魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
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フライパンにバターオイル入りトーストスプレッドを薄く引き、6枚切食パンを載せる。セラミックヒーターコンロの火力をHIGHからLOWへ。
片面に薄く焦げ目がついただろう頃合いに、パンをひっくり返して、ハム、チェダー・ナチュラル混合のシュレッディングチーズ、薄く切ったカマンベールチーズを乗せ、かぶせ蓋を乗せる。
このかぶせ蓋、
「ジャックが来て、インフェルノ様やスプリント様が頻繁に来ますし、足りないです!」
ってなことで買い替えたミクセリクサーのお下がり、という、早くもパワーワードじみたものだったりする。
シュレッディングチーズが溶けて、ハムの上に膜を作ったところで、フライパンをコンロから降ろして、蓋を外し、耐熱樹脂の皿に移す。
その皿を持って、ジャックは、梅見崎中学校の方を向いて折りたたみ椅子に座っていたスノーホワイトのところまで行く。
「…………ベルさん、やらかしてるなぁ」
「えっ?」
スノーホワイトが意図したわけではなかったが、ちょうどそのタイミングでポロッと言ってしまった言葉に、ドキッ、と緊張した表情になったジャックが、立ち尽くしたようにしながら、短く訊き返す。
スノーホワイトは、ジャックの声と姿に気がつくと、見上げるように視線を向けて、
「ああ、ごめん。なんでもない……なんでもないと言うか、まぁ……割とどうでもいいこと」
と、言った。
「それなら、いいですが」
燈ともども、デリュージのことでどこか1本糸が張るような心理状態のジャックだったが、スノーホワイトにとっては、今拾った“声”は本当にしょうもないことだった。しょうもないのだが、ジャックや燈に喋ってしまうのはプライバシーだとかデリカシー的な面で問題がある気もした。
「お昼ごはんです。簡単ですが」
ジャックが、見た目苦笑気味な表情になって言うと、スノーホワイトは、
「あ、うん。ありがとう」
と、そう言って、チーズトーストの乗った皿を受け取った。
一旦自分も緊張を緩めた様子で、スノーホワイトはチーズトーストを口に運び、かぶりついた。
「んー……おいしー♪」
「なら良かったです」
すでに作業台の方に戻りかけていたジャックは、スノーホワイトの声を聞いて振り返り、微笑みながらそう言った後、
「今、インフェルノの分も作るから」
と、燈のいる方を向いて、そう言った。
「あ、はい」
燈が返事をした。
ジャックは、フライパンの乗っているコンロの火力を再びHIGHにしながら、
「んー……Comfeeのミニコンベクションオーブン買っちゃおうかな……」
と、呟いた。
「え?」
燈が、反射的に訊き返す。
「あれもこれもって欲張るつもりはなかったんだけど、3、4人分になると、2人分くらいはまとめて調理できる機械もほしいかなって」
再度フライパンの上でパンを炙りながら、ジャックは言う。
「あー……まぁ、それはわかります」
燈は、苦笑気味にしつつも、ジャックの言葉を理解して同意する言葉を出した。
すると、ジャックから見て燈のいるほぼ反対側から、
「そのお金は?」
と、訊ねる声が聞こえてくる。
「それはまた、この程度の値段ならパム様に……」
「だからそれやめようよ」
まるで自身の姉のように妙にニコニコしながら言うジャックに、呆れた苦笑をしたスノーホワイトが真剣味のない苦言を呈した。
「冗談です。パソコンのときみたいに田んぼのお手伝いでもしてきますよ」
ジャックは、スノーホワイトの方を振り返りつつ、苦笑しながらそう言った。
そうすると今度は、燈が、
「田んぼの手伝い……ですか」
と、意外そうな表情で訊ねる。
「きちんとしたアルバイトとは少し違うんだけど、車検屋さんの知り合いの農家さんのところで、日当5万で……────」
「日当5万!?」
説明するジャックの言葉を途中で遮り、燈は驚愕の声を出してしまう。
「
仰天したような表情の燈に、スノーホワイトがそう言った。
「え? ど、どういうことです?」
燈は、わけが分からない、といった様子で、訊き返す言葉を出す。
「ミクセリクサーちゃんも、ジャックも、一般作業なら54人分の労働力になるじゃん」
スノーホワイトの説明に、それを自身の背後方向から聞いたジャックは、引き攣った笑みで頬に汗を一筋、つたわせる。
それを見て、燈もどこか気まずそうに苦笑する。
「確か、最初にやったのはミクセリクサーちゃんが国産の圧力鍋欲しがったときだったかな。まだジャックがこっちに来る前だったと思う」
「ああ……」
スノーホワイトの説明に、燈が、まず納得したような声を出してから、
「確か、圧力鍋って、珍しく姉妹戦争が起きるやつですよね」
と、言った。
「え、そうなんだ」
スノーホワイトが、意外そうに言いながら視線をジャックに向けると、ジャックは、
「はい……」
と、スノーホワイトの方を直接向かないまま、引き攣った苦笑のままで、神妙そうな口調で言う。
「姉さんが北陸アルミ推し、私がアサヒ軽金属推しで……」
「ふーん……」
その争いの内容にはあまり興味がないが、ミクセリクサーとプリンセス・ジャックの間で諍いが起きているということが意外で、スノーホワイトは、キョトンとしたように目を
「ティファールとかじゃないのが2人らしいっていうか……」
スノーホワイトが言う。
それを聞いて、燈が、苦笑しながら
「ヨーロッパの製品は、本国製造と言っておきながら本体が…………なことがあるので……普通の鍋やフライパンならいいんですが、圧力鍋はひとつ間違うと榴弾を火にかけるようなことになりますから……」
「そう言えば、つばめさんも似たようなこと言ってた気がする」
と、説明して、スノーホワイトがそう返した。
延々話題の脱線が続きそうだったが、そこで、2枚目のチーズトーストがフライパンから皿に移り、
「ほ、ほら、インフェルノの分できたから、た、食べちゃって」
「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」
と、誤魔化すように言うジャックの声に、燈がそう答えて、閉じられた。
─☆──☆──☆──☆─
キーンコーンカーンコーン……
「それでは、以上になります。皆さんの方からなにか質問はあるでしょうか?」
6時限目を過ぎ、放課前のSHRも、最後にカルコロが教壇の上から伝達事項を伝えて、質問を受けるところだった。繰々姫は事務机の方で椅子に座っている。
「なければ、これで終わります。日直さん」
すでに慣れてきたという口調で、カルコロが促すと、
「はい! 起立!」
と、プシュケが弾んだ声でそう言った。
生徒が、綺麗に揃って立ち上がる。繰々姫も立ち上がった。
「礼!」
生徒も教師もお辞儀し合い、
「はい、お疲れさまでした」
と、繰々姫が付け加えた。
そして、教室内に一気に喧騒が広がる。
「なー、そっちの2人、駅の方行くだろ?」
ランユウィの机にプシュケ・プレインスが近付いてきたところで、ノワール・ミーが、ブラン・キーを後ろに連れながら、2人に声をかける。
2人がノワール・ミーたちの方を向き、ランユウィが、
「まぁ、電車通学っすからね?」
と、答える。
「駅の側にグッズショップがあってさ、寄ってくんだけど、一緒にどう?」
「あー……」
ノワール・ミーの問いかけに、ランユウィが一度声を出してから、プシュケの方を見る。
はにかむプシュケを見て、嫌そうではない、と、ランユウィは結論づけた。
「いいっすよ、一緒に行きましょう」
ランユウィがそう答える。
そこへ、
「私達も一緒でいいかな?」
と、プリンセス・ライトニングが割って入ってきた。プリンセス・デリュージが付き従っている。
「あー……小さい店だから大勢で行くと狭いんだけど、ま、いいか」
ノワール・ミーは、そう答えた。
「治コ、お前さんはどうする?」
ノワール・ミーは、帰り支度をしているOR・治コにも声をかける。
治コは、ノワール・ミーたちの方を振り返りつつ、申し訳無さそうに苦笑しながら、
「あ、すみませんです! 今日はまっすぐ帰らないとならないのです!」
と、答える。
「なに、寄り道しちゃいけないって? 治コはいい子ちゃんだからねぇ」
からかうようにライトニングが言うと、治コは少しだけ眉を吊り上げ、苦笑しながらもムスッとしたような口元になる。
「ただ、今日はまっすぐ帰らないといけないだけです!」
そんな中────
「…………」
誰にも興味がない、といった様子で、ツグツィーヌ・パイトは、黙々と帰り支度をし、教室を出ようとする。
「…………」
それを、ディティック・ベルが、足音を抑えつつもやや早く歩いて、尾行を始めた。
── 彼女には何かがある。
教師2人がどこか扱いにくそうにしている。その様子に引っかかったベルは、ツグツィーヌに次の突破口があるのではないか、と考えたのだ。
ベルは最初、用務員で、魔法少女でも魔法使いでもないのに旧校舎に出入りできる佐藤木ノ実に、なにか突破口があるのではないかと、自らの直感で調査にかかった。
週末には、レンタカーを借りて、市役所第4分庁舎にある市営学園理事会事務室にまで調査に出向いた。
そこから何件か、関連建物を追って、魔法で建物から証言を得た。
その結果、木ノ実の採用は、梅見崎中学校長のハルナ・ミディ・メレンが紹介した、ということが解った。
つまり、佐藤木ノ実は、現状の情報としては魔法少女でも魔法使いでもないが、どこかで“魔法の国”と接点のある人物である、ということだ。
だが、それ以上は、確証のある情報を得られなかった。
地方行政の非正規勤務のコネ採用は、実態としてはよくあることだ。十何人も採用するなら話は別だが、魔法少女学級を担当する特別な用務員を1人、ということなら、ハルナがこの人物を、と言えばそれで採用だろう。
一応の適性試験はやったらしい。理事会幹部の面接もあった。
しかし、だから何だ、という程度の情報しか得られなかったのだ。ベルが木ノ実に感じる違和感めいたものを明らかにする情報は今のところ、ない。
新校舎に出る。氷岡忍は、さり気なく鳩田守颯を追う。
昇降口。鳩田守颯の靴は、ありふれた女子学生向けの人工レザーのローファーだった。
忍も上履きを脱ぐ。扉付きの下駄箱を開け、フォーマルでも通用するファスナー付きレザーシューズを取り出すと、その下にハートのシールで封がされた洋形封筒の封書があった。
忍は、それが何かを理解して、顔を僅かに紅くしつつ一瞬面食らいながらも、いまどきこんなベタなやり方もあるのかと思いながら手に取りつつ、上履きをしまい、扉を閉める。まだ、守颯は視界の中に捉えられている。
昇降口を出る。ABCDの誰かが、昇降口側の植栽を手入れしていた佐藤木ノ実と会話していた。忍はそれをちらりとだけ視線に捉えた後、守颯からつかず離れず、一定の距離を保って歩いていく。
その後ろ姿は、見かけは、本当にどこにでもいる中高生 ── 中学生、とまでは言い切れなかった ── が、魔法少女学級も合わせて、下校する他の生徒の中で、どこか、周囲とは空間が違うかのような雰囲気というか、そんなモノを纏っていた。
踏切手前で右に折れれば駅へ至る道を、守颯はそれより手前で左側に曲がった。奇しくも、ノワール・ミーが他の生徒を誘っていたグッズショップのある方だった。
そのグッズショップの手前に、さらにY字路。グッズショップは左側だが、守颯は右側へ進んだ。
「…………!」
守颯が駐車場に入った。忍は少し表情を険しくしつつ、守颯が振り返っても見られないように姿を潜めながら、それを覗く。
忍は、音を立てないようにしつつ、背負っていたナップザックの中から、小さなカメラを取り出した。PENTAX Auto110。銀塩フィルム式最小クラスの一眼レフカメラだ。18mmパンフォーカスレンズが嵌っている。
デジタル記録の証拠能力が法的に認められるようになって久しいが、近年はAI生成画像の氾濫で再び信頼度を落としつつある。それを踏まえて、忍が中古プレミアム価格を承知で購入したものだ。
周囲は充分明るい。増感現像を前提にしなくても、ISO400の感度で充分写るはずだ。
精算機で精算を終えた守颯が、ビッグホーンの運転席ドアロックを外し、ドアを開け、ドライバーズシートに乗り込む。手に持っていた学生カバンを助手席に移す。
忍はそれを何度か撮影した。車体側面が写るもの、角度を変えて、前側のナンバーが写り込むもの。
キュルルルルル……ヴァンッ!
ビッグホーンのエンジンが始動される。
──…………?
忍は僅かに違和感を覚える。
別に、忍がUBS系 初代 いすゞ ビッグホーン最終期の4JB1-Tディーゼルエンジンの音を聞き分けられるように覚えているというわけではない。だが、何かの違和感があった。
ビッグホーンのギアが入る音がした。忍は咄嗟に、ビッグホーンと対向しているホンダN-VANの後方に隠れる。守颯は何も気付かなかったのか、ビッグホーンは出入口で一時停止した後、私鉄線の
それから、忍は、駐車場の真ん中あたりに歩いて出てくると、周囲を一瞥した。
あるものに気付いて、忍はディティック・ベルに変身する。
地面である平面駐車場や、機械である精算機には、ベルの魔法が通じるかは疑わしい。だが、精算機の雨避け・日除けの“精算機テント”は、立派に建造物のはずだ。
写真の裏付けを取ろうと、ベルは精算機テントの柱にキスをした。
ちなみに、洋形封筒の内容は、一般学級の2年生男子からのこれ以上ないほどの熱烈なラブレターだった。
「どうしよ、これ……」
ノワール・ミー イメージ画
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多分魔法は“百発百中のナイフを出せるよ”
早い話がリップルの劣化版。
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