魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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第09話

「並行世界、ね」

 守颯を見据えたまま、朱里が、彼女にしては珍しく、篭もるような低い声で言って、スノーホワイトの隣にまで前に出てくる。

「スプリーって、あんまそういうの信じない方かと思ってたっす」

 スノーホワイトを挟んで反対側から、瑠璃が、朱里に顔を向けて意外そうに、問いかけるように言った。

「まぁ、実際そう言われればそうなんですが」

 朱里は、一旦視線を瑠璃に向けて、呑気そうな口調で言ってから、視線を守颯に戻す。

 一般人からしてみれば魔法少女も充分幻想の類なのだろうが、それを認めたからと言って並行世界(パラレルワールド)論まで無条件に受け入れられるのかと言うと、それもまた違う。

 ただ、

「なぁ、あんたの世界ってさ────」

 朱里が、守颯に問いかける。

「──────── 岸辺、死んでるだろ?」

「えっ!?」

 瑠璃と佳代が、驚いた表情で声を出す。

 スノーホワイトも、目の前の守颯の存在を忘れたかのように、驚愕の表情を朱里に向けて、

「朱里ちゃん、なんでそれ、知って……」

 と、問いかける。

 朱里は、小雪の方に視線を移して、

「小雪には言ったことなかったか?」

 と、言い、視線を守颯の方に向け直す。

「同じ夢を3度見た。岸辺の葬式の夢だ。最初はあたしがプリズムスプリントになる2日前だった。2度目は起きた日にミクセリクサーとファニートリックに逢った」

 朱里は、頭に右手の人差し指をあてながら、言う。

「3度目は何があったのかよくわからないけど、流石にあたしでも3回ってなるとなにか原因があるんじゃないかって考えるだろ? ──── まぁ、他にも理由はあるんだけど」

 そこまで言って、朱里は守颯を浅く睨みつける。

「あたしは最初にこいつの情報を聞いたときから、妙に、脳の神経が1本引っかかるような感じがしてた。岸辺 ── 颯太な、そっち経由で小雪から、こいつが心の声で颯太のことを“そうちゃん”って呼んでるって聞いてなんとなくピンとくるもんがあった。そして、今ここで、こいつが並行世界から来た小雪だって聞いて、その並行世界からあたしの中にな(・)ん(・)か(・)流れ込んでるんじゃないか、って仮説が立ったわけだ。あくまで仮説だけどな」

 朱里がそこまで言ったときだった。

「すみません、皆さん……────」

 朱里やスノーホワイト達4人の背後、守颯が向いている先へ、燈がジャックとともにやってくる。

「── って、あれ、どうかしましたか?」

 燈がキョトン、として、訊く。

「えっと、あの……────」

 一番後ろ、カルタスのへ(・)さ(・)き(・)の傍らにいた佳代が、どう説明しようかと迷った、その言葉が遮られた。

「そうだよ!!」

 守颯が、声を張り上げた。

「そうちゃんだけじゃない! ここにいるみんな、私の世界では死んだ! 朱里ちゃんも、2代目ラズリーヌも、プリンセス・クェイクも、記録でしか見てないけど、ファニートリックも!!」

 守颯の慟哭の声に、スノーホワイトや瑠璃達は軽く唖然とした表情を向ける。だが、朱里だけは、険しい表情のまま、

「違うな。小雪自身ともう1人、この中で死んだかどうか知らないやつがいるんじゃないか?」

 と、言う。

 スノーホワイトや瑠璃達は、唖然としたような表情のまま、視線を朱里に向ける。

「え……っ?」

 守颯自身も顔を上げて、一瞬戸惑ったような表情をする。

「あかりん、少しだけ変身できるか?」

「え? ……ま、まぁ、変身するだけでしたら」

 朱里に振(・)ら(・)れ(・)て(・)、燈は戸惑いながらそう答えつつ、プリンセス・ジュエルを取り出し、額に当てる。

「プリンセスモード・オン」

 赤いプリンセス・ジュエルが光を放ち始める。

「それじゃ、あたしも、っと」

 朱里も、ちょいと勢いづけに右手の指を頭の前で振った。

 ──── 燈の着衣が光の粒に分解されていく。その間、もともと撫肩の肩甲骨の締まり方が女性のものになり、同様に骨盤も少し広がる。右の乳房が膨らみ始める。左側のそれが欠けているのを覆い隠すように、金属製の偽乳が装着される。その上から、黒のビキニ衣装が装着されると、薄土色のケープ、甲虫を思わせるような質に幾何学模様の描かれた脇盾、鋭いピンヒールのブーツが装着される。頭髪が赤みを増して明るくなったかと思うと、吹き上がる炎そのもののサイドテールが出現し、その傍で、銀色のティアラにプリンセス・ジュエルが収まった。

 ──── 朱里の肢体が光に包まれたかと思うと、作業に差し支えないカジュアル衣装が光の渦になって消えていく。それとすれ違うような光の渦が肢体を包んだかと思うと、パステルグリーンにピンクのアクセント、ハートのゼッケンのついたトレーニングウェアと、黒いスパッツの装いになり、白とピンクの、スニーカーの形をしつつもハイヒールの靴が足を包む。シースルーのウェストケープが装着される。髪型がツーサイドアップになり、正面にハートのジュエルのついたピンクのチョーカー、ピンクの蝶結びが正面側に着くリボン帯、白いフリルの着いた赤いリストバンドが出現する。左右のまとめ髪を縛る赤いリボンにはハート型のジュエルが下がる。

「えっ……と」

 それがなにを意味するのか、と、佳代は、瑠璃とともに不思議そうな表情をしたが、当のプリズムスプリントは、

「意味、わかるよな?」

 と、いくらか凄みのある声で守颯に問い質した。

 守颯は俯きがちにして、僅かな間、黙っていたが、やがて、

「うん」

 と、俯いたまま口に出す。

「私の世界では、“プリンセス・インフェルノ”は朱里ちゃんだった」

「えーっと、この場合の“あかりちゃん”というのは……」

 イマイチ状況を把握しきっていない様子のプリンセス・インフェルノが、訊ねるような声を出す。

「緋山朱里の方」

 守颯は、短くそう言った。

「それってどういう……」

 インフェルノが、更に困惑した声を出す。他の、スノーホワイト以外の3人も、戸惑った表情をしている。

「たぶんシーソーの原理だろ」

「シーソー?」

 プリズムスプリントの言葉に、スノーホワイトもそれをすぐに理解できなかった、という表情で、スプリントを振り返って訊ねる。

「夢の中で、あたしはこう言ってた」

 

『あんだけ魔法少女好きだったやつが中2で死んだのかよ。現実は夢も希望もねーな……』

 

「── 多分、あれであっちのあたしは、魔法少女に対して幻滅したんだろ。だから候補者にもならなかった」

 プリズムスプリントはそう言った。

「でも、シーソーの原理って言うのはどういうことっすか?」

 瑠璃が問いかける。

「あたしはこれを夢で見た後、なんでかどーしてもこの内容が気になって、颯太に電話かけてるんだよ」

「それで生存確認できるのはわかるけど、…………でも、それで?」

 スノーホワイトも不思議そうに訊き返した。

「声変わり、ですよね?」

 プリズムスプリントが答えるより先に、インフェルノが問いかけるようにそう言った。自身がそれに抗っている身分だから、すぐに思いついたのだ。

「そう。最初の夢の時、あたしは高1だった。この時期まで声変わりしてない男子なんて珍しいからな。この頃もう颯太はラ・ピュセルの姿で固定されてたから、声も高いままだった。でも電話口じゃわからないから、あたしはそれが後々、夢の内容共々気になってたわけだ」

「それで魔法少女になれるもんっすかね」

 プリズムスプリントの説明に対し、どこか緊張感が薄れたような苦笑で、瑠璃がそう言った。

 すると、スプリントは再び、頭を右手で指差すようにしながら言う。

「なんせ岸(・)辺(・)颯(・)太(・)と(・)い(・)え(・)ば(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)だからな。頭の中でそれが引っかかって無意識に引っ張られた、って説明はできる」

 プリズムスプリントが、自分の頭を差していた指を下ろして、続ける。

「それで、あたしはそっちの世界ではプリズムスプリントにならなかった。その後、赤星燈じゃなくて、この緋山朱里が、プリンセス・インフェルノになったってわけだ」

 プリズムスプリントはそう言ったものの、

「待ってください……」

 と、当の燈が言った。

「スプリントが魔法の国型の魔法少女にならなかった、はわかりますが、なぜそれで私ではなく、スプリントが ── えっと、緋山朱里さんがインフェルノの候補になるんです?」

「それは……リクツで説明しづらいな」

 プリズムスプリントが、頭を掻く仕種をしつつ、困ったように眉を下げるが、するとそこへ、

「ラ・ピュセルが理由、じゃないでしょうか?」

 と、佳代が、考え込むように眉を顰(ひそ)ませながら、そう言った。

「颯太が? どして?」

 プリズムスプリントが訊き返す。

「オールド・ブルーなら、ラ・ピュセルがもともと男性だってことは知っているでしょう?」

 佳代が訊ねるように言うと、周囲のメンツの視線が瑠璃に集まる。

「まぁ、知ってるっしょうね」

 瑠璃が答えると、

「だから、えっと……その……────」

 佳代は、言葉を選ぶのに詰まりつつ、困惑げな視線をインフェルノに向ける。

「あ、言葉に気を使っていただかなくても大丈夫ですよ」

 穏やかに苦笑気味の顔になりながら、インフェルノが言った。

「……はい……つまり、ラ・ピュセルを見ていたから、この世界では、オールド・ブルーはプリンセス計画の、その、素材に、男性…………つまり、身体的な男性が使えるか、考えたんだと思います」

「あ、その逆って言うコトっすね」

 佳代が言わんとしたことに気がついて、瑠璃が引き継いだ。

「向こうの世界で、ラピュっちが目立つ活躍をしていないんなら、その思いつきはないってことっすよね?」

「は、はい、そうです」

 佳代が、瑠璃の出した結論を肯定した。

「なるほどな……」

 プリズムスプリントが、若干、疲れたように言ったところで、僅かに間が空く。

「……それで────」

 瑠璃が、守颯の方を見て口を開いた。

「── その並行世界のスノスノが、どうしてここにいるっすか?」

 それに釣られるように、全員の視線が守颯に向く。

「…………わからない」

「はぁ?」

 守颯が、困惑しきった表情でそう答えると、プリズムスプリントが、顔を顰(しか)めて片方の眉毛を跳ね上げながら、反射的に訊き返す言葉を出す。

 だが、瑠璃自身は続けて訊ねる。

「確か、自分がスノスノ……姫河小雪だってことも思い出せないんっすよね?」

 問われて、守颯はこくん、と頷いた。

 すると瑠璃は、気の抜けた苦笑になって、更に問う。

「後ろ盾、うちの師匠だったりしないっすか?」

 それに対して、守颯はやはりこくん、と頷いた。

「やっぱりっすか」

 呆れ返ったような表情をして言う瑠璃に、ジャックが、

「どういうことですか?」

 と、その背中に向かって問いかける。

 すると、瑠璃は、表情を一旦引き締めた。

「目的が何なのかはわからないっすけど、なんか初代には初代の目的があって、そのためにこのスノスノの記憶を3代目(ブルーベル・キャンディ)に消させたんすよ」

「でも、名前まで、っていうのは……」

 インフェルノが、続いて問いかけた。

「そんなの、近くにこっちのスノスノがいたらすぐにバレちまうっす。だから“心の声”に自分の名前が出ないように消したんっすよ」

「え……それじゃ、この人、自分の名前も……もう……」

 スノーホワイトの背後に近寄ってきていた佳代が、悲嘆したような声を出した。

「いや……」

 瑠璃が、目元を更に細めて言う。

「3代目は記憶を消す時、それをキャンディとして取り出しておけるっす。確証はないっすけど、多分、まだ保管してるんじゃないっすかね」

「けど、まぁ……」

 瑠璃の言葉を受けて、プリズムスプリントが言い、そこで瑠璃の表情がまた緊張感のない苦笑になり、スプリントは片手で顔を覆った。

「ラピュっちを“そうちゃん”って呼ぶのを消し忘れてバレるとか、師匠らしい詰めの悪さっす」

「今でも“そうちゃん”って自然に“心の声”に出るのは、小雪除いたらあたしぐらいしかいないっつーの……」

 瑠璃とプリズムスプリントは、呆れたようにそう言った。

 そんな話をしていたら、

「なにしてんの?」

 と、その本人の颯太がやってきて、瑠璃やプリズムスプリントの背後から問いかけた。

「流石にいつまでもこの台数で路駐してるわけにいかない……────」

 颯太がそこまで言った時、

 ガバッ

「えっ? な、な?」

 突進するかのように駆けてきた守颯に、いきなり抱きつかれ、颯太が困惑する。

「うぅぅっぅぅっ……」

 守颯は、ラ・ピュセル姿の胸に顔を半ば埋めつつ、呻くような声を出して震えている。

「小雪!?」

 颯太は、見た目からそう判断しかけるものの、

「いや、でも……」

 と、瑠璃とプリズムスプリントの間に、スノーホワイトがいるのを確認して、声に出す。

「そうちゃん、その子……」

 スノーホワイトが言う。

「並行世界から来た、私なんだって」

「え? 並行世界?」

 それを聞いて、颯太は更に戸惑った声を出す。

 その思考を遮って、守颯が声を上げた。

 

「そうちゃん! そうちゃん! そうちゃん!! 会いたかった、会いたかったよ!!」

 

 





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