魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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第04話

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 河川沿いの市有地。

 ジュゥウゥゥゥ……

 セラミックヒーターコンロにのせられたフライパンで、細切れにした豚肉スライスと、細切りのピーマン、人参、キャベツが炒められていく。

 ピーマンから切り口の白い部分が消えたところを見計らって、だし入り醤油とみりんを少々。

 醤油の焦げる香ばしい匂いが漂ってきたところで、その1/3程を皿に取り分ける。

 そして、フライパンに残した分へ、うどん玉2つをほぐしながら投下していく。

 菜箸で、うどんに具が絡むようにかき混ぜていく。うどんに醤油色が移っていく。

「あ……いい匂い」

 それまで、梅見崎中学校の方を向いて折りたたみ椅子に座り、集中していたスノーホワイトが、顔を上げて、プリンセス・ジャックが焼きうどんをつくっている調理台の方を向く。

「はい、できまし、たと」

 ジャックは、フライパンをコンロから上げると、傾けて、菜箸で、2つのボウル皿に分けてよそっていく。

「はい、インフェルノ!」

「あ、はい!」

 ジャックに言われ、燈が傍らにやってくる。燈は、用意されていた小口パックの花かつおを1皿ひとパックずつふりかける。そして、燈がそのうちのひとつを手に持ち、割り箸もひとつ持って、スノーホワイトのところへと歩いていく。

「はい、お持ちしました」

「ありがと」

 スノーホワイトは、それを受け取って、まず一旦皿を膝の上に乗せて、割り箸を割った。

「インフェルノ、食べてていいわよ」

「え? でも……」

 ジャックの言葉に燈は少し困惑するが、すでにジャックは、

「自分の分はすぐできちゃうから」

 と、そう言いつつ、取り分けていた野菜と少量の追加の調味料に、うどんを絡めて炒めていっているところで、数分もかからないといったところだった。

「じゃあ、お先にいただきますね」

 燈は苦笑しながら、皿を持ち上げ、サンバーキャンパーの車体近くの折りたたみ椅子に座り、

「いただきます」

 と言って、割り箸を割った。

「…………ねぇ」

 スノーホワイトが、手に皿を持ったまま、燈の方を向いて訊ねるように言う。

「2人とも、平気?」

「ん?」

 口に咀嚼中のものが入っている燈が、キョトン、とした表情になり、スノーホワイトの方を向いて、鼻から声だけ出して問いかけた。

「どうか、しましたか?」

 すぐに声が出せない燈に代わるかのように、すでに調理を終えたジャックが、燈の隣に折りたたみ椅子を置きながら、スノーホワイトに問い返した。

「ついこの前、あんなことがあったのに、ってこと」

 スノーホワイトが重ねて問うと、咀嚼物を嚥下し終えた燈が、

「それは……」

 と、困惑した表情で言葉を詰まらせる。

「えっと、その……」

「あ!」

 その燈、そして隣にいるジャックの、“声”を聞いて、スノーホワイトは慌てて手を振る。

「その、べ、別に2人を責めてるわけじゃないから」

「は、はぁ……」

 燈のその反応を待ってから、スノーホワイトは、

「純粋に、…………とも言い切れないけど、とにかく、2人は平気なのかな、こうして食事してられるのかな、って」

 と、また声のトーンを落として、そう言った。ただ、哀しみに暮れているというわけでもない。穏やかな表情だった。

「“名深の4人組”の、“足の下”の話、聞いたことある?」

 スノーホワイトが、穏やかな口調でそう問いかけると、 ──── 燈とジャックは、キョトン、と、どこか驚いたような顔をして、顔を見合わせてから、

「はい、聞きました。その────」

 と、燈が、スノーホワイトに視線を戻して言い、語尾でジャックともども少し気まずそうな引きつった苦笑になっていく。

「スノーホワイトから」

「あれっ?」

 それまでの沈み込みかけているような雰囲気から一転、スノーホワイトは、誤魔化すような苦笑で言う。

「そうだっけ?」

「そうですよ」

 ジャックが苦笑したまま答える。

「あー……そうか、私が言ったのか……ごめん、雰囲気台無し」

 スノーホワイトは、決まり悪そうな苦笑でそう言って、箸を持つ手で行儀悪く後頭部を掻く仕種をした。

「あかりさ……えっと、スプリントの朱里さんが一緒だったから、そっちに言ったつもりだったんじゃないかと」

 燈は、スノーホワイトを宥めるような苦笑で、そう言った。

「あ、確かに、そうかも知れない」

 3人で苦笑しあって、僅かに言葉が出ない時間が流れる。

 その後で、ジャックが、

「『名深4人組は、11人の死の上に立っている』ってやつですよね」

 と、改めてというように言った。

「うん、それ」

 スノーホワイトが、どこか哀しげにも穏やかな表情に戻って言う。

「確かに、私達はそれに比べれば、遥かに死者は少なかったですし……」

 ジャックは、燈と2人してニュートラルな表情になりながら、そこまで言って、途端に崩れて、決まり悪そうな苦笑になる。

「それも1人、地獄からクーリングオフされたのいますけど……」

 ジャックの言葉を聞いて、燈の表情も苦笑に崩れた。

「地獄からクーリングオフって、それ、言い出したの朱里ちゃん? それともつばめさん? もしかしてラズリーヌ? ……あ、そうちゃん?」

「その中にいますけど、完全に特定はしないです」

 今度は自分の方が台無しにされたとばかりに、口を尖らせるような仕種をするスノーホワイトに、ジャックはそう答えた。

「むしろ逆なんだよね」

 しんみりした表情に戻ったスノーホワイトが、言う。

「逆?」

 燈が問い返す。ジャックともども、キョトン、とした表情でスノーホワイトを見ている。

「2人のときってさ、その……えっと、その……────」

 スノーホワイトが言葉を選びあぐねていると、

「私のこと……クェイクの話をするんでしたら、どうぞお気遣いなく」

 と、ジャックが、苦笑気味にもムッとしたような表情で言った。

「いや別にクェイク自身のことじゃなくて、つまり、クェイク以外の死者は敵みたいなものだったでしょ、って」

「まぁ、そうですね」

 スノーホワイトの言葉に、燈が返した。

「……スノーホワイト様のときは、11人、ですか」

 ジャックは、気遣うような表情で言った。

「うん。でも、私の場合は、────」

 そこで、スノーホワイトの視線が一段深く沈み、声のトーンも更に落ちた。

「── その人が死んだ、その場にいたわけじゃ、ないんだよね」

「…………」

「…………」

 燈もジャックも、どう言葉をかけていいか悩み、言葉が止まる。

 そこへ、スノーホワイトが続ける。

「一応死体を見ているのは、スイムスイムだけ」

「あの、鳴ちゃんより年下だったっていう……」

 少しだけ眉間に皺を寄せて、燈が口に出す。

 スノーホワイトは頷いてから、続ける。

「そのスイムスイムが一番殺した。リップルはそのスイムスイムを殺した。トップスピードはリップルと一緒にカラミティ・メアリを殺すつもりになってたし、実際にメアリを殺したのはそうちゃん。私は死の瞬間を見ていない」

「確かに、────」

 燈も、重い表情で言う。

「私達は、殺しに慣れすぎているかも知れません」

 シャッフリンに対する殺しのハードルは低かった。あのときは、“ミクセリクサーのトランプ兵みたいなもの”と認識していたからだ。

 すると、スノーホワイトが、また顔を上げて、慌てて手を振る。

「あ、ううん、ごめんちょっと寄り道した。うん、ちょっと話はずれた」

「はぁ……」

 燈が、気の抜けたような表情をする。

「私達さ、11人って言ってるけど、実際に悼まなきゃならない人が、ねむりんとウィンタープリズンぐらいしかいないんだよね」

「他は、敵だったから、ですか?」

 スノーホワイトが、どこか自嘲的な苦笑でそう言うと、燈が訊き返した。

「認識としては、そうなんだと思う。あと、シスターナナ。このひとは敵じゃなかったけど、自殺だった。状況を打破する努力を放棄して逃げた。ウィンタープリズンの死を無価値にした。だから、他の3人は基本的によく言わないし、私も庇おうとも思えない」

「そうですね」

 ジャックが、どこか戯けたトーンの口調で、

「そういうことなら、インフェルノとテンペストが生き残っただけでも、私も死(・)に(・)甲(・)斐(・)がありましたか」

 と、言って、燈の方を見た。

「クェイク……あのですね」

 ジャックの態度に、燈が、自分がなにか誤魔化されたと感じるような、眉を吊り上げた苦笑でジャックを見る。

 スノーホワイトは、哀しそうな苦笑になって顔を上げた。

「そう、燈ちゃん。燈ちゃんさ、あの時の泣き顔、嘆き声、死んで失ったひとに対する反応って、あれが本来じゃないかな、って」

「…………」

 燈が言葉を失う。

「意外と、あっけないものですよ」

「え?」

 今度は、整った口調で言うジャックに、スノーホワイトの視線がジャックに向く。そのスノーホワイトの方を見ていた燈の視線も、ジャックの方に移る。

「表現するのは難しいんですけど ──── 言葉にすると、『あ、終わった』。こんな感じ。死ぬ瞬間って、本当にこれだけです」

「苦しいとか、悔しいとか、恨めしいとか、思わないんだ?」

 ジャックの言葉に、スノーホワイトは、少し目を円(まる)くして、訊き返すように言う。

「思いましたよ。でもそれって、死(・)に(・)至(・)る(・)ま(・)で(・)の(・)時(・)間(・)の(・)こ(・)と(・)なんです」

 ジャックは答える。

「…………」

「本当に、その瞬間って、そんなこと考えてなんかいられないんです」

「そういうものなんだ」

 スノーホワイトが、静かな口調ながら、意外そうに言った。

「まぁ、あくまで私の場合は、ですが。まぁ、こればかりは誰かと比べられませんし。今(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)……」

 そこで、ジャックは、表情を崩して気まずそうに苦笑しながら、頬を掻く仕種をした。

「私はその後に、今一度の命と身体を与えられました。そして思ったのは、────」

 

『インフェルノが、生きていてよかった』

『テンペストが、生きていてよかった』

 

「── もちろん、グリムハートやシャッフリンに対する憎しみがまったくないと言ったらウソになります。でも、些細なことです」

 そこまで穏やかな口調と表情だったジャックが、表情を引き締め、口調をハキハキとさせる。

「地獄からクーリングオフされてきた女が言いきってあげますよ。スノーホワイト様が死を悼むようなかたの想いは、そういうものです」

 それを聞いて、スノーホワイトが苦笑する。

「そっか」

 

 スノーホワイトの苦笑の裏で、ポツリ、と言う。

「クェイクが行ってきたのは、天国に決まってるじゃないですか……────」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 梅見崎中学校、1年F組。

「では、給食の準備に移ってくださって結構です」

 繰々姫が、変身を解きながらそう告げた。

 まだ4時限目終了のチャイムは鳴っていなかったが、

「センセー、週かわってますけど、給食当番は変えないでいいんですか?」

 ノワール・ミーが、ふざけ混じりに手を上げながら言う。

「えーと、あ、そうか……」

 繰々姫は、思わず考え込む。

 今日、新しい当番を設定しても、3日も経たずにゴールデンウィークに突入する。

「日にちのことでしたら、今週と来週、そのままということでいいのではないでしょうか?」

 ディティック・ベルが言う。

「── 給食着の洗濯も、来週まとめてで」

「ああ、そうね。それでいいか……」

 繰々姫は、ベルの提案を受け入れた。

「それじゃあ……、今週は、プリンセス・ライトニングさんから……」

 出席番号順、最後の1巡を指名する。

 ライトニングは“た”だが、1巡目で“ひ”のベルをドリル・ドリィの補佐役に繰り上げ、2巡目では逆に“や”のアーマー・アーリィを世話のできる人間と一緒にと(性格がラピス・ラズリーヌII(2)ndに似ていると勘違いして)“っす”、もとい“す”のランユウィの班に送り込むために繰り上げたため、後ろにずれ込んでいた。

「治コさん」

「はい?」

 指名が終わったあとで、繰々姫から声をかけられ、OR・治コはそちらを見る。“ゆ”の治コも、もちろん指名された1人だ。

 治コが視線を向けると、繰々姫が顔の前で片手を立てて、拝むようなポーズをしている。

「先生 ドウシタ?」

「あ、いえ、なんでもないの」

 ブレイド・ブレンダに訊ねられ、繰々姫は慌てて手を振った。

 それを見ていた治コが、

「あ、はい。承りました!」

 と、笑顔を苦笑に変えつつ、元気よくそう言った。

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

 チャイムが鳴り、学校は給食の時間に入る。

 すると、ベルが立ち上がり、教室下手側の出入り口から外へ出た。

 教室の前後の出入り口の間、そのやや上手側よりに、配膳台車が駐(と)まっている。そして、当然それをここへ運んできた、佐藤木ノ実 ──── 今後は旧校舎内ではシュガーベリーと呼ぶべきなのだろう、その彼女の姿があった。

「あ、あの……」

「はい?」

 ベルが声をかけると、シュガーベリーは、今までどおり、どこかシャッキリしきれない様子の笑顔で訊き返してくる。

「──── 蔵野(くらの)苺(いちご)、という名前に心当たりはありますか?」

 ベルが問いかける。

「みなさん、よろしくおねがいします」

「はい、よろしくおねがいします!」

 たおやかに言うライトニングに、それに返す治コの声。

「苺……いいえ、確かに私の再従姉妹(ハトコ)の家の姓ですが、苺という名前の人は……すみません、ちょっとわからないです」

 シュガーベリーがそこまで答えたところで、ベルははっと我に返る。

「あ、今日は手で配るものが、ちょうど2つあります!」

「そうみたいですね、では、ブレンダさんはご飯、キャサリンさんはゼリーの方でどうでしょうか?」

「大丈夫 任セテ」

 治コとライトニング、そして、2人が連れている2人のうちのブレンダの声。

「す、すみません! 変なことを聞いてしまって……」

「いいえ、私の方こそ、お役に立てなくてすみません」

 思わず謝罪するベルに、シュガーベリーはどこか済まなそうに苦笑しながら返した。

 ベルは、最初から別人だとほぼ確信していたが、それでも一度、問わずにはいられなかった。

「おっ、ゼリーあるじゃん! ゼリー!」

 ノワール・ミーのテンションの高い声が聞こえてきた。

「うーん……ベルさんの分、食べちゃっても大丈夫じゃない?」

「ズルはなしだぞ」

 ブラン・キーの声に、それをドリィが制するのまで聞こえてきた。

「いいじゃん、あの人そろそろお腹周りとか……────」

 それを聞いて、ベルは、一気に眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せる。

 下手側の出入り口から教室に入りつつ、声を荒げる。

「ふざけんじゃないわよ誰がアラサー腹よ!!」

「わっ! び、びびった!」

「これがアラサーの迫力っすね!」

「うるさいよ!」

「…………」

 1人取り残された感じのあるシュガーベリーは、ただ苦笑するしかできなかった。

「アジフライか……流石にまだ肉って気分じゃなかったからよかったかな」

「そーか? アタシはガッツリ生姜焼きでも食いたかったぞ」

 ブラン・キーとノワール・ミーの声。

「あれ、これ里芋じゃないようですが……」

「これはジャガイモを使ってるみたいですね」

「煮っころがしにジャガイモを使うことがあるんですか」

「ええ、言うほどは珍しくないかと」

 カルコロと繰々姫のやり取り。

 そして。

「それでは、みなさん」

 

「いただきます!」

 





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