魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
「並行世界、ね」
守颯を見据えたまま、朱里が、彼女にしては珍しく、篭もるような低い声で言って、スノーホワイトの隣にまで前に出てくる。
「スプリーって、あんまそういうの信じない方かと思ってたっす」
スノーホワイトを挟んで反対側から、瑠璃が、朱里に顔を向けて意外そうに、問いかけるように言った。
「まぁ、実際そう言われればそうなんですが」
朱里は、一旦視線を瑠璃に向けて、呑気そうな口調で言ってから、視線を守颯に戻す。
一般人からしてみれば魔法少女も充分幻想の類なのだろうが、それを認めたからと言って
ただ、
「なぁ、あんたの世界ってさ────」
朱里が、守颯に問いかける。
「──────── 岸辺、死んでるだろ?」
「えっ!?」
瑠璃と佳代が、驚いた表情で声を出す。
スノーホワイトも、目の前の守颯の存在を忘れたかのように、驚愕の表情を朱里に向けて、
「朱里ちゃん、なんでそれ、知って……」
と、問いかける。
朱里は、小雪の方に視線を移して、
「小雪には言ったことなかったか?」
と、言い、視線を守颯の方に向け直す。
「同じ夢を3度見た。岸辺の葬式の夢だ。最初はあたしがプリズムスプリントになる2日前だった。2度目は起きた日にミクセリクサーとファニートリックに逢った」
朱里は、頭に右手の人差し指をあてながら、言う。
「3度目は何があったのかよくわからないけど、流石にあたしでも3回ってなるとなにか原因があるんじゃないかって考えるだろ? ──── まぁ、他にも理由はあるんだけど」
そこまで言って、朱里は守颯を浅く睨みつける。
「あたしは最初にこいつの情報を聞いたときから、妙に、脳の神経が1本引っかかるような感じがしてた。岸辺 ── 颯太な、そっち経由で小雪から、こいつが心の声で颯太のことを“そうちゃん”って呼んでるって聞いてなんとなくピンとくるもんがあった。そして、今ここで、こいつが並行世界から来た小雪だって聞いて、その並行世界からあたしの中に
朱里がそこまで言ったときだった。
「すみません、皆さん……────」
朱里やスノーホワイト達4人の背後、守颯が向いている先へ、燈がジャックとともにやってくる。
「── って、あれ、どうかしましたか?」
燈がキョトン、として、訊く。
「えっと、あの……────」
一番後ろ、カルタスの
「そうだよ!!」
守颯が、声を張り上げた。
「そうちゃんだけじゃない! ここにいるみんな、私の世界では死んだ! 朱里ちゃんも、2代目ラズリーヌも、プリンセス・クェイクも、記録でしか見てないけど、ファニートリックも!!」
守颯の慟哭の声に、スノーホワイトや瑠璃達は軽く唖然とした表情を向ける。だが、朱里だけは、険しい表情のまま、
「違うな。小雪自身ともう1人、この中で死んだかどうか知らないやつがいるんじゃないか?」
と、言う。
スノーホワイトや瑠璃達は、唖然としたような表情のまま、視線を朱里に向ける。
「え……っ?」
守颯自身も顔を上げて、一瞬戸惑ったような表情をする。
「あかりん、少しだけ変身できるか?」
「え? ……ま、まぁ、変身するだけでしたら」
朱里に
「プリンセスモード・オン」
赤いプリンセス・ジュエルが光を放ち始める。
「それじゃ、あたしも、っと」
朱里も、ちょいと勢いづけに右手の指を頭の前で振った。
──── 燈の着衣が光の粒に分解されていく。その間、もともと撫肩の肩甲骨の締まり方が女性のものになり、同様に骨盤も少し広がる。右の乳房が膨らみ始める。左側のそれが欠けているのを覆い隠すように、金属製の偽乳が装着される。その上から、黒のビキニ衣装が装着されると、薄土色のケープ、甲虫を思わせるような質に幾何学模様の描かれた脇盾、鋭いピンヒールのブーツが装着される。頭髪が赤みを増して明るくなったかと思うと、吹き上がる炎そのもののサイドテールが出現し、その傍で、銀色のティアラにプリンセス・ジュエルが収まった。
──── 朱里の肢体が光に包まれたかと思うと、作業に差し支えないカジュアル衣装が光の渦になって消えていく。それとすれ違うような光の渦が肢体を包んだかと思うと、パステルグリーンにピンクのアクセント、ハートのゼッケンのついたトレーニングウェアと、黒いスパッツの装いになり、白とピンクの、スニーカーの形をしつつもハイヒールの靴が足を包む。シースルーのウェストケープが装着される。髪型がツーサイドアップになり、正面にハートのジュエルのついたピンクのチョーカー、ピンクの蝶結びが正面側に着くリボン帯、白いフリルの着いた赤いリストバンドが出現する。左右のまとめ髪を縛る赤いリボンにはハート型のジュエルが下がる。
「えっ……と」
それがなにを意味するのか、と、佳代は、瑠璃とともに不思議そうな表情をしたが、当のプリズムスプリントは、
「意味、わかるよな?」
と、いくらか凄みのある声で守颯に問い質した。
守颯は俯きがちにして、僅かな間、黙っていたが、やがて、
「うん」
と、俯いたまま口に出す。
「私の世界では、“プリンセス・インフェルノ”は朱里ちゃんだった」
「えーっと、この場合の“あかりちゃん”というのは……」
イマイチ状況を把握しきっていない様子のプリンセス・インフェルノが、訊ねるような声を出す。
「緋山朱里の方」
守颯は、短くそう言った。
「それってどういう……」
インフェルノが、更に困惑した声を出す。他の、スノーホワイト以外の3人も、戸惑った表情をしている。
「たぶんシーソーの原理だろ」
「シーソー?」
プリズムスプリントの言葉に、スノーホワイトもそれをすぐに理解できなかった、という表情で、スプリントを振り返って訊ねる。
「夢の中で、あたしはこう言ってた」
『あんだけ魔法少女好きだったやつが中2で死んだのかよ。現実は夢も希望もねーな……』
「── 多分、あれであっちのあたしは、魔法少女に対して幻滅したんだろ。だから候補者にもならなかった」
プリズムスプリントはそう言った。
「でも、シーソーの原理って言うのはどういうことっすか?」
瑠璃が問いかける。
「あたしはこれを夢で見た後、なんでかどーしてもこの内容が気になって、颯太に電話かけてるんだよ」
「それで生存確認できるのはわかるけど、…………でも、それで?」
スノーホワイトも不思議そうに訊き返した。
「声変わり、ですよね?」
プリズムスプリントが答えるより先に、インフェルノが問いかけるようにそう言った。自身がそれに抗っている身分だから、すぐに思いついたのだ。
「そう。最初の夢の時、あたしは高1だった。この時期まで声変わりしてない男子なんて珍しいからな。この頃もう颯太はラ・ピュセルの姿で固定されてたから、声も高いままだった。でも電話口じゃわからないから、あたしはそれが後々、夢の内容共々気になってたわけだ」
「それで魔法少女になれるもんっすかね」
プリズムスプリントの説明に対し、どこか緊張感が薄れたような苦笑で、瑠璃がそう言った。
すると、スプリントは再び、頭を右手で指差すようにしながら言う。
「なんせ
プリズムスプリントが、自分の頭を差していた指を下ろして、続ける。
「それで、あたしはそっちの世界ではプリズムスプリントにならなかった。その後、赤星燈じゃなくて、この緋山朱里が、プリンセス・インフェルノになったってわけだ」
プリズムスプリントはそう言ったものの、
「待ってください……」
と、当の燈が言った。
「スプリントが魔法の国型の魔法少女にならなかった、はわかりますが、なぜそれで私ではなく、スプリントが ── えっと、緋山朱里さんがインフェルノの候補になるんです?」
「それは……リクツで説明しづらいな」
プリズムスプリントが、頭を掻く仕種をしつつ、困ったように眉を下げるが、するとそこへ、
「ラ・ピュセルが理由、じゃないでしょうか?」
と、佳代が、考え込むように眉を
「颯太が? どして?」
プリズムスプリントが訊き返す。
「オールド・ブルーなら、ラ・ピュセルがもともと男性だってことは知っているでしょう?」
佳代が訊ねるように言うと、周囲のメンツの視線が瑠璃に集まる。
「まぁ、知ってるっしょうね」
瑠璃が答えると、
「だから、えっと……その……────」
佳代は、言葉を選ぶのに詰まりつつ、困惑げな視線をインフェルノに向ける。
「あ、言葉に気を使っていただかなくても大丈夫ですよ」
穏やかに苦笑気味の顔になりながら、インフェルノが言った。
「……はい……つまり、ラ・ピュセルを見ていたから、この世界では、オールド・ブルーはプリンセス計画の、その、素材に、男性…………つまり、身体的な男性が使えるか、考えたんだと思います」
「あ、その逆って言うコトっすね」
佳代が言わんとしたことに気がついて、瑠璃が引き継いだ。
「向こうの世界で、ラピュっちが目立つ活躍をしていないんなら、その思いつきはないってことっすよね?」
「は、はい、そうです」
佳代が、瑠璃の出した結論を肯定した。
「なるほどな……」
プリズムスプリントが、若干、疲れたように言ったところで、僅かに間が空く。
「……それで────」
瑠璃が、守颯の方を見て口を開いた。
「── その並行世界のスノスノが、どうしてここにいるっすか?」
それに釣られるように、全員の視線が守颯に向く。
「…………わからない」
「はぁ?」
守颯が、困惑しきった表情でそう答えると、プリズムスプリントが、顔を
だが、瑠璃自身は続けて訊ねる。
「確か、自分がスノスノ……姫河小雪だってことも思い出せないんっすよね?」
問われて、守颯はこくん、と頷いた。
すると瑠璃は、気の抜けた苦笑になって、更に問う。
「後ろ盾、うちの師匠だったりしないっすか?」
それに対して、守颯はやはりこくん、と頷いた。
「やっぱりっすか」
呆れ返ったような表情をして言う瑠璃に、ジャックが、
「どういうことですか?」
と、その背中に向かって問いかける。
すると、瑠璃は、表情を一旦引き締めた。
「目的が何なのかはわからないっすけど、なんか初代には初代の目的があって、そのためにこのスノスノの記憶を
「でも、名前まで、っていうのは……」
インフェルノが、続いて問いかけた。
「そんなの、近くにこっちのスノスノがいたらすぐにバレちまうっす。だから“心の声”に自分の名前が出ないように消したんっすよ」
「え……それじゃ、この人、自分の名前も……もう……」
スノーホワイトの背後に近寄ってきていた佳代が、悲嘆したような声を出した。
「いや……」
瑠璃が、目元を更に細めて言う。
「3代目は記憶を消す時、それをキャンディとして取り出しておけるっす。確証はないっすけど、多分、まだ保管してるんじゃないっすかね」
「けど、まぁ……」
瑠璃の言葉を受けて、プリズムスプリントが言い、そこで瑠璃の表情がまた緊張感のない苦笑になり、スプリントは片手で顔を覆った。
「ラピュっちを“そうちゃん”って呼ぶのを消し忘れてバレるとか、師匠らしい詰めの悪さっす」
「今でも“そうちゃん”って自然に“心の声”に出るのは、小雪除いたらあたしぐらいしかいないっつーの……」
瑠璃とプリズムスプリントは、呆れたようにそう言った。
そんな話をしていたら、
「なにしてんの?」
と、その本人の颯太がやってきて、瑠璃やプリズムスプリントの背後から問いかけた。
「流石にいつまでもこの台数で路駐してるわけにいかない……────」
颯太がそこまで言った時、
ガバッ
「えっ? な、な?」
突進するかのように駆けてきた守颯に、いきなり抱きつかれ、颯太が困惑する。
「うぅぅっぅぅっ……」
守颯は、ラ・ピュセル姿の胸に顔を半ば埋めつつ、呻くような声を出して震えている。
「小雪!?」
颯太は、見た目からそう判断しかけるものの、
「いや、でも……」
と、瑠璃とプリズムスプリントの間に、スノーホワイトがいるのを確認して、声に出す。
「そうちゃん、その子……」
スノーホワイトが言う。
「並行世界から来た、私なんだって」
「え? 並行世界?」
それを聞いて、颯太は更に戸惑った声を出す。
その思考を遮って、守颯が声を上げた。
「そうちゃん! そうちゃん! そうちゃん!! 会いたかった、会いたかったよ!!」
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