英雄讃歌 第二章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
宿屋を探して街を探索する。実際はギルドの受付に場所を聞いてきたため、そこに向かっているだけなのだけど。
もう正午を優に過ぎ三時になりそうなこの頃、街を歩く人々の数は収まることはなく、まだ活発な雰囲気が辺りに広がっている。
「もうすぐかな。」
「宿屋空いてるといいね。」
「だね。」
スラちゃんがパーティーにいる関係上、宿屋で泊まれる場所には限りがある。スライムなので分類としては小型従魔であるから、まだ泊まれる範囲は広い。
しかし、そもそも従魔禁止のところも存在するため、探すとなると大変だろう。一応、受付からは三か所聞いてきたため、そうそう宿屋が埋まっているってことはないだろうけど。
「おっ、ここかな。」
「わ~、綺麗な場所だね。」
「ああ。受付さん曰く、一番人気のところらしい。」
赤い屋根にクリーム色の壁。看板には狼の意匠が施されており、宿屋名もワイルドウルフ。店主が無類の狼好きとかで、三分の一は自分の従魔で埋まっているそう。
また、何と言っても宿屋内にいる狼、ではなく犬が可愛いとかで食堂として利用することがあるとか。あの毛皮がもふもふでなんてうっとりしている受付さんに若干引きつつも、狼じゃなくて、犬でいいんかい。と思ったのは内緒だ。
「看板犬がいるんだよね。」
「え?あぁ、そうみたいだね。」
「えへへ~。楽しみ。」
……どうやら、アリスちゃんもまた動物好きの血が流れているようだ。受付さんにツッコまなくてよかった。アリスちゃんにも間接的に言ってることになるんだろ。危ないな。
それにしても、想像だけでうっとりするアリスちゃんも可愛くていいね。そんなに楽しいのだろうか?犬の話が出た時に受付さんと何やら盛り上がっていたようだけれど。
――――――カランカラン。宿屋に入ると、そこには木製作りの大きなエントランスが広がっていた。意外に天井が高く、解放感がある。また、外観も綺麗だったように内観も美しく、気持ちのいい生活ができそうである。
周りを見渡すと左の方に食堂に続く開口部があり、その中に数人の人が何やら談笑しているのが見える。
その時、とっとっと、軽快な足音が右の方から聞こえてきた。
「可愛い~~~~~。」
そちらを向く前にアリスちゃんの黄色い声が耳に響いた。俺が姿を確認する前にあっさりと陥落してしまったようだ。そんなアリスちゃんが可愛いのだが、それは置いておこう。
そして、どれ簡単に陥落させてしまう存在とはどれほどのものか。ふはははは。この俺様が見定めてやろう。俺の目は厳しいぞ~。
「うっ……!!可愛い!!」
体長50㎝ほどの茶色のふわふわした毛皮に覆われた生物。頭上からはぴょこんと二つの小さなとんがりが生えており、はっはっと息を吐きながらきょとんと、首を傾げている。
また、胸元からお腹にかけては白い毛並みに覆われており、茶色と白でミックスされた真丸い尻尾が左右にゆらゆらと揺れている。
もうなんと言えばいいのだろうか。秘宝、いや国宝、いや世界遺産?遺産ではないけれど、世界がこの生物を祝福しているだろう。その生物はそう犬である。
「ね。ね。可愛いね~。」
「くっ、認めざるを得ない、か。」
アリスさんや服の袖を掴んで引っ張らないでくれ。犬の可愛さとアリスちゃんの可愛さでダブルノックアウトされそうだ。
ふわふわの毛皮を見ると無性にもふもふしたくなるのは何故なのだろうか。はっ!!これが、恋?
「……。」
「アリス、ちゃん……?」
「……。」
アリスちゃんがゆらゆらと犬の方へと寄っていく。その姿は幽鬼のようで、自分の意識で歩いているのかさえ定かではない。犬に引き寄せられているのだろう。
しかし、止められない。止められるわけない。止めようと考えると襲う強烈なプレッシャー。これほどまで集中しているアリスちゃんを見たことがあっただろうか。いや、一度として、ない。
「はいは~い。お客さん。お触り厳禁ですよ~。」
「はっ!!すみません。」
「……っ!!」
な、何!?気配を感じなかったぞ。この娘何者だ!?淡い水色の髪の毛にクリスタルのような透明感のある眼。にぱっと笑った少女は見るだけで元気が貰えそうである。
しかし、尋常じゃないプレッシャーを放つアリスちゃんを簡単に止めることができる少女。それだけで普通でない歴戦の猛者なのだろうか。
さて、戯れもそこそこにして、看板娘の後に続いてロビーの受付所にやってきた。看板娘が仕切りの中に入ると、振り向きにこりと笑みを浮かべる。
「今日はどのようなご用件でしょうか~。」
「あ、あの一か月部屋を取りたいのですが。」
「承りました~。では、ご案内させていただきますね~。」
アリスちゃんが看板娘に返答すると、看板娘は何やら紙を取り出した。どうやら受付に必要な情報を記入するためのもののようだ。
それはいいのだが、アリスちゃん?完全に一か月ここに居座る気だね。一応一か月この街にいるつもりだけど、もうここ以外に泊まるつもりないじゃないか。いや、いいんだけれど。
「ギルドには所属されていますか?」
「はい。ギルドカードと従魔カードです。」
「はいはい。冒険者ギルドですね~。お部屋は何室ご希望ですか?」
「二部屋お願いします。」
看板娘は慣れた手つきで受付用紙の項目を埋めていく。彼女以外の人員が見当たらないが、これほどの手捌きなら確かに一人で回せるのだろう。
そして、二部屋と言うと受付嬢はくるりと背面を向けて、なにやら書類の確認をしている。あ、あと部屋は当然別々だ。一応中身男だからな。それに元々旅の時にそのように話を付けていたから、順当な結果だ。
「二部屋ですね~。……空きはございます。一か月とのことですが、規則上一週間単位でお支払いになります。ただ、従魔様ですとお預かりサービスがございますので、そちらはその限りではありません。」
「では、一週間お願いします。」
「はい。一週間ですと一人当たり一日2000の七日間で14000となります。従魔様はスライムとのことですので、追加料金は発生しません。ただ、冒険者様ですと宿泊補助が適用されますので日当たり1500になりまして、一週間で10500となります。」
「「……。」」
……た、高い。10500だと。全然払えないのだけれど。所持金2000弱だぞ。一日払うのがせいぜいといったところ。アリスちゃんでも六日分しか払えない。
あれ?その日暮らしの冒険者生活では厳しいの、か?前世ではそこまで苦労した覚えはないんだけれど、隠者が上手いこと金繰りしてたのか。いけ好かない女ではあったが、今更ながら感謝だな。
確かに薄れた記憶の中でも最初の方は苦労していたかもしれない。
「お支払いできませんか。でしたら、日数を減らしていただくか、もしくはギルドカードの限度額までならお支払いできますので、石級でしたら50000まで利用可能です。」
「うぐっ、アリスちゃん……。」
「一週間分払います!!」
「えぇ~?即決め?」
まさかの相談もなく即決断するとは。確かにアリスちゃんならすぐに返せる金額だろうけれど、俺は厳しいんだ。……あれ、英雄らしからぬ発言だな。
「だって、こっちを見ているんだもん。」
「……クエスト頑張ろうね。」
……お犬様がこちらを見ていたようだ。それなら仕方ないね!!もはや逆らえる気がしないので、素直に一週間泊まらせてもらいます。
今日の成果
収入
ギルドコイン500
支出
通行証発行・通行料600
宿泊費10500
利益・損益
0-600-10500=-11100
ギルドコイン500