魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
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「──────── あそこのは吸水性が足りなくて……ずっとジャックのままだったらいいんだけど、千子に戻ったときに不意に来られるとドキッとするのよね」
「ああ、わかります。……いえ、それでしたらユニ・チャームの方が……────」
ジャックが苦笑交じりに言うと、燈もまた眉を下げつつ笑いながらそう返すが、それを聞いて、ジャックがギョッとしたような顔になる。
「どうしてインフェルノがそれわかるの!?」
「え……………………あ! その……」
河川沿いの市有地。
燈とジャックは、サンバーキャンパーの前側に椅子を並べて、移動させてきてあった作業台の上に置かれたラジカセで賑やかしにラジオを流しながら、談笑していた。
「あれっ!? お、お湯止まっちゃったよ!?」
そのサンバーキャンパーのリアゲートを開けた状態で、その扉の縁に沿って囲むように半透明エンボスのカーテンが敷かれている、その内側で小雪が驚いた声を出した。
カーテンの中は、サンバーキャンパーの車内照明と、リアゲート扉の下端側に吊るされたキャプテンスタッグの電池式ランタンで照らされていて、裸のせいで尚更4人の中では見間違えようのない、小雪がオロオロとしているシルエットが見えた。
「どうしました!?」
燈が声を上げ椅子から立ち上がり、ジャックとともに駆けつける。
「お湯、お湯止まっちゃった」
「え?」
聞こえてきた小雪の言葉に、燈が、脚を開いて構えたようにしつつも立ち尽くす。
「あ」
ジャックが短く声を上げた。
「発電機止まってるじゃないですか」
ジャックが言う通り、DIY発電機のロビンエンジンが沈黙している。
「気付きませんでした。申し訳ありません」
会話に夢中で、それなりに音がするはずのエンジンが停まっていることに気づかなかったことに、燈は謝罪の言葉を口にするが、
「あ、やっぱり」
と、屈んで発電機を見ていたジャックが呟くように言い、顔を上げてシャワーカーテンの方に視線を向けた。
「スノーホワイト様、シャワー使うときにはオートスロットル外して手動で全開にしてくださいって。一気に負荷が上がった時に停まっちゃいますからって」
「ごめん」
ジャックの言葉に、カーテン越しにも項垂れたシルエットが見える小雪が、申し訳無さそうに言った。
「このオートスロットルは、私とラズリーヌ
そう言いつつ、ジャックはエンジンのリコイルスターターに手を伸ばす。
「まだ温かいからかかるかな……」
そう呟いて、ジャックはリコイルスターターの紐を、ブルルンッ、ブルルンッ、と2度引いたが、再始動しない。
「やっぱ一度ガソリン使わないとダメか」
そう言って、暗闇も気にならない魔法少女の視界で、始動用ガソリンと主燃料灯油のバルブを切り替えてから、リコイルスターターを引く。すると、
ブルルルッ、ブルルル……バラララァアァァァッ……
と、再度の2度目でエンジンが始動した。
「んー……なんかあった?」
ポップアップルーフのキャンバス部の小さな網戸から、希が気怠そうな声で聞いてきた。いつも夕食は完全に陽が暮れる前に摂ってしまうし、今日は手持ち無沙汰となって仮眠していた。結構ぐっすり寝入っていたが、今の、小雪の素っ頓狂な声や燈とジャックのバタバタやエンジンの再始動音やらで目を覚ました。
「ああ、すみません。大丈夫です」
燈が、視線はそちらに向けてそう答えた。
「そう」
「起こしてしまってすみません」
希が返すと、燈が申し訳無さそうに言う。
「いいわよ、何かあったらすぐに起こしてね。一応、この中では最年長なんだし」
希はそう言ったが、2人のやり取りを聞いていた小雪は、
「燈ちゃんのせいじゃないのに……ごめん」
と、申し訳なさそうに言った。
「いえ、別に……」
燈が、苦笑しつつも気遣うような表情で、小雪の声の方を向き────
「はっ!?」
と、我に返ったように気付きながら、慌ててサンバーキャンパーが前を向いている方に身体ごと向く。
「す、すみません!」
「えっ、どうかした?」
小雪が、シャワーカーテン越しに軽く驚いたような声で訊き返す。
ジャックも不思議そうに燈を見る。
「その、……えっと、見て……しまいまして」
「?」
燈のおずおずとしたような言葉に、ジャックも不思議そうな様子のままだ。
エンボスビニールカーテンとは言っても、外部の照明の光が入るようにしてあるものなので、不透明ではない。そのためにサンバーキャンパーは後部を河川側に向けて、道路側から見えないようにしている。 ──── 昼間ならいいのだが、この時間だと、シルエットになって細部まで解るわけではないとは言え、リアゲート扉下端部側のランタンの光で、小雪の肢体の造形が見えてしまっていた。
「なんで? 燈ちゃんでしょ? 女同士じゃん。流石に直に見せたらジャックに悪いとは思うけど」
小雪が不思議そうに問いかける。それを聞いていたジャックまで赤面する。
「まぁ……そうなんですけど……」
燈は、困ったように、少し引き攣った苦笑で、そう言った。
「じゃ、今度は浴び終わったら私に声をかけてください」
「はーい」
ジャックが言い、小雪の返事を待ってから、2人は腰掛けていた椅子の方に戻る。
WINTECHのモノラルラジカセはFM80.0MHzで放送を流し続けている。どっかの誰かさんの買ったバブルラジカセの再現版同様、昭和50年代のスタイルを再現した姿だが、選択された理由は「短波が聞ける」「3電源方式(AC100V / DC12V / 単一乾電池)」。つまり、身体を造った時にかそれともその後の共同生活からか、ミクセリクサーから
「で」
「はい?」
2人がどこか力が抜けたように椅子に座ったところで、ジャックが正面を向いたまま短く言い、燈が視線を向けて訊き返す。
するとジャックは、好奇心旺盛そうにイタズラっぽく笑って、燈の方を見る。
「さっきの話、インフェルノ、なんで知ってるの?」
「いやそれは!」
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────
────
ガバッ
「!?」
佐藤木ノ実は、用務員居住室で、布団を跳ね飛ばしながら上体を跳ねさせるように飛び起きた。
「な、何だったんですか……今のは……」
今まで繰り返し見ていた、白く小さな魔法少女や
身体を深く曲げて上体を前に屈め、顔を左手で掴むようにしながら、しばらくの間、震えが止まり呼吸が整ってくるまでその状態になっていた。
ようやく身体の強張りが緩んできたところで、周囲の状況を認識する。去年の秋、ここに住み込みで赴任してきて、もうすっかり慣れた畳敷きの部屋だ。
周囲はもう夜の暗さの中ではない。薄明の淡い光が、窓のカーテンの隙間から入り込んできている。
枕元を振り返って目覚まし時計を見る。アナログ時計の針は午前4時55分を少し過ぎたところだ。
布団から這い出し、簡易キッチンに向かう。2ドアの冷蔵庫を開ける。ドアポケットに三ツ矢サイダーの1.5lボトルが入っている。それを取り出し、一旦冷蔵庫の扉を閉める。ペットボトルのキャップを開けて、そのまま喇叭飲みでぐいっと呷った。
ただの悪夢ではない。その確信があった。
新年度の1学期が始まる数日前あたりからだ。自分の中のなにかが感じ取っている。
白く小さな魔法少女や、剣士の魔法少女の夢は、以前から見ることがあった。だが、それ以外の日々強まってくる不可思議な感覚は、その頃になってからだ。
なにかが起きる。
だが、自分になにができる? 自分はしがない用m────
「いや」
サイダーのキャップを閉めていたら、声に出た。
── 夢の中のひとが言っていた……
おとぎ話と、1980年代後半頃の中世欧風ファンタジーイメージが合わさったような、幻想的な美しい姿 ──── 美しいが、その繊細さがそのまま刃物の鋭利さになったようなひと。
── 私は……誰だ? いや……
「私は、
──── 市内某所。
この2年弱ほど、休むことなくずっと“魔法の国”の通信網・情報端末から情報を盗聴し、必要な情報を取得し、取捨選択して収集してきた、魔改造FMTOWNSの電源が落とされた。
そのまま、ケーブル類を外して、本体とストレージボックスをひょいと抱えて立ち上がる。
モニターはどうしようか悩んだが、
── これ以上は場所取りになりますか。
そう考え、他の老朽中古家電群とともに放置することにした。結果がどうであれ、ここに戻ってくることはもうない。
まだ春の柔らかい早朝の光の中、ボロアパートのペラペラな玄関扉を開けて外に出る。
2階の部屋から、安っぽい金属製の通路を歩き、カンカンと乾いた音を立てて階段を下りる。下りたところで、その目の前、旧い住宅街の街路の路肩に寄せて、ミニバン、というか、旧いワンボックスカーが停車している。GC22型 2代目後期型 日産 バネットラルゴ コーチ スーパークルージング。
スライドドアを開けて、セカンドシートの足元にFMTOWNSを、その上の座面にストレージボックスを乗せる。
サードシートは跳ね上げられていて、そこに、彼女 ──── そう、
「さて」
バネットラルゴの運転席に乗り込み、声に出して言う。
「いきますかね……────」
キーが差してあるイグニッションスイッチを“ON”へ、さらに“START”へ。
キュルルル……ヴォンッ
CA18ET型エンジンが目覚める。
「────────お嬢」
──── 6:55(JST)頃。
沙穂、稚奈それぞれのアパートの最寄り駅。
「えっ」
忙しない動きをする人混みの中、沙穂は、階段を下りて地階の改札へ向かう途中、稚奈がそのそばに立っているのを見つけた。
── ここはどうするべきか……
2代目なら、なんて考えるまでもなく、
「ま、普通はそうするよね」
と、小さく声に出しつつ苦笑してから、稚奈の方に近づく。
「おはよっす。稚奈」
沙穂は声をかける。実は沙穂、ランユウィも、憧れるラピス・ラズリーヌ
だが稚奈、プシュケ・プレインスは、まだ日こそ浅いものの、もう下手なラピス・ラズリーヌ一門生より緊張しないで済む相手になっていた。
稚奈も、どこかぼーっとしたような表情で人の流れを観察していたが、沙穂に声をかけられて気がつき、
「あ、沙穂」
と、振り返って肩の高さで手を振る。
「早いっすね」
沙穂は特に他意なく訊ねたが、稚奈は、
「うん、えっと……あ、いや、なんでも」
と、最初は誤魔化しかけた。だが、それを引っ込めるかのようにゴクリと呑み込んでから、笑顔を繕い直す。
「沙穂と一緒に行きたいかなと思って」
「そうだったっすか」
沙穂は、そう言って口元に笑みを浮かべる。
2人は簡易改札機にPASMO定期券を触れさせて改札を済ませ、ホームへの階段へ向かう。
「でも、かなり早い電車だよね」
稚奈にそう言われて、
「あー、まぁ」
と、決まり悪そうに苦笑した。
「教室に一番乗りするんだって思って早めの電車に乗ってたんっすけど、次の電車だともうライトニングと治コ、デリュージがいるんすよ」
「へぇ」
悔しそうに前で手を握って震わせながら言う沙穂を見て、稚奈が宥めるような苦笑になった。
それから、並んで歩く形になったところで、自然と手が繋がる。お互いの体温に気付いた時に、2人は一瞬、お互い照れくささを誤魔化すようにしながらも、口元で笑みながら、隣り合って歩いていく。ホームへの階段を上がる。
ホームに出る。さほど待たずに下り電車が入ってくる。ドアが開く。梅見崎中学校、梅見崎高校の制服を着た学生はまだまばら、どちらかと言うとホワイトカラーではない層の多い通勤客とともに、電車に乗り込んだ。
最初は新しい発見がたくさんあった電車の沿線も、流石にそろそろ慣れてくる。2人は下り電車が交換駅で開く側と反対のドアの近くに立ちつつ、他愛もないことを話す。
──── 2駅目、交換設備と複数の留置線のある大きめの駅に停車したときだ。
「!」
些細な話題で稚奈と笑い合っていた沙穂の顔が、急に真顔になる。
「どうかした?」
稚奈に訊ねられて、沙穂は最初、はっと我に返ったように薄く笑ったような顔になってしまう。
「あ、えっと」
沙穂はワンテンポ遅れてから、表情を引き締め直す。
「ツグツィーヌ……鳩田さんっす」
「えっ?」
沙穂の言葉に、稚奈も、怪訝そうな表情になりつつ、沙穂が視線を向けている方をチラッと見た。
2人は2連接2本4車体の、先頭から3車体目の前側のドアの近くにいた。守颯は、その車体の後側のドアから乗り込んできていた。
忍、結鍵、巳咲あたりなら声をかけていただろう。だが、 ──── まだ昨日の今日ということもあるが、どこか近づき難いと言うか、ネガティブな意味で浮世離れしていると言うか、なんとなく周囲に障壁でもあるかのような雰囲気を持っている。実際その時も、決して
「忍さんみたいな例もあるけど……何やってた人なんだろ」
観察する視線を離して沙穂の方に戻しながら、稚奈が低めの声で言う。
「さぁ、っす」
沙穂も、眉をわずかに
「昨日は、高校の問題集解けてなかったな……」
稚奈が、小さく呟くように言う。
「私ら、人のこと言えないっすし……」
沙穂もそう言うが、その表情はどちらかと言うと真剣なものだ。
「でも、それなら最初の学力の問診で解るはずだけど……」
「そうなんすよねぇ……」
2人がお互いの顔を見て話をしている、その稚奈の背後から、守颯が視線を向けていたことには、2人は気づかなかった。
電車は梅見崎学園の最寄り駅に着く。一般の生徒とともに電車を降りる。
PASMO定期券を簡易改札機に通すために一旦、離れた手が、駅を出てから再び2人は並び、また繋がる。
駅を出て、まだまばらながら確かにいる梅見崎の一般生徒とともに、学校へと向かう。
「今日も1日、頑張っていきまっすか!」
校門を通ったところで、右手を稚奈の左手と繋いだまま、沙穂は、左手を上げて振りながら、戯け混じりにそう声を上げた。
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