魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
──── 少し、時系列は前後する。
─☆──☆──☆──☆─
「!?」
ガタッ
折りたたみ椅子に座った状態で梅見崎中学校の方を向いていたスノーホワイトが、思わず椅子を揺らしてしまいながら立ち上がる。
「!」
燈がそれに気付く。
「なにか、ありましたか!?」
険しい表情のスノーホワイトに、燈が声をかけた。
「ホムンクルスが……────」
「えっ!?」
スノーホワイトが思わず漏らした声に、燈が更に緊迫感を強めて声を出す。
ジャックは、発電機の始動用ガソリンを補充していたが、その時点で発電機エンジン側タンクのキャップ、ガソリン携行缶タンクのキャップと圧力逃しバルブを閉め、サンバーキャンパーが常に日陰を作っている場所に置く。
「もう少し待って!」
スノーホワイトはそう言ってから、目を閉じて魔法の力と指向性を調整しつつ、意識をそちらに向ける。
『どうなってるのこれ!?』
『え!? 今から模擬戦!?』
『リボンを切られた! こんな簡単に!?』
『私達も戦っていいの!?』
『どうなってるんです、なんで、なんで……────』
『急所はどこ、いや! 先に生徒を ────』
「…………」
スノーホワイトが目を開いた。
「何が……どうなったんですか?」
燈が訊いてくる。その傍らで、ジャックも心配そうな表情でスノーホワイトに視線を向けていた。
── この2人には…………
スノーホワイトは、ほんの僅かに悩む。
スノーホワイトは魔法少女になってからずっと、情報収集役を務めてきたが、その情報からの判断はラ・ピュセルかトップスピードに投げるというのが常態化していた。実際、自分は思い込みで行動するところがあって、自分の内側だけで処理するとあまり良くない結果になると、スノーホワイト自身は感じていた。
『あいつ、自信なさげな顔してるけど、判断力オバケだぞ』
朱里が、燈について言っていたことを思い出す。
『自分だって不安なときでも取り乱すデリュージ抑えてたし、2度目の管制室突入の時は、乱戦の中で冷静にジョーカー燃やしに行きやがった。グリムハートに妨害されて失敗はしたけどな』
スノーホワイトは、脳内で “
「模擬戦で使う、ホムンクルスが暴走したみたい」
と、2人に告げた。
「えっ!?」
2人が険しい表情で反射的な声を上げる。
「大丈夫、それ自体は繰々姫さんがなんとかしたから」
スノーホワイトがそう言うと、燈とジャックは少しだけ安堵したように表情を緩めるが、
「その、ホムンクルスはいったいどんな……」
と、燈が訊いてきた。
「…………」
スノーホワイトは僅かに考えてから、答える。
「あなた達が『ディスラプター』って呼んでたやつ」
「!?」
燈とジャックの顔に、再び緊張が走る。
「あ……つ、つまり、私達が相手していたように、適度に調整されたタイプですか?」
燈が訊ねる。
かつてピュア・エレメンツが、田中先生 ──── オールド・ブルーに騙されて、左海市内に出没する『ディスラプター』を討伐していたとき、その強さはピュア・エレメンツがまず負けないように調整されていた。
「カルコロっていう先生の意識では、そうだったみたい」
スノーホワイトが険しい面持ちのまま答えると、燈も怪訝そうな表情のまま、
「そうだったみたいって……そうじゃなかった?」
と、訊き返す。
スノーホワイトは頷いた。
「想定以上の力で、繰々姫さんがリボンで縛ってもちぎっちゃう程だったって」
「え……? そ、それは、魔法とか工夫でそうするような個体だってことですか?」
その燈の問いには、スノーホワイトは首を横に振る。
「力任せに引き千切っちゃったみたい」
「待ってください……」
困惑しきった様子で、燈がそう言って、更に続ける。
「まだ変身するようになって1ヶ月も経ってない候補生もいるんでしょう?」
「うん」
「私達の場合は変身に身体を慣らすまでに時間がかかったのはありますが、それでもそれが無茶なのはわかります!」
燈は、まるで抗議するようにそう言った。
ラ・ピュセルやヴェス=ウィンタープリズンは候補生の時点でクラムベリーと戦うことになったわけだが ──── 否、だからこそそういうことがないように、という期待があったわけだ。
「今回のはあくまでも事故だったみたいだし、繰々姫さんがどうにかできたけど、この調子だとやっぱり気を抜いて見てはいられないかも」
スノーホワイトは少し憤懣した様子でそう言った。
ジャックが、はっと気がついて、
「デリュージ……そうだ、デリュージはどうでした?」
と、スノーホワイトに問いかける。
「そうだ、その場にデリュージがいたんなら対処しようとしたはず」
続けて燈もそう言う。
それを聞いて、スノーホワイトは、一瞬だけ、呆けてしまったような顔を2人に向けた。
「…………プリンセス・デリュージの声は聞こえなかったな」
難しい表情に戻ると、スノーホワイトは訝しそうにそう呟いた。
「そう言われればおかしいな」
「え?」
スノーホワイトの言葉に、燈が短く声を出す。
すると、スノーホワイトは、右手の指で自分の頭を指しながら、説明し始める。
「私の魔法ってさ、なにかしらの “困っていること” を拾うんだけど、例えば戦闘とかだと、『相手にこう動かれたら困る』っていうのを考えちゃってて、私それ聞こえるの」
「え、それじゃデリュージの声が拾えないっていうのは……」
燈は、スノーホワイトの言わんとする事を理解して、そう言い、途中で言葉を濁らせた。
スノーホワイトは頷く。
「実際、繰々姫さんの声は聞こえてたし」
「デリュージはディスラプターに慣れてるから考えなかった ──── ということはないんですか?」
燈が重ねて訊ねた。
「基本的にそれは難しいんだけどな……」
スノーホワイトが独り言のように言うと、
「基本的にってことは、例外もあるんですか?」
と、燈が訊ねる。
「ある」
「え」
「ラズリーヌは変身中、特に戦闘のときには一切聞こえなくなる。もちろん、変身解いて気が緩んでる時はその限りじゃないけど。はっきり聞いたわけじゃないけど、多分、私みたいな読心の能力に対策してるんだと思うな」
スノーホワイトの言葉に、燈が反応する。
「それ、ラズリーヌは……つまり、2代目のラズリーヌはその技術を、初代から教わったってことじゃないですか?」
「多分そうだと思う」
「じゃあ、デリュージもひょっとしたら……」
燈は、ずっとオールド・ブルーの側にいたのなら、その間に……と、希望的観測を言う。
「うーん……────」
しかし、スノーホワイトは、腕組みをして小首をかしげるようにしながら唸った。
「── 確かにあるかも知れないけど、ラズリーヌって最初の高校辞めてまで修行した人だからなー」
そこまで呟くように言ってから、スノーホワイトは、視線を燈に向け直す。
「そもそもプリンセス・シリーズって、変身している魔力にも制限あるんでしょ?」
「ああ……」
言われて、燈も悲観的になるしかなかった。
「でも、他の生徒の声はバンバン聞こえてたのに、デリュージの声が聞こえなかったのは私もおかしいと思う」
スノーホワイトは、難しい顔をしたままそう言った。
「繰々姫様に、連絡取れないんでしたよね?」
ジャックは確認するように言う。
「旧校舎には普通のスマホとか持ち込めないんだって。だから、新校舎の職員室に置きっぱなしなんだけど……」
スノーホワイトがそう言うと、
「一応、メッセージ送るだけ送っておきます!」
と、燈が自分のスマートフォンを取り出して、ロックを外し、操作を始めた。
─☆──☆──☆──☆─
キーンコーンカーンコーン……
──── 現在。
「ごちそうさまでした!」
給食を終えて、挨拶をする。
それから、食器の片付けが始まった。
プシュケは、好き嫌いなくすっかり平らげた食器を、仕切り皿の上に汁物の食器と、コッペパンの空袋を乗せて、教室前側の配膳台に片付けに向かう。
すると、
「デリュージ いない」
「あれ?」
と、ドリィが言い、ベルが教室を見回しているところへ出くわすことになった。
「ホントだ」
ベルが意外そうに言う。
「私、手伝いましょうか?」
プシュケが言った。今までならわざわざ自分から雑用を買って出るなんて面倒くさかったが、今はこんなところまで軽やかだった。
すると、ベルが、プシュケの方を向いて、何故か誤魔化すような苦笑になって、
「あ、ううん。片付けだったら別に1人いなくても大丈夫だから」
と言う。
「今日 パンだしな」
ドリィがそう続けた。
パンの配膳はアルマイトコンテナだ。だが、米飯だと樹脂製の弁当箱があり、片付けの時はそれなりに重量がある上にガタガタと揺れる。それがない分楽だ、ドリィはそう言いたいらしい。
それに、そもそも片付けの時は、教室の前にある配膳台車に帰りのコンテナを載せるだけだ。それを木ノ実が回収しに来る。
「でも、本当にどこ行っちゃったんだろ?」
ベルやプシュケから見ても、デリュージは優等生然として見えた。それが片付けをサボタージュしているのは不自然に感じられた。
ベルとプシュケが、再度キョロキョロと教室内を見回す。デリュージの姿はない。
「トイレじゃないっすかね?」
ドリィ、ベル、プシュケの更に背後から、ランユウィがそう声をかけてきた。
ランユウィとしては、シチュエーションを読んで、
── 2代目ならこう言うはず。
と、想定して出した言葉だった。
本人たちがこの場にいたら、
「私はラピュっちみたくノンデリじゃないっす!」
「ちょっ……それどういう意味!?」
と、そう抗議してきそうな内容ではある。
「でも確かにそれだとしたら自然だけど、それがお腹とか壊したとかじゃないといいけどな」
ベルは、教室の後ろ側の出入口を見ながらそう言った。
一方、木ノ実は、その配膳台車の回収のため、旧校舎に入ってきて、その2階へ向かおうと、階段を
「おや?」
階段の踊り場の、ハメ殺しの窓から、外に生徒が2人出ていることに気がついた。そこは旧校舎を閉鎖するフェンスの内側で、魔法少女学級に関わる者以外は立ち入れないはずの場所だ。したがって、その生徒は1年F組の誰かだ。
よく見ると、────
── こちらを向いているのは確か、プリンセス・ライトニングだ。
と、木ノ実は記憶の中から1年F組の生徒の1人を思い出した。
しかし、もうひとりの方は、背中を校舎側に向けていて、髪型も奇抜とは程遠いもので、木ノ実にはそれが誰だか判別することはできなかった。
「何をしているのでしょうか?」
木ノ実はそう呟いたものの、特にそれが何を意味しているのかはわざわざ詮索することもないまま、職務に忠実に2階へと上がっていってしまった。
キーンコーンカーンコーン……
─☆──☆──☆──☆─
「……後は、特にないまま放課後、かな」
折りたたみ椅子に座り直していたスノーホワイトは、そう言って、閉じていた目を開き、顔を上げた。
まだ “声” は聞こえていたが、スノーホワイトはふぅ、と息を
作業台の前に、ジャックと燈が並んで、夕食の下ごしらえを始めている。まるでもう婚前夫婦のようだ。
「はぁ」
スノーホワイトから漏れたのは、疲れたような嘆くような、声混じりのため息だった。
その光景はさんざん見た。あの昭和の色の残る佇まいの狭い台所で、颯太と華乃が並んで料理したりそれ以外の台所仕事をしていたりした。颯太のラ・ピュセルの顔は常に楽しそうで、華乃の顔は一見無表情に見えて、実際には嬉しさが滲み出ていた。今思えば、あそこにどうして割り込めると思っていたのか不思議に思う。
しかし、落ち込みかけたそこで、今度は瑠璃宅で告白する直前、2人で並んで料理した記憶が脳裏をよぎる。
あの日以降、────
『スノスノは私に “love” なんっすね?』
『うん』
『で、私はスノスノに“like”っす』
『うん……』
『で、 “love” と “like” って、どう違うっすか?』
『え?』
『少なくとも私は、 “強さ” だとは思ってないっす』
『そうかも、知れないけど……』
『“like” も “love” も日本語になおしゃ “好き” っす』
『え……あれ? あれあれ?』
『スノスノがその感情を私に向けて、私がそれを拒否することで、スノスノが苦しむなら私はその方が嫌っす。そう思うぐらいにはスノスノのことが大切だし、好きっす』
── 好意に区分を設けようとしない瑠璃と、変に意固地な小雪とで、 “like” “love” 問答を何度かしているうちに、瑠璃、ラピス・ラズリーヌ
胸が熱くなる。ついでに股間も熱くなった。
「はっ!?」
熱に浮かされたように記憶に
「あ!」
「えっ?」
燈が上げた声を聞いて、スノーホワイトも敷地の出入口の方に視線を向けた。
そこに立っていたのは ────
「デリュージ!!」
すでに魔法少女姿のプリンセス・デリュージが立っていた。
燈は思わず、調理を放り出してデリュージの方に向かう。
しかし、そのデリュージの方の表情は、少なくとも歓喜のそれではなかった。
── ッ!!
スノーホワイトは、その “声” を聞いて、燈とジャックに向かって叫ぶ。
「その
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