魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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Prelude 【2026/08/08 22:20(JST) 改訂】

 県沿岸南部の釣り桟橋。

 珍しく閑散としている中、2人の少女が釣り糸を垂れている。

「おっと来たっす」

 1人がそう言って小さな折りたたみ椅子から立ち上がり、リールを巻き始める。

「よっと」

 上がった釣果を手で受け止め、その場で手慣れた様子で血抜きをして、振り向かずに後ろにあるクーラーボックスへと放り込んだ。

「…………五目のつもりで来たっすけど、キスばっかり釣れるっすねぇ……」

 青い衣装の少女が言った。

 五目とは、五目釣りのことだ。どこぞの直属の上司を始めとする周囲の評価の割には結構真面目に仕事してる某ゼネコン大手社員(名字は濁らない)と違い、特定の魚を狙わず、とりあえず同じポイント・同じエサでかかる魚を釣る。

「天ぷらばかりじゃ飽きますね……」

 その隣で釣り糸を垂れていた、場違いにもまるでナイトドレスのような濃紺の衣装を身に着けた少女が、軽くため息交じりに言った。

 その間にも、青い衣装の少女は釣り針にエサを仕掛け直し、釣り竿(ロッド)を軽く振って海面に投げる。投げ釣りには本来不向きな、両軸(タイコ)超軽量(マイクロ)リールを使っているにも関わらず、なんてこともないように器用に投げ入れてしまった。

「まぁ、どんな料理にするのかはラピュっちやジャックに任せておけばいいと思うっすけど」

 青い衣装の少女が言う。

「そうですね……って私にも来た!」

 濃紺のドレスの少女が、相槌を打ちかけた瞬間、彼女の仕掛けのウキがちゃぷっちゃぷっと水面で跳ねるように沈んだり浮いたりを繰り返し、それを見て素早く立ち上がってリールを巻き、ヒョイっと水面から出てきた釣果を手元に寄せる。

 青い衣装の少女よりは手慣れていない感があったが、それでも紺色のドレスの少女は、危なげなく血抜きをして、背後のクーラーボックスの中に釣果を入れた。

「そう言えば」

 仕掛け直している濃紺のドレスの少女の方を軽く向いて、青い衣装の少女が訊ねる。

「リフリー、まだ名古屋に行かなくっていいんすか?」

「あ……、ええ、大学の方はオリエンテーションに間に合うぐらいでいいかなと。荷物のうち必要分は、もうあっちにありますし」

 濃紺のドレスの少女が答える。

「でも、最初大阪って言ってなかったっすか?」

「そうだったんですけどね。夜学で通いたいところが名古屋にあったもので」

 青い衣装の少女の重ねての問いに、リフリー、と呼ばれた少女は、苦笑交じりにそう言った。

「夜学、っすか」

「ええ」

「リフリーも魔法少女沼に嵌ったっすねぇ」

「まぁ、そういうことですね」

 そう言って、軽く顔を向かい合わせて言い、お互い苦笑する。

 リフリーと呼ばれた少女は、仕掛けを海面に投げる。こちらは超軽量でも扱いやすいスピニングリールだ。

 僅かに経って……────

「隣、いいですか?」

 青い衣装の少女の、リフリーと呼ばれた少女とは反対側の隣にやってきた者が、青い衣装の少女に問いかけた。

「どうぞっす」

 青い衣装の少女はそう言うものの、リフリーと呼ばれた少女との会話にあった愛嬌とか愛想がなくなった、乾いた口調でそう言った。

 断ってから隣に椅子を据え置いた少女もまた、青い衣装を身に着けていた。

 今まで座っていたのは、素直なフレアスカートの青いワンピースドレスに、白豹柄の厚手のケープを身に着けている、魔法少女ラピス・ラズリーヌII(2)nd()

 新たに来たのは、バルーンスカートの青いベルラインドレスに、透けるほど薄い白い半肩ケープを身に着けた、魔法少女ラピス・ラズリーヌIII(3)rd()

 ──── 別に血統による世襲というわけでもないのに、II世とIII世が併存していることには理由がある。

 リフリーと呼ばれた少女 ──── 魔法少女リフレッシングブリーズは、魔法少女の先達者2人を前に、困惑げな表情をしている。

「3代目」

 ラズリーヌIIが、相手の方も見ずに言う。

「プリンセス・デリュージはいつになったら()()()()()っすか?」

「師匠の気分次第かね」

 ラズリーヌIIIの答えに、ラズリーヌIIは奥歯を噛み締めて「チッ」と、どこかの誰かばりの舌打ちをした。

「居場所は言わなくていいっす」

「元から話すつもりはなかったけど、どうして?」

 素っ気ない口調のまま言うラズリーヌIIに、ラズリーヌIIIは少し怪訝そうにしながら訊き返す。

「私が黙ってらんないっすし、それを知ったら、ジャックも、インフリーも、めいっちょも、3人で……──── いやミクセっちもあわせて4人っすね、特攻しちまうっす」

「…………」

 ラズリーヌIIIは、再度怪訝そうな表情をラズリーヌIIに向けてから、自分の仕掛けを投げた。

 ちゃぷっ、ヒュッ

 ラズリーヌIIの仕掛けにヒットがあり、立ち上がりながらリールを巻いて、上がった釣果を手の中に入れる。血抜きをして、後ろも見ずにクーラーボックスに放り込んだ。

 ラズリーヌIIIは、自分の古ぼけたスピニングリールの竿に仕掛けをつけて、海面に向かって投げる。

 しばらくの沈黙、3人が何度か釣果を手にし、再度仕掛け、投げるを繰り返す。

 やがて、

「いつまでこんなこと続けるつもりなん?」

 と、ラズリーヌIIIがラズリーヌIIに聞いた。

「それはこっちが言いたいっす」

 ラズリーヌIIは、彼女らしくない、乾いた声で言った。

「3代目は、どうして “ラピス・ラズリーヌ” を継いだっすか?」

「え」

 一瞬、ラズリーヌIIIは戸惑った短い声を出してから、

「そりゃ、師匠にそう言われたから」

「“ラピス・ラズリーヌ” の名前って、自分にふさわしいと思うっすか?」

「それは……────」

 ラズリーヌIIIは戸惑って言葉につまりかけた。彼女の立場からは()()()破門されたラズリーヌIIだが、なんだかんだ元同門、 “ラピス・ラズリーヌ” として先達という意識もある。

 すると、

「ああ、3代目が考えている意味とは逆っす」

 と、ラズリーヌIIは言った。

「逆?」

 少し、キョトン、としてしまいながら、ラズリーヌIIIは訊き返す。

()()()()()キャ()()()()()()()()、 “ラピス・ラズリーヌ” は()()()()()()()()()()、という意味っす」

「それってどういう……────」

 相変わらず、彼女らしくない硬い表情と口調で言うラズリーヌIIに対し、ラズリーヌIIIは怪訝そうに訊き返す。

「師匠ね、 ────」

 

「“Cranberry children” なんすよ」

 

「──── !!」

 ラズリーヌIIIの表情が凍りついた。

 “Cranberry children(クラムベリーの子どもたち)”。それは魔法少女選抜試験をデスゲームに変えた、森の音楽家クラムベリーの、その魔法少女選抜試験によって選抜された魔法少女達のことを示す隠語だ。

 そう呼ばれるようになった頃、それは忌み子に近い意味を持っていた。その1人 ──── いや4人が関わる事件の後に、その評価は変わり、今では囲い込もうとする有力者が少なくない。

 だが、魔法少女ブルーコメットがラピス・ラズリーヌIIndを襲名したのは、()()()()より前の話だ。

「ここからはあくまで私のヘタな推理と断っとくっすけど、多分私は身代わりっすね」

「身代わり」

 ラズリーヌIIの言葉を聞いて、ラズリーヌIIIはそこを鸚鵡返しにした。

「あの頃まだ “Cranberry children” は()()()()()じゃ()()()()()っすけど、有力者の間じゃ危険分子の代名詞になってたっす。だから師匠は、資質はともかく行動が大仰な私に “ラピス・ラズリーヌ” を()()()()()んじゃないっすかね。その上で、あの事件の現場に送り込んだ」

 ラズリーヌIIがそこまで説明した時に、その釣り糸にヒットがあったが、ラズリーヌIIはリールを巻いているうちに「チッ」と舌打ちした。

「バラしちまったっすか」

 そう言って、エサだけなくなった釣り針を手繰り寄せてから、ラズリーヌIIは自分達のクーラーボックスに視線を移した。

「一杯っすね……」

 クーラーボックスの中身は、ほとんどがキスの釣果でいっぱいになってしまっていた。

「もっとおっきいクーラーボックス、オクででも探すっすかね」

 ラズリーヌIIは、呟くように言ってから、

「リフリー、そろそろ引き揚げるとするっす」

 と、リフレッシングブリーズに告げる。

「あ、はい!」

 リフレッシングブリーズはそう言って、自分の道具を片付け始めた。

 釣り桟橋の付け根にある、隣接する臨海工業地帯の製鉄所が供給している水道で、洗えるものをざっと流す。振り出しの釣り竿を縮める。

 そして、駐車してあったラズリーヌII ──── 米田(よねだ)瑠璃(るり)の愛車、ディープブルーにオールペイントされた、SJ30V型 2代目第1期 スズキ ジムニー のリアゲートを開け、荷室にあったラゲッジボックスに道具を入れ、クーラーボックスもその荷室に積み込んだ。

「リフリー、帰りに洗車機で潮だけ流すっすから、それだけ付き合ってほしいっす」

「あ、はい、だいじょうぶです」

 ラズリーヌIIの言葉に、変身を解いたリフレッシングブリーズこと風谷(かざたに)ミキが、アウターキャミソールに(あんず)色のミニスカート、パーカーという姿で、返事をする。

「────」

 ラズリーヌIIがふと見ると、不用心にも自分の竿から離れて、微妙に近いとも言えない距離にまで来ているラズリーヌIIIが、こちらを見ている。

「リフリー、チョークだけ引いてくれっす。全部じゃなくて、半分くらい」

「あ、はい」

 ラズリーヌIIは、自身も変身を解きながら、運転席ドアを開けて、既に助手席に乗っているミキに、言う。

「3代目にブルーベルを選んだ理由も何となく分かるっすけど、私が推測であんたに伝える権利も義務も義理もないっす」

 そう言いながら、キーを差し込んだイグニッションスイッチを “ON” へ、さらに “START” へ。

 トルルルルル……ヴァンッ、パランパンパンパンパン……

 2ストロークエンジン用の軽い始動電動機(セルモーター)の音の後に、LJ50型エンジンが鼓動を始める。

 そこへ、

「2代目」

 と、ラズリーヌIIIが声をかけてきた。

 ミキは、運転席の窓越しにハラハラしたような様子で2人を見ている。

 変身を解いた瑠璃は、やや気の早い半袖のTシャツにマイクロショートパンツという出で立ちだ。かつて失った左下腿部を補う外殻型自動義足が、スカートの魔法少女衣装のときより目立つ。

 その瑠璃は、再度ラズリーヌIIIに視線を向けた。

 ラズリーヌIIIが問いかける。

「そんな名前とわかっていながら、なんで2代目は、今でも “ラピス・ラズリーヌ” を名乗るの? 師匠に逆らってまで?」

 それに対して、瑠璃は答える。

「私にも野望ができたからっす」

「え?」

 

「澄んだ青にして次に渡したいんっすよ、この名前(Lapis Lazuline)を」

 

「────」

 バンッ

 運転席のドアが閉まる。

 窓越しに瑠璃はラズリーヌIIIを見る。

 ラズリーヌIIIが、どこか呆然として立ちながら見送る中を、瑠璃のジムニーは走り去っていった。

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 かつて、岸辺(きしべ)颯太(そうた)は普通の少年だった。

 あえて特筆するなら、魔法少女が好きだった。

 それが5年前、その運命に転機が訪れた。

 『魔法少女育成計画』。

 ソーシャルゲームを通じて勧誘され、本物の魔法少女、ラ・ピュセルになった。

 ただ、思い描いていた、憧れた世界はすぐに破綻する。

 名深市の16人の魔法少女に突然に告げられたバトルロイヤル、脱落は死を意味するデスゲーム。

 そんな中、ラ・ピュセルは、自身が指導役でもあり、現実社会における幼馴染でもある魔法少女、スノーホワイトを守って立ち回り、戦ったが────

 その戦いぶりが、加害性の高い戦闘狂であり、実際の黒幕の1人だった、森の音楽家クラムベリーに目をつけられた。

 絶望的に圧倒され、身体のあちこちを破壊され、死の直前の状態で、道路に捨てられた。

 そして、荷物を満載したガソリンエンジンの2t積みトラックに撥ねられ────

 ──────── なんの奇跡か因果か、そこで尚、一命を取り留めた。

 ただし、 ──── 岸辺颯太、生来の姿の喪失と引き換えに。

 以降、かつて彼と呼ばれた彼女は、魔法少女ラ・ピュセルの姿でのみ生きていくことになった。

 

 

 市立(うめ)()(ざき)中学校。

 市立、と言うと普通の、義務教育課程で特別なことがなければ満13歳年度から満15歳年度まで通う地域中学校を連想するが、ここはそうではない。市営梅見崎学園の一部であり、形態としては “学校教育法第38条・同第49条による地域中学校とは別枠の、同法第1条に定める市営学校” (通称 “一条校”)であり、私立小中学校同様、入学試験を受けて合格し、入学する。

 その梅見崎中学校は、最近、敷地内でかなり大掛かりな移設が行われた。これは、老朽化した旧設備から、校舎、体育館を含む新設備への更新のためだ。

 移設後、再利用された一部を除き、旧校舎とその設備は、立入禁止とされたまま、しかし、取り壊されることもなく存置されていた。手入れもされていない、放置、放擲とは明らかに違った。

 そして、今年からその旧校舎に、特進コース、と表向きそう説明されている、1年F組の教室と専用設備として再利用されることになった。

 

 サブカルチャーに於いて “使われなくなった学校の旧校舎” と言われると、木造校舎が典型に描かれることが多いが、梅見崎中学校旧校舎は紛うことなき鉄筋コンクリート造だ。学校の校舎はよほど小規模なものでない限り、昭和40年代後半には鉄筋コンクリート造が当然になっている。築半世紀を越え、アスベストの問題なんかもあって、子どもを預かる学校であれば、新築するか構造再生(リファイニング)規模の大規模修繕工事を必要とする。

 もはやアラサーの自分にとっても、 “懐かしい” というより “歴史資料で見た” 空間。その廊下を歩いていく。

 立派な校舎にたった1クラス、寂しいと見るべきなのか。それでも、教室に近付くと生徒達の喧騒が聞こえてくる。

 扉を開ける。

「はい、みなさん、席についてくださーい」

 手慣れた口調で、姫野(ひめの)(のぞみ)はバンバンと出席簿を叩いて鳴らしつつ、そう言った。

 

 

 本来なら1人だけが生き残るデスゲームと化した、クラムベリーとそのマスコット・電脳妖精ファヴの魔法少女選抜試験を、紆余曲折あって4人が生還した。

 ラ・ピュセル、岸辺颯太。

 リップル、岸辺華乃(かの)(当時の旧姓・細波(さざなみ))。

 スノーホワイト、姫河(ひめかわ)小雪(こゆき)

 トップスピード、室田(むろた)つばめ。

 黒幕のクラムベリーとファヴが死んだ後、魔法少女の本山、魔法の国は、この2人が野放しになっていた不始末を詫びるため、4人が正式な魔法少女になることを認めた。

 成績上位だったラ・ピュセルとトップスピードには、活動継続に必要な、認識阻害の効果を持つ護符が贈られた。

 また、後に僅かではあるが金銭的な補填も約束された。

 

 その2年後、今度はそのラ・ピュセルをマスターに据えて、電脳妖精ネクをマスコットに迎えて催された魔法少女選抜試験。

 しかしその本当の目的は、能力を発揮できない人造魔法少女に “死の圧力” をかけるためのフィールドの用意だった。

 だからこそ、クラムベリーを覚えている生存者で、もっともその人生を損ない、尊厳を傷つけられたろうラ・ピュセルを選んだ。負の連鎖を起こすために────

「は? 計画したやつは何考えてたんだよ。こいつ全力で喜んでんぞ」

 あとから事情を知ったトップスピードが、呆れてそう言った通り、ラ・ピュセルは負の連鎖を選ばなかった。

 焦れた黒幕側は、2人の殺戮者を送り込んできたが、犠牲は出したものの、どちらもラ・ピュセル達 “名深の4人組” によって止められた。

 結果から言えば、被害が小さいとは言い難かったが、そこまでされても候補生16人中12人を生かして選抜試験を終え、候補生リフレッシングブリーズが正式の魔法少女になった。

 そして、 “名深の4人組” に、2人の魔法少女が合流した。

 1人は、自身の師匠筋から観察役として送り込まれたが、最終的に自身の正義に従って師匠と袂を分かった、ラピス・ラズリーヌIIndこと米田瑠璃。

 そしてもう1人は、この選抜試験の裏の目的として送り込まれた、人造魔法少女ミクセリクサーだった。

 

 

「今年、このクラスの担任を務めることになりました。繰々姫(くるくるひめ)です」

 希は魔法少女としての名前で名乗った。

 梅見崎中学校1年F組の実態は、魔法少女教育施設だった。 “クラムベリー最後の魔法少女選抜試験” 事件、 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件、 “魔法少女連続失踪事件”、と、ここ5年で魔法少女選抜試験に於ける失態や試験官の違法行為露呈が相次いだ結果、これまでの社会の裏で候補者を集めて選抜試験を行う方式に疑問が呈された結果、このような試みがなされることになった。

 ただ、すべてが主催者の思惑通りにはならなかった。

 今挙げた事件のうち、ラ・ピュセルだけは試験官として、致命的な瑕疵を起こしたわけではない。むしろ持ち込まれた暴力に対して候補者16人中12人を守った。事件の本当の真相を糊塗するため、(かのじょ)を英雄視するようにストーリーをつくって結果を公開したため、

「犠牲者4人なら、不可抗力でもあり得る数字ではないか」

「むしろ必要なのは選抜する側の綱紀粛正ではないのか」

「次に増員するときの試験官候補なら、もうリフレッシングブリーズがいるだろう」

 と、言う声が当然のように出てきた。リフレッシングブリーズは “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” の合格者だ。

 魔法少女の本山・魔法の国の魔法少女部門で、魔法少女選抜試験の管轄は人事部だが、ラ・ピュセル達 “名深の4人組”、あるいは “Clamberry's youngest quadruplets(クラムベリーの末の四つ子)” と呼ばれる(かのじょ)達の後ろ盾として強いのは外交部だ。だから外交部が希 ──── 繰々姫を押し込もうとして、主催者は反対できなかった。学校運営の理事会も正規の教員免許保有者を担任として据えることを条件にしてきた。

 主催者は(ほぞ)を噛む思いだったが、一歩間違えば魔法の国の存在とその実態が暴かれるリスクを(おか)しての試みとあれば、それらを跳ね除けることは難しかった。

「魔法少女共に、下賤の一般社会の役人どもが」

 主催者は現校舎の校長室にいた。切れ長の耳を備えた麗人は、左手親指の爪を噛みながら憎々しげに呟いていた。

 ともあれ、新入生を迎えるこの季節、1年F組の運営・活動も、一般人の認識の外でひっそりと始められた。

 

 

 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件からほぼ1年後。

 “名深の4人組” に合流したミクセリクサー、そして “盤洞(ばんどう)市の暗殺魔法少女事件” の際に魔法少女となったファニートリックが、外交部からの内々の要請で、左海市にある人造魔法少女秘密研究所の捜索とデータ回収に向かった。

 そしてそこで起こったことは、ただ単にそこで人造魔法少女の密造が行われていたことだけではなかった。

 人造魔法少女の技術は、昔から存在したが、完全に存在すべてをイチから作り出せたわけではない。大抵は、人間かホムンクルスをベースに魔法少女にする。だが前者は、技術が稚拙だった時期には落命の危険がつきまとい、後者は制御を失って暴走する危険があった。

 そこに一石を投じようとした3者が、この左海市の地下研究所に鉢合わせてしまった。

 原初の()()人造魔法少女ミクセリクサー。

 人格を限定し命令に忠実にしたシャッフリン。

 人間を素体にしつつ、従来と比べて安全かつ安価に戦闘特化魔法少女を作成可能にしたプリンセス・シリーズ。

 この研究所での偶発戦は、かつて “失敗作” とされたミクセリクサーが、戦闘力、命令遂行能力に於いて他の2者を圧倒した。人造魔法少女の価値と存在意義を大きく変えてしまった。

 それが遠因となって、魔法の国の頂点に立つ “三賢人”、その彼らを頂点として構成する3大派閥のうち、2派閥が崩壊した。

 だが、人造魔法少女をめぐる陰謀はなお続いている。

 ──── 左海市の事件に於いてミクセリクサーと通じあった人造魔法少女、

 プリンセス・テンペストこと東恩納(ひがしおんな)(めい)

 プリンセス・インフェルノこと赤星(あかほし)(あかり)

 そして、本来の左海の地域魔法少女、プリズムスプリントこと、岸辺颯太と姫河小雪の幼馴染である緋山(ひやま)朱里(あかり)

 ここに、研究所の戦いで不幸にも命を落としたプリンセス・クェイクを、ミクセリクサーGen2(第2世代)として命を吹き込み直した、プリンセス・ジャックこと茶藤(さとう)千子(ちこ)も加わって、 ──── 彼女たちは待っている。最後の1人の帰還を────

 

 

「それでは、まずは皆さんの自己紹介から始めましょう。出席番号1番の人から、お願いします」

 希は、心がけてニコニコとしながらそう言って、教室廊下側最前列の生徒を指した。

 この1年F組で生徒として過ごすものは、旧校舎設備にいる間、魔法少女名だけを名乗る。そう義務付けられている。

 だが、学校の管理システムに魔法少女名をぶち込んでしまうわけに行かない関係上、出席番号は人間名の五十音順になっている。

「はい」

 ハッキリとした声で返事をし、立ち上がったのは、如何にも優等生然とした、制服をキチッと着こなした女生徒だ。この子は手間がかからなそうだというのが、希の第一印象だった。

「私はプリンセス・デリュージといいます ────」

 

 

 ラ・ピュセルが魔法少女になってから、年を数えて5年。

 梅見崎中学校1年F組を巡る出来事の発端は、今窓の外で咲き誇っている桜の枝々が、まだ、葉を落として冬の寒さを堪え忍んでいた時期に遡る────────

 





はい。設定を少し整理しておきます。
旧校舎は鉄筋コンクリートに変更しました。
開始は原作『黒』より半年ほど後ろに後ろに押し込まれてます。
(『2-o-H』の段階で4ヶ月ほど遅れてる)
「2学年」って中途半端だなと思ったので1学年春に変更しました。


具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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