魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
白のAB33S型 初代 スズキ カルタス 5ドアが、エレベーター口の
立っていた人物 ──── 根村佳代は助手席側の窓から覗き込んで、運転手を見た。
すると、運転手は左手の親指で、「乗れ」とジェスチャーをした。
佳代はドアを開けて、
「おはようございます。よろしくおねがいします」
と、そう言いながら、助手席のシートに座った。シートベルトを締めにかかる。
「おはよ。よろしく」
運転席に座っていた緋山朱里は、佳代にそう言ってから、
「出すぞ」
と、ギアを1速に入れて、カルタスを発車させた。
「また……随分、平成初期って感じなクルマっていうか……」
沈黙していられないという感じで、佳代はヘラっとした苦笑になって言う。
「あたしは自分でバイトして軽買うって言ったんだけどね」
朱里も苦笑になって言う。
「親戚の形見でさ。大学入る時に押し付けられた。まぁ、自動車税と車検代親持ちって約束取り付けてだけど」
朱里の言葉を聞きながら、佳代はコクピットをざっと見回す。インパネの右側に45φのブースト計が追加されている。
「このクルマ、やっぱり斯波さんに弄ってもらったんですか?」
佳代は苦笑しながら訊ねる。
「いや、見てもらったことはあるけど弄って貰ったわけじゃないんだよ。さっきの親戚ってのが乗ってた頃に、最初のエンジンが腐っちゃったから、載せ替えたんだと」
朱里は苦笑したまま答えた。
自動車の中でもエンジンは特に摺動部が多い部分だけに、
不動のG13B型エンジンを下ろした後、現在このカルタスGT-iのボンネットにはホンダのL13A i-VTECをスーパーチャージャー化したものが収まっている。
「そうなんですね」
佳代が、妙にヘラっとした苦笑のまま言う。
「なんか、希先生含めてみんな、どっかヘンなクルマ乗ってますよね……」
「類は友を呼ぶってやつじゃない?」
朱里がそう返す。
「佳代ちゃんには悪いかもしれないけどさ、魔法少女やってるやつってやっぱどこか浮世離れっていうか、大なり小なり変なところがあるんだよ」
「まぁ……多分私もその範疇に入るのは否定しません……」
朱里の言葉に、佳代は苦笑したまま返す。
「クルマに乗るって魔法少女らしくない気もするけど、それでも乗るってなると、ヘンなクルマが集まってきちゃうんだろ、たぶん」
「それで……類は友を呼ぶ、ですか」
朱里の説明に、佳代がそう返した。
「そ」
──── そこまで続いていた会話が途切れる。エンジン音とタイヤが拾うロードノイズだけが車内を支配する。
それがしばらく過ぎた後、
「音楽でもかける? あたしのチョイスだけど……」
と、朱里が沈黙に耐えかねたように言った。
「あっ、えっと……わ、私のスマホで音楽かけてもいいですか?」
佳代が、慌てたような様子で訊き返す。
「あ、じゃ、グローブボックス開けてみ」
「? は、はい、失礼します」
朱里の指示に、佳代が少し恐縮しながらグローブボックスを開ける。中に個別ケースのCD-Rとカセットテープが何本かある。
「コードがついてる、黒いカセットみたいなのあるっしょ?」
「あ、はい、これですね」
佳代がそれを取り出す。
「それにスマホ繋いで……────」
「あ、ちょっと待って下さい」
朱里に言われて、佳代は戸惑ったような声を出しつつ、自分のポーチからT字型の、USB-C DACイヤホンアダプターを取り出し、スマホ底部のUSB-C端子に装着した。それから、コードのついたカセットみたいなもの ──── カセットアダプターのジャックを接続する。
「あ、すまん。イヤホン端子ないスマホだったんだ」
それに気付いた朱里は、少しだけ申し訳無さそうに言う。
「いえ、……で、どうすればいいんですか?」
「黒いカセットの部分を、カーステのカセットに差し込んで」
朱里が言うとおりに、佳代はカーステレオ、流石に新車時のカセットとラジオだけではきつかったのか、サンヨーFXCDシリーズに交換されているそのカセット口に、カセットアダプターを挿入する。
「あとは、スマホの音がカーステから流れるから」
「は、はい」
佳代はスマホのロックを外し、音楽再生アプリを起動して、再生を始める。
スマートフォンで再生する音楽が、車内に流れ始めた。
「…………」
「…………」
また言葉が途切れる。
赤信号で停車した時に、朱里が声をかける。
「気にしてんの?」
「えっ?」
唐突に朱里が聞き、反射的に佳代が訊き返す。
「その、結屋ってやつのこと」
「…………まぁ、はい」
「まだ、
「それは……そうなんですが」
真剣な様子の朱里の言葉に、佳代は憂い気な表情と口調でそう言った。
信号が青になる。朱里はギアを1速に入れ、前走車に続いて発進する。
「素人ができることはやりきっただろ」
「はい……」
「ファニートリックになって、周囲も探したんだろ?」
「はい……」
「じゃあ、あとは警察に任しとくしかないんじゃね?」
「そうですね……」
朱里は宥めるつもりで言ったが、佳代の顔は俯きがちのままだった。
── どうしたものかな……
──── 約1時間後。名深市、姫河家前。
朱里と佳代が到着すると、そこにもう1台、2人の見慣れたクルマが止まっていた。3代目JB23中期型の純正色、パールメタリックカシミールブルーにオールペイントされた、SJ30型 2代目第1期 スズキ ジムニー。
すでにそこから降りていた、ミクセリクサーが、
「お待ちしておりましたです! ファニートリック様!」
と、声をかけてきた。
ジムニーのオーナードライバーの米田瑠璃も下りてきた。
「すみません、待ちましたか?」
一時期のギャルっぽい格好と裏腹に、体育会系のクセのある朱里は、1つ年上で、魔法少女歴ではずっと先輩の瑠璃に、そう声をかけた。
「いや、気にしなくて大丈夫っす」
瑠璃は、まずそう言ってから、
「スノスノの家族と一番話せるのは
と、決まり悪そうに苦笑した。
付き合いの長さと深さなら颯太の方が上かもしれないが、失われた颯太の姿と今のラ・ピュセルの姿にギャップがありすぎて、未だにいまいち本人と認識できているか怪しいし、逆に颯太だと認識しているならいるで、同年の女性の衣服を運ばせるとか少し躊躇する。
朱里は、ミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、
「じゃ、早速声をかけてきますね」
と、そう言って姫河家の玄関に向かう。ミクセリクサーがひょこひょこと朱里のあとについていく。
朱里が、カメラの付いたインターホンのボタンを押す。家の中で呼出音が鳴ったのが聞こえてきた。
『はい、どちら様でしょう?』
朱里には充分聞き慣れている、小雪の母親の声が聞こえてきた。
「ご無沙汰してます、緋山朱里です」
朱里が、カメラを覗き込むようにしながらそう言うと、
『ああ、荷物を取りに来たのね。小雪から聞いてるわ。ちょっと待ってね』
と、小雪の母がそう言って、ガチャッと屋内側の受話器を戻す音が聞こえた。
僅かに経って、
ガチャッ
と、玄関のドアが開き、小雪の母親が姿を現した。
「久しぶり。そうちゃんの結婚式以来かしら?」
「久しぶりです。えっと、────」
朱里が挨拶を返しつつ、玄関口を覗くと、すでに大きな旅行バッグが用意されていた。それと……────
「あ、そうか小雪もパソコン運ばないとならないわな……」
「そうなの。悪いけどお願いね」
朱里の呟きに、小雪の母はそう言った。
今どきの放送大学生の小雪にとって、Web受講やWeb通信指導の環境は必須と言ってもいい。それは燈も同じだ。
今は颯太が“
燈のパソコンも朱里の……“あかり”がゲシュタルト崩壊しそうだが、とにかく朱里のカルタスの後部に、彼
── しかしまぁ……
小雪のパソコンを見て、朱里は内心で呆れたようにため息をつく。
いかにもジャンクで拾ってきましたというケースを使った自作機は、どう考えても小雪が自分で組んだものには見えない。と、なるとこういうのの供給元は1人しかいない。
── 相変わらず甘やかしてんなぁ……華乃さんがこの程度で妬かないからいいけど。
朱里がそんな事を考えていると、
「スプリント様、私がパソコン運びますね!」
と、背後からミクセリクサーの声が聞こえてきた。
ミクセリクサーは、朱里の横をすり抜けるようにして、パソコンとスクエアのモニターを片手ずつにひょいと持ち上げ、危なげなくひょこひょこと歩いていってしまった。
「あの子、随分力持ちなのねぇ」
小雪の母の言葉に、朱里はドキリ、とした。
「あははは、まぁ、あいつそうなんですよ。それだけが取り柄みたいなもんで」
小雪の母を振り返り、朱里は笑って誤魔化した。
「それじゃ、お手間取らせましたっす」
瑠璃ではないが、朱里はそう言って、小雪の衣類の入った旅行バッグを持ち上げる。
「こちらこそ、小雪がいつもお世話になっちゃって」
そういう小雪の母に一礼して、朱里も姫河家の玄関を後にした。
「わっ、パソコンあるなら私も呼んでくれたらよかったっす」
これは瑠璃の声。
「大丈夫です! これぐらい軽いです!」
ミクセリクサーはそう言いつつ、瑠璃がドアを開放してあったジムニーのリアラゲッジスペースに積み込んだ。
「あーちょっと、画面保護しておかないとまずいっす」
瑠璃が、積まれた液晶モニターを見てそう言った。
「えーと……ダンボールでいいでしょうか!?」
「あ、それでいいと思うっす」
ミクセリクサーの問いに、瑠璃がそう答えると、ミクセリクサーはちょうど良さ気なAmaz◯nの梱包用ダンボールを取り出す。
瑠璃は、それを取って、
「これ、底抜いちゃっていいっすか?」
「はい! もとに戻すときはまたガムテープで留めますので!」
と、質問にミクセリクサーが答えると、瑠璃はダンボールの底を抜いて平面になるようにし、液晶モニターに被せた。
そこへ、朱里もやってきて、パソコンを載せてまだ空いているジムニーのラゲッジスペースに、衣類の入った旅行バッグを乗せた。
「はい、瑠璃さんお願いします」
「任されたっす」
朱里の言葉に、瑠璃は、最初、真面目な顔でそう言いつつも、
「……て、他ならぬスノスノの荷物運ぶのに、そういうのも変っすけどね」
と、苦笑してそう言いながら、頬を掻く仕種をした。
「じゃ、出発するっすか」
「はい」
瑠璃と朱里がそう交わして、瑠璃とミクセリクサーはジムニー、朱里と佳代はカルタスに戻っていった。
トルルルルル……ヴァンッ、パランパンパンパンパン……
ジムニーのLJ50エンジンが始動された。瑠璃はギアを1速に入れ、右ウィンカを出して発進する。朱里のカルタスがそれに続いた。
ファミリーマート名深大室川店。
先に到着していたドミンゴの運転席と助手席で、華乃と颯太がそれぞれポテトをつまんでいた。
そこへ、青いジムニーと白のカルタスが入ってくる。
「ラズリーヌのジムニーの後ろ……あれが朱里のクルマ?」
「なんじゃない?」
華乃の言葉に、颯太がそう言った。
華乃のドミンゴの隣にジムニーが、更にその隣にカルタスが、それぞれバックで入れた。
「よっ」
下りてきて、颯太に挨拶する朱里に対し、颯太は、辟易したような表情になって、
「朱里ちゃんまでなんか、見た目からして通好みっぽいクルマ乗って……」
流石に車名はぱっと出てこないが、今どきのクルマではないことは解る。
「親戚の形見ってことで押し付けられたんだよ」
朱里は苦笑しながらそう言った。
「私、お茶買って来ますけど、朱里さんはどうします?」
朱里の背後から、佳代が声をかけてきた。
「ああ、うん、あたしも……」
「あ、買ってきますよ」
朱里が言いつつもその場から離れづらそうにしていると、佳代はそう言った。
「でも、カネ……」
朱里は、そう言いながら、ポケットを探るが、佳代は、
「あ、後で精算してくれればいいですよ」
と、そう言って、店内に入っていった。
「…………今日は、つばめの姐さんはこないのか」
朱里は、つばめのJC74W ジムニーノマドがいないことを確認して、訊ねるように言った。
「なにが起こるかわからないからね」
颯太が答える。
「トップスピード本人はともかく、朝希ちゃん連れて行くわけにいかないし、だからってまた、旦那さんや実家義実家に預けさせるのも……ってことで。今回は、家具や家電まで運ぶわけじゃないし」
「ま、いいけどな。でも布団とか調達してたのは姐さんだろ、預かってきたのか?」
「積んであるよ」
朱里の問いに颯太が言ったとおり、ドミンゴのサードシートがたたまれて、布団数組。それにセカンドシートに平べったい箱が、それぞれ積まれていた。
「戻りましたー!」
ペットボトルのお茶を2本、手に持った佳代が、カルタスの助手席ドアの前に立って、手を振る。
「じゃあ、出発しよう」
華乃が言った。
「了解」
朱里は、返事をして、ドミンゴから離れ、カルタスの運転席に戻っていく。
ヂャラララ……ヴォン
ドミンゴのEF12型エンジンが始動される。AutoGauge348の52φタコメーターがアイドリング回転数を、BLITZ製45φブースト計が若干の負圧を示す。
「出すぞ」
華乃が、ギアを1速に入れながらそう言い、最初に発進した。瑠璃のジムニー、朱里のカルタスの順に続く。
──── ゴールデンウィーク、初日。
梅見崎派遣組のアパート入居のため、6人は向かう。
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