連鎖の復讐 ~性犯罪の濡れ衣を着せてきた黒幕が30人って何~   作:冴木甲士

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第008話 ビビり

 とりあえず、俺もこの女子へ挨拶を返す。

「ああ、よろしく」

 そう声を掛けただけで、

「ひっ! あ、す、すみません、よよよろしくお願い、し、しま、す……」

 女子の震えがさらに増えた。体も、言葉も。

 

 何なんだコイツ……と呆れた視線を向けると

「あ、あ、あ……何か、お気に(さわ)ることしちゃいました、か……すみません、すみません」

 今度はひたすら謝り倒す。この子にとって俺はその筋の人間にでも見えているのだろうか。

「あー、別にそんなこと全くないから。まずは落ち着こう。な?」

 仕方ないので自分なりに穏やかな口調を心がけて、できる限り優しく声を掛けたところ、目の前の女子は「え……?」と声を掛けた。

 

「あ、あの……私に対して、憎んではいないんですか……?」

 これまた変な質問が飛んできた。

「憎むって? 何で?」

「だ、だって、あの……」

 両手を前にやってもじもじと動かしながら、その女子は答えた。

 

「私は、あなたのことを犯罪者と誤解してて、関わらないようにしてた、のに……」

 ……ああ、そういうことか。

「言っとくが気にしてないわけじゃない」

「ひぃ! や、やっぱ、そうですよね……」

 

「ただ、直接罪を着せたわけでもなければ、アンタは便乗して嫌がらせをしたわけでもないんだろ。それなら、憎悪を向けるほどじゃないさ」

 

 事の元凶である幕どもについては今でも復讐に向けて動いている(全員ヤるかは置いておいて)。

 俺を性犯罪者とみなしていた奴らがこの学校でしてきた数々の俺への犯罪行為も忘れるわけないし、その下手人達も伊藤さんの手を借りて調べが付いている。

 しかし、ただ遠巻きに見ていて関わりを持たなかったというだけなら、こちらは別に構わない。

 俺のことをろくに知らない奴からすれば「ああ、あの人はそうなんだ」程度の認識になるのも仕方ない面はあるし、俺としても多くの奴と友達になりたいわけではなかったから。

 その代わり、ソイツらに何があろうとも知ったことではないし、積極的に協調しようとも思わない。それだけの話だ。

 

「そ、そうなんですね……」

 俺の答えに得心がいったのか、さっきよりも緊張が解けたような雰囲気となった。

「それはそれとして、アンタは……幣原綾(しではらあや)、だったか」

「あ、はい……」

「さっさと二人三脚について最低限の練習済ませようぜ。」

 今は体育の時間を使っての、体育祭練習。

 それぞれの出場種目が決まったクラスメイト達が、各々特訓している時間だ。

「は、はい。お願いします……」

 女子こと幣原は、もじもじしていた両手をほどき、改めて挨拶した。

 

 

 そんなこんなで始まった、二人三脚の練習。

 いくら二人の脚を結んで走るといってもそんな難しいことではないだろうと高を括ってたのだが。

 今で、転ぶの3度目になります。

「……はあ、はあ……なんだこの難しさ」

 前がすっかり土埃に塗れながら文句を垂れてしまう。今日が雨上がりでぬかるんでるような状態じゃなくて、本当によかった。

「……あ、あの……やっぱり、ですね……」

 同じく顔から脚の前の方が土塗れになっている幣原が、何か提案しようとする。さっき知ったことではないとはいったもののさすがに申し訳なさがちょっと出てきた。

 

「背中や肩に手を当てる姿勢の方が、安定するんじゃないでしょうか……」

 これについてはやる前から幣原が提示したアイデアだった。

 過去に見た二人三脚の競技でも、そうしているペアが主流だったらしい。俺はあんま記憶にないが、言われてみれば昔見た二人三脚でもそうしてたような気がする。

 でも、なあ。

 

「性犯罪者だの云々言われてきた身としては、あまり女子の体に触れるのも気が進まないんだよなあ……」

 我ながらどうにもちょっと前のことを蒸し返される気がして、採用する気になれないのだ。

 自意識過剰と言われればそれまでだが、それで「じゃあやるか」となるほど俺はこの学校の奴らのことを信用してはいない。

 

「それに、お前もそれで平気なのか?」

 交流するのは今日が初めてながら、この幣原という女子は相当なビビりだ。

 自分よりも大柄な男子に、体育で必要だからといって体に触れられることに凄く抵抗を持つんじゃないかと思って遠慮してたんだが、果たして大丈夫なんだろうか。

「え……へ、平気ですよ」

 幣原はもう平気そうじゃない感じの返事をし、

「た、試しに一度触れてみましょう」

 と、座っていたところからすっと立ち上がった。おいおい。

 

 まあ、本人がそう言うなら一度試してみるか。

「じゃあ行くぞ」

「はい」

 なるべく幣原を刺激しないように、ゆっくりと幣原の背中に右手を近づけ、やがてポンと置いた。

「ひぃ⁉」

 その瞬間、幣原は背中を反らして声を裏返した。

 俺の脚を結んだまま前に動くもんだから、当然バランスを崩して二人ともまたコケた。

 

「……うん、やっぱ背中や肩に手はナシな」

 少し、ほんの少しだけ怒りをたたえながら幣原の案の却下を伝えたら、

「す、すみませんすみません! 背中に手を当てられたら、何か急にくすぐったく感じちゃって! お、お詫びに何でもしますから!」

 幣原がペコペコと頭を下げまくる。ああこりゃすっかり怖がっちゃってるな。俺が暴力男みたいな扱いになってら。

 

「何でもするとかむやみに言わん方がいいぞ」

 特に(冤罪とはいえ)性犯罪者と(ののし)られた俺の前で女子がそれを言うのはやめてほしい。変な風に揶揄(やゆ)するバカが出てきてもおかしくないから。

「あ! そ、そうですよね……」

 とはいえ、このままじゃ本番でもビリは確実だな。

「もうここまで来たら、別の奴に替わってもらうか」

「え……」

「俺も、正直当日は体育祭来れるかわからんし」

 俺がそういうと、幣原が呆然と俺の顔に視線を向けてきた。

 




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