魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
「な……なに……な……?」
渡り廊下の爆破に、突然倒れたライトニングと、突然のことが多過ぎて、ブラン・キーたち新人どころか、先達に師事し新人とは言い難いランユウィですら、状況把握が正確にできず、神経のテンションを張りつつも当惑の声が出てしまう。
「ランユウィ、下がって」
プシュケ・プレインスが前に出る。相手が飛び道具を使ったのは間違いない。ランユウィはラズリーヌ一門だけあって戦闘ができないわけではないが、近接スタイルだ。それに対して、プシュケは標準装備で魔法の水鉄砲を持っている。もともと魔法が“魔法の水鉄砲で戦うよ”だ。水鉄砲といっても、熱湯でも強酸でも毒物でも、ありとあらゆる液体を出せるし、噴射もスポットの他に霧状にもできる。射程も長い。
ちなみにこの2人、プシュケ・プレインスはビキニ、ランユウィはストラップレスワンピースという差があるが、どちらも白と暖色系基調という、妙に共通感のあるイメージの衣装だったりする。
プリンセス・ライトニングが倒れる寸前、乾いた音がした。間違いなく発砲音だ。戦闘に自信のある魔法少女はこの場に多いだろうが、
今の発砲音は大口径弾のものではなかった。ライトニングは変身していた。拳銃弾や、高速弾でも5.56mmNATO程度では傷もつかないはずだ。
── だとすると……────
「いけません! 前に出ちゃ──」
繰々姫がそう言って、自分が矢面に立とうとする。すると、それに向かってプシュケが、
「先生こそ、危ないですよ」
と、言う。
「え?」
「相手は多分、魔法の国製か、魔法で改造された銃を持っていると思います」
繰々姫がカルコロとともに反射的に訊き返すと、プシュケはそう答えた。
「魔法の国製!? 魔法で改造された!? そんなものが……」
カルコロが愕然とする。襲撃者はテロリストか何かか、魔法の国製の兵器をそこらのチンピラ崩れが手に入れられるとは到底思えない。
── 組織的……
それも魔法の国の兵器を用意できるとしたら、かなりの有力者のはずだ。
カルコロの視線が、まず倒れたライトニングの身体に向かう。
── 真っ先にライトニングがやられたということは、研究部……オールド・ブルーの系統は除外していい……のか?
そう考えながら、カルコロの視線は、ランユウィ、プシュケ、ディティック・ベルをそれぞれ見る。
── 演技かも知れない。
カルコロが一番疑ったのはプシュケだ。一見、相手を敵視しているように見えるが、実際には自分の陣営だとわかっていて取っている態度なのかも知れない、と。
「いいえ」
カルコロが思考を巡らせていると、背後から声をかけられた。ツグツィーヌ・パイトだ。
「背後関係はないです。いえ、資金はかなり持っているようですが」
「え……」
カルコロと、繰々姫も、呆気にとられたような表情になって、ツグツィーヌを見る。
「相手の過去を少し覗きました」
ツグツィーヌはそう言う。
「魔法の国の武器じゃないです。普通の……とは言い難いものですが、とにかくそれ以外から調達した武器を改造して使っています」
「そんなバカな!」
説明を聞いて、カルコロが素っ頓狂な声を上げた。
「一般の兵器を改造した程度で、魔法少女に1発で致命傷を与えられるなんてこと、あるはずが……」
カルコロの困惑した言葉に、ツグツィーヌが、
「魔法の力で強化してるんですよ。相手は魔法少女です」
と、言う。
「そんなことができる魔法少女なんて……」
困惑したままカルコロは言う。彼女には心当たりはあった。カラミティ・メアリだ。“クラムベリー最後の魔法少女選抜試験”事件の犠牲者だが、それと同時に反社会組織に雇われる犯罪魔法少女でもあった。
そのカラミティ・メアリの魔法が“持っている武器をパワーアップできるよ”だ。武器というか、武器になるものだったらなんでも強化でき、魔法少女を殺傷する威力まで引き上げられる。
だが、すでにカラミティ・メアリはいない。事件の最中に、一般社会に対して無差別爆破事件を起こした挙げ句、その排除に向かった今の“名深の4人組”のうち、トップスピードとリップルを殺しかけて、逆にラ・ピュセルが咄嗟のことで殺して止めた。
カルコロが当惑していると、
「シャドウゲールですよ」
と、ツグツィーヌが言った。
「え?」
カルコロが反射的に聞き返した。その名前をカルコロはよく覚えている。2、3年前だか、人事部を引っ掻き回していたプフレという魔法少女の腰巾着だ。
2人揃って、クラムベリーの、1回としては最大級の殺しの生存者だ。
その後、プフレがテロリストに殺害されるという事件があって、その後はシャドウゲールの名前も表舞台には出なくなっていた。
「シャドウゲールの魔法は“機械を改造してパワーアップできるよ”です──」
「あっ、そ、そういうことか!」
ツグツィーヌに言われて、カルコロはハッと気づいて声を上げた。
カルコロがシャドウゲールをよく記憶していたのは、クラムベリー、プフレ絡みだけではない。シャドウゲールは“魔法少女連続失踪事件”の被害者だ。だからカルコロのファイリング対象だった。
「機械類……だから、マシンガンみたいなものも強化できるってことね?」
カルコロより先に、繰々姫が、ツグツィーヌに訊き返した。
「はい」
そう、ツグツィーヌは頷いた。
─☆──☆──☆──☆─
「!!!!」
ガタッ
河川沿いの私有地。今日も梅見崎中学校旧校舎の“声”を聞いていたスノーホワイトが、折りたたみ椅子を鳴らして立ち上がり、その方角を凝視した。
「どうしました?」
少し早い昼食を終えたところで、燈は、折りたたみテーブルの天板を、使い捨てふきんとスプレーボトルに詰められた0.12%希釈のオスバン消毒薬で拭いているところだった。
「学校が……魔法少女学級が襲われてる……!」
「えっ!?」
スノーホワイトの言葉に、燈の表情が一気に険しくなる。
「どういうことですか!?」
燈はふきんと消毒液ボトルをテーブルの上に放り出し、スノーホワイトに駆け寄って迫る。
ジャックは発電機の始動用ガソリンを補充していたが、急いでエンジン側タンクと携行缶側のキャップ、それに圧力逃しバルブのネジを閉める。
「一度会ったことある……シャドウゲールって
スノーホワイトが言う。それを聞いて、燈は、さらに険しくなった表情で、視線を梅見崎中学校の方に向ける。
「私が行ってくる」
駆け寄ってきたジャックが言うが、
「いえ、クェイクが ──── プリンセス・ジャックが行くと、かえって混乱が大きくなるでしょう」
燈はそう言うと、プリンセス・ジュエルを取り出し、額に当てる。
「プリンセスモード・オン!」
光に包まれた燈の体型が変わり、プリンセス・インフェルノに変身した。
「大丈夫?」
眉を
インフェルノは、まずジャックに対して、
「どうにもならなそうだったら後から来てください」
と、言ってから、視線を移す。
「スノーホワイト、クェイクが出るかどうか、
インフェルノがそう言うと、スノーホワイトもまた、真剣な表情で頷いてから、
「気をつけて」
と、言った。
「行ってきます」
そう言うと、インフェルノは梅見崎中学校の方に向かって、高く跳躍して向かっていった。
─☆──☆──☆──☆─
廊下の先の方を睨む。
旧職員室の、手前側、室内の構造としては上手側の扉が開いている。
「あそこね!」
「えっ、あっ!?」
デリュージがそこへ向かって飛び出した。カルコロや繰々姫に制止の余裕はなかった。
「そこは、だめっ!」
ツグツィーヌが叫ぶ。
「!」
咄嗟のことだった。ランユウィがすぐ脇、新校舎供用前は教職員会議室として使われていた部屋の扉を開け、そこに飛び込む。
すると、ランユウィは旧職員室の開いていた扉から飛び出してきて、そこへ向かってきていたデリュージにほぼ正面同士で飛びつき、そのままデリュージごと床に伏せる。
直後、
ドバァアァァァン!!
旧職員室の中で爆発が起こった。旧職員室の扉が外れて吹き飛んだ。
校舎にも魔法による打撃を無力化する処理が施されていたが、体育館と異なり、床・壁・天井の表面をコーティングしてある、という程度だ。扉もその対象ではあったが、爆圧を受けてレールの上に留まっていることはできなかった。
ランユウィが魔法を使っていなかったら、開かれていた扉の方に爆圧が集中し、デリュージはそれに呑み込まれていたはずだ。
ランユウィの魔法は“扉と扉を繋げることができるよ”だ。
説明をするのに敢えて実名を出して既存作品を引用させてもらうと、『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』で、ロップルの宇宙船の倉庫と野比家ののび太の部屋の畳1枚が繋がった、あれを人為的に再現できるのがランユウィだ。
そして引用のとおり、扉はそのものズバリ扉である必要はない。全周が囲われた開口部なら扉とみなせる。例えばありふれたサッシ窓や、あるいは神社の鳥居などだ。
今、ランユウィはその魔法で会議室と旧職員室上手側の扉を繋いだ。それで、ランユウィがデリュージを伏せさせると同時に、旧職員室内部からの攻撃を防いだ。
「なにが────」
起き上がりかけたデリュージに、
「身体を起こさないで!!」
と、ツグツィーヌが声を張り上げる。
パンッ!
「っ────!」
乾いた発砲音がした。デリュージは、肩に焼けた火箸を押し当てられたような痛みを感じた。致命傷には程遠かったが、かすり傷と言うにはかなり深い傷を負った。
それを見ていたツグツィーヌが、目を
「“声”の場所と違った────」
「え?」
ツグツィーヌが漏らした言葉に、繰々姫が聞き返す。
「いえ! でも、相手は爆発物以外の遠隔攻撃の手段もあります! それは確実です」
その時、プシュケは、ランユウィの開いた“扉”を通って、デリュージとランユウィが伏せている場所に対して、他のクラスメイトが立っている場所とは反対側、より廊下の先の方に、立ちはだかるように立った。
「プシュケ!」
ランユウィが声を上げる。
ジジッ……
「!」
その音、その姿を確認したときには、プシュケは水鉄砲の引き金を引いていた。
最初の1発は、
パンッ、ガチャンッ!
乾いた音がして、天井の照明の蛍光灯型LED灯が弾け飛んだ。
階段の踊り場から姿を見せた“それ”は、プシュケの射撃を受けてひっくり返ったが、すぐに姿勢を立て直そうとする。
ブチュッ!
プシュケは続けざまに撃った。今度は、白い不透明の粘液が迸り、それを覆った。速乾性の粘着剤で、“それ”は床にへばりつかされた。流石に行動できなくなった。
プシュケ、それにランユウィと、肩を押さえているデリュージが、“それ”の傍に駆け寄った。
「な、なんっすかこれ!?」
“それ”を見たランユウィが、声を上げた。
それはまるで、ミニチュアの戦車のようだった。だがただのプラモデルや
「セントリーガン……」
プシュケが呟く。
「え?」
ランユウィとデリュージが、プシュケに訊き返す。
「AIで独自行動ができる自走ロボットに、銃を載せたものよ!」
戦慄の表情で、プシュケはそう言った。
キャタピラに、階段や部屋の段差を乗り越えるための橇、それに、.357Mag弾を発射できる銃機構が取り付けられている。もちろん、デリュージを傷つけた威力からいって、単なる機械的な発射機構ではないのだろう。あるいは、弾丸の方も細工がされているか。
「危ないッ!」
背後から声が聞こえた。
ヒュッ!
2本の、黒い刀身のシンプルな投擲用のナイフが、3人の脇をすり抜けて迸り、
ガシャ、ガシャンッ!
と、プシュケたちの足元で動けなくなっているものと同じ、自走セントリーガンにそのナイフが突き刺さり、バチン! と火花を上げて動かなくなった。
ランユウィが振り返ると、ノワール・ミー、それにブラン・キーが駆け寄ってきていた。
「大丈夫か!?」
ノワール・ミーがプシュケたちに問いかける。
「お、おかげで助かった……っす」
新人組のノワール・ミーに危ないところを助けられて、ランユウィは、決まり悪さを感じながら、そう言った。
「でも、そうすると、私達……」
プシュケが、廊下の先の方を見る。
「相手は1人でも、攻撃してくるのは1体じゃない……────」
言い訳:プシュケの水鉄砲のこと
すみません。書き上がってから気付きました。原作だとプシュケの水鉄砲って霧状にしか出せないんですね。でも、このシーンだけではなく戦闘シーンのレパートリーが減ってしまうため、本作ではこういう解釈? 設定? にします。悪しからずです。
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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