研究は踊る、されど進まず。
観音崎さんの父さんは日に日にやつれていくのが見えた。最初のイカつかった顔はげっそりと細くなっている。
「あのー……。大丈夫ですか? きちんと物食べれてますか?」
「はは……。問題ない。ありがとう心配してくれて」
ここの責任者である観音崎さんの父さん……観音崎 茂治さんはここ数日、マスコミなどの対応に追われているらしい。
この施設で暴走メガシンカが起きたことが問題となり、他のところで起きる可能性はないのかとか、原因はとか詰められているらしい。舞が心配そうに語っていた。
「所長も大変だねぇ……。私らがこうなった原因とかも調べなきゃならないしメガシンカも調べなきゃならないし。過労死しそう」
水元さんがげっそりと細くなった茂治さんを見てそう言っていた。
実際もう過労死してもおかしくないラインではなかろうか。
「誰かポケモンから人間に戻った事例があれば少しは進展しそうだけど……」
「そんな事例あるわけないからね……」
この水槽にもテレビが設置されており、外の情報はニュース番組を通して知らせられる。
連日ポケモン化する人が多いらしい。日本だけではなく、世界各地でポケモン化騒動が起きていて、もうすでに人類の半数ほどがポケモン化したと言っていた。
「誰か来るよ」
「新入りかな?」
水辺エリアの扉が開かれる。
入ってきたのは……なんとスイクンだった。スイクンが職員の人に連れられるように中に入ってくる。
「まさかの準伝」
「ん? あ、僕以外にも準伝の人がいるぅー!」
スイクンは私の方を見てばぁっと笑顔を浮かべたのだった。
「ねぇ、君名前なんていうの? 僕は石動 翠っていうんだ。よろしくね」
「石動……どっかで聞いたことがある名前だな……」
「聞いたことあるよね。どこでだっけ……」
「あ、それは子役やってたからじゃないかなぁ」
「……あっ! あの天才子役!」
私と同世代の天才子役、石動 翠。
かつて日曜劇場で主演を務め、その見た目の可愛さと演技のうまさから引っ張りだことなっていた天才子役!
ど、どうりで聞いたことがあるわけだ。今は活動休止だったような。
「みんなから翠くんって呼ばれてとうとう僕本人がスイクンになっちゃった」
そんな天才子役が準伝説のスイクンになった……と。
「カプレヒレとアシレーヌのあなた方は名前なんていうのかな」
「私は水元 結菜です。よろしくね」
「えっと、私は五木 悠」
「水元……あのアイドルの!」
「そーでーす! よろ〜!」
「五木 悠……どこかで聞いたことある名前なんだけど思い出せないや」
「私そんな有名人じゃないから知らないでしょ」
「あ、思い出した! 中学の水泳大会で全国優勝した人!」
「あー……」
過去のことだ。
中学時代、私は友人にお願いされ水泳部に入部していた。あまり泳ぐのは好きじゃなかったが、私にはなんか知らないけど才能があったらしく全国大会にまで行ったかと思えば優勝してしまった。ちなみに三連覇。
高校に入って辞めたがそのことを知ってる人がいるとは。
「マジ?」
「マジ。三連覇してる」
「すご……」
「なんで水泳辞めちゃったの? 僕の姉さんリベンジするぞと意気込んでたけど大会に出てないって言って落ち込んでたのに」
「別に私水泳そんな好きじゃないし……。中学のときは友達に頼まれて入部してしゃーないからやってただけで……」
「……別に水泳好きじゃない人が大会三連覇……。頑張ってる人からしたらすげー理不尽な存在すぎる」
「よく言われたよ。そんな奴が大会に参加すんなって、舐めてんのかって言われたなぁ。結果で黙らせてみろとか言ったら黙ったけど」
「すげー恨み買ってそう……」
「実際買ってるんじゃないかな? 私は別に高校生になったら辞めるつもりだったから気にしてなかったけど……」
あまり水泳が好きじゃなかったが、今こうして水タイプのポケモンになってしまったからな。運命というのはよくわからない。
「なんか僕もそうだけどめっちゃ恨まれてる僕と五木さんが準伝説ってすごいよね」
「恨まれてなきゃなれないとかなのかな?」
「そんなカルマが溜まってるみたいな感じで準伝説なれんの?」
カルマ値が高いほど準伝説になれるのはないだろ。
私なんかよりもっと恨まれてる人なんてたくさんいるぞ。
「いや、でもなんか引っかかるな」
と、ネムが現れた。
ネムはすっかりここの施設の制服が似合ってきている。
「引っかかる?」
「私も観音崎さんからいろいろ資料見せられたんだけどさ。準伝説になってる人って有名人ばっかなんだよね。たとえばプロのアスリート選手とか、日本で有名な子役とか。その例外として悠がいる……と思ってたんだけど、悠も悠で恨まれてるんならその説もあるのかもしれない」
ネムはそう言って、私の身体を触る。
「とはいえど、悠は全国的に有名な人ではないし、可能性としてしか見れないけど。あー……悠のこの身体冷たくて気持ちい〜」
「涼みにきたの?」
「うん。私の仕事今ないし」
外はだいぶ暑そうだもんな。
この水槽の上はガラスになってるから太陽光は入ってくる。し、エアコンもない。が、水の中は普通に冷たいから助かっている。
「ネムちゃん、私の尾ひれも冷たいよ」
「ほんとですね。気持ちいい……」
「この人は?」
「私の友達の朝凪 音夢」
「どーもです。この施設でバイトしてます」
「……よろしく」
ん?
私は気がついた。なんか様子がおかしい。
「……石動、ちょっと」
「なぁに?」
私は石動を舞から少し離す。
「……ネムに惚れた?」
「……えっ、わかるの!?」
「いや、がっつりそういう目で見てたから」
「……だって可愛いじゃん。僕の好みの顔しててさ」
「わかる。ネムかっけーよな」
ボクっ娘みたいなボーイッシュな見た目だ。まあまあ人気がある。男女ともに。