる。むしろ捨てたい奴もいる」
「……」
「俺は違う。そんだけ」
管理局の自動扉が開く。地下街の朝が広がる。
輸送用トロッコがレールを軋ませながら通り過ぎ、人々がそれぞれの仕事へ向かって歩いていく。
男は振り返らずに言った。
「行くぞ、イギー」
「はい!」
「まず教えることが一つある」
「何でしょう!」
「地上じゃ、キョロキョロするな」
「え?」
「見るなとは言わん。歩きながら見ろ
青年は首を傾げながらも、大きく頷いた。
「はい!」
男は小さく笑う。
――さて。今日一日で、どこまで教えられるか。
そう思いながら、地上へ続く昇降路へ足を向けた。