魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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第07話

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 名深市中宿、元 “華乃邸”。

 ピリリリリリ……

「ん、あれ、これスマホじゃ……」

 着信音に、朱里がキョロキョロと周囲を見回す。

「ボクのマジカルフォンだ」

 そう言って、颯太がマジカルフォンを取り出したかと思うや、

『おいっ、早く出ろこっちはヒマじゃないんだ』

 と、突然テレビが()き、アナログ2chに設定されて、その画面にレディ・プロウドのドアップになった顔が出現した。

「うわっ!?」

「おうっ!?」

 颯太と朱里が、仰け反りながら声を上げる。

 プロウドの顔がバストアップ程度に()()。颯太が卓袱台にマジカルフォンを置くと、ネクが姿を表した。

『そっちから頼まれて背後関係の再調査してたんだぞ。こっちはこっちで仕事があるというのに』

 ブツクサと愚痴るように、プロウドは言う。

「だったら────でしたら別に、ネクにデータだけ送っておいてくれればよかったんですけど……」

 颯太が言い訳するかのような口調で言う。

『データ自体はもう送ったが、1人だけ注意しておきたい人物がいてな』

「注意しておきたい人物?」

 プロウドの言葉に、颯太が訊き返す。朱里もキョトン、としている。

『鳩田守颯。もう確認しているだろう?』

「ええ、まぁ」

 プロウドの言葉に、颯太はあっさりと返事をしたが、朱里は眉を険しく(しか)めて、

「いまいちはっきりしていないやつですよね? なんか解りましたか?」

 と、鋭い視線で訊き返した。

 プロウドが、

『いや、今の所背後関係らしい背後関係は見つかってない』

 と、そう答えると、颯太と朱里は、卓袱台を挟んでその内側に向かって倒れるようなリアクションをした。

『その背後関係が見つからないってことが不自然なんだが……その上でこれだ』

「?」

 姿勢を立て直した颯太と朱里が、プロウドの言葉を聞いて、不思議そうにしつつ画面を注視する。

 すると、画面に1枚の書類が提示された。

 斯波自動車整備(資)のものではないが、やはり地方の非チェーン系の中古車販売店や自動車整備会社のものに見える、シンプル極まりない書式の、自動車売買契約書だ。

「日付が最近っすね」

 朱里が、契約年月日を見て呟くように言った。

 メーカー名 いすゞ、車種 ビッグホーン SPEバイロータス L・ハイルーフ、型式 Q-UBS55FW改、年式 H2年、車体色 灰、特記事項 構造変更 H25年 原動機型式変更 マツダ13B 燃料の種類変更 ガソリン…………

「…………でも、ボクらもクルマは買ったりしてるし、袋井魔梨華もここへ来る前から赤のCX-3乗り回してるし。別に驚くようなことじゃないんじゃ」

『クルマの購入自体はな』

 プロウドが言う。

「?」

「?」

 颯太と朱里は、狐につままれたような表情で顔を見合わせる。

『問題は記入された免許証番号だ』

「免許番号が、どうかしたんですか?」

 プロウドの言葉に、朱里が訊き返す。

『ダブってるんだよ』

「!?」

 それを聞いて、颯太の方もにわかに表情を(しか)めた。

「つまり、免許証番号が同じ人間がもう1人いると……」

『しかもその人物がコレだ』

「!?」

 颯太の言葉に続いてプロウドがそれを示すと、2人の表情にさらに戦慄が走る。目を見開いて凝視する。

「小雪と同じ……免許番号……」

 颯太が漏らすように呟いた。

『これが偶然なのか故意なのか、はたまたそれ以外のなにかなのか、まだ追跡調査中だ。今すぐどうこうってことはできないだろうが、頭には置いといたほうがいいと思ってな』

「…………」

「…………」

 颯太と朱里は、顔自体をテレビの方に向けたまま、緊張と気まずさの混じった視線を向けあった。

『それじゃあとりあえず要件まで。悪いが切るぞ』

 

「なんか鳩田守颯の正体がワケわからなすぎて、それ以外どころじゃなくなったな……」

 朱里が、卓袱台に両腕で頬杖を突きながら、ため息交じりに言った。

「でも、一応確認はしておくぽん」

「お願い」

 ネクの言葉に、颯太が続きを促した。

 映像付き通信が終わり、そのウィンドウが消えたテレビに、改めてプロフィールリストが表示された。

「まず、プシュケ・プレインスだぽん」

「ラズリーヌが気になるって言ってたやつね」

 ネクの言葉に、颯太が言う。

「彼女の背後はカスパ派、ただしプク派残党系だぽん」

「うーん……それって、土壇場ってときにまずくないか?」

 ネクの説明に、腕組みをした朱里が訊き返すように言う。

 颯太も芳しくなさそうな表情をしている。

「今回に限っては、あまりその心配はしなくていいと思うぽん」

「それは、どうして?」

 ネクの言葉に、手振りを加えながら颯太が聞く。

「プク派は洗脳で派閥を維持していたところがあるぽん。その頂点のプク・プックがいなくなって、洗脳が解け始めていて、プク・プックへの崇拝が薄れてるんだぽん。そのうえでラ・ピュセル殺しても、恥の上塗りの上にカスパ派敵に回すだけでいいことないぽん」

「そんなもんなの?」

 当の颯太が訊ねる。

「そんなもんだぽん。だいたい今のカスパ派内のプク派残党系はほとんど全員 “最初の魔法使い” の遺跡の攻防戦になんかの形で関わってるぽん」

「ああ、そりゃ確かにこいつ恨むどころじゃないわな」

 朱里が、思わず苦笑しながら言う。

「どういうこと?」

 まだ解っていない様子で、颯太は、キョトン、とした表情をしている。

「あの戦闘、ミクセリクサーが出張ったよな?」

 朱里は、視線をネクの方に向け直して、問いかけるように言う。

「そうだぽん。半壊してたプク派には、シャッフリンII(2)との物量戦制するのにはミクセリクサーいなきゃどうにもならなかったぽん」

「つまり、プク派ってのはミクセリクサーに恩があるわけだ」

「そのとおりだぽん」

「そんでもって」

 そこまで言って、朱里は視線を颯太に移す。

「そのミクセリクサーの “先生” っていったら誰だよ」

 朱里がそう言うと、颯太は脱力するようにがくんと崩れるリアクションをした。

「それでなくとも左海市の事件以前からプク派とオスク派は根強い敵対関係だったぽん。弱った今、カスパ派からほっぽりだされたら構成員の命にも関わるぽん」

「なんだかな……」

 崩れた姿勢のまま、颯太はそう言った。

「プク派残党系なら、むしろ生え抜きのプシュケより、こっちの方が問題だぽん」

 そう言って、ネクが別のプロフィール画面を表示する。

「えっ!?」

 表示されたランユウィの画面を見て、颯太が声を上げた。

「この()、確かラズリーヌが……2代目が、ラピス・ラズリーヌ一門だって……────」

「言ってた言ってた」

 颯太の言葉に、朱里も同意の相槌を打つ。

「どーも研究部から離れて、半フリーランスみたいな感じでやってたところを、プク派残党系に依頼されて潜り込んだみたいだぽん」

 ネクはそう説明した。

「うーん…………」

 腕組みをして、颯太が唸り声を上げる。

「オールド・ブルーがまったく知らないってことはないと思うんだけどなぁ」

「そぉかぁ?」

 颯太の言葉に、朱里が、皮肉っぽく眉毛を歪めながら言う。

「左海の研究所ほっぽりだした挙げ句、あかり()んとめいちゃんこっちの味方にさせたぞ。広く言えばジャックもそうみたいなもんだろ?」

「まぁ、地域魔法少女のスプリントとテンペストに接点あると考えてなかったのは確実ぽん。そこは確かに抜けてるぽん」

 ネクが同意する言葉を言った。

「それでも、この娘がプク派の依頼受けてるのをただ黙って放置してるとは思えないなぁ」

 颯太は、頭を掻く仕種をしながらそう言った。

「それより、逆にプク派ってのがこいつを送り込んでる方がひっかからないか?」

 朱里が、真剣な表情で言う。

「え?」

 颯太が、キョトン、とした表情を朱里に向ける。

「プシュケって生え抜きのやつもいるんだろ? ってことは、こいつ(ランユウィ)はもしオールド・ブルーがなにかここでやらかした時の────」

 朱里がそこまで言い、そこから颯太、ネクもハモって、

「人質」

 と、言った。

 颯太は、呆れたような表情になりつつ、身を逸らすようにしながら、

「ラズリーヌのこと考えると、それが通じる相手じゃないと思うけどなぁ。オールド・ブルーって」

 と、言う。

「でも、牽制にはなるぽん」

「だろ?」

 ネクと朱里がそう言った。

「次は、この4人組ぽんね」

 ネクが、そう言って画面に映し出したのは、ドリル・ドリィだ。

「後の3人はまだウラが取れてないケド、多分4人とも人造魔法少女で間違いないと思うぽん」

「また、人造魔法少女か……」

 朱里がそう言い、うんざりしたようにため息を吐いた。

「そう言うってことは、この娘は?」

 颯太が訊ねると、ネクは、

「ウラが取れたぽん」

 と、答える。

「このコは旧オスク派の実験場から送り込まれたみたいぽん」

「他の3人は違うっぽい?」

「そこははっきりしてないみたいだケド、多分」

 重ねて訊いた颯太に、ネクが答えた。

「オスク派の実験場っつーと……────」

 朱里が問いかけるように言う。

「シャッフリンをつくったところか」

「そうだぽん」

「ミクセリクサーに場所バレたら更地にされること間違いないとこ」

 朱里のその言葉に、颯太は眉間に皺を寄せつつ苦笑気味に、

「ジャックと組むとできかねないからそういう冗談はやめようよ」

 と、言うが、それに対して朱里は、口元で僅かに笑いつつも、

「冗談で言ってない」

 と、言いきった。

「で、こいつらはどんな感じなんだ?」

 朱里が、ネクに視線を向け直し、問いかける。

「簡単に言っちゃうと、ミクセリクサーより旧いタイプの人造魔法少女だぽん」

「え、人造魔法少女ってあいつ(ミクセリクサー)が最初じゃないのか?」

 朱里が、軽く驚いたような、意外そうな表情で訊き返した。

「それは “完全人造魔法少女”。つまり、素体そのものから専用に造られた最初の人造魔法少女がミクセリクサーだぽん」

「それより旧いって言うと?」

 今度は颯太が訊く。

「ホムンクルスや人間におっ被せるタイプぽんね。ドリィは人間型ホムンクルスを使ったものだぽん。後の3人もそうだと思われるぽん」

「でもよ? 旧型だっつって安心はできないよな?」

 朱里が言う。

「ホムンクルスって悪魔とも言われてて、本来かなり強いんだろ?」

「…………それ自体は、()()ラ・ピュセルやプリズムスプリントなら油断しなきゃ大丈夫だぽん」

 あまり晴れやかではない言葉を出すネクに、今度は颯太が、

「だけど、この娘の場合はさらにそこから()()()()()()()()()だろ?」

 と、聞いた。

「そのとおりだぽん」

 ネクは言う。

「しかも、載っかってるのがプリンセスジュエル・システムだぽん」

「え!?」

 颯太と朱里が、そろって仰け反るようにしながら声を上げる。

「それは研究部……オールド・ブルーの方なんじゃないの!?」

 颯太が問いただす。

「さてどうかと……最近、旧オスク派とオールド・ブルー、仲いいみたいだからなんとも……ぽん。オールド・ブルーが提供したのかもしれないし、ジャックみたいにパチってきてリバースエンジニアリングした可能性もあるし……だぽん」

「まぁ、多分そのあたりはあんまり重要じゃないと思うがな」

 朱里はそう言って、後頭部に両手を回す。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ちゃ()()()()な。あれはあかり()んみたいな、どんな状況でも冷静な判断下すやつ向きだ。あたしはプリズムスプリントの方が好きなだけ暴れられて性に合ってる」

「は、はは」

 朱里の言葉の前半を理解しつつも、後半をどっからどうツッコもうかと考えつつ、颯太は乾いた笑い声を出した。

「あとは、新情報があるのはディティック・ベルぽんね」

「背後関係、解った?」

 ネクがプロフィール画面を切り替えたところで、颯太が問いかける。

「解ったぽん。ベルに依頼したのはカスパ派の貴族だぽん」

「え?」

 少し呆気にとられたような表情で、颯太が短く訊き返す。

「外交部系でもプク派残党系でもない、古くからのカスパ派の有力者みたいぽんねー。ただ、ベルの背後関係は多分これ以上心配しなくていいと思うぽん」

「それなら……いいけど」

 ネクの言葉を聞いて、颯太はやれやれと言ったように脱力しながら言う。

「ただ、問題というか、経歴にひとつ気をつけなきゃならないことがあるんだぽん」

「え?」

 

「ディティック・ベルは────────」

 

 

 名深市中宿、南側の丘陵地帯。

 すでに陽がだいぶ傾いている。

 1人の────大人びた少女、と言うにはやや年嵩であることを隠せない、それでも若い女性が、双眼鏡を住宅地の方に向けていた。

 その双眼鏡の先に、経年の小さな木造平屋建ての住宅があった。

 双眼鏡の視界の中に、緑色の、昔のスタイルのミニバンが近付いてくる。

 その平屋建ての車庫と言うか駐車スペースに、緑のミニバンはバックで入れる。

 やがて、ミニバンから1人の、街中ですれ違えば同性でも思わず振り返ってしまいそうな、幼さを失くしきらない、片眼に傷を負ってなお()せぬ美貌の、長身の女性が、長い髪を流すようにしながら、住宅の玄関の前に立ち、扉を開けて、中に入っていった。

「…………」

 双眼鏡を覗き込んでいる女性の瞳から、涙が一粒だけ(こぼ)れ落ちる。

 双眼鏡を下ろし、背後に止まっていた自身のクルマに向かう。

 手っ取り早くクルマを手に入れようとして、自動車解体業者をあたったら、前オーナーが構造変更までやっていて価値がつかない、タダでもいいから持っていってくれと言われたものだ。

 運転席に乗り込む。

 キーがささったままのイグニッションスイッチを “ON” へ、さらに “START” へ。

 車体とは生みの親すら異なるエンジンが目覚め、鼓動、と言うには少し異質な爆音を上げる。

「いいから、クルマの免許だけはとっとけ。MTで。後でまったく潰しが効かなくなると詰むぞ」

 渋る自分にそう強く言い聞かせて免許をとらせた教師を思い出す。あの時は何を余計なことを、押し付けがましい、と思ったが、おかげで特に目立つこともなく移動できる。

 入替えられた心臓(エンジン)が甲高い音を立てながら、クルマは高速道路のインターチェンジへ、本線への分岐を東京方面へと進んでいった。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 





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