魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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【修正】
『2-o-H』 第29話(システム上の31話)
・途中、フライパンと中華鍋がごちゃごちゃになっていたのを直しました。

『「青」』 第0部第02話(システム上の3話)
・鳴(プリンセス・テンペスト)の学年を間違えていた
(「今度の春で小学3年生」→「今度の春で小学4年生」)
 ため、それを前提にした身長ともども修正しました。



第03話

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 風里野市。

 ここは現在、 “魔法の国” に対抗しようとする1人の魔法使いと、複数の魔法少女が、市内に結界を張り、その干渉を跳ね除けている場所だった。

 その風里野市市街地、地方ではすっかり珍しくなってしまった昔ながらの喫茶店。少し変わったところがあるとすれば、店舗の1階に別テナントが入り、2階で営業している点ぐらいだ。照明の弱い薄暗い店内、かと言ってス◯バやタ◯ーズ・ジャパンといったチェーン系の様におしゃれでもない、昭和の名残の漂う店内だ。

 そんな()()()()()文化の国で、明らかに異彩を放つ2人が、奥まった席で椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。

 1人は、生来の金髪をボブカットにした、明らかに日本人ではない身体的特徴の女性。アングロサクソン寄りのゲルマン、といったところか。ただ、顔つきだけは瞳が大きめのアジア人、と言った趣きがある。

 もう1人は、(つや)やかな黒髪ではあるものの、こちらも明らかにネィティブジャパニーズ3民族(大和・ウチナー・アイヌ)ではない。小柄で少年の容姿をしているが、単純な外観の年格好よりもずっと老練な雰囲気を纏っている、大きなレンズのメガネをかけた男性だ。

 女性が一通りを説明していたが、男性はそれを聞いて、段々と思い悩むような表情をしていった。やがて、説明が一段落したところで、女性は自分の注文したコーヒーのカップを口に運んだ。

「ん、いい香りやな……あっと、失礼」

 女性は、語尾に方言を感じさせてしまいつつ、そのことを謝る。

 だが、男性の方はそれどころではない、と言ったように、視線をテーブルに伏して、焦れたような表情をしている。

 カチン、と僅かに音を立てて、女性がコーヒーカップを下ろした。

 男性が視線を上げる。

「お前たちは……自分達が何を言っているのか解っているのか?」

 すると、コーヒーの香りに緩んでいた女性の顔が、急に引き締まったものになる。

「もちろん」

 女性は真剣な表情で、男性に鋭い視線を向けながら言う。

「僕達と彼女は、目的を同一にする同志であって……」

 男性は、憔悴混じりの困惑で言うものの、言葉尻が濁る。

「いや……」

 女性は、鋭い視線で男性を見据えたまま、いう。

「目的が同一なだけであって、別に密な同盟関係ではないはずです」

「…………」

 時期は冬、店内の暖房はそこまで強くない。だと言うのに、男性は幼い容姿のその顔にジトリと汗を流している。

「もう一度言います」

 そう言って、女性は、テーブルの上に男性に対して上下が正しくなるように置かれた、3枚の写真と1枚の書類を、突きつけるように押す。

「あなたの姉は ── エルジーナ・ヘイズワードは資格がある。あなたの理想ではないかもしれないが、今一度命を吹き込まれる資格を満たしている。技術陣はあなたがそれを認めることを望んでいる。今すぐにでも取り掛かりたいと思っている。 “人造魔法少女” の歴史の失点を取り戻したいと願っている」

 女性がそこまで言うと、

「結局それが本音か!」

 と、男性は憤ったような表情になり、噛み付くような声を上げた。

「要するに、自分達のメンツの回復と自己満足のために、過去の人造魔法少女実験の被害者を、目立つ者だけでも救済しようって話だろう!? それはエルジーナに対する冒涜に過ぎないじゃないか!」

 男性は、怒声に近くかなりの声を張り上げた。

 驚いた喫茶店の店員が、カウンターのあたりから2人に視線を向けている。客は気にしていない、というより、2人の他に客がいなかった。

「はぁ、はぁ……」

 ひとしきりまくし立てたところで、男性が荒い息を整えるのを待ってから、女性は言う。

「『君は傲慢と言うだろう、冒涜だと言うだろう。我々のしていることは贖罪ではなく、更に罪を重ねていることだとは承知している』……────」

「…………!」

「── 『その上で言う。重要なのは今生きているということなんじゃないのか? 多少(いびつ)でも生きて話せると言うことなんじゃないのか? 死の一瞬前なら救済でその後なら罪業なのか。偶発なら奇跡で意図的なら陵辱なのか。我々も濫造するつもりはない。だが君の姉はそのままにしておきたくない。何より ────』」

 女性の言葉を聞いていた男性が、ゴクリと喉を鳴らす。

「『──────── 私は日本人だ』」

 女性はそこまで言うと、一旦区切ってから、

「プロジェクトリーダーからの、あなたへの伝言です」

 と、言った。

「…………」

 男性は押し黙り、再び視線を伏してしまう。

「それに、あなた達は間接的に、(かのじょ)に恩があるはずです。いや……────」

 女性は言い、そこで、声を半オクターブ低くした。

「すでに、()()()()()()()()であるはずです」

 風里野市は “死をキャンセルする魔法少女” がいる、という情報から、魔法の国・魔法少女部門人事部と同研究部は人員を派遣して調査しようとしていた。その結果、調査員として派遣された魔法少女の何人かがレジスタンスに触れたことで命を落とした。

 本来ならここで本格介入となるところだが、時を同じくして、 “三賢人” の派閥、プク派とオスク派の根幹を揺るがす事態が起こって、 “魔法の国” 自体に大混乱が発生し、風里野市の調査どころではなくなり、派遣チームはその直前で呼び戻された。

 結果、風里野市のレジスタンスは、しばらくの間、穏健な時間を確保することができた。

 一方、左海市の研究所の事件があった頃、女性の言う(かのじょ) にとって “あまり好ましくない人物” とされていた、当時、人事部に食い込み、部門長の座を狙っていた人物を風里野市のレジスタンスが排除した。これ自体は、男性が先程「同志」と呼んだ人物の思惑によるものだったが……────

「…………まぁ、感情がまだ追いついてこないと思います。まだ時間は少しあります。その間に、あなた(がた)の身の振り方を決めておいてください」

 そう言って、女性は腕にはめていた、男物の、ドイツはグラスヒュッテ・オリジナルの腕時計を見た。腕時計本体に対して時計盤を異芯円として、12時間制の時計、60秒計、回転盤による24時間計、日付表示を同居させているモデルだ。ひたすら精度を研ぎ澄ませる(ただしたまーにセイコーWN-1みたいに斜め上にぶっ飛ぶ)日本の高級時計とはまた違った、ドイツらしい精巧な造りの時計だ。

「そろそろ時間が圧しています。申し訳ありませんが、私はここで失礼致します。支払いはしておきますので」

 そう言って、女性は席から立ち上がった。昔ながらのカーボン複写の伝票を持って、カウンターへと向かった。

 女性がレジでの会計に立つ。すると、

『誠に勝手ながら、この度、 ── 年1月31日を持ちまして閉店閉業とすることを決めさせていただきました。長年の御愛顧、誠にありがとうございました』

 という、壁の張り紙が視界に入った。

「…………」

 女性は、支払いを済ませながら、無常観を感じた。 “魔法の国” は人間社会の認識外で支配的に振る舞っているが、そんなこととは関係なく現実はうつろっていく。

 一方、取り残された男性は、崩れかける上半身を支えるかのように、両腕をテーブルについて、写真と書類を見た。ただ、写真を深く観察したり、書類を読み込んだりするというわけではない。ただ、眺めていた。

「…………(かおる)(あきら)を巻き込んで、僕はここまで来た。なのに、今更……ッ」

 男性は、苦しそうに呻くような声を出した。

 3枚の写真は、1枚はプリンセス・ジャックの研究室内での立ち姿のもの。

 1枚はミクセリクサーとまるで本当の姉妹のように ── どちらが姉に見えるかはともかくとして ── 振る舞い、その周囲に笑顔のプリンセス・インフェルノとプリンセス・テンペストが写り込んでいるもの。

 そしてもう1枚は、左海市の研究所をグリムハートが襲撃する直前にファニートリックが撮影していた、プリンセス・クェイクを中心としたピュア・エレメンツが最後の日常を過ごしているところだった。

 書類は、表題にこう書かれている。

 

 Princess Jack (Mixelixer II(2))

 3-Month Inspection Data Sheet

 Mixelixer Gen2 Project Team

 

「…………………………………………姉さん」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 名深市の隣、()()(うら)端川(はたがわ)新田雛丘(ひなおか)。瑠璃の自宅アパート。

「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って!」

 悲鳴のような、抗議のような声が上がる。

「なんで私がやるの!?」

 ──── 姫河小雪、18歳。来年には満19歳になる。

 幼馴染とその恋人(今は嫁)、自分達の保護者役的人物と4人で魔法少女沼に肩どころか頭のてっぺんまでずっぷり嵌って、その理想を追いつつ現実もまるっきり無視できないと、学士号をつけるために通信制大学 ──── 放送大学を進路選択し、すでに入学申し込みをしている。つまり、今度の春から少なくとも形式的には大学生になる。ついでに少なくとも知らない顔でもない赤星燈と同期生になる(燈の場合はもう少し背後事情が複雑だが)。

 当然、まもなく、制服を着て学校に行く身分ではなくなる。

 なのに、今、在籍する坂東(ばんどう)学院高等学校のものではない、それも、中学校のセーラー服系の女子制服に袖を通させられている。

「なんでって……スノスノが一番それらしく見えるからっすか?」

 当然いる家主、ラピス・ラズリーヌII(2)nd()は、魔法少女姿のまま、真顔でそう言う。

「ちょっ……私以外にも佳代(かよ)ちゃんがいるでしょ! セーラー服なら、まだ佳代ちゃんは来年も現役高校生だよ!?」

「え、わ、私ですか!?」

 今居合わせている、ファニートリックこと根村(ねむら)佳代が驚いたように言う。

「いや、佳代には無理」

 実際に、小雪の傍らで梅見崎中学校の制服を着させていた華乃が、あっさりと言う。

 当然小雪は言い返す。

「どうして!?」

「胸部装甲」

「華乃てめぇ(怒)」

 華乃の極めて端的かつ単純な答えに、小雪がらしくない乱暴な声を出す。

 ラズリーヌIIと、やはり居合わせている朱里が面白そうにヘラヘラケタケタ笑い出した。

「そうだ、一言言ってやれよ、()()ちゃ()()

 朱里が、全員LDKにいると狭苦しいので、襖を開放した4畳半の和室側にいる颯太に、()()()

「えっと……」

 颯太は苦笑しながら、小雪の方を見る。

「似合ってるよ、小雪」

「その気もない既婚者に言われても全然嬉しくないよ!! しかもその嫁もいるそばで!!」

 

 梅見崎中学校を舞台にした魔法少女学級について、オールド・ブルー、初代ラピス・ラズリーヌがその生徒としてプリンセス・デリュージとプリンセス・ライトニングを送り込もうとしていることが解ったわけだが、

「う━━━━━━━━ん、確かに旧オスク派ってのは要警戒だけど、ちゃんと運営されるならそこで荒事にするのはなぁ」

 と、言うことでどうにかして内部を調査できないか、と “名深の4人組+追加ヒーロー” ────

「その言い方はずるいっす!!」

 ── が、考えていると、外交部の方、というか、部門長 魔王パムの元で実務トップの事務長を務めている魔法少女レディ・プロウドから、直々に、

「誰か潜入捜査に行けないか?」

 と、打診された。

 それというのも、部内の信頼できる魔法少女には、実年齢、実際の年格好が、中学生に偽装できるような人物がいない、という。

 そこで結局、白羽の矢が立ったのが ────

 

「だったら、だったら…………────」

 私の代わりに誰それがやってよ、と言おうとする小雪だったが、

「あ、そ、そうだ! ミクセリクサーちゃんとかどう!?」

「ミクセリクサーは旧オスク派とオールド・ブルーの両方にマークされてるんだぞ? 同じ理由でジャックも無理だ。戦闘通り越して()()になる。更地にして終わりにしに行くわけじゃないんだから」

 畳の上に座ったままの颯太が、少し険しい表情でそう言った。

「なら……あ! 私と同い年なら燈ちゃんの方が良いじゃない! 童顔だし身長も高くないし」

 確かに燈は、身長も164cmと第二次性徴を経たあとの、生物学上の男性としてはあまり高い方ではないし、瞳の大きい女顔のせいで全体的に実年齢より年少に見られることが多い ──── が、

「アホか女子限定の学級でリストは少なくとも全員女子だぞ」

 朱里が呆れたように言い返す。

「じゃ、じゃあ、…………あ、そうだ、鳴ちゃんはどう!?」

「逆に無理に決まってんだろ何考えてんだ!!」

 悪あがきを続ける小雪が、いよいよ、年が明けて春からは小学4年生の鳴を持ち出すに至って、朱里も怒鳴りつけるように言い返す。

「…………」

 ついに行き詰まって、小雪は周囲を見回し ────

「そ、そうだ!」

 その人物と視線があって、これは名案とばかりに言う。

「いっそそうちゃんg ────」

「ボクがスカート死ヌ程苦手なの知ってて言ってんだよね!?」

 小雪が何を言わんとしているのか瞬時に理解し、颯太は、それを途中で遮って、笑顔にこめかみに血管を浮かせながら、半ば怒声で言い返す。

「それに、自分で言うのもなんだけど、ボク学校の制服ってないし、私服姿で歩いてるとだいたい大学生か社会人に見られるよ」

 まだ憤り混じりの表情で颯太は言う。

 身体がラ・ピュセルの姿で固定されたときの混乱で、中学3年の年に高校受験願書が出せず、1年遅れで通信制の県立左海南高等学校に入学した。現在その2年次の末、標準的な4年で単位を満たすつもりだったので、もうしばらく現役高校生だ。

「魔法()()なのにな」

「うるさい」

 茶々を入れた朱里にも、颯太は即座に言い返す。プリズムスプリントは魔法少女の言葉の響きに対してはやや年嵩に見えるものの、まだ高校生に見えるのでなおさら腹が立つ。

「けど ────」

 朱里は、真面目な顔になって小雪たちの方に視線を向けながら言う。

「── 何より、颯太も目立つだろ」

「“(うつし)()殺し” とか言われてるからな」

 華乃がそう言った。

 ラ・ピュセルは、オスク派のトップのシェヌ・オスク・バル・メルの現身グリムハート、その先行試作型グリムローズ、別個体の現身レーテ、さらにプク派のトップ、アヴ・ラパチ・プク・バルタの現身プク・プック、と、本来、魔法少女として見るなら絶対的な能力を持っているはずの現身を4体も殺した、 ──── と、()()()()()()ため、ラ・ピュセルについてしまった二つ名だ。

 実際にラ・ピュセルが殺したのはグリムハートとプク・プックだけで、それも直接戦ったという感じではない。グリムハートは策を弄して2.9トンのLPGでこんがりにし、プク・プックは本人の魔法が歪んで効いた結果、殺害することになってしまったというところだ。

 残りの2体は、グリムローズを倒したのは当時まだ不安定だったミクセリクサーだったために偽情報として流したもの、レーテに至っては完全にただの流言だ。

 まぁ、その2人だけでも「あとは、ラ・ピュセルより強い魔法少女は魔王パムぐらいなんじゃないのか」と言われてしまうこともあるのだが。

 ラ・ピュセル本人としてはどう考えても過剰評価だわ、その御蔭で魔王塾関係の魔法少女が月に3度はエンカウントするわと、あまりいい思いをしていない。

 ──── 閑話休題。

「ひとつ思ったんですけど」

 そこで佳代が、おずおずと挙手するようにしながら、発言する。

 小雪も含め、その場に集まっていた全員の視線が佳代に集まる。

「生徒として入るのが難しいんだったら、教師として入るのはどうでしょう?」

 佳代がそう提案すると、まず、華乃が、顎に手を当ててわずかに考え込むようにしてから、

「20歳越えてるのは私とつばめ……でも、大学も出ていないからな……」

 と、難しそうに眉を(しか)めてそう言った。

 別に正規の中学校教育をするというわけでもなく、あくまで中学校に偽装された集団を相手にするわけだが、中学生を相手にする、というのなら、せめて大卒ぐらいの学が要りそうだな、と、華乃は思った。

 それに華乃は、人嫌いは以前ほどではないとは言え、人間関係の感情面を処理するのが遅いのは相変わらずで、すっと言葉にできないことがあるのは今も変わらない。

 油断すると珍走気質が出てきてしまうつばめはさらに論外な気もする。

 すると、

「えっと、あの」

 と、佳代の後ろから、さらにおずおずと手が挙がった。

「教員免許持ち、います…………」

 佳代の更に後ろに座っていた、繰々姫こと姫野希が、そう言った。

「それだ! 颯太!」

 華乃が言い、颯太に()()

「連絡してみる」

 そう言って、レディ・プロウドに連絡するため、マスター仕様マジカルフォンを取り出した。

「まぁ、先生、生徒でも通る気がするけど……」

 影で希のことを「ベビーフェイスモンスター」「合法ロリ」とか言ってたりする佳代は、そう言って苦笑した。

 

 





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