魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
「デリュージさん! 止まりなさい! 止まって!!」
背後から繰々姫が制止する声が聞こえてくる。だが、プリンセス・デリュージは止まらない。
プシュケ・プレインスや繰々姫が破壊したセントリーガンの残骸が見える。それを脇目に過ぎ、階段の踊り場へ。階段を3階に駆け上がる。
踊り場の正面に社会科資料室。それを左手に折れて、一般教室が並ぶ方へ向かう。
── 絶対死なない、友達って、言われたのに。
田中先生 ── オールド・ブルーは、デリュージにプリンセス・ライトニングをそう言って紹介した。絶対に
なのに、ただの一撃で、斃れてしまった。
他のクラスメイトや教師2人がそう認識したように、デリュージの目から見ても、高速弾で胸郭が爆ぜたような状態で、大量の血を床に零して、とても生きているようには思えなかった。
旧校舎の廊下の中ほどまで出てきたところで、デリュージは脚を開いて立ち、
「出てこい! シャドウゲール!! 卑怯な真似をするな! 正々堂々と挑んでこい!!」
そう、デリュージは叫んだ。
「デリュージさん……」
繰々姫は心配そうな表情をしつつ、廊下外側の窓のない場所から、デリュージの周囲から、彼女を挟んでその先に、視線を走らせる。
こんなことをしても、本人が出てくることはない、自動兵器のいいマトだ。繰々姫はそう思ったのだが……────
「そうまで言うなら、直接お相手しましょうかね……」
繰々姫は、驚愕に目を
繰々姫から見てデリュージを挟んで反対側、廊下の先から、シャドウゲールの声が聞こえてくる。
透明外套を脱ぎ捨て、シャドウゲールは姿を現した。左手に20式小銃、右手にレバーアクションライフルを手にしている。
その表情は、 ── デリュージや繰々姫が知る由もなかったが ── 以前のシャドウゲールからは考えられなかった、歪んだ皮肉げな笑みを浮かべている。
「この!」
デリュージがシャドウゲールにむかって飛び出す。トライデントの尖端から氷の穂先が伸び、シャドウゲールの首元を狙って────
ドバァン!!
「な────」
発砲音とともに、デリュージが伸ばした氷の穂先が粉砕された。
ほぼ銃口のゼロ距離から発射された強化
銃弾、砲弾とは、一般にイメージされるほど単純なものではない。
いわゆるカートリッジ弾、一般的なイメージのセンターファイア弾に於いて、
その原理構成自体は旧く、19世紀中程から現在に至るまで根本的に変化しているわけではない。だが、薬莢内の未燃装薬を極限まで減らし、安定した高い燃焼効率を実現してそれを制御し、より長い射程を求め、より安定した品質を求め、より高い安全性を求め、改良に改良を重ねてきたそれは、銃側の機構と噛み合って作動する精密
──── 故に、シャドウゲールがその気になれば、強化改造することもできた。もっとも、手にするだけでいいカラミティ・メアリと異なり、充分な数を用意するのには、あのプフレのあっけない死から2年弱がかかったが。
皮肉げな、おぞましさを感じさせる狂喜の笑みのシャドウゲールの右手に握られているのは、Marlin Model 62/357PM Levermatic……このモデルは、市販はされていない。本来ライフル弾を使用するMarlin Model 62 Levermaticのバリエーションとして、.357
もちろん今となっては、ただの拳銃弾ライフルなどではない。同様に強化された.357Magと組み合わせれば、こと至近距離においては、高速弾故に貫通してしまう小口径の5.56mmNATO強化弾よりも凶悪ですらあった。
──── スタッ
「伏せて!」
デリュージが間合いを取り直そうと廊下に着地した瞬間、その背後から半ば飛びかかるように繰々姫がデリュージの頭を押さえ、床に伏せさせる。
ドドドドドドドドッ
シャドウゲールが、左手に持っていた20式小銃で、一瞬前までデリュージの胸があった高さで、右から左へ薙ぎ払うように掃射した。
「…………?」
だが、繰々姫が覚悟した追撃が来ない。
「……え」
繰々姫が見上げると、シャドウゲールは踵を返して、彼女の来た方へと駆けていく。
「待てっ!」
デリュージが、繰々姫を跳ね退けるようにして起き上がり、シャドウゲールを追っていく。
繰々姫は、僅かな間、唖然として口を開けたままそれを見送ってしまっていたが、はっと我に返る。
「いけない!」
そう言って、繰々姫たちが来た方の階段へ向かって引き返し始める。
階段はその1ヶ所ではない。シャドウゲールが来て、今駆けていった方にもある。
『困りますね……まとめて
── ハッ
1年F組の教室。
ツグツィーヌ・パイトが、顔を上げる。
「ここから出て! この教室は危ない!」
ツグツィーヌは、力の限り叫んだ。
階段を駆け下りながら、シャドウゲールはMarlin 62/357PMの装弾レバーを引く。発射済みの薬莢が排出される。
「ラグジュアリーモード・バーs……」
ドバァン!!
背後からその声が聞こえてきた瞬間、シャドウゲールは走りながら振り返り、Marlin Model 62/357PMを後ろに向けて射撃した。
── やはり、他の二者に比べるとプリンセス計画の成果は劣っていますね
シャドウゲールはそう考えた。極め技を使うのに、それを叫んで相手に引き金を引く時間を与えてどうする。
発射したのは散弾だ。先程、至近距離からデリュージの槍を破砕したものの、魔法少女本人には、ゼロ距離以外ではかすり傷をつけられればいい程度の威力しかない。だが、先程の
そうしながら、シャドウゲールは、メタルリンクのベルトを着けて腰に吊ったアイテムのうち、無線発信式のスイッチを銃を持ったままの右手で取ると、そのボタンを押し込んだ。
ドバァアァァァン!!
「な……な……!?」
カルコロが唖然とする。
叫ぶツグツィーヌに追い立てられるように、なんだなんだと、生徒達が教室から出て、現職員室の前まで移動してきたときだ。
教室の床が噴火するように爆発し、出入り口からは火焔混じりの煙が吹き出した。
「そんな! 教室にはなにもないはず……」
まるで、理不尽な! と言いたげに、カルコロが声を上げる。
「いえ!」
カルコロの背後でベルが声を上げた。
カルコロが振り返ると、ベルは悔しそうな表情をして、親指を噛んでいる。
「失敗しました」
「なにが!?」
ベルの言葉に、カルコロが訊き返す。
「さっきは、セントリーガンを意識して『もう無いか?』、と聞いたんです。爆発物とかじゃなくて!」
ベルの言葉を聞いて、カルコロは、口をあんぐりと開けた表情になり、その顔から血の気が失せていった。
パンッ、パンッ!
「!?」
廊下で乾いた音がした。2人の表情が戦慄する。
「この!」
ランユウィが声を上げつつ、飛び上がる。
爆発のあった教室に注意が向いていたその背後に、いつの間にか、2台の自走セントリーガンが接近していた。
射撃を受けた新人組2人が、それぞれ、背中の中ほどとうなじの下あたりから血飛沫を吹き出し、崩れ落ちていく。
ランユウィは、混乱する新人組を飛び越えて、そのまま自走セントリーガンを蹴り壊し、もう1台も払うように蹴り上げて壁に叩きつけて破壊した。
だが────
「プシュケ!」
さらにその先を見て、ランユウィは、愕然としつつ、声を上げた。
「っ!?」
「な、何だありゃ!?」
ランユウィの前に出た、プシュケが目を見開いて息を呑み、ノワール・ミーが素っ頓狂な声を上げた。
自走セントリーガンが、こちらへ向かって走ってくる────
「1匹見たら30匹って、Gじゃねぇんだぞ!」
ノワール・ミーが毒
キャタピラが床面に貼り付いたセントリーガンは、その進行が不可能になる。
だが、ノワール・ミーが言葉にしたとおり、ゾロゾロとやってくる自走セントリーガンは、動きが止まったそれを乗り越えて、進んで来ようとする。
ノワール・ミーが両手で続けざまに放った投げナイフが、そのうちの4台を破壊したものの、
「だめだこりゃ! とても間に合わねぇ!!」
そのノワール・ミー自身が、処置なしと声を上げた。
プシュケが水鉄砲を構えているその前に、ベルが躍り出る。ベルは覚悟を決めたような表情をしていたが、ツグツィーヌの言葉を信じるなら、自分が射面にいれば撃ってこないはずだ。
同じように考えたのか、階段を駆け下りてきた繰々姫が、ベルの隣に立つ。
…………確かに撃っては来ない。だが、ゾロゾロと進んでくる。このままでは、生徒の集団のところまで来てしまう。
── こんな数、どうやって────
「ラグジュアリーモード・オン!」
ガッシャァアァァァン!!
ガラスを粉々にしながら、燃えるサイドテールをたなびかせつつ、飛び込んできた。
「はぁっ!」
ゴワァッ!!
槍の穂先から吹き出した炎が、自走セントリーガンの群れを飲み込み、灼き尽くす。
パン、パパン、パン、と、銃弾の暴発が起きたが、飛び出した弾頭はすべて明後日の方へ飛び、誰かに命中することはなかった。
「ふぅ、危ないところに間に合いました」
小さい口から深く息を
しかし、事態はその隙さえ許してくれなかった。
ドドドドドドッ……
背後から連射の音が聞こえてくる。
もう一方、インフェルノの背後側の階段の踊り場で、シャドウゲールが、階段の上の方へ向かって20式小銃で撃ちかけていた。
「!」
その音に、インフェルノが振り返りかけたときだ。
シャドウゲールもインフェルノの姿を確認する。そして、銃口をインフェルノに向け、インフェルノの行動が始まる前に引き金を引いた。
インフェルノの背面全体に、焼けた針で刺されたような痛みが走る。インフェルノの衣装のマントが穴だらけになってボロボロになった。
「!」
プシュケ、ランユウィは、シャドウゲールが持っている銃を見て、一瞬行動が遅れた。
「行ク!!」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン……!!
アーマー・アーリィが、インフェルノの方へ、さらにインフェルノとシャドウゲールの間に入ろうとした。
「っ、いけません、近づいては……!!」
インフェルノが制止するが、アーリィは止まろうとしなかった。
「アーリィさん!!」
その背後からも、木ノ実の声が聞こえてくる。
そして、アーリィが矢面に立つ位置に立った瞬間、
ガシャン、バキィッ!!
「!?」
その横の教室の天窓が割れた。ほぼ同時に、アーリィの鎧の右の
アーリィはそこで動きを止めてしまう。鎧の隙間から黒い粘液が溢れ出してきて、アーリィの鎧を覆っていく。これがアーリィの魔法の発動だったが、再度覆われた右肩からは、しかし、その繋ぎ目から血が溢れてくる。
「グ……」
インフェルノがガラスの割れた天窓を見る。内側に設置型セントリーガンが取り付けられているのが見えた。
どう設定されているのかわからないが、繰々姫やベル同様、プリンセス・インフェルノには反応しなかったのだ。
ドドドドッ
シャドウゲールは階段に向かって
20式小銃の銃口を、アーリィの方へ向けて────
────
────
「!?」
木ノ実の身体から、光が溢れ出す。
インフェルノが、アーリィを庇って矢面に立つ。
「チッ」
シャドウゲールが舌打ちをした。
髪はキメの細かいショートのブロンドに。
クラシカルな白いワンピースドレスに、深緑色の袖付きケープ、ライトグリーンのストッキング。
頭に、グラデーションがかったバラの花と蔦の冠が出現した。
「私は……────」
「妨害されるとあれば、仕方ありませんね」
シャドウゲールは、そう呟くように言いつつ、20式小銃の引き金を引く────
バシバシバシバシバシバシッ!
「!?」
銃口から、インフェルノとアーリィに向かって発射された弾丸が、その途中でなにかに弾かれた。見えない何かは、シャドウゲールにも衝撃を伝えてきた。
インフェルノの背後から、飛び出してくる。
オレンジがかったピンクの目が、鋭くシャドウゲールを見る。
それはあまりに素早くて、シャドウゲールが戸惑った一瞬に間合いを詰め、その首を掴み、一気に廊下の端の壁にまで叩きつけた。
「ぐ、ぅっ」
魔法の振動波を纏った手が、シャドウゲールの胸に当てられ────
「チッ」
新校舎の校長室から、監視システムで旧校舎の様子を伺っていたハルナは、忌々しそうに舌打ちをした。
ハルナは、旧校舎の異変に気付いていなかったわけではなかったし、何もしないでいたわけではなかった。
だが、古巣の情報局から、保安員が駆けつけてくるまでにはまだ時間がかかる。
それに焦れていたハルナだったが、その様子をカメラ越しに見て、一転、ただ不愉快そうに表情を歪めた。
── 何かあったときの切り札だったとは言え、背後関係の薄いテロリスト1人のために覚醒してしまうとは。
ギリッ、と、ハルナは奥歯を噛み締めて鳴らした後、声に出して呟いた。
「シュガーベリー」
内部破壊音波を胸に受けたシャドウゲール ────
だが、そんな凄惨な最期だったと言うのに、護の死に顔は、とても安らかなものだった。
「…………」
その顔を見つめ、佐藤木ノ実 ──── 魔法少女シュガーベリーは、背後からデリュージが声をかけてくるまで、立ち尽くしていた。
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