連鎖の復讐 ~性犯罪の濡れ衣を着せてきた黒幕が30人って何~   作:冴木甲士

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第010話 二人三脚

 二人三脚のプログラムが始まり、俺は参加者の集合場所へ向かう。

 そこには幣原が既に来ていた。

 

「あ、小泉君……。来てくれて、よかったです」

 俺を見つけた幣原が俺の方へ近寄り、胸を撫で下ろしていた。

 女子の仲でも小柄な幣原が安心そうに佇むその姿は、一部の人間が見れば大いに和みそうな、愛玩動物のごとき愛らしさを醸していた。

 

「まあお前が条件を飲んだ以上は、な」

 先日俺が取引に提示した条件を、幣原は受諾した。

 俺としては少々意外だったが、つまりはそれだけ幣原が勝負事にこだわれるタイプなのだろう。愛くるしい見た目とは裏腹になかなかアグレッシブである。

「あ、はい……。そのことも、忘れてないので安心してください」

 幣原は、胸に当てていた手で拳を強く握り直した。根は真面目なんだろうか。

 

「とりあえずは二人三脚で勝つんだろ? まずはこっちに集中しようぜ」

 俺としては条件を果たしてくれるのかが気掛かりではあるが、幣原にもモチベーションというものはある。

 結果を出して……いけるかは置いといて、まずは集中してもらおう。

「は……はい!」

 幣原の勢いの良い返事が合図になったわけでもないだろうが、返事の直後に二人三脚の準備をするよう係からの呼び掛けが始まった。

 

 

 二人三脚のスタート直前。

 俺の左脚と幣原の右脚がしっかりと紐で固定され、スタートラインでスタンバイする。

 競うのは全部で3組であり、俺らの所属する赤組は真ん中。

 右隣に白組、左隣に青組という構成だった。転び方次第では他の組も巻き添えになる立ち位置。わざとそういうことしてみたい、という魔が差しそうになるが幣原の手前遠慮する。

 

「位置に着いて。よーい」

 パン、とピストルが空へ鳴り響くとともに、俺も両隣も一斉に走り出した。

 白も青も練習をそれなりにしてきたのか、予想より速くコースを回る。

 

 俺達赤組は、その二組よりわずかにリードしていた。

 

 

 努力すると宣言した手前、あの後も結構な時間を掛けて特訓した俺と幣原は自分達でもびっくりするぐらいに上達し、他の組より速く動けるようになっていた。

 最初はバランスを取るために俺に肩や背中を触られることに抵抗を覚えていた幣原も、

「おい、大丈夫か?」

「は、はい。段々慣れてきました」

 と、徐々に馴染んでいき、今も俺と幣原で互いに背中や腰に手を回すのも平気になっていた。俺? 最初から何ともないが何か?

 

 というわけでこのリードを活かし切って逃げ切れば見事1位、というところまで来た。

 しかし勝負事は得てして楽に行かないもの。

 白の方がここへ来て徐々に追いすがってきた。

 

 正直、結構キツい。

 あっさり追い抜かすという気配もないが、このままだとゴール時はどっちが先着するか微妙だ。

 ふと、幣原の方を見る。

 

 幣原の表情に、真剣さが宿っていた。

 あんなに特訓したんだ。

 ここまで来たら、勝ちたい。

 ビリじゃなくてよかった、で終わらせたくない。

 このまま負けてたまるか!

 

 口にせずとも、顔がそう語っていた。

 

 ……あーあ、しょうがねえなぁもう。

 幣原の表情を見て仕方なく力を入れる。

 さっきより速さが上がる。

 ここで幣原が付いてきてくれなければ当然勝負は終わり。

 

 しかし、幣原は俺のペースに付いてきた。

 多分今までの特訓でもここまでの速さは出したことなかった。

 それでも、幣原は足に羽を付けてきたように、バランスを安定させていた。

 

 その感覚を迎えつつ、俺達はゴールした。

 結果は、白組から逃げ切った末の1位だった。

 

 

「……はあ、はあ……。や、やりましたね!」

 幣原にすれば全力の走りだったらしく、息が限界まで荒れていた。

「お疲れ。まずは水飲め水」

「あ、はい……」

 幣原が手持ちのペットボトルをグイッといく。いい飲みっぷりだこと。

 

「よかったな。努力がムダにならなくて」

「は、はは……。何かそういうことはっきり言われるの、照れますね……」

「そうかい」

 俺もペットボトルの麦茶を(あお)る。麦茶が一気に半分ぐらい減った。

 

「小泉君、そ、その……ありがとう、ございます」

「ん?」

「私が勝ちたいなんて、わがまま言って……。それに付き合ってくれたから、勝てたんだと、思います」

 ペットボトルを両手で腹のすぐ前に持ち、幣原がおずおずとお礼を言う。

 

「お互い様だろ。よくあそこまで練習しようって気になったな」

 俺は幣原に付き合い、少なくとも完全に自然な状態で走れるまでは練習を続けようということになった。

 連日にわたる特訓になり、その時間は正確には数えていないが、他の連中よりは間違いなく練習したと思うぞ。

 

「それと、お前が俺の提示した条件に応じたから、ていうのもある。まだ付き合ってもらうぞ」

 そう、俺にとってはこちらが本命だ。

 二人三脚なんてどうでもいい。今の俺にとってはのうのうと生きてる幕どもへ目に物見せることの方が大事だった。

「は、はい! 頑張ります」

 幣原がやる気を見せてくる。もしもこんな純真無垢に見える奴まで裏切ってきたら、もう誰を信じていいのかわからんね。

 




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