魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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第07話 【2026-10-29 0:40-JST 改訂】

 朋(ほう)府(ふ)駅南口。

 白のAB33S型 初代 スズキ カルタス 5ドアが、エレベーター口の側(そば)に立っている人物の前につけた。

 立っていた人物 ──── 根村佳代は助手席側の窓から覗き込んで、運転手を見た。

 すると、運転手は左手の親指で、「乗れ」とジェスチャーをした。

 佳代はドアを開けて、

「おはようございます。よろしくおねがいします」

 と、そう言いながら、助手席のシートに座った。シートベルトを締めにかかる。

「おはよ。よろしく」

 運転席に座っていた緋山朱里は、佳代にそう言ってから、

「出すぞ」

 と、ギアを1速に入れて、カルタスを発車させた。

「また……随分、平成初期って感じなクルマっていうか……」

 沈黙していられないという感じで、佳代はヘラっとした苦笑になって言う。

「あたしは自分でバイトして軽買うって言ったんだけどね」

 朱里も苦笑になって言う。

「親戚の形見でさ。大学入る時に押し付けられた。まぁ、自動車税と車検代親持ちって約束取り付けてだけど」

 朱里の言葉を聞きながら、佳代はコクピットをざっと見回す。インパネの右側に45φのブースト計が追加されている。

「このクルマ、やっぱり斯波さんに弄ってもらったんですか?」

 佳代は苦笑しながら訊ねる。

「いや、見てもらったことはあるけど弄って貰ったわけじゃないんだよ。さっきの親戚ってのが乗ってた頃に、最初のエンジンが腐っちゃったから、載せ替えたんだと」

 朱里は苦笑したまま答えた。

 自動車の中でもエンジンは特に摺動部が多い部分だけに、当(・)た(・)り(・)外(・)れ(・)によっては他の部分より先に不動になってしまうことも少なくない。

 不動のG13B型エンジンを下ろした後、現在このカルタスGT-iのボンネットにはホンダのL13A i-VTECをスーパーチャージャー化したものが収まっている。

「そうなんですね」

 佳代が、妙にヘラっとした苦笑のまま言う。

「なんか、希先生含めてみんな、どっかヘンなクルマ乗ってますよね……」

「類は友を呼ぶってやつじゃない?」

 朱里がそう返す。

「佳代ちゃんには悪いかもしれないけどさ、魔法少女やってるやつってやっぱどこか浮世離れっていうか、大なり小なり変なところがあるんだよ」

「まぁ……多分私もその範疇に入るのは否定しません……」

 朱里の言葉に、佳代は苦笑したまま返す。

「クルマに乗るって魔法少女らしくない気もするけど、それでも乗るってなると、ヘンなクルマが集まってきちゃうんだろ、たぶん」

「それで……類は友を呼ぶ、ですか」

 朱里の説明に、佳代がそう返した。

「そ」

 ──── そこまで続いていた会話が途切れる。エンジン音とタイヤが拾うロードノイズだけが車内を支配する。

 それがしばらく過ぎた後、

「音楽でもかける? あたしのチョイスだけど……」

 と、朱里が沈黙に耐えかねたように言った。

「あっ、えっと……わ、私のスマホで音楽かけてもいいですか?」

 佳代が、慌てたような様子で訊き返す。

「あ、じゃ、グローブボックス開けてみ」

「? は、はい、失礼します」

 朱里の指示に、佳代が少し恐縮しながらグローブボックスを開ける。中に個別ケースのCD-Rとカセットテープが何本かある。

「コードがついてる、黒いカセットみたいなのあるっしょ?」

「あ、はい、これですね」

 佳代がそれを取り出す。

「それにスマホ繋いで……────」

「あ、ちょっと待って下さい」

 朱里に言われて、佳代は戸惑ったような声を出しつつ、自分のポーチからT字型の、USB-C DACイヤホンアダプターを取り出し、スマホ底部のUSB-C端子に装着した。それから、コードのついたカセットみたいなもの ──── カセットアダプターのジャックを接続する。

「あ、すまん。イヤホン端子ないスマホだったんだ」

 それに気付いた朱里は、少しだけ申し訳無さそうに言う。

「いえ、……で、どうすればいいんですか?」

「黒いカセットの部分を、カーステのカセットに差し込んで」

 朱里が言うとおりに、佳代はカーステレオ、流石に新車時のカセットとラジオだけではきつかったのか、サンヨーFXCDシリーズに交換されているそのカセット口に、カセットアダプターを挿入する。

「あとは、スマホの音がカーステから流れるから」

「は、はい」

 佳代はスマホのロックを外し、音楽再生アプリを起動して、再生を始める。

 スマートフォンで再生する音楽が、車内に流れ始めた。

「…………」

「…………」

 また言葉が途切れる。

 赤信号で停車した時に、朱里が声をかける。

「気にしてんの?」

「えっ?」

 唐突に朱里が聞き、反射的に佳代が訊き返す。

「その、結屋ってやつのこと」

「…………まぁ、はい」

「まだ、こっち(魔法少女)絡みとは限らないんだろ?」

「それは……そうなんですが」

 真剣な様子の朱里の言葉に、佳代は憂い気な表情と口調でそう言った。

 信号が青になる。朱里はギアを1速に入れ、前走車に続いて発進する。

「素人ができることはやりきっただろ」

「はい……」

「ファニートリックになって、周囲も探したんだろ?」

「はい……」

「じゃあ、あとは警察に任しとくしかないんじゃね?」

「そうですね……」

 朱里は宥めるつもりで言ったが、佳代の顔は俯きがちのままだった。

 ── どうしたものかな……

 

 

 ──── 約1時間後。名深市、姫河家前。

 朱里と佳代が到着すると、そこにもう1台、2人の見慣れたクルマが止まっていた。3代目JB23中期型の純正色、パールメタリックカシミールブルーにオールペイントされた、SJ30型 2代目第1期 スズキ ジムニー。

 すでにそこから降りていた、ミクセリクサーが、

「お待ちしておりましたです! ファニートリック様!」

 と、声をかけてきた。

 ジムニーのオーナードライバーの米田瑠璃も下りてきた。

「すみません、待ちましたか?」

 一時期のギャルっぽい格好と裏腹に、体育会系のクセのある朱里は、1つ年上で、魔法少女歴ではずっと先輩の瑠璃に、そう声をかけた。

「いや、気にしなくて大丈夫っす」

 瑠璃は、まずそう言ってから、

「スノスノの家族と一番話せるのはスプリー(プリズムスプリント)っすからね、今のところ」

 と、決まり悪そうに苦笑した。

 付き合いの長さと深さなら颯太の方が上かもしれないが、失われた颯太の姿と今のラ・ピュセルの姿にギャップがありすぎて、未だにいまいち本人と認識できているか怪しいし、逆に颯太だと認識しているならいるで、同年の女性の衣服を運ばせるとか少し躊躇する。

 朱里は、ミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、

「じゃ、早速声をかけてきますね」

 と、そう言って姫河家の玄関に向かう。ミクセリクサーがひょこひょこと朱里のあとについていく。

 朱里が、カメラの付いたインターホンのボタンを押す。家の中で呼出音が鳴ったのが聞こえてきた。

『はい、どちら様でしょう?』

 朱里には充分聞き慣れている、小雪の母親の声が聞こえてきた。

「ご無沙汰してます、緋山朱里です」

 朱里が、カメラを覗き込むようにしながらそう言うと、

『ああ、荷物を取りに来たのね。小雪から聞いてるわ。ちょっと待ってね』

 と、小雪の母がそう言って、ガチャッと屋内側の受話器を戻す音が聞こえた。

 僅かに経って、

 ガチャッ

 と、玄関のドアが開き、小雪の母親が姿を現した。

「久しぶり。そうちゃんの結婚式以来かしら?」

「久しぶりです。えっと、────」

 朱里が挨拶を返しつつ、玄関口を覗くと、すでに大きな旅行バッグが用意されていた。それと……────

「あ、そうか小雪もパソコン運ばないとならないわな……」

「そうなの。悪いけどお願いね」

 朱里の呟きに、小雪の母はそう言った。

 今どきの放送大学生の小雪にとって、Web受講やWeb通信指導の環境は必須と言ってもいい。それは燈も同じだ。

 今は颯太が“遠(・)征(・)用(・)”に持っていたノートパソコンを貸してあって、ジャックのそれと2台で回しているが、本人のパソコンじゃないとやりにくいことの方が多いだろう。

 燈のパソコンも朱里の……“あかり”がゲシュタルト崩壊しそうだが、とにかく朱里のカルタスの後部に、彼女(・)の着替えとともに積まれていた。

 ── しかしまぁ……

 小雪のパソコンを見て、朱里は内心で呆れたようにため息をつく。

 いかにもジャンクで拾ってきましたというケースを使った自作機は、どう考えても小雪が自分で組んだものには見えない。と、なるとこういうのの供給元は1人しかいない。

 ── 相変わらず甘やかしてんなぁ……華乃さんがこの程度で妬かないからいいけど。

 朱里がそんな事を考えていると、

「スプリント様、私がパソコン運びますね!」

 と、背後からミクセリクサーの声が聞こえてきた。

 ミクセリクサーは、朱里の横をすり抜けるようにして、パソコンとスクエアのモニターを片手ずつにひょいと持ち上げ、危なげなくひょこひょこと歩いていってしまった。

「あの子、随分力持ちなのねぇ」

 小雪の母の言葉に、朱里はドキリ、とした。

「あははは、まぁ、あいつそうなんですよ。それだけが取り柄みたいなもんで」

 小雪の母を振り返り、朱里は笑って誤魔化した。

「それじゃ、お手間取らせましたっす」

 瑠璃ではないが、朱里はそう言って、小雪の衣類の入った旅行バッグを持ち上げる。

「こちらこそ、小雪がいつもお世話になっちゃって」

 そういう小雪の母に一礼して、朱里も姫河家の玄関を後にした。

「わっ、パソコンあるなら私も呼んでくれたらよかったっす」

 これは瑠璃の声。

「大丈夫です! これぐらい軽いです!」

 ミクセリクサーはそう言いつつ、瑠璃がドアを開放してあったジムニーのリアラゲッジスペースに積み込んだ。

「あーちょっと、画面保護しておかないとまずいっす」

 瑠璃が、積まれた液晶モニターを見てそう言った。

「えーと……ダンボールでいいでしょうか!?」

「あ、それでいいと思うっす」

 ミクセリクサーの問いに、瑠璃がそう答えると、ミクセリクサーはちょうど良さ気なAmaz◯nの梱包用ダンボールを取り出す。

 瑠璃は、それを取って、

「これ、底抜いちゃっていいっすか?」

「はい! もとに戻すときはまたガムテープで留めますので!」

 と、質問にミクセリクサーが答えると、瑠璃はダンボールの底を抜いて平面になるようにし、液晶モニターに被せた。

 そこへ、朱里もやってきて、パソコンを載せてまだ空いているジムニーのラゲッジスペースに、衣類の入った旅行バッグを乗せた。

「はい、瑠璃さんお願いします」

「任されたっす」

 朱里の言葉に、瑠璃は、最初、真面目な顔でそう言いつつも、

「……て、他ならぬスノスノの荷物運ぶのに、そういうのも変っすけどね」

 と、苦笑してそう言いながら、頬を掻く仕種をした。

「じゃ、出発するっすか」

「はい」

 瑠璃と朱里がそう交わして、瑠璃とミクセリクサーはジムニー、朱里と佳代はカルタスに戻っていった。

 トルルルルル……ヴァンッ、パランパンパンパンパン……

 ジムニーのLJ50エンジンが始動された。瑠璃はギアを1速に入れ、右ウィンカを出して発進する。朱里のカルタスがそれに続いた。

 

 ファミリーマート名深大室川店。

 先に到着していたドミンゴの運転席と助手席で、華乃と颯太がそれぞれポテトをつまんでいた。

 そこへ、青いジムニーと白のカルタスが入ってくる。

「ラズリーヌのジムニーの後ろ……あれが朱里のクルマ?」

「なんじゃない?」

 華乃の言葉に、颯太がそう言った。

 華乃のドミンゴの隣にジムニーが、更にその隣にカルタスが、それぞれバックで入れた。

「よっ」

 下りてきて、颯太に挨拶する朱里に対し、颯太は、辟易したような表情になって、

「朱里ちゃんまでなんか、見た目からして通好みっぽいクルマ乗って……」

 流石に車名はぱっと出てこないが、今どきのクルマではないことは解る。

「親戚の形見ってことで押し付けられたんだよ」

 朱里は苦笑しながらそう言った。

「私、お茶買って来ますけど、朱里さんはどうします?」

 朱里の背後から、佳代が声をかけてきた。

「ああ、うん、あたしも……」

「あ、買ってきますよ」

 朱里が言いつつもその場から離れづらそうにしていると、佳代はそう言った。

「でも、カネ……」

 朱里は、そう言いながら、ポケットを探るが、佳代は、

「あ、後で精算してくれればいいですよ」

 と、そう言って、店内に入っていった。

「…………今日は、つばめの姐さんはこないのか」

 朱里は、つばめのJC74W ジムニーノマドがいないことを確認して、訊ねるように言った。

「なにが起こるかわからないからね」

 颯太が答える。

「トップスピード本人はともかく、朝希ちゃん連れて行くわけにいかないし、だからってまた、旦那さんや実家義実家に預けさせるのも……ってことで。今回は、家具や家電まで運ぶわけじゃないし」

「ま、いいけどな。でも布団とか調達してたのは姐さんだろ、預かってきたのか?」

「積んであるよ」

 朱里の問いに颯太が言ったとおり、ドミンゴのサードシートがたたまれて、布団数組。それにセカンドシートに平べったい箱が、それぞれ積まれていた。

「戻りましたー!」

 ペットボトルのお茶を2本、手に持った佳代が、カルタスの助手席ドアの前に立って、手を振る。

「じゃあ、出発しよう」

 華乃が言った。

「了解」

 朱里は、返事をして、ドミンゴから離れ、カルタスの運転席に戻っていく。

 ヂャラララ……ヴォン

 ドミンゴのEF12型エンジンが始動される。AutoGauge348の52φタコメーターがアイドリング回転数を、BLITZ製45φブースト計が若干の負圧を示す。

「出すぞ」

 華乃が、ギアを1速に入れながらそう言い、最初に発進した。瑠璃のジムニー、朱里のカルタスの順に続く。

 

 ──── ゴールデンウィーク、初日。

 梅見崎派遣組のアパート入居のため、6人は向かう。

 桃梅(とうばい)・名深インターチェンジから、3台は高速道路へと、東京方面へと上がった。

 





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