魔法少女育成計画「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4― 作:神谷萌
河川敷、築堤を上がったところにある空き地 ────
出入り口以外は錆びかけた有刺鉄線で囲まれたそこに、2台のクルマが止まっている。
フロントガラスの内側から、
と、貼ってある。もう1台のクルマにも同様に貼られている。
車種は、1台目はJA12C型 2代目第4期 スズキ ジムニー。フルメタルドア、つまり幌車だ。その幌は張られた状態になっている。
白のオーソドックスな車体に見えるが、ボンネットを開けるとF6A型でも、上位グレード(JA22型)に搭載されていたK6A型でもなく、スバルのEN07型エンジンがこんにちはするトンデモ車だ。ついでにトランスミッションも3代目JB23型の4速ATに替えられている。
2台目はK88型 スバル サンバー。まぁこれについては先に述べた。プリンセス・ジャックが茶藤千子として保有しているレトロ軽ベースのバンコンキャンパーだ。屋根を切り欠いて載せたポップアップルーフが上がっている。
「うーん……」
その2台の傍らで、スノーホワイトが折りたたみ椅子に座っていた。腕組みをし、難しい顔をしている。
「今日はこれで下校……ここまでかな」
スノーホワイトはそう呟いた。
「どうでした?」
傍らにいたのは燈だ。スノーホワイトに問いかける。
「聞こえたのは、希さん自身と、あとは……デリュージって
「デリュージが!?」
スノーホワイトの言葉を聞いて、燈が色めき立たつ。
「デリュージが困ってる、なんて、よほどのことじゃありませんか!?」
問い質すように言う。ピュア・エレメンツのメンバー3人にとって、プリンセス・デリュージは、自分達と違って、模範生然とした見た目でクールに振る舞う無欠の少女、というイメージだった。
だが、スノーホワイトは、
「うーん……そんな感じじゃなかったよ?」
と、気まずそうな表情で答える。
「え、…………じゃ、じゃあ、どんな感じだったんです?」
意外そうに軽く驚きつつ、燈は訊き返した。
「『これからここでうまくやっていけるかな』とか、『仲間はずれにされたりしないかな』とか。入学やクラス替えの直後ならよくあるパターンの悩み事だと思う。ただ、それがかなり強かったけど……」
「デリュージが……ですか」
スノーホワイトの説明を聞いて、燈はますます信じられないと言った様子の表情になった。
「うん、この娘、かなり怖がりだと思う」
スノーホワイトはそう言った。
「…………」
自分の知っているデリュージの像とあまりに違っていて、燈はわずかに沈黙してしまう。それから、
「他には?」
と、問いかけた。
「まぁ、後は、ディティック・ベルさん、同情する……」
「は?」
腕を組んだままのスノーホワイトは眉を険しくしてうんうんと頷きながらそう言ったが、燈はキョトン、とするばかりだ。
そこへ、
ストンッ、ストンッストンッ
と、軽やかに着地する音が聞こえた。燈とスノーホワイトが振り返ると、ジャックが、ダイヤの分身体2体を出して、本人とダイヤのエースが40l水タンクそれぞれ2本、ダイヤのキングの分身体が赤い灯油用の20lポリタンク2本を持っていた。
「お水と灯油確保してきました。お昼ごはんの準備をしますね」
ジャックはそう言いつつ、分身体とともに、サンバーキャンパーの傍らにタンク類を並べて置いた。
「ありがとう、みんな」
ジャックがそう言うと、ダイヤのエースとキングの分身体は靄のようになって上にアーチを描きつつ、ジャックの身体の中に消えた。今まで書く機会がなかったが、ミクセリクサーのトランプ兵も同じかたちだ。
ジャックは次に、サンバーのリアゲートを開けると、下に青いビニールシートを敷いて載せられていたそれを降ろした。
「なんか……すごいDIY感満載なんだけど……その発電機……」
スノーホワイトがそれを見ながら言う。
金属パイプフレームの開放型エンジン発電機だが、古めかしい上に、全体に対してエンジンだけ違和感がある。エンジン側についているタンクには、2つキャップがあり、それぞれ “灯油”、 “ガソリン”、と書かれていた。
「姉さんそそのかしてパム様に買って貰っても良かったんですが ────」
「姉妹2人して
ジャックの説明の途中で、スノーホワイトは、ジトリと汗をかくような感触を覚えながら、そう言った。
「ええ、流石に高額に過ぎましたし、オクで材料になるエンジンと発電機のジャンクが安く手に入ったので、ラズリーヌ
以前もミクセリクサーが持ち歩いているアウトドアガス用品について述べたが、こういうのはあくまで自己責任なのであしからず。
「それから」
そう言ってジャックが取り出したのは、茨城産無洗米……────
「クェイク、どんどんミクセリクサーに毒されていってますね……」
「え、そうかな?」
糸目になってなで肩を更に落とし、脱力したような様子の燈の言葉を受けて、ジャックは自分で意外そうにそう言った。
──── ミクセリクサー曰く、
「魔法少女は困っている人のお役に立たなくてはなりません!」
「災害が起こったときに炊き出しができなくてはダメです!!」
「ふつうの人間は暗いところに灯りが必要です!」
と、まぁ、彼女の4次元ポーチliteから、米やら水やら缶詰やら、アウトドア用のガス器具やらが次から次へと出てくるのは、この考えに基づいている。
そして、ジャックが次に取り出したのは、白いボディに両手持ちの把手、最低限の操作部がついた ────
「うわー、また昭和レトロな」
今度はスノーホワイトが、糸目で脱力したような様子で言うが、
「? 台湾製の現行製品ですが」
「うそ!?」
と、ジャックが不思議そうな表情でスノーホワイトの方を見てそう言うと、スノーホワイトは、一転して目を
デザイン的には昔なつかし、保温機能がなかった頃の電気釜の見た目をしたそれに、水と米をセットして、フタを閉める。
「でも、クルマから電気って取れるよね?」
スノーホワイトが、不思議そうに言う。
「携帯の充電とかならともかく、マルチクッカーなんか繋いだらあっという間にバッテリーが上がっちゃいますよ」
ジャックが答える。
「じゃあエンジンかけてれば……」
「軽のエンジンの発電能力じゃ消費する方に間に合わないです。ハイブリッド車ならわかりませんが」
ジャックはそう答えてから、さらに、
「マルチクッカーならまだしも、シャワー使ったらどうやっても間に合わないですし」
と、言った。
「え、シャワー付いてるのこれ?」
スノーホワイトが訊き返す。
「はい。リアゲート開けてカーテンを吊るすかたちですが」
「そうなんだ……お風呂どうしようかと思ってたら……────」
スノーホワイトは感心したような目でサンバーキャンパーを再度見る。
「そろそろいいですかね」
ジャックは、そう言って立ち上がり、発電機のところまで行くと、リコイルスターターの紐を引く。2度目でEY18-3BK型エンジンが始動した。
電気マルチクッカーのプラグを、1,500W用のテーブルタップを介して発電機に繋ぐ。
「スイッチ入れればいいの?」
「はい、正面の、押し下げる方です」
「りょうかーい」
スノーホワイトは、ジャックの答え通り、正面の押し下げスイッチをカチン、と押した。
丁度そこへ、
「只今戻りましたー」
と、言って、希がそれなりにくたびれた様子で戻ってきた。
「おかえりなさい。なにか解ることはありましたか?」
燈が出迎え、訊ねるように言ってしまってから、
「ああ、どうぞ」
と、折りたたみ椅子をひとつ展開して、希に勧めた。
「ありがと」
希は、礼を言いつつ、腰を下ろしながら、
「よっこいしょ」
と、言って、さらに座ってから、
「はぁ……」
更に、声混じりのため息を吐いた。
そのまま、椅子の背もたれにもたれかかったまま、希は繰々姫に変身する。
「あの、希さん……」
燈が苦笑する。
「神経張り詰めてて疲れた……変身してた方が疲労がすぐに抜けるでしょ?」
繰々姫は悪びれもせず、そう言った。
「まぁ、私もたまに……バイトとかの後にやったりしますけど……」
スノーホワイトが、決まり悪そうに苦笑しながら言う。燈は片手で顔を覆う。
「まぁ、今日は初日で授業も内容なかったし、解ったこと……と言えば、 ──── ああ、そうだ」
あんまりない、と言いかけた繰々姫が、思い出したように言うと、燈が、
「なにが、ありましたか?」
と、言って、ジャックとともに前のめりに身を乗り出す。
「四つ子みたいな、黒い肌の子達いたでしょ?」
「あ、どうでした?」
今度はジャックが問いかける。
「はっきりしたことはまだ言えないけど、言葉が片言でしかしゃべれないのよ」
「それは……」
繰々姫の言葉に、聞いている3人は目元を険しくするものの、繰々姫の言う通り、やっぱりなにかはっきりしたことは言えない。
「ただ、ドリル・ドリィって娘は、他の3人と少し毛色が違うのよね」
「毛色が……違う?」
繰々姫の言葉に、燈が訊ね返す。
「他の3人に比べると、話し方が流暢なの。完璧に……ってわけじゃないけど、他の3人が言葉自体を話しなれていない様子なのに比べると、ドリル・ドリィだけは話し方自体を知っているって感じ」
繰々姫はそう説明した。
「それは、うーん……」
スノーホワイトは、顎に手を当てて考え込む仕種をする。
その一方で、
「デリュージ……デリュージはどうでしたか?」
と、燈が、繰々姫に向かって
「プリンセス・デリュージは……私が見た感じでは模範生って感じだったかな」
「なにか、思い悩んでたりとか、苦しんでたりする様子は?」
燈が重ねて問いかけた。
「そういう様子は、見た目からは感じなかったな……」
繰々姫はそう答えるも、言葉尻はあやふやな感じになった。
「たぶん、外見を取り繕うのは得意な方なんだと思います」
スノーホワイトが言う。
「“自分が孤立しないかどうか”、かなり思いつめている “声” が聞こえてましたから」
それは繰々姫に向けて言ったものだったが、それを聞いた燈とジャックは、険しい表情で顔を見合わせた。
「それと、ランユウィって娘なんですが」
今度は、スノーホワイトの方から切り出した。
「え?」
「その、さっき途中になっちゃったんだけど、この娘、オールド・ブルーが直接送り込んでるわけじゃないみたい」
スノーホワイトの言葉に、3人が意外そうな表情をする。
「それじゃあ……」
「うん、ネクにもう1回背後関係調べてもらうよう、頼むつもり。後、彼女に依頼した、うるるって魔法少女のことも」
スノーホワイトがそこまで言って、一旦、会話が途切れる。
「生徒の話も問題なんだけど ────」
繰々姫が改めて切り出した。
「── これ、指導要綱、渡されてるんだけど、スノーホワイト、ちょっと見てみてくれる?」
「私が、ですか?」
繰々姫が鞄から取り出して、スノーホワイトに手渡した。
「その、付箋を貼ってあるところ」
繰々姫が言うままに、スノーホワイトはそのページを開いた。
「…………戦闘訓練、ですか」
スノーホワイトが口に出すと、燈とジャックは眉を険しくしてスノーホワイトを見る。
「この中で、本来の魔法少女選抜試験を知っているのはあなただけでしょ? どうかなって」
繰々姫が問いかけると、しかし、スノーホワイトは、小さく息を
「今までの魔法少女選抜試験でも、エネミーを倒すタイプの試験はあります」
「え、そうなんですか?」
燈が意外そうに訊き返すと、スノーホワイトは頷く。
「それに、そうちゃ……ラ・ピュセルがマスターやった時も、模擬戦を全面禁止にはしませんでしたし」
「そうなのね」
繰々姫も言った。
スノーホワイトは、顔を上げて、その繰々姫に視線を向けると、
「ただ、実際の戦闘訓練がどんなものになるのかは、気をつけていた方がいいかもしれないです」
と、言った。スノーホワイトと繰々姫は頷きあった。
丁度、その時、
カチャン
と、大同電鍋の電気マルチクッカーのスイッチが上がる音がした。
「あ、ご飯炊けましたね」
ジャックが言う。
「とりあえず缶詰で済ませますか? それとも ────」
どこからともなく、深型フライパンと電気コンロが取り出される。
「── なにか火を通したおかず、つくりますか?」
燈と繰々姫が、肩が崩れ落ちるようなリアクションを取る中、スノーホワイトは片手で頭を抱えて、
「ミクセリクサーちゃん、『何でもかんでも持ち歩くな』って、そうちゃんからもう少し強めに言ってもらわないと」
と、ぼやいた。
夜。
サンバーキャンパーのフラットベッドでは、極薄型の
その上、ポップアップルーフベッド。
── 私は理性ある人間私は理性ある人間私は理性ある人間私は理性ある人間私は理性ある人間……────
燈が、毛布を被りつつも悶々としているその横で、
── 手を出してくれてもいいのに…………
と、ジャックは思っていた。自分がそう思ったことに驚いた。プリンセス・クェイクになる以前なら自信がなくて、そんな事自体ありえないと思っていたはずだ。だいいち、他人にそういう意識を向けられると考えていなかった。
が、ジャックもすぐに我に返り、
── て、下の2人にすぐバレるって。
と、燈に背中を向けたまま、俯くような姿勢で赤面した。
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。