魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
── ッ
衝撃波が全身に叩きつけられた。
── なんだ、これはッ!?
全身の関節が軋みを上げている。五感も怪しい。
だが、これは自分が体験してきた戦いの中では、まだ甘い部類のものだ。
──── ものの、はずだった。
“戦場” には、戦いを鼓舞するかのように、ベートーヴェンの交響曲第3番、『英雄』が流れている。
正面に突然現れた “敵” が、剣で上段から、しかし無駄の少ない動きで斬りつけてくる。
── !?
バキィッ!
額が割れ、血が溢れ出す。だがこれは出血が派手なだけだ。深手ではない。
「!?」
──── ようとしたときには、すでに相手はその場にいなかった。
「面白い、ことを、するじゃないですか」
言葉は偽りではない。もっと絶望的な戦いを経験してきた。 ──── 経験してきたはずだ。
── どこにいる……
感覚を研ぎ澄まし、その音を追い、 “敵” の場所を突き止めようとする。 “戦場” を満たす音楽の音は邪魔だが、それはただのノイズにしか過ぎない────
バキィッ!
“敵” は死角から飛び出してきた。
横薙ぎの一撃が、左上腕部に入った。
── ッ!
視線をそちらに向けたときには、やはりすでに “敵” の姿はなかった。
── ばかな!
これ以上の強敵なら知っている……知っている……はずだ?
──心音か、足音を追う……
「!?」
足音、心音が、僅かな感覚だけをあけて複数の場所から反響してくる。 “敵” は1人だけのハズなのに、だ。
“戦場” の中央を見上げた。耳障りな音をかき鳴らす装置を見た。
── あれか、あれのせいか! なら、あれごと吹き飛ばしてやる!!
全力を込めて、全周に強烈な攻撃を放ち ────
グワッ、バキメキバキィッ!!
「あ、が、が、がぁぁぁぁっ!!」
自身が放ったはずの攻撃は、数倍の威力になって返ってきた。
── !!
「音が、声が、聞こえない!!」
今のダメージは、全身の関節を
「どこへ、どこへ行った……!!」
焦れる。音以外の
バキィッ!
今度のは防ぎようがなかった。完全な不意打ちだった。 “敵” の剣の一撃が、自分の脚を薙ぎ払った。直接的なダメージは限定的だが、脚への強力な打撃でバランスを崩し、床に転げた。
── 私は……────
── 私は、こんな戦いがしたくて魔法少女であり続けたわけじゃない!
這いつくばるようにしながらも、なんとか起き上がろうとする。
視線を上げたその正面に、 “敵” の姿があった。
巨大な剣を振り上げ、何かを叫ぼうとしている。
その顔、憎悪、殺意、以前のこの “敵” は見せなかった ──── 正しくは、ここまでのものを見せることはなかった顔。
剣が振り下ろされてくる。────
─☆──☆──☆──☆─
──── 現在より、少なくとも過去の話。
「!」
目の前から向かってきていたラピス・ラズリーヌ
「ブベッ!?」
反射的に右手を剣から離し、裏拳を叩き込んでしまっていた。
「あ、ごめん」
背後で、鼻を打って仰け反ったラズリーヌIIを振り返り、ラ・ピュセルは慌ててそう謝った。
「いや。本気で入れちゃったわけじゃないっしょう?」
体勢を立て直したラズリーヌIIが、逆にそう言った。
「まぁ、咄嗟にガードした程度ではあるけど……」
──── ラピス・ラズリーヌIIndはラ・ピュセルにとって4人目の師だ。 ── 1人目はあまりカウントしたくなかったが ── その後の2人が主に理論より実践で戦いの感覚を掴め、というタイプなのに対し、ラズリーヌIIは主に精神や神経を自在に扱うことを伝授する役割だ。本人は、
「いやーっ……自分も言葉で教えるのは向いてるタイプじゃないっすよ」
と、言っていたのだが ────
「そこで頭の中に回路ができたのを思い浮かべて ──── できたっすか?」
「掴めたと思う」
「そしたら、今までの回路からそっちに切り替えて、シューッと……────」
「あ、うん、わかるわかる」
こんな感じで、本人が苦手と言う割には、一度取っ掛かりができるとそこまで解りづらくもない、という感じだった。
「時間分解能?」
模擬戦の後に、ラズリーヌIIからラ・ピュセルにその話題が振られた。
訊き返されたラズリーヌIIは、右手の人差し指を前頭部に当てて、難しい顔をしながら、
「えーっと……つまりっすねぇ、人間も基本的には一定の間隔で時間を切り分けてアタマで処理してるっていう……」
と、説明しようとする。
「あ、うん、その言葉自体は解るよ」
ラ・ピュセルはまずそう答える。
「アニメは視覚に対する時間分解能以上の速度で連続した絵を次々に切り替えることで、動いて見える、そう言うやつでしょ?」
「そ、そういうことっす。で、魔法少女は生身の人間よりこれが1000倍くらい速いんすけど」
なんとか論理的に説明しようと、ラズリーヌIIは難しそうな表情で頭を揺すりながら言う。
「それも知ってる。だからとっさの場合に素早く動いて、クルマや電車も押し止めたりすることもできるわけで……────」
ラ・ピュセルはそこまで言って、はっと気がつく。
「── あれ? それだとすると、魔法少女のときって、テレビやパソコンのモニターもチラチラチラチラしちゃうはずだよな?」
「その気でやれば静止画の紙芝居みたいにもできるっすよ」
ラ・ピュセルの疑問に、ラズリーヌIIが付け加えるように言い、更に続ける。
「でもそれじゃ不便っすから、実際には、必要ない時は時間分解能を生身の人間並みに落としてるんっす」
「……まぁ、そう言うことになるよね」
「普通の魔法少女は、自然にこれをやってるっす。無意識にっすね」
「うん」
ラ・ピュセルは、ラズリーヌIIの説明にまず、頷いてから、
「──────── その言い方するってことは、意識的にやってる魔法少女もいるってこと?」
と、疑問というか、思いついたことを口にした。
「ざっつらいとっす」
ラズリーヌIIが肯定する。
「もしかしてラズリーヌも?」
「そういうことっすね」
「それ、ボクもできるようになる?」
どこか無邪気そうに、ラ・ピュセルが笑顔になって言う。
だが、それを聞いて、ラズリーヌIIは、どこか脱力したように、
「ラピュっちには必要ないっす」
と、言った。
「え!? なんで?」
ラ・ピュセルが、反射的に訊き返す。その表情はどこか不満そうでもあった。
「ラピュっちは無意識にやってるから必要ないんす」
「いや、だからそれが任意にできれば……────」
「そうじゃないっす」
更に疑問を口にするラ・ピュセルの言葉を、ラズリーヌIIが遮った。
「え?」
「だから! 普通の魔法少女が本能的な反応でやってる大雑把なのと違って、ラピュっちの場合は、私や師匠あたりが意識してやってるレベルのを、無自覚に自動制御してるんっす!!」
ラズリーヌIIの言葉を聞いて、ラ・ピュセルは変に口を開けて固まり、たっぷり2秒ばかり凍りついた後、
「……………………え?」
と、短く声を出した。
「物に対する力のかけ方と同じっす。単純に上げる、下げるじゃなくって、場面場面でより最適な時間分解能に調整するようになっちゃってるんっすよ」
「それって、つまり……」
ラ・ピュセルが言いかけると、ラズリーヌIIは、その先の言葉を肯定して頷く。
「ずっと魔法少女のままの状態が
「…………」
ラ・ピュセルは自身の両手を見た。
「……例えばラピュっち、自分より素早い相手って言うと誰っすか?」
「えーっと……」
ラズリーヌIIが訊ねると、ラ・ピュセルは、視線を上にあげて、考え込むようにする。
「あ、魔王パムとか無体すぎるのは例外っす」
「まず、当然リップル?」
「あ、ごめんっす。リプっちも例外っす」
次々例外を挙げてしまって、ラズリーヌIIは気まずそうに顔を引き
「ぱっと思いつくあたりだと、朱里ちゃ……プリズムスプリントとプリンセス・テンペスト?」
ラ・ピュセルはそう挙げた。
「あの2人と模擬戦とかしたことあるっすよね?」
「ああ、うん」
「怖いと思ったことあるっすか?」
ラズリーヌIIにそう言われ、ラ・ピュセルは小首を振り、
「……………………あれ、そういえばないな」
と、少し不思議そうに言った。
「私だって素早さで言えばラピュっちより速い自信あるっす」
ラズリーヌIIが言う。
「ラズリーヌにはあの、ラズリーヌボールを使われたら勝てないよ」
ラ・ピュセルは苦笑して言うが、それを聞いたラズリーヌIIは、呆れたようにラ・ピュセルに視線を向けて、
「逆に言うと、屋内戦じゃないと優位取れないんっす」
と、言った。
「さっきの裏拳だってそうっすよね? 裏拳自体は反射でも、そこに私がいるって気づいてたっすよね?」
「あ、うん」
ラズリーヌIIの問いかけに、ラ・ピュセルは素直に認める。
「それがそうっす。時間分解能が最適に近い状態になってるから、自分から追いかけていくのは無理でも、相手が向かってくるのには対応できるんっす」
ラズリーヌIIはそう説明する。
だが、それを聞いたラ・ピュセルは、
「あれ? でもリップルにはいつまで経っても追いつける感じしないけど?」
と、疑問を口にする。
すると、またしてもラズリーヌIIが、呆れたようにヤブ睨みをラ・ピュセルに向けた。
「そりゃ当たり前っす」
「まぁ、それは……」
ラ・ピュセルは決まり悪そうに苦笑するが、ラズリーヌIIはヤブ睨みをラ・ピュセルに向けたままだ。
「多分ラピュっち、今間違えた答えを思いついたっす」
「え?」
「リプっちの場合は! そのラピュっち本人と年中鍛錬してるんっすから、ラピュっちのクセとか覚えてるから優位に立てるんっすよ! リプっちが自覚してるかはともかく、ラピュっちの時間分解能の自動制御もひっくるめてっす」
「あ、あー…………」
ラズリーヌIIの説明を聞いて、ラ・ピュセルは、納得しつつも決まり悪そうな表情で声を出した。
「男子三日会わざれば~……じゃないっすけど、魔法少女は1週間あれば一気に成長するっすからね」
「え?」
ラズリーヌIIの言葉に、ラ・ピュセルが短い声で訊き返す。
「ラピュっちのこの能力、凄まじく成長したのは最初の1週間だか2週間だと思うっす」
「それって……」
「だから、ラピュっち謙遜してるっすけど、多分その時もう──── ──── ──── ──── ──── ─
─☆──☆──☆──☆─
──── 現在。
「ん」
ぱちっ、と、目を覚ます。
小雪は、少し窮屈……な状態ではないサンバーキャンパーのフラットベッドの上で、身を起こす。
隣で寝ていたはずの希がすでにいない。
こんな状況でも、しっかりピンク色のパジャマを着ている小雪は、身を起こして、腕を上にあげて
毛布から抜け出す。ポップアップルーフのベッドの2人もすでにいない。外からは発電機のエンジンの爆音が聞こえてきている。
左スライドドアを開ける。
燈が折りたたみテーブルを展開していたが、手動スライドドアの大きな音を聞いて、視線を小雪に向ける。
「あ、起こしてしまいましたか?」
笑顔でありつつも、気遣った様子の伺える表情で、燈は小雪に問いかけるように言った。
小雪の方は、
「あ、えっと……ううん、私こそ起きるの遅くてごめん」
と、気まずそうに苦笑しながらそう言った。
「まだ6時半にもなってませんよ」
燈は、口元で笑みつつ、そう言ってフォローした。
作業台の方を向くと、そちらではジャックが、セラミックヒーターコンロに、今度は小さなフライパンを使って、プレーンオムレツを作っているところだった。
今度はそのジャックが、小雪に気がつく。
「あ、スノーホワイト様」
ジャックは、手は動かしつつ小雪の方に視線を向ける。
「スノーホワイト様は、朝ごはん、パンでよろしかったですか?」
「あ、うん」
小雪は素直に返事をした。
「インフェルノ」
ジャックは、視線をフライパンの方に戻しつつ、今度は燈を呼んだ。
「トースターの準備してくれる?」
すると、それを聞いた小雪が
「あ、私がやるよ」
と、申し出たが、それには燈が、手でやんわりと制する。
「小雪さん、こちらは私がやりますから、先に着替えてしまわれた方がいいかと」
「あ、う、うん」
ますます決まり悪そうになって、小雪は、着替えのために一旦、スライドドアを閉めた。
燈が外に出してあるラゲッジボックスを開けると、その中に、銀色のフレームに黄色いサイドパネルの、松下電器産業時代のポップアップトースターがその中にあった。
「これまた……つばめさんの行きつけっていう
キャリングハンドルもついたそれを取り出しながら、燈は、流石に辟易したように言って、苦笑する。
「あ、しまった、バターまだベッドの下だった」
ジャックが思い出してそう言う。厳密には常温保存可能なバターオイル入りトーストスプレッドだったが、車内のベッドの下、スライドドアを開けた下部に収納スペースがあり、そこに積んであった。
「うっひゃ」
それが聞こえていたのか、小雪が車内での着替え中に転げ、車体が揺れた。
食事用のテーブルに、トースターと、昨日、付近のスーパーで買ってきた食パンが置かれる。
「あらまた、レトロな……」
歯ブラシの入った歯磨きコップを左手に持った希が、サンバーキャンパーの裏から出てきて、レトロなトースターを見て微笑ましそうに笑う。
燈がトースターの手回しコードリールからトースターのコードを伸ばし、発電機の方から伸びてきている延長コードに繋いだ。
燈は振り返り、希に向かって、
「あ、希先生。先にお食べになりますか?」
と、問いかけた。
「それじゃあ、先にパンは仕掛けさせてもらおうかな……」
希はそう言って、テーブルの方に近づくと、
「食パン、開けていい?」
と、訊ねる。
「あ、はい。どうぞー」
ジャックが答えた。
それを聞いてから、希は、6枚切の食パンの包装を開封すると、
「2枚で仕掛けていい?」
希がそう訊ねると、燈が、
「1枚でいいんですか?」
と、ほほえみながら問いかける。
「うん」
「でしたら、誰も食べないようなら、私が頂きます」
「OK」
燈の言葉を聞いてから、希は、
「えっと、これでいいのかしら……?」
と、アニメなどで見た記憶に頼りながら、ポップアップトースターにパンを2枚、仕掛けた。
その傍らで、
「インフェルノ、運んでくれる?」
と、4つのプレーンオムレツを作り終えたジャックがそう言った。
「はい、解りました」
そう言いながら、作業台の上の使い捨てアルミ皿に載せられたオムレツを、テーブルの方に運び始めた。ジャックはフライパンを片付けている。
ガチャッ、ガラーッ
スライドドアが開き、そこから決まり悪そうな表情をした小雪が降りてくる。一旦車外に降りてから、ドアを開けたまま屈み込んで、小さなトレーを引き出す。
「バターって、これ?」
400gボトルを取り出した小雪は、顔は向けずにボトルだけ差し出すようにジャックに見せて問いかけた。
ジャックは笑顔で言う。
「はい、ありがとうございます」
─☆──☆──☆──☆─
今朝の朝食はピザトーストだった。業務スーパーで売っている冷凍のやつだ。それでも妙に美味しかった。チーズとトマトソースの芳醇な味が口に残る。
稚奈はアパートを出る。不動産屋の表示では私鉄駅から徒歩5分になっていたが、実際には8分ぐらいかかる。
PASMO定期券を取り出し、改札を通ろうとしたところで、稚奈はキョロキョロとあたりを見回す。
ランユウィ、沙穂と鉢合わせることを期待していたが、その姿は見当たらない。
── あ。
稚奈は昨日の朝を思い出した。前日はプシュケ・プレインスが登校したとき、ランユウィはすでに教室にいた。すごく早く登校するのかもしれない。
一瞬だけ寂しく思いながらも、すぐに明るい表情に戻って、稚奈は改札から駅構内に入った。
数分も待たずに電車が入ってくる。同じ梅見崎中学校や、梅見崎高校の制服を着た生徒がすでに乗っている車内に、稚奈は鼻歌を歌いながら乗り込んだ。
NovelAI Diffusion v5、なんかイマイチだなぁ……
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。