魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―   作:神谷萌

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Stand-up, Boeing, Landing!!
第01話


 ─☆──☆──☆──☆─

 

「私は報酬が欲しいのではありません。強い敵と戦いたいのです」

「そうですか。では戦いましょう」

 彼女の求めに、白く小さな魔法少女は端的に答えた。

 2人が対峙するは倉庫街。どこか覚えのある光景だった。過去に誰か強者(つわもの)と死合い、殺した現場なのだろう。数が多すぎて、顔と一致しないが。

 白く小さな魔法少女は可憐で美しい見た目をしている。黒と赤のオッドアイも含めて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()精美さだ。その整い方はどこかで見た覚えがある。ただ、その瞳がツリ目気味の三白眼で(こわ)いのが玉に(きず)で、そこだけが記憶の中の存在との明確な違いだった。

「ありがとうございます。私は強い者と戦tt ────」

 

 バキィッ!!!!

 

 口上の途中だとかそんなものはガン無視だった。白く小さな魔法少女はいきなりツカツカと歩み寄ってきて、顔面に一撃入れてきた。

 その(わい)()からは信じられないほど重い一撃だ。鼻どころか、眼窩と上顎まで粉砕された。前歯が飛び散る。

 それが落下する暇もなく、強烈なジャンプを伴った膝蹴りが腹部に突き刺さる。口から血が迸る。内臓のいくつかが破裂した。そんなこと知るかとばかりに、浮き上がった身体が落下に移るよりも遥かに早いほどに間髪入れず、脳天にダブルスレッジハンマー。倉庫街のコンクリート路面にめり込むほど強烈に叩きつけられる。

「ごちゃごちゃうるさいです! やるつもりでふっかけたんだからいつやられてもいいようにしとけです!」

「な、ぐ、ぁ……」

 体勢を立て直そうと起き上がりかけた瞬間、()は1人ではなくなっていた。十重二十重に取り囲まれていた。それを認識した半瞬後に、殴られ再び地面にふせさせられた。

 そこから先は、戦いの様式美も理想もなにもない。ただただ、1人と53体がかりの殴る蹴るだ。身を捩る暇さえ与えてくれない。

 ドカ! ドカ! ドカ! バキ! ドカ!

「お前は、もう少しで先生を殺すところでした!!」

 白く小さな魔法少女は、憎しみの篭もった声で声を上げる。

「そうなっていたら、わたしはシャッフリンにされていました!!」

 できるだけそれを回避してはきたが、人に恨みを買っている覚えは皆無ではなかった。それを自分が(いだ)きうる感情として理解はできないが、いつか復讐を考える者が現れるかもしれないとは思っていた。だがそんなものは敗北者の無様な叫びに過ぎない。殺せばいいだけだ。そう考えていた ────

「強い者と戦いたい? ふざけんなです! お前は所詮自分が勝てる相手とだけ戦いたいんです! ほんとうに強いわたしにかかればお前なんかこうなんです! 地獄に戻れです!!」

 ──── ッ

 身体と同時に、自分が持っていた矜持を破壊された。

 内臓はずたずたにされ、骨は折れていないものを探すほうが難しくなっていた。それでも失うことができない意識の中で、ただ感情任せの暴力に晒されながら、彼女は自分の今置かれている立場を考えた。

 最強の野生獣、と言うと、多くの者が思い浮かべるのは、その名も “百獣の王” のライオンや、ヒョウ、チーターと言った肉食動物だろう。だが、チートの人間を除けば、現代陸上生物最強は草食動物のゾウだ。怒ったゾウの突進で肉食動物が無惨に突き殺される光景は、自然界の日常だ。

 他にもサイ、ウマなど、本来なら狩猟側の肉食動物を容易く惨殺体に変える草食動物は珍しくもなんともない。だから肉食動物も群れを組んだり、奇襲を仕掛けたりと狩猟者として策を弄する。人間もそうだ。狩猟側にある時の人間は知恵を尽くし道具を作り、行使する。

 この白く小さな魔法少女にとって、自分は策もなくゾウにイキりかかった孤独なライオンだ。昨日までウサギを(いた)()るのを強者との戦いだと勘違いしていた。だから、今こうして、突かれ、踏み躙られるのが当然の存在なのだ ────

 

 

 目を覚ました。

「…………また、この夢、ですか」

 前髪を右手でくしゃりとやりつつ、奥歯を噛み締めながら呟く。

 夢の中とは言え、自分が一体何をしてこのような目に遭うのか、あの白く小さな魔法少女がなぜ自分を憎み、憤怒の目で自分を見るのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しがない学校の用務員に過ぎない()()だ。

「ああ、いけない」

 目覚まし時計のシチズン7HA003を覗き込む。時刻は9時に差し掛かるところだった。()はもうだいぶ高い。

 まず校長に遅刻の報告をしなければ。 ──── うん? 職場に直に住み込んでいても遅刻というのは成立するのだろうか? とにかく職務に遅れているのは間違いない。早く就かなければ。自分は中学校新校舎の中庭にある植栽地の管理を任されている。草木や花は勝手に育つように見えて、人間の都合で咲かせる花は片時も気を離せないほどに繊細だ。

 彼女は慌てて起き上がると、作り付けのキッチンで水道水をコップに1杯飲んだ後、作業着を身に着け、部屋を出ていった。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 旧校舎1年F組の教室に奇妙な沈黙が流れたのは、用務員の彼女が自室を飛び出していったのとほぼ同時だった。

 

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「デリュージ……あなたが……」

 教壇の上の希 ──── 繰々姫は、口の中に篭もるように小さくだが、思わず呟いてしまっていた。

「……? 私がどうかしましたか、先生?」

 プリンセス・デリュージこと青木(あおき)奈美(なみ)は、わずかに怪訝そうにそう訊ねる。

 他の生徒も、どこか興味深そうに繰々姫を見ている。

 繰々姫は、

「あ、いえ! なんでも ──── あなたは特に優秀な生徒だと聞いていましたので」

 と、咄嗟に、口元で崩れた笑みになってしまいながら、誤魔化した。

「そんな」

 デリュージが苦笑する。

「── それは買い被りです、先生」

「あ、はは……」

 繰々姫はついつい、苦笑で誤魔化してしまいながら、

「では、次の人 ────」

 と、場の進行を再開させた。

「はい」

 自己紹介はつつがなく進んでいく ──── ということもなかった。

 魔法少女養成学級らしく、生徒はネィティブジャパニーズ(大和・ウチナー・アイヌ)だけではなかった。名前からしてそう感じさせる者も多かったが、────

 特に、井上(いのうえ)取好(どりい)山口(やまぐち)亜鈴(あれい)山田(やまだ)舞蓮(ぶれん)山本(やまもと)華好燐(かすりん)。この4人は最初から異様だった。濃い褐色肌の持ち主だが、そこまではいい。問題は4人共まるで一卵性双生児の様にそっくりなことだ。双子ならまだ解るが、某松野家の六つ子じゃあるまいし。

 ただ、

「アタシはドリル・ドリィっていう」

 ──── デリュージの後を受けた井上取好、魔法少女名ドリル・ドリィは、完璧にではないが、意思疎通に必要充分な日本語は喋るようだった。

「最新型の魔法少女、優秀だ。よろしく」

 ドリィのその自己紹介を聞いて、繰々姫は目を細める。

『人造魔法少女かもしれません』

 ラ・ピュセルはそう言っていた。画一的な人間型ホムンクルスを魔法少女に仕立てたもの。ミクセリクサーが造られる前は一般的な方法だった。

 普通の魔法少女なら新しい、つまり、なりたては未熟で危うい存在だ。

 それを敢えて、最新だから優秀、というのは、造られた存在として設計思想が発展したことを示す。例えば第1世代(Mixelixer Gen1)のミクセリクサーに対する第2世代(Mixelixer Gen2)のプリンセス・ジャックのように。

「ランユウィです。よろしくお願いするっす」

「────」

 繰々姫はその語尾ですぐに気がついた。ラピス・ラズリーヌII(2)nd()がラズリーヌ一門だと言っていた()だ。

 この口調は素なのか、意図してラズリーヌIIを真似しているのか。ただ、その割にはラズリーヌII程、覇気がないという感じがする。まぁ、初対面に囲まれている状態を考えると、ラズリーヌIIがあっけらかんとしすぎている気もするが。

「プリンセス・ライトニングです。よろしくおねがいします」

 田中(たなか)愛染(あい)は、デリュージ同様というか、デリュージ以上に愛想のある笑顔と口調でそう言った。デリュージより髪を長く伸ばしているものの、やはり模範的な中学生という姿をしている。ツリ目の顔つきを含めても、他人(ひと)に好印象を与える態度だ。

 …………名深のダム湖畔公園でプリンセス・ジャック、というか、ピュア・エレメンツ+2 ────

「オマケ扱いしてんな!!」

「スプリント様、何を怒ってるんです?」

 ── と、やりあったプリンセス・ライトニングの個体は、もっと淡々としていて、無表情で、感情というものが感じられなかった、と、繰々姫は聞かされていた。この個体が特別なのか、あの時の個体が使い捨ての存在だったのか。

「ディティック・ベルです。その、よろしくおねがいします」

 

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 氷岡忍が顔を(あか)くしている理由は、繰々姫には痛いほどよくわかった。ぶっちゃけてどこのキャバクラだ状態だ。瞳の大きい童顔だが、しっかり成熟した身体つきに中学校の制服は流石に痛々しい。

 ディティック・ベルが何歳の頃に魔法少女になったのかは知らないが、アラサー魔法少女の気持ちは、繰々姫にはよくわかる。機会があったら飲みにでも誘おうか。トップスピードも呼んで。

「アーマー・アーリィ、コンゴトモヨロシク」

「…………」

 繰々姫は頭を抱えかけて、生徒の前だと自分に言い聞かせてそれを抑止した。そっくりな姿のドリル・ドリィが割と流暢に喋ったから、他の3人もそうだと思っていたら、間違いだった。残りの3人は完全に片言で喋っている。日本語に慣れていない外国人の話し方とも違うように感じた。

 そして、14人目だ。クラスの定員は16人だとされていたが、名簿の内、羅都媛(らとひめ)カナと鳩田守颯の2名は入学式に間に合わず、後日合流という話だった。そして、出席番号順の最後が彼女だった。

「OR・(はる)コと言います! よろしくおねがいします!」

 何かと声の大きい誰かさんの話し方に聞こえた。本名は由ニ親(ゆにちか)金代(かなよ)

 ──────── 彼女に関する情報は特にない。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 県沿岸南部の釣り桟橋。

 名古屋に行ったリフレッシングブリーズに代わり、ラ・ピュセルを相棒にして、ラズリーヌIIと釣りをしていた。

「おっと来た」

 ラ・ピュセルはそう言って立ち上がり、スピニングリールを巻き上げる。ある程度のところでしゃくって釣果を海面の上にあげ、手元に寄せる。

「またキスだ」

 ラ・ピュセルは、そう言いながら、手の中の釣果を、 ──── 不器用ではないがまだ教わったばかりという手つきで血抜きをする。それから、振り返って、ラズリーヌIIが調達してきたばかりの新し……くはない大きなクーラーボックスに入れた。

「ホント、ここ知られてないだけで、キスのポイントなんじゃないの?」

「そうかもっすねぇ」

 ラ・ピュセルに言われて、ラズリーヌIIはそう返す。

 

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 リフレッシングブリーズも含めて、釣り場で魔法少女の姿になっているのは、要はライフジャケットを着るのを省略するためだ。魔法少女は高波と離岸流ぐらいはどうということはない。

 もっとも、ラ・ピュセルは “本来、変身を解除している状態” でも、

「体感で85%ぐらいかな」

 と、言うぐらいの身体能力を出せる。だが今は、ラズリーヌIIにつきあってか、それとも逆にラズリーヌIIがそうだから張り合ってか、はたまた潮の染み込んだ洗濯物をつくって配偶者に睨まれるのが嫌だからか、魔法少女に変身した状態で釣り竿を握っていた。

 ラ・ピュセルが針にエサをつけ、仕掛け直している間に、

「おっと、こっちも来たっす」

 と、ラズリーヌIIが、そう言って立ち上がり、両軸(ベイト)リールのハンドルに手をかける。

「おりょ、ちょっと大物が来たっすよ!?」

 ラズリーヌIIはそう言って、慎重にリールを巻き始める。

(ライン)が保つっすかね……ぇっ」

 そう言いつつ、ゆっくりとリールを巻き上げ、岸に近づけていって、

(タモ)! お願いするっす!」

 と、声を上げた。

「あ、はいはい」

 ラ・ピュセルはそう言って、タモ網を取り、パチャパチャと海面で跳ねている釣果をすくい上げた。

「アジっすね……けど25cmくらいあるっす」

「サバが来たんじゃないかと思った」

「流石に(ライン)が保たないっすよ。これだってよくバラさなかったもんっす」

 そう言いながら、ラズリーヌIIは左下腿部が自動義足の脚で屈んだ状態で、さっとアジの血抜きをして、両手で少し丁寧にクーラーボックスに入れた。

「もう1匹釣れてくれれば、今日のラピュっちリプっちの晩御飯になるんっすけどねぇっ、と」

 ラズリーヌIIはそう言いながら、次の仕掛けを両軸リールで器用に投げた。

「いや別に……うちの献立気にしてくれなくても」

 ラ・ピュセルは苦笑しながら言う。

「これが終わったらそろそろ撤収っすかね……帰り、洗車機寄ってかないとならないし」

「洗車機?」

 ラズリーヌIIの言葉に、ラ・ピュセルが鸚鵡返しに訊ねる。

 すると、ラズリーヌIIはウキの方から少しラ・ピュセルの方を向いて、

「言わなかったっしたっけ? 海辺に長時間駐車したら水だけでも浴びせとかないと、特に旧車は錆びるっすよ。特に床下」

 と、言った。

「あ、言われた言われた。そっか、帰りがけに寄ってけって話ね」

 ラ・ピュセルが気づいたように言う。

「そっす」

 ──── 駐車場には、今日は所有者が代わって半年とちょっとの、CP22S型セルボが()まっていた。ミッションオイル漏れで不動になった5ドア X 4WDを、事故廃車のSRターボ 4WDをドナー(部品供出車)にして再生、その際にSRターボから移植するF6Aエンジンの過給器をターボから機械式スーパーチャージャーに変更した、斯波自動車整備(資)の記念すべき作品第1号である。

 セルボのブラックメタリックの車体は、春先ながらすでに強い海辺の日差しを鮮やかに反射していた。

 





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