連鎖の復讐 ~性犯罪の濡れ衣を着せてきた黒幕が30人って何~ 作:冴木甲士
おー、力任せに来たか。
今回の作戦にあたり伊藤さんや菅とともにいろいろとシミュレートしてきたが、こんな場合も想定しておいてよかった。
このケースでは、この場にいる俺と菅が以下の状況に応じて役割分担。
宮澤に襲われた側はとにかく奴と取っ組み合って時間を稼ぐ。
宮澤に襲われなかった側はとっととこの教室から脱出して、スマホで警察に通報(その後職員室へ駆け込み事情を先生に説明)。
できれば素直に俺の要求を吞んで謝罪ルート、が一番楽だったけどな。
まあ宮澤が血の気の多い戦士タイプならしょうがない。
多少体がボコボコになるのは織り込みつつ真正面から胸倉を掴んできやがった
ガンッ
宮澤の頭からしちゃいけない音が響き、宮澤がそのまま昏倒した。
あれ、これKOって奴? 俺まだ一発もパンチ入れてないよ。
あと俺の方へ向かって倒れたってことは、俺の後ろから攻撃を食らったってことじゃないの? 常識的に考えて。
「……お前、いつの間にそんなモップを」
「はぁ。ったくコイツの行動にマジでビックリだわ」
俺視点で倒れた宮澤からフェードインしてきた菅の右手には、モップが握られていた。
どうやら菅も宮澤の暴挙に備え、自分なりに仕掛けを入れていたらしい。
空き教室の掃除用具入れを調べたところ、武器に使えそうなモップがあったのでそちらを取り出し、同教室の目に付かない場所へ移動していたらしい。
そして、宮澤とともにこの空き教室へ入ったときに菅はさりげなくそのモップがすぐ手に取れる位置に移動してたのだとか。
さりげなさ過ぎて宮澤はもちろん、俺も気付かなかった。コイツ怖い。
「……それにしても打合せとやることが違うだろ」
別に俺の加勢はしなくとも、手筈通りいけば俺達の勝ちだったはずだ。
「いやああしなかったら、アンタえらい目に遭ったかもよ」
「もう遭っとるわい。お前らのせいで」
「……そうだけどさ。それでも、暴力って最悪死ぬかもしんないんだし」
さすがにそんぐらいは気を付けるさ。
俺もケンカは強くない、というかこういうケンカなんてとんと経験ないが、とりあえず見様見真似でも奴を食い止めるまではいけたさ。多分。
「あーそうかい」
そんなことを議論しても時間のムダと思った俺は、後始末に動いた。
とりあえず宮澤が起き上がったときへの対処を終えた。ふう。
「アンタ、よくそんなもん持ってたね……」
とりあえずも持ってきていたプラ紐で奴の手足を厳重に縛っておいた。
プラ紐でもここまでやれば宮澤が目を覚ましても身動き取れないはず。きっと。
「何にでも備えはしとくもんだな」
「それってこのときのことを考えて用意してたってこと?」
「ああ。他にもいろいろあるぞ」
菅へ見せつけるべく、通学鞄の中からいくつかの道具を取り出した。
「え、何それ」
「何ってわからないか? 人間工学に沿って最適な形にしたというPC用のマウスだ」
「いや知ってるけど。それ何に使うの」
「奴の目の前で投げつけてやれば
「いやなんない。ただ理解不能な奴と思われて終わりだから」
「これとかどうだ。紙粘土と呼ばれる代物なんだが」
「知っとるわ。それが何の役に立つんだよ」
「宮澤と交渉が長引いて暇になったときの暇潰しに使えるだろ!」
「幼児かお前! 高校生が粘土細工で暇潰そうとすんな! ていうか大事な話の最中に暇潰しとか考えるな!」
「文句ばっかだなお前。それならこれはエアコンの室外機に付ける日除けカバーで……」
「もういい! 絶対使い道ないだろそれ!」
「いやうん、特に使い道は思いつかなったんだけどね」
「ねえ、お前の行動って基本意味ないの? 意味を求めちゃいけないタイプなの?」
菅がどっと疲れたように肩を落としてる。宮澤との対峙がそれほど気を張ってたんだろうな、しょうがない奴。
「それじゃコイツのことを先生に言いつけてくるから、お前はコイツの見張りを頼む」
「え」
「一応縛っておいたし、その長物があるならお前一人でも大丈夫だろ」
「う、うん……」
菅はその手に持ったままのモップを握りしめる。
「……ねえ、私、少しは役に立てた?」
菅がしおらしく訪ねてきた。
「そこで伸びてる奴よりは役に立ったんじゃね」
「いや
「あるいはあそこに置いてある椅子とか」
「無生物? 無生物と比較しないと話にならないのか私の貢献」
「バカ言うな。他の無生物も引き合いに出したらスマホのがお前よりよっぽど役に立っとるわ」
「身も
「今回でもスマホ様は録音なり撮影なりで大活躍だぞ。もはや貢献度ならお前どころか俺よりもずっと凄い」
「卑屈になり過ぎだろ」
「まあでも何だ」
会話がてら、俺は教室の外へ向かう。
「テメーのちっぽけな利用価値をアピールするには役に立ったんじゃねーの」
「……」
教室に背を向けていた俺の視界からは、教室にいる奴が今どんな顔をしているのか見えなかった。
「もっともお前の助けなしでも俺は余裕で対処できてたけどな」
「嘘じゃん」
俺はここで会話を打ち切り、職員室へ向けて歩き出した。
結局あの後、宮澤は退学になった。
伊藤さんとも相談し、こんな危ない奴を利用することはできないという結論に至った俺達は警察に通報。
その際、菅については警察に「本人も反省しているようなので更生を信じて被害届を出すのは控える」という名目を伝え、宮澤だけ逮捕させる流れに持っていった。
そうなると当然学校も宮澤へ相応の処分をせざるを得なくなった。
今まで前科があるわけではなかったが一発で退学となった辺り、この高校は元々そういうことに非常に厳しいのだろう。
ただ厳しい分、確かな証拠がない中では処分に慎重になるらしい。そのお陰で噂の上では性犯罪者になっていた俺も在学していられた。この公明正大さには感謝せねばなるまい。
ともあれこれにて残りの幕は28人。
目標の人数は残り7人か……。やっぱり道は遠いなあ。
ちなみに宮澤の一件への対応もすっかり終えた翌日。
「ねえ、放課後あそこの喫茶店に行かない?」
菅が俺の友達のように馴れ馴れしく会話をしてくる。
「俺コーヒー嫌いなんだ」
「いやお茶とかもいろいろあるよ」
「お茶全般も嫌いなんだ」
「いや嘘だろ。あとジュースとかもあるから」
「ジュースもちょっと」
「お前何なら飲めんの?」
「お前と一緒にいると何も
「どういう意味だ」
「だってお前のことがとにかく嫌いだし。一緒にいるだけで気分悪くなりそうだし」
「あー、そう……」
さすがに菅も直前の俺の言葉が嘘ではない、とは理解してるらしい。わかってるなら離れろよ。
「でもゴメン。私がこの学校でこういうバカなこと話せる相手ってアンタぐらいなんだわ」
でも菅は決して離れようとしなかった。
「……それと俺がお前を相手にすんのは校内だけ、て言っただろ。他は知らん」
仕方ないので約束した内容を菅へリマインドした。
「はあ、しょーがないか……」
菅は渋々ながらも俺の言い分を認めた。
そんなわけで、俺を陥れた連中の一人との繋がりはまだ切れないらしい。
なら、その分タップリとこき使ってやるとしよう。まずは缶コーヒーでも買いに走らせようかね。
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カクヨム
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