魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
『この先 およそ 300m 右方向です』
「経路変更」
「あ、はいはい」
華乃の声に、助手席の颯太がダッシュボード上にカーナビとして取り付けられている、ドリームメーカーのディスプレイオーディオを操作する。ただスマホなど他のAndroid/iOS端末のアプリ画面を写す物ではなく、自前でGPSモジュールを持ちナビアプリを動かすタイプで、通信だけWi-fiに頼る。
「東海JCT経由と」
後続のジムニーの中で、前走のドミンゴが左側車線に入ったままなのを見て、ハンドルを握る瑠璃が呟く。
「あれ、リプっちまっすぐ行ったっすね」
それを聞いたミクセリクサーが、両手を上げながら軽く驚いたように声を出す。
「リップル様、道を間違えましたか!?」
「いや、
瑠璃は、前を向いたままそう言って、皮肉っぽく苦笑した。
ドミンゴは堀切JCTを江戸橋方面に向かわず、葛西JCT方面に直進する。ジムニー、カルタスがそれに続く。
河川沿いの市有地。
「繰々姫様、発電機はそっちに積んでもらっていいでしょうか?」
「あ、大丈夫よ」
ジャックの問いかけに、希が答える。
派遣組が、市有地からの撤収の準備をしているところだ。
「あ、私が持ちますよ」
発電機を持ち上げようとするジャックの背後から、燈の声がかけられた。
「重いから私がやるわよ」
振り向きつつ苦笑しながら、ジャックはそう言って、ひょい、と軽々と発電機を持ち上げた。
「ですが……」
戸惑った声を出す燈だったが、
「魔法少女が、か弱い女性に重量物を持たせるのはカッコつかないでしょ?」
「えっと…………」
ジャックの言葉に、燈は苦笑になりつつも、頬を赤らめつつ続けて戸惑った声を出した。
「それよりは、燈は丁寧だから、小物類を整理して
「あ、はい。わかりました」
ジャックの言葉に、燈は思わず力の入った声でそう答えた。
すでに作業台やテーブル、椅子は畳まれ、リアゲートからブルーシートを敷いたベッド後部の上、スライドドアからすでに座席に組み立てられたシートの下に収納されている。
小雪は、ゴミを拾って袋にまとめていた。
そこへ────
パラッパンパンパンパン……
他のエンジン音に混ざりつつも、弾けるような特徴的な爆音が聞こえてきた。
道路側に後ろを向け、その道路側に寄せるように、まずドミンゴが駐車し、続いてその隣にジムニーが駐車する。
「ラズリーヌー!」
「うわっとっと」
ジムニーの運転席から降りてきた瑠璃に、小雪が駆けてきて抱きついてくる。瑠璃は少し左に傾きつつも、僅かに踏ん張って小雪を受け止めた。
頬ずりまでしてくる小雪に、瑠璃は、
「はーいはい、よしよしっす」
と、そう言いながら片手で抱きつつ、頭を撫でる。瑠璃の方もどこかニヤけている。
他のメンツは、呆れ混じりの苦笑を向けたり、微笑ましそうに見ていたりしていたが、そこへ、
「おい小雪」
と、朱里が少し苛立ったような表情で声をかけてきた。
「えっ、何?」
小雪は、瑠璃に抱きつく腕を緩めて、朱里の方に視線を向ける。
「お前な、イチャつくなとは言わんが、あたしがバックしてるその横でやるんじゃないよ。危ないでしょーが」
「ごめんごめん」
叱るような表情と口調で言う朱里に対し、小雪は、反省しているのかいないのか、緊張感のない苦笑で答える。
「あれ」
小雪がそれに視線を向けて、声を出した。そのボンネットの傍らに立っていた佳代が、小雪に手を振る。
「朱里ちゃんもクルマ買ったの?」
「いや、親戚に押し付けられた」
小雪の問いに、朱里が答える。
「形見でね……最初のエンジン潰れたのを載せ替えてまで乗ってたクルマだから、処分するにはしのびないんだと」
その小雪への朱里の説明を聞いていた瑠璃が、
「エンジン載せ替えって……また
「そうみたいですね」
と、
一方────
「先生」
少し不安そうな表情の佳代が、希に駆け寄ってくる。
「佳代さん……」
希も、あまり晴れやかとは言えない表情で、佳代に視線を向ける。
「結屋さんのことね?」
「はい……」
希が慰めるような口調で言うと、佳代がうなずく。
「でも、魔法少女絡みとは考えにくいのよね……」
「そうなんです」
希も困惑げな表情で言い、佳代が返す。
その2人のところへ、
「一応は」
と、颯太が声をかけてくる。
「レディ・プロウドには連絡しておきました。魔法の国絡みのことなら、調べてくれるとは思うんですが……」
歯切れの悪さが、颯太自身の戸惑いをあらわにしている。
「ひとまず────」
華乃が割り込んでくる。
「── ここにいても仕方ない。話すなら移動してから話そう」
「そうね」
希の表情は浮かないままだったが、華乃の言葉には同意した。
華乃と颯太がドミンゴの運転席と助手席に乗り込む。
華乃の手が、キーの挿し込まれたイグニッションスイッチを“ON”へ、更に“START”へ。
ドミンゴのエンジンが始動したところで、颯太がDPLAY-101V型ディスプレイオーディオが自分のスマートフォンからWi-fiテザリング(簡単に言うと、携帯電話端末をWi-fiルータとして使えるようにするもの)で繋がっていることを確認してから、Google MAPを表示させて、移動先の住所を入力する。
一方────
「ほぇ?」
ミクセリクサーがここまで乗ってきた瑠璃のSJ30Vジムニーに乗ろうとすると、すでに助手席に小雪が乗り込んでいた。
「えーと……」
「ミクセリクサー、私のクルマの方に乗っていきましょ?」
軽く戸惑っているミクセリクサーの背後から、希がそう声をかけると、ミクセリクサーは、
「はい!」
と、いつもの元気のいい返事を出した。
ドミンゴが動き出す。今度はまずサンバーキャンパーが続いて動き出し、SJ30Vジムニー、カルタス、最後に4Cylinderジムニーが続き、市有地を後にした。
「中階段……」
到着したそこで、その建物の構造を見るなり、瑠璃が、つぶやいてから、ヘラっとした苦笑になった。
「──── ってことは、築古っすね」
瑠璃宅のあるアパートもこの構造だが、アパートとしては1970年代後半から1980年代にかけて全盛期だった構造で、平成中盤以降には廃れていった構造だ。
とはいえ、その物件が快適かどうかは、新築年だけでは決まらない。
「希さん、鍵」
「あ、はい」
颯太が預かっていた鍵を、希に渡す。
「他の3人も」
颯太はそう言って、オーナーに断って作られている3本の合鍵を、小雪、燈、それに運転の直後で変身を解いたままだった千子にそれぞれ渡した。
その間に希がシリンダー錠を解錠し、玄関扉を開けた。
まずここで生活することになる4人が先に、室内に入った。
「おっ……」
4人共に周囲を見渡し、千子が声を出す。
「そこそこきれいですね……」
DKを見回して、燈がそう言った。
「お風呂場は……」
希と小雪が脱衣所を見る。洗面台と────
「これ、給湯器かな」
パーパスのFE式ふろ給湯器が置かれている。排気管は一旦浴室を突っ切って、外へ出ていた。
「お風呂はきれいだし……アパートなのに、うちより広く感じるぐらい」
「あ、ラズリーヌの家にちょっと似てるかも」
希の言葉に、小雪が続く。小雪がそう感じたのもそのはず、瑠璃のアパートと同じタカラスタンダードの『エメロード』が採用されていた。
DKに戻る。最低限の家具、家電はすでに準備されている。
「冷蔵庫、結構大きいの入ってる」
アイリスオーヤマの274lの2ドア冷蔵庫が置いてあるのを見て、小雪がそう言った。
「4人分だと、これぐらいは必要だと思ったんだと思います」
千子が言う。
「チッ、プラグ入れとけよ。すぐに使えないだろ」
後から入ってきた華乃が、コンセントに差されていなかった冷蔵庫の電源プラグを見て、舌打ちしつつ言う。
「あ、ネットも準備しておいてくれたんですね」
光コンセントのあるところに台が置かれて、
「設定しないとな……小雪、貸してあるノートパソコン……────」
颯太がそう言いかけたところで、
「あ、私がやります」
と、千子が言った。
「あ、そうか。普段使う人がやらないと駄目か」
颯太は、思い返して言葉に出してから、auひかりとASAHIネットの封筒を千子に差し出した。
「ありがとうございます」
「いや、ボクたちは運んできただけだから……」
千子に礼を言われ、颯太は決まり悪そうにして、頬を掻く仕種をした。
「お布団運んできましたー!」
玄関の方から、ミクセリクサーの声が聞こえてくる。
そのミクセリクサーのトランプ兵のダイヤの7、6、5、4が、布団をひと組ずつ抱えて持ってきている。
ミクセリクサー自身は、布団と一緒にドミンゴに積まれていた平たい箱を頭上に掲げて運んできていた。
「あっ……と、プリンセスモード・オン……」
千子はプリンセス・ジャックに変身しながら、慌ててミクセリクサーの方に向かう。
「すみません姉さん、みんなで運ばなきゃいけなかったのに」
「いいえー! 大丈夫です! これぐらいお安いご用です!」
若干申し訳無さそうに言うジャックに、ミクセリクサーはニッコニコ笑顔で言う。
「その箱は……」
ジャックが、ミクセリクサーが運んできた箱を指差す。何、と言うまでもなく、箱に『Rinnai 水無し両面焼きグリル付ガステーブル RTS-N620VGT-R』と書かれている。
「あ、ガステーブルはまだ用意されていなかったんですね……」
DKの流し台の方を見て、ジャックが呟くようにそう言った。
「うん、こっちで用意するって、つばめさんが」
颯太が、苦笑しながら言う。
「なんでわざわざ……────」
反射的にそう言いかけて、ジャックは、その理由に思い当たり、片手で顔を覆う。
「またあのPanasonic特約店の
ジャックの言葉に対し、ただ引きつった笑みを浮かべる颯太の様子が、それを肯定していた。
「あ、そうだ、私達の着替えとか取ってこないと」
小雪が思い出したように言う。
「あ、私も……」
と、燈が言いかけて、ふっと、後ろ髪を引かれるようにミクセリクサーの方を向く。
「あ、いいよ、こっちボクたちでやっとくから」
颯太が言うものの、
「ですが……」
と、燈がためらう言葉を出した。
「私が残るから大丈夫よ」
希が、苦笑しながら言う。
「私の分は、ヤマトで届くことになってるし」
「佳代ちゃんまだ免許持ってないからね……」
颯太も言った。盤洞から直接クルマで来る人間がいなかったから、希の分は佳代が姫野家へ行ってまとめた後、宅急便で送ったのである。
「じゃあ、行ってきます」
燈は、まだ少し気まずそうに苦笑しながらそう言って、外へ出ていった。
その、アパートの前、車列が停車しているところ。
「えっと、私の荷物は……」
「ラズリーヌのクルマ」
小雪の呟くような言葉に、カルタスのフロントフェンダーに軽く寄りかかっていた朱里が答えた。
「ラズリーヌ」
小雪がSJ30Vジムニーに近づいていって、そう声をかけると、瑠璃は、
「はいはいっす」
と、妙に楽しそうにそう言って、ジムニーのリアゲートを開ける────
瑠璃と小雪の表情が、にわかに険しくなった。
バタン。
一度、ジムニーのリアゲートを閉める。
小雪と瑠璃の視線が、車列が前を向けている方を向いた。
「2人ともどうし……────」
朱里が、怪訝そうに言い、佳代とともに2人に近づいてくるが、朱里も、
「!? なんだ?」
と、それに気づき、怪訝そうな視線を向ける。
「小雪、そっくり?」
朱里が呟くのとほぼ同時に、小雪がスノーホワイトに変身した。
「スノスノ?」
「小雪?」
軽く驚いたように、瑠璃と朱里が声を上げた。
「この人、先生達が言ってた……?」
佳代が後ろから問いかけるように言うと、スノーホワイトは前を向いたまま佳代の方を振り返らずに、頷く。
「鳩田守颯さん」
スノーホワイトが、4人の視線の先にいる人物の名を口にした。
「それ以外の名前は覚えてない。でも」
スノーホワイトは淡々と言う。
「間違いない。並行世界から来た私」
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