魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
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スノーホワイト達がキャンプを張っていた、河川沿いの市有地に現れたプリンセス・デリュージは、まるでそれが当然のように、変身した ──── プリンセス・デリュージの姿だった。
姿が見えた時は、腕を力なくだらりと垂らし、隈のできた虚ろな目で、燈とジャックが調理をしているところを見ていた。
「デリュージ!!」
弾んだ声が上がった。
燈は、とるものもとりあえずといった様子で調理を放り出し、表情を綻ばせながらデリュージの方に駆け寄っていく────
『困る……偽物がいたんじゃ……クェイクも浮かばれないじゃない……』
──ッ!!
スノーホワイトは、その “声” を聞いて、燈とジャックに向かって叫ぶ。
「その
次の瞬間には、身体が動いていた。
「え?」
間の抜けた表情で振り返った燈を、スノーホワイトは伏せさせるように突き飛ばす。
その直後、デリュージの攻撃が迸り、一瞬前まで燈のいた空間を突き抜けていった。高圧縮の水でできた矢のようなものだった。
── 武器ッ
ほぼ同時に、スノーホワイトの手にロングメイス、デリュージの手に
バキッ、ガキッ!
上、下、スノーホワイトに向かって突き出されるデリュージのトライデントの連撃を、スノーホワイトはロングメイスのヘッドで弾く。
バキッ
3度目にスノーホワイトに弾き返されたとき、デリュージのトライデントのヘッドが外れて飛び出したかのように、3本の氷の矢になって撃ち出される。
「!?」
驚いて凝視したのは、燈 ──── の方だった。
氷の矢は一瞬、明後日の方向に飛んでいったかと思いきや、ミサイルのように向きを変えて、スノーホワイトの背後に ──── 背後だった側に迫る。
しかし、スノーホワイトは、まるでそれが解っていたかのように、瞬時に振り向くと、高速で迫ってくる氷の矢を3本とも、薙ぎ払うようにロングメイスのヘッドで砕いた。
しかし、今度はそのスノーホワイトが背中を見せた側に────
ゴワァッ、ジュウゥッ
デリュージのトライデントのヘッドから、スノーホワイトの背中を狙って伸ばされた氷の穂先が、灼熱の
「やめてくださいデリュージ!!」
燈 ──── プリンセス・インフェルノが、炎の穂先を持つ槍を構えつつ、睨むような視線をデリュージに向けながら、怒声と言えるほどの強さでそう言った。
「だめ、声かけても、この娘……────」
スノーホワイトが声を上げる。
『排除しなきゃ、排除しなきゃ、排除しなきゃ……────』
向かい合っているのは2対1だ。それにジャックももう徒手空拳で構えをとっている。本来なら有利なはずだが、インフェルノ達はデリュージに全力で攻撃するわけにはいかない。
「みんな、お願い!」
ジャックの、そう唱える声が聞こえてきたかと思うと、
「!?」
まず『♥A』『♠A』『♣A』の襟章を着けたジャックの分身体がデリュージに飛びかかる。クラブのエースがデリュージのトライデントを奪おうとし、ハートのエースとスペードのエースがそれぞれデリュージの左右の腕を掴んで動きを阻む。 ──── その直後に、ハートとスペードの分身体が次から次へとデリュージに飛びかかる。
「な!? ムギュ」
デリュージは潰れるように倒され、乗っかったジャックの分身体の山の下に埋もれた。
「で、デリュージ!?」
一転、インフェルノとスノーホワイトも軽く驚いた後、インフェルノがデリュージを心配したような声を上げる。
「少し、やりすぎてしまいましたか」
ジャックが苦笑しながら、頬を掻く仕種をした。
インフェルノが分身体の山に近づこうとしたところ、
「────……、だめっ!!」
と、スノーホワイトが緊迫した口調と表情で声を上げた。
「ラグジュアリーモード・バースト」
ドバッ
寄って集ってデリュージにのしかかっていた何体もの分身体が、弾けるように跳ね飛ばされる。
「なっ!?」
バキンッ!
伸ばした氷の穂先でインフェルノを薙ぎ払おうとした一撃は、スノーホワイトのロングメイスが弾く────
「くぅっ!」
それは、先程とは比べ物にならないほど強烈な力だった。氷の穂先は砕けたが、スノーホワイトも勢いで倒れ込まされる。ロングメイスが手から離れようとするのを必死で掴む。
『敏捷で尖っていないスノーホワイトが、武器のリーチを失ったら勝てない!』
ラ・ピュセルのその声を思い出して、必死でロングメイスを握り続けた。いや、ラ・ピュセルが言いたいのは「そうなったら逃げろ」ということなのだが。
「ラグジュアリーモード・オン」
姿勢を崩したスノーホワイトに代わってインフェルノが矢面に立ち、デリュージの氷の槍の穂先に、
だが。
「だめ! 避けて!!」
ジャックの声に、インフェルノは咄嗟に右へひねるようにして正面から
「デリュージ!」
インフェルノが声を上げる。
「これっ、絶対、思考自体が正常じゃっ……ッ!!」
スノーホワイトが呻くような声を上げる。
「ラグジュアリーモード・オン!」
発動させながら、ジャックは、氷の穂先を再度つくりだしたデリュージの槍めがけてドロップキックを入れた。
「ッ!」
デリュージが、懐に飛び込んできたジャックをその槍の柄で払おうとする。
ガツッ!
瞬時に『♥K』の分身体を出現させて、その肩で受け止めさせる。左海市の研究所戦でミクセリクサー自身が忙殺されるとトランプ兵が召喚しにくくなることがあったため、後継機としてその反応速度は当然上げてある。といっても、今のような真似はLMを発動させていないと無理だったが。
ジャックの方からタックルを仕掛けてデリュージを一度突き飛ばす。一旦間合いが開くが、ジャックはそれを許さずそのまま高速で一気にデリュージの懐に飛び込もうとする。その途中で『♥Q』『♥J』『♥
デリュージは、体勢を立て直しつつ、トライデントの穂先から氷の矢を発射する。やはり誘導弾となってジャックに向かう氷の矢を、ハートのクィーン、ジャック、10の分身体が受け止め、砕く。
「お願い、
ミクセリクサーの直系を示す最強札、『♥
デリュージがトライデントを向けようとする、だがジャックはすでにその内側に飛び込んでいる。ジャックが右腕でフック気味の一撃を繰り出そうとする。デリュージが自分から見て右側へ躱そうとする。デリュージの背後に立っていたハートの2の分身体が、デリュージの避けた先にダブルスレッジハンマーを打ち付けようとする。デリュージは、崩れかけた姿勢から、そのハートの2の胴を蹴飛ばして近接戦から離脱する。ハートの2はジャックの足場になり、ジャックは離脱しようとするデリュージに追いすがる。
『タイムアップ』
デリュージは、そのまま市有地敷地から離脱しようとする。ジャックはそれを追う。
── 不利と見た!?
ジャック自身はそう判断した。いや、インフェルノもそう考えた。
フェンスを越え、河川と住宅街の境目を跳躍気味に疾走する。川の対岸に国道が並走している。その国道への交差点に繋がる橋を飛び越える。視界の中は119km/h。次にその国道自体がこちら側に渡ってくる橋を越える。
私鉄線の軌道を飛び越える。川の流れは大きく湾曲していたが、デリュージはその川に沿って疾走している。
沿岸公園を飛び越えたときだ。デリュージが今度は飛び越えるのではなく、橋の下を潜ろうとした。
── 間に合わない!
ジャックは、咄嗟に『♣A』の分身体を出現させる。空中で自分を足場にさせて分身体を橋の下に向かわせる。ジャック自身はそのまま橋を飛び越える────
「!?」
クラブのエースの意識が途絶えた。やられたのか。
── 違う、この感覚は違う!
──────── ぽちゃん
橋の下では、まず小石ほどの物体が水面に落ちた後、
ザブン
続いて、小柄な人型のものが、やはり川の水面に落ちた。
ジャックは、川沿いのシニア用マンションの屋上に立ちながら、デリュージの姿を探してあたりを見回す。
橋の下から出てこない。
── なにがおきたの?
怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
クラブのエースの分身体は、ダメージを負ってジャックの内蔵デッキに戻ってきたのではない。クラブのエースから与えられる情報が突然途絶えた。しかし分身体自体はその時点ではまだ健在だった。ジャックが自ら格納したのだ。
パランパラパラパラパラ……
どこかで聞いたような音が聞こえてきた。
橋の下から、船橋を模した風防のついたミニボートが出てきた。
操縦席には若い女性が乗っている。その後ろは、青いビニールシートで覆われていた。
「…………」
よく聞く自動車のものとは違う、しかし確かに聞き覚えのあるエンジンの音を立てながら、ミニボートはジャックの視界から遠ざかっていった。
そのボートの上では────
「なんであいつ……ついてこれるの……ラグジュアリーモード・バーストまで使ったのに……」
ブルーシートの下に匿われたプリンセス・デリュージ…………魔力が限界ですでに変身を解除した、青木奈美が、そう呟きながら、頭を抱える姿勢で震えていた。
「…………」
操縦者の女性は軽くため息を吐く。
かつて、左海市の研究所での戦いに於いて、デリュージはシャッフリンのスペードのエースと戦った。最初に戦ったとき、ミクセリクサーのトランプ兵の自己犠牲によってようやく対等の勝負になった。だが、それでも結局勝ちきれなかった。1人で戦った時は、防戦一方で何もできなかった。
結局、シャッフリンとの戦いを制したのはミクセリクサーだった。
そのミクセリクサーが、今のデリュージの倒すべき敵……──── そう
もちろん、ミクセリクサーは、普通の魔法少女が1:1で戦える相手ではないことは理解している。単身で戦えるのは魔王パムという魔法少女ぐらいだと。
オールド・ブルーは、数の問題はなんとかする、と言った。
だが、自分と友達を守るためにはもっと強い力が必要だ。そう、────
ミクセリクサーの
魔法戦闘の研鑽を積んだ上で、さらに魔力による強化を、従来の、シャッフリンのスペードのエースにも勝てなかったLMよりも遥かに強い力の増幅をかける。
この力を手にしたとき、奈美はようやく自身の未来に光明が見えたような気がした。
実際、インフェルノ
だが、その直後に再び、奈美の意識は奈落の底へ落とされた。
インフェルノのコピーと、プリンセス・テンペストのコピー
── いい勝負ではだめなのに。
必要なのは “敵を上回る力” だ。 “互角” では奈美にとってLMBの意味が半減、いや1/10以下になってしまう。
しかも、自分のLMBが減衰し始めた頃になっても、ミクセリクサーIIは減速することなく追ってきた。
やっと目の前が明るくなりかけていた奈美の世界が、再び光を遮られ始めた。
「デリュージちゃん……」
後ろでブルーシートを被っている、奈美のすすり泣く声が聞こえる。
元々、変身を維持する魔力さえ外部供給に頼っているプリンセスシリーズだが、LMはその外部供給の魔力を一時的に高速消費して、魔法少女としての能力を研ぎ澄まさせ、向上するものだ。
LMBはその増強版だ。通常なら24時間保つ量の魔力の薬、それを摂取して得られた魔力をその短時間に押し込んでより高い効果を得る。
「…………」
ラズリーヌIIIは舟の前方を向き直す。
── 師匠の、
ラズリーヌIIIは考える。つまり、外交部系にあんなところでキャンプ張られて監視されていたくないということだ。
── でも、どうしてそれに、デリュージを……
それが疑問だ。確かにプリンセス・デリュージはかなり強い魔法少女だ。飛び道具があるあたり、
けれど、デリュージはあくまで1人の魔法少女だ。繰々姫がキャンプに戻ってくる前に仕掛けたとは言え、それでも3:1だ。1人は本来デリュージと対等だろうプリンセス・インフェルノ、1人は『現身殺しと
どう考えてもデリュージ1人でつっこませていい状況ではない。
それに。
そもそも、LMBは新世代のプリンセスシリーズのために用意された技術だ。それを旧世代機のデリュージに
『3代目にブルーベルを選んだ理由も何となく分かるっすけど、私が推測であんたに伝える権利も義務も義理もないっす』
2代目の言っていた意味が、少しずつ解ってきたような気がした。いや、考えたくなかったものが、徐々に向き合わざるを得なくなってきた、と言ったほうが正しいのかもしれない。
視界の先に、示し合わせていた目印の、オフロードのワゴンが川岸に見えた。車体の後ろの部分だけがハイルーフになっているタイプの車体だ。現在新車販売されている車両には存在せず、珍しいため、さりげない目印になった。
ラズリーヌIIIは、その待ち合わせ場所に舟の舳先を向けると、エンジンのスロットルを開く。
スズキDT2型船外機(ボート用エンジン)の爆音を上げて、小舟は
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