連鎖の復讐 ~性犯罪の濡れ衣を着せてきた黒幕が30人って何~ 作:冴木甲士
放課後、菅はとある男子に校内で人の目のない場所に呼び出されていた。
相手は小泉ではない。
「どういうことだ、おい」
名を
突如、菅が小泉のことを濡れ衣を着せたとバラした真意を問い
「簡単に言うと、アイツに脅された」
対する菅の方はアッサリ事情を明かした。
「アイツ、どうやら私のことを尾行してたみたいで。私が冤罪の件をチラッとしゃべったのを録音してたみたい」
「な……お前バカか⁉」
経緯のお粗末さに、宮澤はつい声を荒らげた。
「しゃべったってそもそも誰にしゃべったんだよ⁉」
「友達。その子は同じくらいアレなことして同じくらいの弱みになることも知ってるから他にバラす心配はなかったんだよ。あと大きい声出してると他にもバレるよ」
警告され、宮澤も「いっけね」と声を落とす。しかし今のコイツに注意されるのがやけに腹立つ。
「で、小泉に真相を明かすよう言われたってわけか」
「そう」
「俺のことも奴に話したのか?」
ここが一番の気がかりだった。
宮澤が菅を後ろから操っていたことを知られれば、当然宮澤も共犯として校内での立場を一気に崩すだろう。
「いや、そこはしゃべってない。アンタに逆恨みされんのも面倒だし、それにアンタのことを話さなかったらいざというときアイツに仕返しできるかもしんないじゃん」
「は?」
「だから、アンタと私でまた協力して、再度アイツの弱みになるようなことでも握り返そうってこと。関係がバレてない今なら、アイツを出し抜けんじゃない?」
ここで宮澤も、菅の狙いを察する。
小泉にすれば現状は菅の単独での犯行という風に、菅から聞かされている。
そこで実際はグルになっている宮澤が菅と新たに計画を組んで、奴を再度別の手口で陥れようという魂胆らしい。
小泉にとっては今の宮澤は完全に無警戒の存在であり、
「……まあ、それならまだいいか」
頭をボリボリ
「まあ今日はさすがに都合が悪いからさ。また明日にでも打ち合わせしよーよ」
「しゃーねーな。そんじゃまた放課後にでも会議すっぞ」
とのことで、宮澤と菅は解散した。
菅はその後学校を出ると、とあるファミレスに入った。
「おー、お疲れさん」
「どうも、菅さんですね。お待ちしておりました」
「……どーも」
待ち合わせしている席に向かった先には、二人いた。
小泉と、伊藤だ。
いやー、宮澤がさっそく釣れたか。
菅が冤罪の真相を皆に広めたらどこかで向こうからアプローチしてくると踏んでいたが、当日の放課後とは何とも気が早いね。
俺の掛けられた冤罪も当日の放課後に解除されるぐらいの早さならよかったんだけどな。
当然向こうからのアプローチも想定していた俺と伊藤さんはその対策も練り、菅へ宮澤にはこう説明しておけ、というシナリオを含ませていた。
「おー、見事に引っ掛かってるみたいだな宮澤君」
「……」
ついでに菅には宮澤との会話を録音するように伝えていた。
俺に対して今は少しでも言うことを聞くのが吉と見たのか、宮澤は録音も含めこちらのシナリオにも忠実に従って動いていた。
その結果、宮澤は今俺達の手のひらの上で踊っているのを確認できた。
「ねえ、もう帰っていい?」
「いやまだ鼻からコーラ飲むミッションが残ってるだろ」
「初めて聞いたわそんな意味不明なミッション」
「今話したからな。さあ、ここにコーラがあるぞ」
「お前の飲みかけじゃねーか! いろんな意味で嫌だ!」
「いや、俺は飲んだ覚えないぞ。何か俺らの来る前から置いてあった」
「気持ち悪! 店員が片付け忘れてただけじゃねーのそれ」
「まあホントは俺が注文したもんなんだけどね」
「じゃあやっぱお前の飲みかけじゃん! 断固拒否!」
「俺も人の鼻が突っ込まれたコーラ飲むとか絶対ゴメンだ」
「何でお前が後から飲む前提なんだよ⁉」
適当な会話で菅をおちょくっていたところ、
「まあまあ、まずは例の件の話を進めましょう」
伊藤さんが仲介してくれた。いけないいけない、鼻コーラの話ですっかり脱線してしまった。あんなエキサイトするとか菅お前、鼻コーラ好き過ぎだろ。
「そういえばこの人、誰?」
菅が伊藤さんに突っかかってくる。俺らよりずっと年上なのは見りゃわかるだろうにこんな態度かよ。さすが五千円で犯罪に走る奴はモラルが違う。
「申し遅れました。探偵をやっております、伊藤と申します。今は小泉君の依頼により例の冤罪事件を調査しております」
「探偵……? まさか、この人が私とかを調べたってこと?」
菅が伊藤さんを睨む。コイツにすれば自分を尾行して例の証拠を抑えたのが憎いのだろう。大した逆恨みだ。
「その目つきを伊藤さんに向けんのはやめろ」
「いいんですよ、小泉君。私は気にしませんから」
ところが器の大きい伊藤さんはこれを意にも介さず。さすが俺達よりずっと大人の人。
「……それで、例の件の話って何?」
ばつが悪くなったのか菅が話を切り替えてきた。
伊藤さんから事件の詳細を聞かされた菅の第一声は、
「……え? 30人?」
人数が引っ掛かったような反応だった。うん、俺も最初に聞かされたときはそんな感じだったよ。
「やはりあなたにはそこまで情報がいっていなかったようですね」
伊藤さんが答え合わせのように、そう
菅は全容を知っていなかっただろうな、という予想は俺も伊藤さんも持っていたことだ。
「何? 冗談? 変な罠にハメようとしてない?」
「残念ながら事実だ。そこでお前にも今後の復讐に協力してもらう」
「……人手が必要ってことね」
ため息を吐きながらすっかり呆れる雰囲気の菅。俺らにとってはお前もそのしょうもない30人のうちの1人なんだがな。
「何だ? 100人の方がもっとやりがいあったか?」
「んなわけあるか」
思わず軽口を叩いたところで、
「それで、改めて。菅さん、協力をお願いできますか」
伊藤さんが仮にも犯人の一人である菅を相手に、丁寧な振る舞いで意思確認してきた。
俺には奴を相手にそんなマネ、できそうになかった。
「……わかりました。協力します」
菅は渋々な態度を隠そうとしなかったが、とりあえず受諾した。
「……それで、一体どうやって宮澤を罠にハメるんですか」
菅が計画のことについてさっそく相談してくるので、俺の方から回答することに。
「ああ、まずはお前にブレイクダンスをやってもらう」
「……は?」
「やれやれいきなり意味が理解できないか。これじゃ先が思いやられるぞ」
「いやそれだけで全てを理解しろとか絶対ムリだから。なぜにブレイクダンス?」
「いいか、宮澤は今自分に累が及ぶのを非常に警戒している状態だ。下手に動いて証拠を掴もうとすればたちどころにバレて以降は成功がおよそ不可能になることだろう」
「うん」
「そこでこちらから相手の意表を突くのが大事になってくる。こっちが予想外の動きをしてきたら相手はそれに気を取られてこちらの肝心な動向に対して無防備になる」
「うん、それで?」
「となるとお前が明日教室に行っていきなり宮澤の席の隣でブレイクダンスを披露する。それなら間違いなく宮澤の気がお前に取られることだろうさ」
「ことだろうさ、じゃねーよ」
「その間に俺は宮澤や周りのクラスメイト達とともにお前へドン引きしつつ、お前のことをずっと撮影してる」
「私の奇行を面白がってるだけじゃねーか何の計画だよ」
「だってそんなの一生に一度あるかないかの大珍事だろ。思い出に残さないと一生後悔するぞ」
「宮澤の悪事の証拠抑える話どこ行ったよ。あとそもそもブレイクダンスできねーよ」
いかにして菅へ教室でのブレイクダンスをやらせて周りから白い目で見させようか考えながら議論していたところで、
「小泉君、菅さん。雑談もいいのですが時間も時間ですし今後のことを詰めましょう」
伊藤さんが止めに入った。いかんいかん、菅が聞き分けのないものだから白熱してしまった。
「あ、はい。すみません、お待たせして」
「やっぱ嘘なんじゃん! アンタももっと早く止めてよ!」
俺と伊藤さんに怒鳴り散らす菅。お前自分の立場理解できてる?
打ち合わせが終わり、ファミレスを抜けたところで伊藤さんは車でお帰りになる。お疲れ様でした。
俺と菅は駅まで近いこともあり、徒歩で帰ることに。
「何で俺の隣に並んで歩いてんだよ」
「は? ちげーよ、たまたま帰り道が一緒なだけだわ」
「そうか、じゃあな」
奴のペースよりずっと歩きを速める。これなら方向が同じだろうと一緒に並ぶことはない。
「……」
そしたら奴もペースを速めてきた。
「いや、何でお前も早歩き?」
「お前が言うな」
「俺はいつもこんなペースなんだが」
「嘘つけ」
「いや、ホントホント。こないだスピード違反で検挙されたわ」
「時速80キロとかで歩いてんのかテメーは」
くそ、なかなかしつこい。
「もういいから離れろよ」
「……あと、ちょっと話があるし」
……何だよ、やっぱ俺に用事ありきじゃねーか。
もういい、コイツの話を聞くだけ聞いてさっさと退散だ。
「それで、話って何だ」
「今日さー、冤罪のこと皆に話したじゃん」
「ああ」
「そうしたらクラスの友達も突然態度変わってさ。ドン引きされた後には休み時間でも全く私の所には寄り付かず遠巻きで私を見ながら何かしゃべってんの」
「そうみたいだな」
俺も教室の様子はざっとだが観察していた。
「あの調子じゃ明日も孤立すんの確定だな、て思って」
「孤立だけで済むといいな」
「……アンタもあの後はいろいろやられてたの?」
「ああそうだが? 知らなかったのかよ?」
つい、声が荒っぽくなった。
菅は肩を一瞬震わせ、控えめな雰囲気に変わる。
「……ゴメン、あの後のアンタはあんま見てなかった」
どうやら自分の仕事を果たした後は用済みとして俺への興味をなくしたようである。
さすがだなこの自分本位っぷり。やっぱコイツの利用とかやめて今すぐ警察に突き出してやろうかな。
「ホントにゴメン。こんなことを言うのもアレだけどさ」
菅への扱いについて思いを馳せていると奴が立ち止まり、俺へ頭を下げた。
「私と明日から、学校にいる間の話し相手になってほしいんです」
とんでもなく調子のいいことを口にしながら。
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カクヨム
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