魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
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────2日前、シャドウゲールによる梅見崎中学校、魔法少女学級襲撃から2日後。
『どうも、実態を調査する、というだけでは済みそうにないな、これは』
「まぁ、もとからそうなるだろうな、とは思ってましたが」
名深市中宿、華乃邸。
またアナログチューナー搭載終盤期の22インチテレビをモニターにして、魔法の国 魔法少女部門・外交部事務長室にいるレディ・プロウドと、ラ・ピュセル、岸辺颯太が通話している。いつものように、ラ・ピュセルのマスター仕様マジカルフォンからRF接続という有様だ。
テレビの前、当然ラ・ピュセルの姿のまま、すでにパジャマ姿で卓袱台の傍らにあぐらをかいている颯太の傍らには、やはりすでに寝間着姿の、配偶者、リップルこと岸辺華乃がいる。
『今回の襲撃は完全なシャドウゲール単独犯だったが……────』
────────潜伏期が2年弱あったとは言え、単独犯であれだけのものがよく用意できたものだ、と思われたが、シャドウゲールを狂わせることになった原因、“左海市の地下研究所・人造魔法少女密造事件”の最中に暗殺されたプフレが、シャドウゲールのために、預金だけで数十億USドルを遺していた。
といっても、資金の方は実際に調べなくてもだいたい見当はついた。
問題は動機の方だ。
魔法少女学級の襲撃と、プフレの死と、どうつながりがあるのか。
それは、シャドウゲールが大量の武器を持って梅見崎中学校に乗り付けるために使ったミニバン──というか、平成前半期の青いワンボックスカーが発見されたことで明らかにできた。
それも、魔法の国・本国の情報局を出し抜いて、外交部がうまいこと押さえることに成功した。具体的な説明はいずれの機会に譲るが、ひとつ言っておくと、新校舎側の職員駐車場の、目立たないところに
車内から、平成極初期の富士通製パソコンと、ストレージユニットが発見された。パソコンの方はシャドウゲールによって徹底的に改造されていて、まだ解析が済んでいなかったが、ストレージユニットの方は暗号化もされておらず、他のパソコンに接続するだけで情報を読むことができた。
ただし収集されている情報量は膨大で、しかも雑に貯め込まれていたので、まだ魔法少女学級についてのいくらかしか分析ができていない。
シャドウゲールの動機を理解するのには充分だった。思想絡みだ。
プフレは“クラムベリー”が二度と生まれない体制を目指していた。ただそのやり方が強引すぎた。将来のために今の犠牲、それも人死にすら辞さないやり方だった。敵をつくりすぎた。全方位のどこから排除対象にされてもおかしくなかった。
話をシャドウゲールに戻すと、シャドウゲールなりにプフレの遺志を継ぐつもりだった、と、考えることは容易い。
ただ、プフレと違いシャドウゲールには政治的才覚はなかった。だから実力行使になったと、現在のところ推測されている。
“クラムベリー”が二度と生まれない体制を目指していたのは、魔法少女学級を主催するハルナも同じだ。
だが、シャドウゲールもまた、ハルナが旧オスク派、それもオスクの縁戚に繋がると知って、そこが魔法少女教育・養成の音頭をとることに脅威を感じたか、とにかくそれが直接の動機になった、と、今のところ推測されている。
『シャドウゲール1人の話ではすまないだろう』
「だな」
画面の向こうのプロウドの言葉に、華乃が先に返した。颯太はちらりと振り返ってから、すぐに前に向き直す。
「今まで中のことばかり気にしてた。他の勢力も潜入させてちょっかいかける程度だと考えていた。だけど今回、外部から襲撃者が来た」
『今回は単独犯だからこんなものですんだけどな』
華乃の言葉に、今度はプロウドの方がそう返す。
「そもそもこっちがおっとりしすぎていたかも知れません」
颯太が言う。
『ああ……実態やら、ハルナ・ミディ・メレンの思惑やらがはっきりすればそれで充分だと思っていたが、それぞれの勢力の対応を大雑把にまとめすぎたかもしれん』
プロウドがそこまで言って、軽くため息を吐く。
『オールド・ブルーの動きも気になる』
「やっぱり、なんか思惑がありますか」
プロウドの言葉に、颯太が訊き返す。
『確証があるわけじゃないが、もともと旧オスク派の「実験場」と研究部は犬猿の仲だ。それが最近表立って対立していないのは、敵の敵は味方、理論だけでは説明がしきれない気がする』
プロウドは、怪訝そうに眉を
「本格的に調べるのはいいですけど、あの4人、その間ずっとそのままってわけには……────」
颯太が、困惑したような顔でそう言うと、
『わかっている』
とプロウドが返す。
『あちらの市の好意で市有地を貸してもらっていたが、2ヶ月越えそうだともなると、いつまでもキャンピングカー生活させるわけにもいかないだろう』
プロウドは、真剣な表情、落ち着いた口調でそう言ったが、颯太の方は、一瞬緊張が緩み、
「まぁ、今までよく耐えてたなと思いますけどね……特に小雪、スノーホワイト」
と、苦笑しながら頭を掻く仕種をした。
『4人か……各々に部屋がいるか?』
プロウドは、やや視線を下げて口元に手を当てつつ、考えるように言った。
『お前らの地元と違ってあそこは不動産価格がな……まぁ、物件をあたってみるか』
「また経年賃貸になるのが目に見えてる」
プロウドの言い種に、華乃が糸目になってそう言った。
「ところで、この話するのは別に嫌ってわけじゃないんですが……────」
会話が一段落しかけたところで、颯太が別の話題を切り出した。
『ん?』
「──なんで、まずわざわざボクなんですか? こういう時」
なんの気なしに訊き返したプロウドだったが、颯太がそう言ったのを聞いて、ギョッとしたような表情になって、颯太を見つめ返す。
『お前まさか、自分をただの
驚きの色を段々呆れのそれにしていきながら、プロウドは訊き返す。
「え」
今度は、颯太が間の抜けたような声を出した。
「違うんですか?」
目を見開いて少し引き攣りつつ、ヘラっと笑っているようにも見える表情で、颯太は意外そうな声を出した。
『マスター端末持ちでマスコット連れてるやつが少なくともペーペーなわけないだろ』
「へ?」
『しかもマスコットは最新鋭の電脳妖精だ』
「…………」
プロウドに言われて、颯太は今まで“なんとなく”程度にしか考えていなかった、と、間の抜けた表情になってしまっていた。
マスター用マジカルフォンは魔法少女選抜試験のマスターをやった時のまま持ち歩くことになっていただけだと思っていたし、ネクについても、────
「ね、ネクはてっきり、最初のミクセリクサー計画と一緒に、“NE-X”自体が“曰く付き”になったものかと……」
『だったらネドのロールアウトがあるわけないだろう』
目を見開くようにして引き攣った笑顔のままの颯太の言葉に、プロウドは呆れきった様子で言い、ため息をついた。
ネドはネクの次につくられた“NE-X”電脳妖精で、ミクセリクサーと行動をともにしている。“NE-X”は、もともとは“兵器”をつくるつもりだった最初のミクセリクサー計画の、そのアシスタントとして用意されていた。だから颯太の認識は
プロウドが呆れきった様子で、画面越しに颯太にジト目を向けていると、
「ネクもネドも実績ありすぎるし、そもそもネクの実績があったからネドがロールアウトしたんだろ」
と、颯太の背後から、華乃の言葉が聞こえてきた。
『そうだ。それに、開発コストがタダだとでも思ってるのか』
プロウドが、華乃の言葉に続ける。
「いやそんなことないですけど……」
『少なくともお前に持たせたままほっぽりっぱなしにするか』
プロウドに言われ、颯太の首がかくん、と横に傾く。
「そう言われればソウデスネ……」
颯太が言い、その背後で華乃が呆れたように軽くため息を吐く。
『それに、お前らは全くの無償じゃないからな』
ほとんどの魔法少女が無償奉仕状態なのに対して、“名深の4人組”とその周辺は、幾ばくかというレベルだが、年金を貰っている。これは、もともと“クラムベリー最後の魔法少女選抜試験”の補償という扱いで始まったものだ。
『────とは言え、カネを払ってるんだ。多少はこっちの思惑通り動いてもらうつもりではいる。お前にはその班長のつもりでマスター用端末やら最新型の電脳妖精マスコットやらつけてるんだ。多少は自覚してくれ』
プロウドの言葉に、颯太は気の抜けた表情で気の抜けた声を出す。
「はい…………」
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────現在。
梅見崎中学校、1年F組。
「そんなところに突っ立ってなにやってん……────」
ライトニングが教室下手側の出入り口に背中を向けた状態で立っているところへ、
「おわぁ!? うわぁあぁぁ!?」
ライトニングが、端正な顔立ちに穏やかな笑みを浮かべて振り返ると、ノワール・ミーが仰け反りながら絶叫した。
「私はライトニングには悪いことなんにもしてませんだから祟らないでください祟らないでください祟らないでください!!」
ノワール・ミーの背後から入ってきたブラン・キーは、思わず手を合わせて祈るようにそんな言葉を口にした。
「なーに? ブラン・キー。まるでオバケでも見てるみたい」
ライトニングの隣に立って割り込むように、デリュージが、そう言ってクスクスと笑う。
「え、だって、だって……」
仰け反った姿勢のまま半ば凍りついているノワール・ミーの背後で、ブラン・キーは、震える右手でライトニングを指差してしまいながら、オロオロとした様子で言う。
「ら、ライトニングは、そ、その、あ、あんなことになって────」
「あんなことって、なによ?」
ブラン・キーの言葉に、デリュージが訊き返す。
「そ、そ、その」
4日前のデリュージがどうなっていたかを知っているブラン・キーは、言葉を選ばざるを得なかったが、それではデリュージには通じないようで、やむを得ず、
「死んだ、はずじゃ……」
と、おずおずとした口調で言う。
「なによ、それ、悪質な冗談はやめてよね」
デリュージは、苦笑交じりにも笑い飛ばすように言う。
「ライトニングは私の、絶対に死なない友達なんだから」
「は、はぁ……」
ノワール・ミーともども、緊張が変な緩み方をしたような表情になったブラン・キーが、気の抜けたような表情をしていた。
その2人がようやく教室の中の方へ進んでいき、その背後から、氷岡忍、ディティック・ベルが入ってくる。
ベルは、真剣な表情と、僅かに険しい眼差しでライトニングに視線を向けていたが、そこへ、つい先程までランユウィとともに唖然として固まっていたプシュケが、
「ベルさん、この状況で取り乱さないんですね」
と、声をかけた。
「え?」
ベルが気が付き、少し表情の緊張を緩めながら、プシュケたちの方へ視線を向ける。
「さすが年の功っす!」
「気を悪くするぞ」
思いついたままに口にしたランユウィに、ベルは、一気に緊張感のない、眉を吊り上げた苦笑になって、戯け混じりにも怒ったような口調で言い返した。
「いいんですか、あれ……」
新校舎、校長室。
カルコロが、深刻そうに困惑した表情で、ハルナに問いかける。
「今回のことをオールド・ブルーへの借りにされても困るからな」
ハルナの方は、忌々しげな表情でそう言い、
──いずれ“処理”するにしても、今、死なれるのはまずい。
と、言葉には出さずに付け加える。
「死んでいないと言うことなんだから、それでいいじゃないか」
ハルナは、言葉でそう続けた。
「ですが、生徒達は混乱しますよ」
カルコロは、珍しくそう言って食い下がったが、
「この程度のことでパニックを起こす程度なら、魔法少女としての資質がない」
と、ハルナはけんもほろろに言う。
「違うか?」
「いえ」
問い質すようなハルナの言葉に、カルコロは、それ以上はハルナに異を唱えることはできなかった。
新校舎、職員室。
「…………」
新校舎側のシステムに登録されている生徒名簿から、田中愛染の名前が消えていないことに気付いた希は、ここに置いていくことになるスマートフォンでメールを打ち込んで、送信した。
そして、そのスマートフォンを鍵付の抽斗にしまった後、いつものように、休止状態にしたノートパソコンのディスプレイを畳んだ後、申し送りの書類を挟んだクリアファイルを手に、席から立ち上がる。
「それでは、私はあちらの方に行きますので」
やや険しい声で希はそう告げたが、向かいの男性教師は、旧校舎でなにがあったのか知らされていないのか、いつものように、手をひらひらと振る。
「はーい、今日も1日よろー」
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