魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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Magical Girl Raising Project “青”:Beginning
第01話


「ハッピーバースデー! ジャック!!」

 パン、パパン、パン!

 クラッカーが鳴る。リボンが主賓に向けて迸る。

 ──── 前年、12月25日。

 名深市北渚地区、ミクセリクサーの自宅アパート。

 円こたつの上に鉄板が乗っているが、さらにその上に、大きな皿に載せられた、4号サイズのケーキが乗っている。

 クリームの乗り方にムラのある部分が多く、デコレーションに使われているのも砂糖漬けいちごとともに緑のドレンチェリーが使われていたりと、明らかにお店で売っている商品ではない感が漂っている。

「このケーキ……」

 プリンセス・ジャックはそれを見て、ふっと気付いたようにミクセリクサーを見る。

「姉さんが?」

「はい!」

 ニコニコと満面の笑みで、ミクセリクサーが答える。

「インフェルノ様と一緒につくりました!」

 右手を挙げてそう言った。

 ミクセリクサーの言葉を聞いて、ジャックは視線を赤星(あかほし)(あかり)に向けた。

 燈は俯いてしまいつつ、赤面しながらも口元で笑んでいる。

 赤星燈は、現状の身体的には生物学上の男性だが、MtF(トランスジェンダー女性)だ。その点が、あくまで自認は男性である名深市の魔法少女オタクや()(さと)()市の考えなしとは違うのだが、その上で同性愛者(レズビアン)でもあるという事情があったりする。

 もっとも、本人の自己評価が難儀して低めになっていた為に自覚がないが、カミングアウトしたらいじめられるより、まだ高校3年生のこの時期だと、翌日には『拝啓、この場合お姉さまとお呼びした方がよろしいのでしょうか ────』云々といった手紙が下駄箱に入っているくらい(性自認上の)同性キラーだったりするのだが。

 そんな彼女が、恋愛相手としても女性像としても理想だと言っていたのがプリンセス・クェイクだった。外観も、それに引っ張られて表面的な性格も、印象がだいぶ変わってしまったプリンセス・ジャックにはまだその気持ちを整理し直して伝えることができていない……──── が、そこまでいろいろあったせいで既に “言葉にはしていないだけ” 状態だったりもする。

 その燈を見て、ジャックはにこりと優しげな笑みを浮かべ、

「ありがとう、インフェルノ」

 と、言う。

 燈がジャック、今の千子に覚えてしまう違和感がこれだ。身体が自身の理想の姿になったものだから、以前より、自然体でずっと大胆に振る舞ってくる。しかしそれは違和感である一方、恋愛対象者が見せる言動として破壊力がありすぎる。

 ホワイトチョコペンで、筆記体風で『Happy Birthday Princess☆Jack』と書かれたチョコプレートを見ながら、この場に同席していた緋山(ひやま)朱里(あかり)が、視線をミクセリクサーに移す。

「手作りはいいけど、この部屋オーブンないよな?」

 朱里は不思議そうに言った。

 ミクセリクサーの自宅にはトップスピードこと室田(むろた)つばめの夫・室田昇一がひとり暮ししていた時期に使っていた松下時代のレトロ調単機能電子レンジと、リサイクルショップで発見して「面白いですー」と買ってきたパナソニック製2階建てオーブントースターしかない。本格的なスポンジケーキを焼ける環境がない。

「先生のところに行ってお借りしてきました!」

 ミクセリクサーは笑顔のまま、両手を挙げてそう言った。

「この場合の岸辺ンとこって言うとつまり、華乃さん()か?」

「はい! オーブンレンジじゃないオーブンがあります!」

 意外そうな表情をして訊き返す朱里に、ミクセリクサーが答える。

「へー……──── 華乃さんじゃないな。岸辺……颯太だなこれ」

 途中まで感心した様子の朱里だったが、途中から皮肉めいた苦笑になった。

「はいっ、クェイク!」

 東恩納鳴がそう言いつつ、身を乗り出して、ケーキのプレートの後ろあたりにロウソクを1本立てる。

 最近は……まだこの時点では高校生のダブルあかり(朱里/燈)がいれば安全だとでも思っているのか、鳴の母親もたまになら1泊ぐらいはお目溢ししてくれるようになった。

「よっと」

 朱里が、そのロウソクに注入式チャッカマンで火を着ける。

「電気消しますね!」

 そう言って、ミクセリクサーが2連ソケットとボール型LED電球を組み合わせたペンダントライトを消す。

 ケーキのロウソク、それに、熱電発電による外部電源不要というパロマのトンチキガスファンヒーター、DKの方で卓袱台の上に乗っている樹脂製クリスマスツリーのデコレーション、それぞれがぼんやりとした灯りになっている。

「クェイク!」

 鳴が促す。

 ピュア・エレメンツの2人、鳴と燈は今でもジャックを「クェイク」と呼んでしまうが、ジャックの方も気にした風もなく……というか、全く気にせず呼ばせている。

 ジャックは、魔法少女の身体だと思って加減して、ふっとロウソクの火を吹き消した。

「わー!」

 ミクセリクサーが実際に声を上げながら、ジャック本人以外、その場にいた4人が拍手をした。それから、ミクセリクサーが照明を()けなおした。

「じゃあ……ちょっともったいない気がしますけど、ケーキを切り分けるわね」

 ジャックがそう言うと、

「はい、クェイク」

 と、燈がジャックにペティナイフを渡した。

「ああ、待った待った」

 朱里が、慌てたように手を振って制する。

「せっかくだから写真とっとこうぜ、写真」

 そう言って、スマートフォンを取り出した。

 カメラを起動しようと、ロックを外そうとしたところで、朱里が一瞬止まる。

「どうした? あかねぇちゃん」

「……あ……いや……とりあえずなんでもない」

 鳴に問いかけられ、朱里は、とりあえず笑って誤魔化した。

 今度こそロックを外して、カメラを起動する。

「じゃ、カメラ意識して、笑ってください」

 朱里はそう言い、スマホのカメラをケーキと、ジャックの顔が入るようにした。ジャックがにこりと笑ったところで、朱里がシャッターを切った。

 そうして、ジャックは改めて、ケーキを切り分けようとする。

 それを見ながら、朱里が、

「こんな時になんだけど、小雪からメッセージが入ってた」

 と、険しく眉を吊り上げた表情で言った。

「妙な心の声の持ち主が市内にいるらしい。そういう性質をもつ魔法少女がよそから入り込んでるかもしれないから、名深に来てるんなら一応。だと」

 そんな情報が送られてきたのは日本のキャリアのSIMが入っているスマートフォンの方だ。朱里も地域魔法少女として持っているはずのマジカルフォンではない。

「途中経路で盗聴される危険性が結構高いんだよ。知り合い同士のやり取りは極力日本のキャリアのスマートフォン使って」

 そう言っているのはラ・ピュセルだ。今はともかく、以前は名深の4人組ではオタ活関係で一番ITに詳しかったから、名深の4人組とその周囲は今に至るまでそれに従っている。

 ──── 閑話休題。朱里が言った小雪からのメッセージの内容に、ジャックやミクセリクサー、燈もやや顔に険を見せて、朱里に視線を向けた。

 が、その朱里は、すぐに表情を緩めて、

「まっ、気にするのはともかく険しいツラ突き合わせててもしょうがないだろ、とりあえず肉食おうぜ肉」

 と、後ろに手を突いて、もたれ掛かるようにしながら言う。

「はい! 腹が減っては戦はできぬとも言います!」

 ミクセリクサーもコロッと笑顔になって、そう言った。

 まず先に、切り分けられたケーキを各々に配分する。

「うまっ! おいしいよこのケーキ!」

 ひと口食べて、鳴がそう声を上げた。

「ありがとうございます! よかったです!」

 ミクセリクサーが言う。燈もどこかホッとしたような様子だった。

 そして、バースデーケーキの皿が退いたところで、鉄板と円型ガスコンロが出てくる。カセットコンロではない。居室内用のガスコンセントにガスホースが繋がっている。ファンヒーターの方はDK側のガスコンセントからガスを貰っていた。

 ガスコンロは鉄板の中央より少しずらして置いてあり、火の通った品を退避させておく場所がつくられている。鉄板がコンロのゴトクから大きく張り出している側は、ステンレス管を短く切ったものを台代わりにして支えている。 ……以前は漫画雑誌でやっていたら、つばめに危ないと言われ、そのつばめの珍走時代の知人であるトンチキ車検屋こと斯波自動車整備(資)のせがれから、チューニングカーの配管用に使ったステンレス管の切れっ端をもらってきて使うようになった。

「めいちゃん、ちょっと支えてて」

 朱里が、一旦鉄板をコンロの上からずらして、鳴がそれを支えている間に、パロマ製の円型コンロに火を点けた。

 鉄板が火に炙られ始めたところで、ミクセリクサーが容器から掬ったラードを鉄板の上に転がす。朱里がそれを箸で、渦巻を描くように広げていく。

「牛、豚、鳥串もあります! みんなでいっぱい食べましょー!」

 ミクセリクサーは、そう言って精肉店の包みからそれらを取り出してこたつの上に載せた。

 やがて、ジュウジュウと肉を焼く音が室内を支配しはじめる。

「うめーっ、やっぱ地元牛旨いなー」

 朱里が言う。県下ブランドの肉で等級は高級国産牛の水準であるB4~A5とされているが、国産5大ブランド牛に知名度で劣るせいか、地元では手頃に手に入る国産上質牛肉として、知る人ぞ知る存在だ。

「餃子もありますー!」

 ミクセリクサーは、そう言ってタッパーに用意された餃子と、小さめの蒸し焼き蓋を取り出してみせる。

「おまっ……」

 最初は()()かけた朱里だったが、一瞬チラッとジャックを見た後、すぐに苦笑して、

「ま、今日はいいだろ」

 と、言う。

「ただあたし達の面倒ばっかり見てないで、お前もしっかり食べろよ」

「はいー!」

 

 今はミクセリクサーやジャック、それにプリンセス・テンペストとプリンセス・インフェルノにも持たされている一般型マジカルフォン。

 そのジャックのマジカルフォンに、メッセージの着信があったのは、焼肉パーティーが終わり、ミクセリクサーと燈が片付けに取り掛かろうとしていたときだった。

 

 

 深夜。

 項島台ダム、ダム湖畔公園。

 公園灯が煌々と照らすそこに、1人の少女 ──── 魔法少女が立っている。

 その魔法少女に対して、

「ここに私を呼び出したのは貴方ですか?」

 と、張りのある声がかけられた。

 暗闇の中から、公園灯の明かりの中に、燕尾構造の赤いタキシード、ショートパンツに紅白の手袋とサイハイソックスはその手脚で互い違いになっている、その姿 ──── プリンセス・ジャックが姿を現した。

 相手の魔法少女は、黒いチューブトップスタイルにマイクロミニスカートのドレス、利き手に黒い長手袋、反対側にガントレット。三角形の頂点にでんでん太鼓を配置したような飾りを背負っている。頭は癖のある明るい紫のショートヘア、そして……

「っ!?」

 ジャックはその姿に、思わず眉間に皺を寄せて目元を険しくした。

「プリンセス・ジュエル……じゃあ、あなたは」

 ジャックが問い質すように言うと、相手の魔法少女が名乗る。

「私はプリンセス・ライトニング」

 

「さあ、特等席で見物と行きましょうか」

「…………」

 

 

【挿絵表示】

 

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 プリンセス・ライトニングは、武装の剣を取り出して手に持つ。その刀身は稲妻そのものでできていた。

「戦い()()が魔法少女の本分ではないと学んだけれど、かかってくる火の粉は振り払わなければならないわね」

 到底届かないと思われる位置からジャックに向かって剣を振り下ろす。その間に一気に稲妻の刀身が伸び、ジャックに届きかける。

「その手は()()()のを見慣れてる!」

 ジャックはしかし、それを余裕を持って躱す。稲妻の刀身はうねってジャックを追おうとするが、それでもまだジャックに焦りの様子はなかった。

 ガサッ

 草木を揺らす音がなければ気付かなかった。

「!? 囲まれた!?」

 ジャックの表情に、そこで初めて焦りが見えた。

 左右から飛び出してきたのは、────

「分身体!?」

 ジャックは驚愕しつつ、包囲を突破する策を思考する。

 プリンセス・ジャックの魔法は、呼称自体は前世代型のミクセリクサーと同じ “トランプの兵隊を呼べるよ”。ミクセリクサーのそれは童話の『不思議の国のアリス』に出てくるそれそのものの姿をしているが、ジャックのそれはジャック自身を模る分身体となり、襟にスート(トランプの記号)とナンバーの襟章が入る。

 今、ジャックを包囲しようと出現したのも、前方のプリンセス・ライトニングと同じ姿をとっている。だからジャックは、

 ── まさか、ミクセリクサーGen2の技術が漏れた!?

 と、考えた。

 ミクセリクサーの側はプリンセス・シリーズの技術をミクセリクサーII(2)に搭載してプリンセス・ジャックにした。逆だって考えられる。

 ──── 断続的にそう考えながらも、同時にジャックは戦いの思考を走らせている。

 ── 突破するなら、前しかない……────

「クェイク! 頭を低くして!」

 その声に、ジャックは膝を曲げて身体を前に傾ける。

 すぐ上を、風の魔法を纏ったブーメランが通り過ぎる。ライトニングの分身体?が何体か薙ぎ払われ、包囲が崩れる。

 さらに、

「やらせませんっ!」

 その声とともに、包囲しようとしていた分身体?のさらに背後から、ミクセリクサーのトランプ兵が現れ、ジャックに追いすがろうとするライトニングの分身体?を槍で貫き、あるいは薙ぎ払う。

 ジャックは最初にいた、ライトニングのおそらく本体を追おうとする。

 それを阻止しようとしているのか、ライトニングの分身体?の1体が、行く手を阻むコースでジャックに接近する。

「こんの野郎!!」

 バキィッ!!

 

【挿絵表示】

 

 空高くから跳躍の弧を描いて、プリズムスプリントのダブル・スラッジハンマーがそのライトニングの分身体?の脳天に直撃する。その分身体?は潰れたカエルのような姿勢で地面に叩きつけられた。

「しかし、なんだァ? こいつら、どっかで見たような気がする。なんか、すげぇ嫌なもんだ……」

 プリズムスプリントが呟いたときには、テンペストとインフェルノはライトニングの本体?とジャックを追っていく。

 

 ライトニングの本体?はダム湖畔公園の敷地から、さらに山林地帯へと逃げ込んでいく。

 ── 速い……あっちも? なら……

 ジャックは、自身も疾走しながら、左手の人差し指と中指を揃えて、サークレット型ヘッドプロテクターのプリンセス・ジュエルに添える。

「ラグジュアリーモード・オン」

 感覚が研ぎ澄まされる。

 神経の超覚醒とともに、自分の魔法少女としてのエンジンに過給器(スーパーチャージャー)が着いたかのように力が全身に行き渡る。

 プリンセス、と名乗ってはいるものの、プリンセス・ジャックはあくまでミクセリクサーGen2であり、プリンセスジュエル・システムの方が従属系だ。

 それが意味することは ────

 ── 実戦で使うのは初めてだけど、クェイクだったときの比じゃない!! 増幅される力の本質が違う!

 ジャックはその力に満足し、ライトニングの本体?を追いすがる。

 魔力を外部供給に頼っているプリンセス・シリーズとは逆に、ミクセリクサーの、シャッフリン1デッキを凌駕する戦力を支える魔力炉から、潤沢な魔力をプリンセスジュエル・システムの方に供給するかたちだ。倍率が同じでも大元の注ぎ込まれる魔力量が違う。

 ライトニングはジャックが迫っているのに気づいたか、跳躍しながら振り返る。

「お願い、ハートのエース!」

 ジャックは、追って跳躍しながら、『❤A』の分身体を出現させる。

 ライトニングの稲妻の剣が、ジャックの胸を貫く ────

 だが、血は飛び散らない。

 胸を貫かれたのは、ハートのエースの分身体の方だ。ハートの分身体はミクセリクサーのトランプ兵同様、頑健な耐久力にまかせて確実な一撃を入れる。

 バキィッ!!

 遅れて追いついてきたジャック本体が、手に持っていたタクトでライトニングの剣を弾き飛ばす。

「この!」

 ジャックはライトニングの胸倉に手を伸ばし、ライトニングを捉えようとする────

「引っ込めてください! クェイク!!」

 その声に、ジャックは空中で仰け反る。

 ゴワァッ!!

 ジャックの目前を、炎が壁の様に迸った。

「!?」

 ジャックが追おうとしていた、ライトニングの本体、が、インフェルノの炎に灼かれて消し炭になる。

 が、さらにその後ろから、3体のプリンセス・ライトニングが、ジャックに飛びかかる姿勢を崩して離脱しようとする。

 ザンッ!

 3体のライトニングと、ジャック、ハートのエースの分身体、インフェルノが対峙するように着地する。

 その3体のライトニングが、ティアラのプリンセス・ジュエルを煌めかせながら稲妻の剣を振り上げる。

「っ! いけない!! インフェルノ、合わせて!!」

「えっ……あ!」

 そう言葉で合わせ、ジャックはタクト、インフェルノは穂先が炎でできた槍を振り上げる。

 ジャックとインフェルノの周囲に、光の防護板が出現する。

 ── 係数減衰、3相当 ────────

 

 ドゴォオォォォォォン!!

 

 

「ねぇ、見たでしょう?」

「は、はい」

 青衣の魔法少女の問いかけに、身体を震わせながら答える。

()()()()()()()()()()()()()()()()()を、あんな躊躇いもなく……あれがあなたの知っている、あなたの過去のお友達の姿?」

「いいえ……いいえ!!」

 いやいやをするように首を横に振りながら、言った。

 インフェルノの身体は左の胸に金属の()()ができていた。まるでフランケンシュタインの怪物みたいに。

 

【挿絵表示】

 

 それより信じられないのがプリンセス・ジャックとかいう紛い物だ。インフェルノやテンペストは()()を「クェイク」と呼んだ。

 何より信じたくなかったのは ────

 

 ──── ピュ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 あれは、ピュア・エレメンツの亡霊だ。紛い物だ。

 クェイクは死んだ。シャッフリンの贄になって死んだはずだ。テンペストとインフェルノだって死んだに違いない。

 ピュア・エレメンツはグリムハートとシャッフリンに、暴力で奪われた。

 私は、 ──────── 仲間はずれになんかされてない。

 

 

「あれ、一体どういう存在だったんでしょうか?」

 フルフラットベッドの一部である後部座席で、燈がボヤくように言った。

 話すとひたすら長くなる事情があって千子が手に入れた、K88型 3代目 スバル サンバー ベースの旧車キャンピングカーが大通りを走る。普段街乗りにも使えるのが軽バンコン(Van Conversion)(バンをベースに改造したキャンピングカーなどのこと)の利点のひとつだ。NAエンジン車だとかったるくてきついが、この車両はスーパーチャージャーが後付してある。

 乗っているのは運転席に千子、助手席にミクセリクサー、後部座席に燈と鳴だ。朱里は、

「自分で走って帰る。それが好きなんだよ。半分以上、その為にプリズムスプリント続けてるようなもんだから」

 と言って、プリズムスプリントのまま先に行ってしまった。

「…………」

 ステアリングを握る千子の表情も険しい。

 だが、車内で一番険しい表情をしていたのは、意外にもと言うべきか、ミクセリクサーだった。

()()、たぶん、プリンセス・シリーズに別の魔法少女の技術載せたんだと思います」

 いつもの覇気がない声で、ミクセリクサーが言った。

「私も最初そう思った。ミクセリクサーの技術が使われたんじゃないかって」

 千子が言うが、

「いいえ、あれは違います。たぶんあれは、あのいやな気配は ────」

 と、ミクセリクサーは彼女にしては低い声で否定し、言う。

 

「──────── シャッフリンです」

 





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