魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

24 / 25
Interlude 01

 雨が降っている。

 昼間だが、雨雲のせいで薄暗い。

 斎場に流れる読経の声。祭壇の上、多くの花に囲まれて、無邪気な笑顔の少年の写真が、遺影として掲げられている。

 告別式会場で焼香を済ませ、斎場の建物から出ようとする。

「あんだけ魔法少女好きだったやつが中2で死んだのかよ。現実は夢も希望もねーな……」

 そう、つぶやいた。

 傘をさした。視線を斎場の門の方へ向けようとしたところへ、その姿を見つけた。

 だいぶ会っていなかったが、思い出の中の人物に面影のある顔だ。

 向かいの建物から、斎場の中に視線を向けつつ、こちらへ入ってくるわけでもなく、ただ立ち尽くしている。

 その人物にジト目を向けて、軽くため息を吐いた。

「惚れられてることぐらい気づいてただろうに。薄情な……いや、あいつ結構そういうところあったな……」

 そう呟きつつ、────────

 声もかけずに去ろうとしたが、なぜか突然、その人物に対してふつふつと怒りが湧いてきた。

 なぜか、自分が冒涜されたような気がして、それが激情に火を()けた。

 ずかずかとそちらへ向かって歩き出す。

 傘を放り出す。邪魔だった。背後から、斎場の敷地内の人たちが放り出された傘に驚いて慌てる声が聞こえてくる。

 強くはないが、しとしとと雨が降っている。濡れるが構わなかった。

 斎場敷地を出る。左右も見ずに道路を渡る。自動車のクラクション、激しいスキール音が鳴り響いてくる。 ──── 構うものか。

 建物の影から斎場を遠目に見ていたその人物の目の前にまで来た。

 相手はどこか虚ろな目をしていたが、自分が近付いてきたのに気付くと、ギョッと驚いたように目を(まる)く大きく開いた。

 ガッ

 目を白黒させる相手の胸倉を掴み、軽く持ち上げながら強く引き寄せる。

「お前! 何してやがった!」

「え、なっ……」

 相手はまだ何が起きているのか認識できていない様子だったが、構わず怒鳴り、まくしたてる。

「あいつが1人で戦ってたとき、1人で絶望してたとき、お前どこで何してた! 言ってみろ!!」

 相手は、また哀しそうな目をして視線を逸らしつつ、

「だって、私は ────」

 と、誤魔化すように言いかけた。

「お前が何だ! お前は ────」

 

「──── 魔法少女だろ!

 

「あ、う、ぁ……」

 相手が愕然としている。自分に胸ぐらを掴まれた状態のまま、ガクガクと震えだす。

「魔法少女スノーホワイトだろ!? 少なくとも “無力な通行人A” じゃないだろ!」

「そ、れ、なんで……」

 相手は途切れる声で訊き返そうとしてくるが、構わずに自分の言葉を続ける。

「あたしなら死なせねぇ! 少なくとも1()()じゃ()死なせねぇ!! 魔法少女ってのは仲間を大切に思うもんだろ!? こんないつ何があるかわからない状況で相方ほっぽりだしてのほほんとしてるもんじゃないだろ!!!?」

 すると、相手は急に憤怒したような様子になって、突然抵抗し始め、手を振りほどいた。先程まで痛惜(つうせき)と無気力に表情を支配されていた相手が、憤慨の目を向けてくる。

「朱里ちゃんに、何がわかるっていうの!?」

2年後(いま)ならわかるさ! あたしだって、魔法少女プリズムスプリント(プリンセス・インフェルノ)なんだからな!!」

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 

 左海市、緋山朱里の自宅。

「──── ッ!」

 ガバッ、と、ベッドの上で跳ねるように身を起こした。

「夢 ────」

 手で顔を覆いながら、呟く。息が荒い。心臓の鼓動がやたら大きく感じる。じっとりと脂汗をかいていた。

 夢の内容はやたらはっきりと覚えている。過去にこの夢を見たときもそうだった。

 そう、 ──── この、夢だ。

 過去2度は、斎場から立ち去ろうとして、別れの挨拶を告げるところで終わった。それが、今回は激情が燃え上がって行動に出た。

 そこまではいい、夢の中で行動が変わるなんて、多分不自然なことじゃない。

 問題は、最後の口上だ。

「あ、たし、なんて、名乗った……?」

 魔法少女プリズムスプリント。確かにそう名乗った。それ以外の何者でもないはずだ。

 だが、そこにまるで、自分の声帯がテレビの主音声・副音声を同時に再生しているかのように、()()()()()()で別の名前が被さってきた。

「あたしは……────」

 

 

 Interlude 01

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 アジトとして使っている、1K、それも経年のアパート。()()()()()()以内にはリフォームも行われていない、文字通りのボロアパートだ。

 魔改造 ──── そう、()()されたFMTOWNS model20Fが、 “魔法の国” の情報を収集し、それを取捨選択し、必要なものを、FMTOWNSの時代にはなかったはずのUSB拡張ボードを介して、4連ストレージボックスの中のハードディスクに格納していく。

 集めている情報は、 ──── 魔法少女プフレの死に関するものだ。

 かなり興味深い情報が集まってきている。

 森の音楽家クラムベリーの事件の第一報が流れたとき、プフレは深くそれに固執した。最初はその理由は判然としなかった。とにかく、クラムベリーの事件が二度と繰り返されない体制を目指して、魔法の国の政治セクションに食い込もうとした。そこまでは以前から知っていた。

 プフレがそのために、多少強引な、彼女の “自身の判断・行動は法より上に存在する” という信念・思想に基づく行動をしていることは、彼女の生前から知っていた。それがかなり危ういことだということも。

 だがその詳細までは知らなかった。

 “盤洞市の暗殺魔法少女事件” が起きた頃、プフレはすでに人事部をある程度、自分の意志で動かせるようになっていた。この事件の主犯とされる、暗殺者、魔法少女レイン・ポゥとマスコットのトコは、もともと人事部の暗部だった。プフレはそれをパージするように人事部を動かした。

 ことのついでとばかりに、トコにコンタクトしてレイン・ポゥに魔法使いマナを殺害させ、監査部の面目を潰したのもプフレだ。実際、プフレの思惑通りに以降、監査部は守勢にまわり、ほぼ同時期に “魔法少女連続失踪事件” で被疑者を先に殺害されるという失点も重なって、徐々に発言力を失い、左海市の研究所の事件では存在感を示せずほとんど外交部が後始末をし、それ以降の監査部は最終的に、事実上、犯罪者を()()()()だけのお飾りとなった。

 ──────── この “左海市の地下研究所・人造魔法少女密造事件” が、プフレにとって致命的になった。

 事件が、ミクセリクサー、ファニートリック、プリズムスプリントによって明るみにされたとき、田中先生ことオールド・ブルーはすでにこの研究所を、ピュア・エレメンツごと事実上放棄していた。

 そこで、プフレはこの研究所について外交部に密告した。

 目的は単純だ。プフレはこの研究所の出資者だった。だからピュア・エレメンツを、当然自分にも権利のあるものとして回収しようとした。

 外交部にタレこんだのも、オスク派がグリムハート自らシャッフリンを引き連れて襲撃するという動きを掴んでいたからだ。グリムハートとシャッフリンを組み合わせた戦力に対抗できるのは魔王パムしかいない。プフレはそう考えたようだ。

 実際に送り込まれたのはミクセリクサーだった。しかし実際、群体魔法少女であるシャッフリン((1)型)に対抗可能だと評価してのことだ。潜入にはおおよそ向かないミクセリクサーが “敢えて選ばれた”、あのファニートリックの推測はほぼ的中していた。

 だが、ミクセリクサー、シャッフリン、ピュア・エレメンツの人造魔法少女一大決戦が行われる、まさにその寸前に、プフレは殺害された。

 あのときの人小路邸への襲撃は、マナ殺害の嫌疑を持ち始めた監査部による偽旗作戦だった。襲撃の後にプフレを “保護” の名目のもと拘束し、調査・尋問するための。

 そして、 ──── プフレの思惑も監査部の計画も、オールド・ブルーは事前に掴んでいた。

 左海市の研究所を失った上、ピュア・エレメンツまで回収されれば、オールド・ブルーは、これまで以上の資金面に加えてピュア・エレメンツのデータ取得までプフレに依存することになる。そこに、 “ラピス・ラズリーヌ一門騒動” を起こして “名深の4人組” とその周囲、ひいては外交部、さらにカスパ派から拒絶的に扱われている不利が加わると、もはやプリンセス計画の主導権はプフレに握られたも同然だ。

 だから、オールド・ブルーは、()()()()()()()()()()()()()風里野市のレジスタンス、その実質的な指導者であるウェン・ヘイズワードと取引して、監査部の偽旗作戦の騒ぎに紛れて、レジスタンスの構成員であるステラ・ルルにプフレを殺害させた。

 もっともオールド・ブルーも()()()()()()()。プフレは外交部に影響力のあるカスパ派の有力者に札束ビンt……働きかけて、ピュア・エレメンツを回収する計画だった。その相手との交渉も進んでいた。だが、そのプフレを殺してしまったことで、プリンセス・インフェルノとプリンセス・テンペストは外交部にそのまま保護され、挙げ句プリンセスジュエル・システムをリバースエンジニアリングされ、ミクセリクサーII(2)に搭載されてしまった。

 ただ、そうしてでもオールド・ブルーにとってプリンセス計画は独占的なものでなくてはならなかった。プフレは、そこでオールド・ブルーが抱く危機感とその優先度を測り間違えた。その結果、死んだ。

 

 プフレの本懐は解っている。クラムベリーの惨劇悲劇が繰り返されないようにすることだ。クラムベリーの “試験” が成立する現体制を打破することだ。

 “名深の4人組”、分けてもラ・ピュセルに固執したのもそのためだ。

 それに関して、改革の動きがあるのか、その情報も収集し続けていた。

 “魔法少女学級” の情報がそれに引っかかった時は、プフレがいなくても事態は前進するのか、と、虚無感と安堵感を同時に感じた。

 だが、その主催が旧オスク派だと知って、その評価を反転させた。

 オスク派は、その行動に合理的な理由があるかないかの違いぐらいで、派閥・組織がまるごとクラムベリーのような価値観の連中だ。

 だから、潰さなければならなかった。

 二度と()()()()殺されないよう、戦わなければならなかった。

 それがプフレに対してできることであり、自分が戦う魔法少女であることを示す()()()()()()()()機会だった。

 





具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。