連鎖の復讐 ~性犯罪の濡れ衣を着せてきた黒幕が30人って何~ 作:冴木甲士
「ええと、どうしてですか……?」
幣原の表情に憂いが帯びる。
俺が何かよからぬことでも企んでるように映ったのかね。まあどうでもいいが。
「別にどうも。ただちょっとばかり私用があるだけだ」
「学校のイベントより、大事な用事ですか……?」
その言葉に、ついイラッと来た。
「ああそうだな。さっき話した、直接罪を着せてきた奴らへの仕返しに忙しいんだわ」
「……!」
なのでほんの少しだけ、今の俺の事情を明かしてやる。
そういう連中やソイツらに乗せられ俺へ犯罪行為をしてきた連中を見過ごしてきたお前に、俺に対してアレコレ口を挟んでくる筋合いはない。
そんな、えげつないニュアンスを込めて。
「というわけだから、二人三脚は別の人と替わってもらうってことで……」
「ゴメンなさい」
幣原が、再び頭を下げる。
「あなたを、助けもしなかった、のに、あなたを咎めるようなことを、言ったのが、気に障ったなら、ゴメン、なさい……」
急に、どうしたんだろうか。
確かにそれを当てこするようなことを言ったばかりではあるが、それへ即座に謝罪してくるのもちょっと物分かりが良すぎないか。
「でも、わ、私は、せっかくやるなら、勝ちたいんです……」
そう思っていたら、幣原のこの言葉で理由が少しずつ見えてきた。
「私、あんまり、勝負事で負けるのが、その、好きではなくて……。特に、何も努力しないことが原因で負けるのって、何かより悔しくなるというか……。とにかく、出場するからには、少しでも勝てるように、したいんです……」
さっきから言葉をプツプツと途切らせつつも、自分の考えを切々と述べる幣原。
不機嫌になった
言うなれば強引な性格をした目上の人に物申すときの状況に似てるのだろうか。俺コイツの上司でも何でもないけど。
「勝てないまでも、せめて、しっかり練習して、当日は万全に、臨みたいです……」
要は俺に二人三脚で協力してもらわなければ大いに困る、と。
「それだったらなおのこと他を当たった方がいいと思うぞ。こんなやる気のない俺より頑張ってくれるクラスの男子なんて探せばいるんじゃね」
「一度決めた種目は、よっぽど特別な事情がなければ、前々からの変更は、できないと思います……。変わるとしたら
チッ、かわせなかったか。
臆病者であると同時に負けず嫌いとは、なかなかに面倒な性分抱えてるな。ある意味マンガやラノベの主人公によくいそうなタイプだ。
さて、どうするかね、この状況。
さっきの経緯も
一応この学校の生徒である以上熱意の有無にかかわらず学校行事には出るべきだと言われればそれまでだが、そんな正論に突き動かされるようなモラルなんざ少なくともこの学校に対してはとっくに捨て去った。
いっそ当日ドタキャンでもいいか。
幣原がどう思おうとも俺には関係ないし。
そんな気分になったところで、ある取引の条件が思い浮かんだ。
これなら奴も引き下がるかもしれないし、向こうが承諾したとしてもこっちにメリットがある。
「そんなに言うなら、俺の今から言う条件を飲んでくれないか。それなら二人三脚ももう少しだけ努力してみるさ」
「な、何ですか……?」
またしても恐怖に少し体を震わせる幣原に、条件の詳細を話した。別に断ってもお前にどうこうするわけじゃないから心配すんなっての。
どうでもいいけど今の俺って
冤罪を掛けられ、その下手人と関わることになって以来、何か倫理観とかいろんなものがぶっ壊れた気がする。
そんなことがあった数日後に、体育祭当日を迎えた。
俺はダルい気分を何とか持ち直そうとしていた。
「あー……ダル」
「文句言わない。年に一度ぐらいのことなんだから」
当たり前のように俺の席の隣に座る菅が、余計俺をダルくさせた。
「お前のせいでますますダルいから一旦離れてくれ」
「だから文句言うなって」
「いやそこお前の席じゃないだろ」
「別に今誰も座ってないし。席の人が戻ったら空けるつもりだし」
「お前はそう思ってても座られてる側はひたすら迷惑だからなそれ。どうせ空けてほしいオーラを出してもシカトするしハッキリ口に出したら空気読めない奴扱いするんだろ」
「さすがに偏見ひどすぎ」
「お前に対してはひどすぎるということはない」
「はー……まあ、頑張りなよ。二人三脚」
ポンと肩に手を置くな。リストラを伝えようとする上司かお前は。
「何で俺の種目覚えてんだ。普通に怖いわ」
「いや別に。知り合いの出る種目ぐらい応援してやろうと思ったから」
「ほう、これまた殊勝な心掛けだな。お前の口から出なければ見習ったんだが」
「そういうお前は私の出る種目覚えてないのかよ」
「ん? 痴漢狂言選手権とかじゃなかったか」
「何そのドロドロにヤバそうな種目。絶対体育祭と関係ない奴じゃん」
「お前なら優勝間違いなし、ていうのがそれぐらいしか思い付かないからな」
「どんな内容だよ……ていうのは何か想像付くからいいや。そうじゃなくて、私が出るのは100m走」
「うん、普通だな」
「少しでも応援してよ。多分同じクラスの奴らまともに見てくれないだろうし」
「断る。こっちもこっちで用事あるんでね」
「あっそ」
ここで1つのプログラムが終わり、俺の隣の席だった奴らがぞろぞろと帰ってきた。
菅はさっきの宣言通りに席を空けた後、どこかに消えていった。
カクヨム
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